赤の似合う君と
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02
《逆転の想い》御剣視点
『異議ありっ!その傷が動かぬ証拠よ』
「異論の余地はありません。よって……」
有罪。
検事になって初裁判から3年、彼女は無敗の検事だった。
疑問の余地を残さない調査と証言・証拠。それは、全く関係なさそうなところから容疑者を引き出し、巧に有罪へと導いていった。
しかし最近は、敗北の検事として名を馳せている。
彼女、若手女検事羽影雨月。
私の第二の師であり、慕う人物。
慕う…私らしくないことに、恋慕っている。
敗訴を負けと思わせない潔さと信念。正義感に溢れた女性だ。
『御剣君、裁判は勝訴がすべてじゃないわ』
狩魔検事とはまた違う指導をしてくれた。矛盾の見つけ方、証人をいかに証言台に立たせるか。
以前、羽影検事が敗れた時。最初から犯人が解っていたかの様に、真犯人を準備していて喚問した事があった。無論負けたはずなのに清々しく帰ってきた羽影検事を問い詰めた事がある。
「羽影検事!まさか、犯人が最初から解っていたのでは」
『そりゃ、解ってなかったら準備してないよ』
「ならなぜ、彼を最初から告発しなかったのか!そうすれば負けずに…っ」
『初めからあいつを告発しても、証拠が足りなかった。証言は証言台でさせなければ意味ないしね』
彼女は、灰色をすべて白にしたあげく、最も白に近かった男を黒にした。
悪を裁き、正義を善しとする彼女に憧れを抱いていた。いつの間にか変わった自分の目標のように。
それがだんだん変化して、彼女への想いが募る。
あの裁判の弁護士は、綾里千尋だった。双方激しく対立をしていたのに、息がぴったりだったのを覚えている。
綾里弁護士が亡くなってから羽影検事が沈んでいるのが解る。
誰に解らなくても、私は。
いつもより紅茶のミルクが多いとか、些細なことで気づかされる。
それほどまでに彼女を視界で追いつづけてきた私の想いを…彼女はなんというだろうか…。
.
「失礼する」
羽影検事の検事室。飾り気のないシンプルな部屋。
『あ、御剣君。裁判お疲れ様。お茶飲んでく?』
「頂こう」
ここで紅茶を飲むことは珍しくない。新米の頃は勉強が主だったが、最近は只単にお茶をしに来ている。
彼女の部屋に、いつの間にか私の好きな銘柄の紅茶があることとか、客用のカップ以外に私用のカップが用意されてる事とかが。私の期待を煽る。
『お砂糖は使わないんだよね?』
「ああ。羽影検事はミルクだけだったか」
『そうそう』
私も彼女の好きな銘柄を覚えているし、部屋にはその茶葉が常備されてる。
これが恋というものか。
心の中で微苦笑を浮かべていると。
『御剣君、考え事?相談にのろうか?』
彼女は優しい。そうやってすぐに気付くのだ。自分の方がよっぽど何かを抱えているだろうに。
「いや、私は大したことない。羽影検事、貴女の方が最近悩みでもあるのではないか?」
『…御剣君には隠し事できないねぇ…』
眉をさげて困ったように微笑む彼女。胸が締め付けられるようだ。
「私でよければ、その、聴こう。力になれるかもしれない」
『…』
「いや、無理に話すことはない」
『…聴いてくれる……?』
.
彼女が話し出したこと。
憧れていた人がいる事。
すでにその男には恋人がいる事。
その恋人が綾里千尋であること。
しかしその男は事情があって眠り続けている事。
さらに綾里千尋は男の目覚めを待たずに亡くなってしまった事…。
『あの人は私を待っててくれなかったけど…私は待ってたい…っ、でも、神乃木さんは私なんか望んでない……』
彼女には敵わない…
泣きそうな顔をして、ポットのお湯を見つめる羽影検事。かける言葉も見当たらない。
『ごめんね…私の問題なのに…』
「いやっ、貴女の力になれるなら…その」
『ありがとう…、』
依然として困ったように微笑む彼女を見ていたら、もう、無意識だった。
『!み、御剣君!?』
「羽影検事」
立ち上がり、彼女を抱きしめる。
「迷惑かもしれない、しかし、力になりたい…私は…貴女が……」
言葉につまる。彼女の意中はその"カミノギ"なのだ。
困らせるだけ、けれど。
「好きなのだ…そんな顔をしないで欲しい」
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