赤の似合う君と
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01
《逆転姉妹の裏で》ヒロイン視点
『御剣君、綾里千尋が殺されたって本当なの!?』
御剣君の検事室の扉を勢いよく開けて、開口一番に叫んだ。
彼は二つ下の後輩であるが、検事歴は一年しか違わない。彼が私の検事最年少記録を塗り替えてしまったからだ。
「本当だ。昨日の夜、妹の綾里真宵によって殺害された」
『妹さんが…?』
「目撃証言が語っているのだ、間違いないだろう」
渡された資料に急いで目を通す。殺害されたことは間違いないようだ。
『…そんな………』
絶望が走る。神乃木さんが目覚めた時、一番会いたいのは彼女だろうに…
『御剣君、お願いがあるの…』
「ム、なんだろうか」
『…必ず真犯人を裁いて欲しいの』
「その点は心配要らない。綾里真宵に関する証言は揃っている」
『…真犯人を。お願いね……』
「…」
御剣君は、怪訝な面持ちで見ている。無理もない、真宵ちゃんを告発しようとしているのだから。
でも、この矛盾に気づくのは君自身の力でなければならない。
君が気づかなくても、きっと。この裁判の弁護士を務めるであろう彼なら気付かせてくれるだろう。
何せ、彼女の弟子なのだから。
そうでしょ?成歩堂君?
~開廷~
「異議あり!!」
「確かにこの段階では判決を下せません」
「クッ…」
予想通り、成歩堂は裁判を切り抜けて明日へ持ち越した。
「私が、シロウトごときに……」
『仕方ないよ、悪はまかり通らないようにできてるんだから。真実があれば虚は破られる』
「…それでも私はっ」
『裁判は勝ち負けじゃないんだよ?裁きの場所だ。罪を犯した人間を裁き、罪のない人間を救うところ』
わなわなと震える御剣君の肩を軽く叩く。
彼なりの想いもあるのだろう。しかし、裁判とはそういうものだ。
『いつか解る。解らなくても君なりの答は出る。もし間違えそうになっていたら…私が必ず止めるから』
だから思いつめない方がいいよ。と告げて検事室を出る。私もこのあと裁判があるから、それが終わったら神乃木さんのところに報告に行こう。聞こえやしないだろうけど。
「羽影検事…、しかしこのままでは私は…貴女に追い付けないのだ…」
御剣の小さな呟きは届かなかった。
結局、犯人は小中大。
真宵ちゃんと成歩堂君の無実は立証された。
『勝訴おめでとう』
「あ、ありがとうございます。あの、あなたは…」
『羽影雨月、検事をしているわ』
「お久しぶりね、雨月さん…」
服装は真宵ちゃん、しかし雰囲気ですぐ解る。霊媒されているのは彼女…。
『千尋さん…素晴らしい弟子をお持ちですね、機会があれば是非法廷で会いたいわ。貴女にも、もう一度会いたかったです…』
「なるほど君とはきっと会うわ。私も…ね。いずれ会うでしょう」
『…』
そう言って千尋さんは消えた。
「あの、羽影さん…千尋さんとは…」
『古い知り合い…なんていったら怒られるかな。でもそんな感じ』
「…あの、俺」
『今日の弁護、とてもよかった。また次に期待してるよ、なるほど君?』
少しくらい、微笑めただろうか。彼女と同じ、まっすぐ依頼人を信じる目。
私が彼女に勝てるものなんてないのだ。
彼女亡き今でさえ、神乃木さんの隣に私はいられない気がする。
検事室に帰ってしばらくすると御剣君がきた。
今日の敗訴が応えているみたいで、眉間のシワとか雰囲気とか。いろいろ凄い事になってる。
「羽影検事、私は何故今日負けたのだ…」
『負けたんじゃなくて真実に辿り着いただけよ』
「しかし結果的には…」
彼は、被告人を有罪にすることを自分の意義としている。
それは、私としては間違いだと思っている。
『君が負けたおかげで冤罪が出なくて済んだんだよ?冤罪が発覚した時のほうが君の名に傷がつくでしょ?』
「…っ」
辛そうな顔をする彼が、ひどく弱く見えて。助けたいと思った。
『負けたくなかったら最初から真犯人を告訴するしかないんだよ、なかなか難しいことだけどね』
とん、と背中を叩いて座るように促す。
彼好みの紅茶を煎れて、たわいのない話をする。
御剣君の眉間のヒビがなくなるとほっとする。
この淡い感情の名を知っている。
私は神乃木さんにとてつもなく大きな後ろめたさを抱えながら、年下の彼に恋心を抱いているのだ。
部屋を去る御剣君を見送って、心に広がる虚無感。
『参ったな…』
ぽつりと吐き出された言葉はそのまま床に落ちた。