赤の似合う君と
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《逆転の後日譚》ヒロイン視点
あれから8年。
私達の間には女の子と男の子の双子の子供がいて。
今年小学校に上がる。
「お母さん、似合う?」
「お父さん、似合う?」
それぞれが背負って見せる、赤いランドセル。
息子の方も、赤いランドセル。
今はそんなに珍しくないけれど、彼は赤が大好きだ。
…誰に似たんだか。
『うん、似合うよ。もうお兄ちゃんだね』
「ああ、似合ってる。お姉さんだものな」
怜侍は大分子煩悩で。
(どちらかといえば)娘に甘い。
まあ、私も人のことはいえず。
(どちらかといえば)息子に甘い。
お互いの言い分は、
『「(雨月に)(怜侍に)似てるからつい」』
ということで、結局ろくな注意もできない。
それでも、子供達はまっすぐに育っている。
『さあ、そろそろ寝る時間よ。片付けて』
「「もう?」」
「明日、起きられなくなってしまうからな」
『そうね、入学式にお寝坊しちゃったら、1年生になれないかもね』
「「えーっ!?」」
『さ、早く寝よう。片付けたら、歯磨きして』
「「はーい」」
「寝たか」
『うん、騒いでたから興奮してるかなーと思ったけど。案外ころりと』
リビングに戻り、怜侍の隣へ座る。そして、彼のいれてくれる紅茶を飲むのが日課になっている。
「もう、小学生なのだな」
『…早いねー。ついこの前結婚した気がするのに』
「フッ、そうだな…」
新婚で二人っきり。という時期はとても短かったけれど、授かった命はそれに代わる程愛しいものだ。
それでも、払拭できないものがある。
『ねぇ、怜侍…やっぱりまだ、不安』
「私も…それは拭えきれない」
子供達には祖父母が一人もいない。
それは、私達がいざとなった時に頼れる親はいないということ。
それ以前に、私達は二人とも、10歳以降の両親からの愛を知らない。
どこか捻くれて育った私と、寂しさを堪えて育った彼。共通して、孤独感を抱えたまま大人になってしまった私達。
反抗期なんて知らないし、思春期にぶつかる親なんていなかった。
経験していない事が、目の前で次々と起こっていくのだ。
「だが、私達は一人ではない」
『…そうだけど』
「それに、二人だけでもない」
『……』
「一人娘を育てている友人がいるからな、不本意だが、頼ることもできるだろう」
『ああ、そうね』
そうだ、思春期の娘を育てている弁護士がいるじゃないか。
孫がいる裁判官や、歳の離れた妹がいる先輩だって。
『忘れそうだった。私達、二人だけじゃないんだよね』
「ああ。だが…困ったらまず、私に頼って欲しい」
『大丈夫、いつも頼ってるから。怜侍も、私に頼ってよ?』
「問題ない。貴女なしにはもう生活できないほど頼っている」
"精神的にな"
そう囁きながら、強く抱きしめられた。
子供達の前では出来ない、夜限定の秘め事。
『怜侍』
子供達の前では、名前で呼ぶ事はない。君、と呼ぶ事もない。
「…雨月」
彼も、名前では呼んでくれないし。貴女、と呼ぶこともない。
だから、つい。
名前を呼ばれるとくすぐったく感じてしまう。
それは、彼も同じようで…。
『ん…』
照れがくしのように触れた唇と、顔が見えないように強く抱きしめる腕が、それを証明する。
『怜侍、ずっと、好きでいてね』
「ああ、勿論。雨月も…」
『うん。ずっと、ずっと好きだよ』
左手薬指に輝く銀が、たとえくすんでしまっても。
部屋に飾られたバラのドライフラワーが、たとえ色褪せ散ってしまっても。
(この愛は…)
(私の愛だけは)
赤の似合う君と
(永遠に)
End.