赤の似合う君と
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18
《予期せぬ逆転》ヒロイン視点
今更になってそんな事を言われるなんて。
どうやったら予想できただろう。
『何…これ』
後半月で、彼が帰ってくる。
そんな矢先だ。
『なんで今更…』
引っ越しの準備も整って、後は運ぶだけ。
そして、彼が帰ってくるまでに新居を片付ければよかった。
『もう、終わったことなのに…』
そんな時だ。
私の部屋に届いた一通の手紙。
やっと見つけた
17年の恨み
お前とて生かしておくものか
17年前。
計画的無差別大量殺人。
私の父が犯人として逮捕された事件があった。
迫害によるノイローゼで母と弟は自害、その知らせを聞いた父は獄中で狂死。
重要参考人を失ったこの事件は幕を閉じた。
無論、父が犯人とは思っていない。
でも、資料は申し送りされてしまっているし、何より時効が来ている。
調べる術も理由もなくなってしまった。
だというのに。
この手紙に思い当たる節はそれしかない。
被害者の家族だろうか……。
そんなことを考えながら、頭を過ぎったこと。
今日の午後には引っ越し屋が来て、この部屋にはもう戻らない。
相手を撒くことはできるだろうか、突き止められたら彼にも…怜侍にも被害が及ぶだろうか…。
そう思っても、後には引けないから。とりあえず引っ越しをすませ、できる限りの荷解きと片付けを終えた。
そして、さっきの手紙を持って警察署へと向かう。
「お!珍しいッスね、羽影検事が来るなんて」
『主席検事になってからは自分の足では中々こないからね…今回は相談だ』
「一層珍しいッス」
『これ…筆跡鑑定と指紋採取…あとなんらかの手がかりがあれば調べてもらいたい』
あの手紙。
前科者や参考人になった人物のものとは思えないけれど、何か残っていればいい。
そう思って糸鋸刑事に渡す。
「…公式な捜査じゃないッスから…どこまでできるかは…」
『ええ。百も承知よ』
何も見つからなくて当然の代物。
それでも………………
『はあ…』
結局。あの手紙には何の痕跡もなかった。
筆跡もデータがあるものじゃなかったし、インクや紙も普通に出回っているもの。
ファイルも探してはみたものの、時効切れの資料なんて保管してなくて。
倉庫まで見に行ってはみたけど、膨大な紙の束からそれらしいものは見つからなかった。
あの手紙が来て以来、家には戻っていない。新居はオートロックだし、元の部屋は引き払っているけれど。
いつ、相手が気づくのか。
これが殺人予告だったら。
そう思うとどうにも帰れなかった。
「羽影検事、顔色悪いッスよ」
『だってさ、犯人の見当も付けられないんじゃ警戒のしようさえないし。安心してられる程図太くないよ…』
「そうッスけど…悪戯とかじゃないんスか?」
『悪戯で17年前に的を絞ったあげく、私を残り一人みたいな言い方をするなんて、随分と手の込んだ悪戯だよね』
「ううっ…」
白い紙に手書きの赤文字。
筆跡を隠すことさえしないそれは、本気ということだろう。
「御剣検事には相談したッスか?」
『あと10日で帰って来るのに、急かすことはないと思ってさ』
「その10日間は執務室に寝泊まりッスか…」
『ええ。ここなら警察関係者しか入れないし、何かあっても犯人はすぐ捕まる。捕まらなければ、身内にいると断言できるから…』
正直、こんなに自分が振り回されるとは思ってなかった。
片の着いた過去の出来事だと思いたかったのに。
『糸鋸刑事、夕飯奢るから一緒に買いに行かない?』
「えっ!いいっスか?」
『一人じゃ夜に出歩く気にもならないよ』
柄にもなく怯えてる自分がいる。
せめて。彼が、怜侍が帰ってきてくれれば少しは和らぐかもしれない。
でも、彼を巻き込みたくない。
そんな葛藤を続けて。
拍子抜けするくらい何も起きずに10日間は過ぎていった。
執務室で寝るのはどうにも寝心地が悪い。
まあ、ソファーがあるとはいえ職場なんだから仕方ないけど。
10日も続ければ流石に節々が痛かったりと、色々ひどい。
なんて、朝になっても起きれずにいれば、突然鳴る携帯電話。
『も、もしもし』
ディスプレイの文字を見て慌てて通話ボタンを押した。
「すまない、寝ていたか?」
待ち焦がれた声。紛れもない彼のもの。
『ううん、起きてたよ。仕事終わらなくて執務室に泊まってたけど』
半分嘘で半分本当だ。
家に帰らない口実の為にわざわざ仕事をいれているのだから。
「あまり、無理をしないようにな」
『ありがとう。怜侍もね、無茶しないように』
「ム…」
『その反応は何かした後ね…』
「まあ、いろいろあってな」
機械越しに聞こえる苦笑がどこか懐かしい。
「…今夜には検事局へ戻る、遅くなってしまうだろうから、」
『あっ、今日は私も多分遅いから、落ち合って一緒に帰ろ?』
「ム、しかし…」
『察しなさいよ、一秒でも早く会いたいんだから』
やっぱり、嘘と本当を半分ずつまぜて。通話口に囁けば、くぐもった声で"解った"と聞こえた。
もしかしたら、照れてるのかもしれない。
『あ、怜侍』
「なんだろうか」
『いや…何があったのかなって』
「帰りに事件が起きてしまってな、巻き込まれていた」
『え、大丈夫なの!?』
「ああ、もう解決済だ」
さすがだなぁ。
なんて、疲れた頭で笑みを零した。
「では、用事が済んだら貴女の執務室へ呼びに行こう」
『うん。仕事終わってたら私から行くから、着いたら連絡頂戴ね』
「心得た」
早く帰ってきて。
と言えない私は弱虫かもしれないし、強がりなのかもしれない。
『じゃあ、夜に』
「ああ」
私の頭はどうやら単純らしく。
寝心地の悪かったソファーの上なのに、彼の声を聞いた途端に眠気に襲われて。
ついうとうとと二度寝を始めた。
(早く)
(早く夜になればいい)
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