赤の似合う君と
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17
《約束の逆転》御剣視点
『わぁ…懐かしいな』
大きな水槽、色とりどりの魚、独特のひんやりした空気。
ここにくるのは2年半ぶりだ。
「約束したからな、また来ると」
『覚えててくれたの?』
見上げてきた彼女に頷いて応ずれば、にっこりと笑って"嬉しい"と言った。
前回は彼女に腕を引かれていたけれど、今回は自分がその手を引く。
『この前はグラスフィッシュ見て、磯巾着見て…』
「この大きな水槽も足を止めたな」
『そうそう、怜侍は食物連鎖の心配してたっけ』
クスクスと笑う彼女。
今でもサメと他の魚が共存している水槽は不思議に思っているが…黙っていよう。
繋いだ手を引き最後に辿り着くのは、やはりあの水槽で。
「ヨツメクラゲ、だったか」
『うん。花みたい、っていったやつだよね』
あの時のように片手を水槽について眺め入る。
その横顔からはあどけなさが抜け、すっかり大人の女性になっていた。
『次はいつこれるのかな』
「貴女がいきたいといえば、その時に」
『期待してるよ』
ふふ、と笑って水槽から離れていく彼女。
『今回はイルカショーも見ようよ、この時期のお昼近くなんて混んでないと思うし』
「あ、ああ」
大人、にしてはいたずらっぽく笑うものだから。
どぎまぎしながら、やはり彼女に手を引かれて広場までいくことになった。
『えっと…大丈夫?』
「……問題ない」
『全然そうは見えないけど』
「それはお互い様じゃないか?」
髪の毛と肩のあたりがびしょ濡れになった私たち。
水族館から借りたタオルで髪を拭いているところだ。
『油断しちゃったね』
「サービスを弁えたイルカだったな」
見に来たイルカショーはどうやら時間を間違えていたらしく、最後のジャンプしか見られなかった。
しかし、人が少なかったせいか、飼育員が私達が最後のあたりで入ってきたのに気づいて。
気を利かせショーの後最前列へ呼んでくれたのだ。
近くを遊泳するのを見たり、鼻先に触れたりと嬉しそうな雨月を見れたのはいいが……
『怜侍も触らせてもらったら?』
と微笑む彼女と、爽やかに笑う飼育員に促され、手を伸ばそうとした矢先だ。
バッシャーーンッッ!!
大人しくしていたイルカが急に大きなジャンプをした。
着水に伴ってあがる水しぶき。
次の瞬間には水を被る私と雨月。
同時に焦りだす飼育員。
『びしょびしょになるのもイルカショーの醍醐味だよ』
「そうかもしれないが…冬は勘弁願いたかったな」
『まあねー』
結局、ストーブの前で上着を乾かさせてもらったりしていたら午後の予定は軽く潰れてしまった。
その間、館内は暖かいのでショップを覗いたりして過ごす。
ストラップやハンカチ、ペンにノートに絵葉書と、色々見て回ったがどれも買わずに一周してしまった。
「何か欲しいものはあったか?」
『ううん、特には』
「いいのか?」
『うん。お土産は思い出があれば十分だから』
眺めていたアクセサリーから顔を上げて、にっこりと微笑む。
『そろそろ帰る?』
「そうするか、上着も乾いた頃だしな」
丸一日いた水族館を出て、日の短い冬、もう夕方になっていた。
「このままディナーに直行だな」
『え、予約してあるの?』
「ああ、この前は行き当たりばったりだったから」
『へぇー、楽しみ』
楽しそうに笑う彼女と、車へ乗り込んで。
目的地へと車を走らせた。
『美味しい』
「それはよかった」
完全個室の和風レストラン。
料亭よりは型崩れしたスタイルで、テーブルと椅子で食事をする。
"お洒落な所で食事してみたいけど、堅苦しい所は苦手"
そう言っていた彼女の為に探しだした場所。
前回水族館の帰りに海鮮を食べる気分でなかったのも踏まえて肉料理の得意な店を選んだ。
嬉しそうにデザートの柚子のシャーベットを口に運ぶ彼女を見て、探した甲斐があったと思う。
『随分前に言ったことなのに覚えててくれたんだね』
「まあ…私も食事に誘おうと考えていた時だったからな」
"結局その時はいけなかったが"
その時、は。割と大きな事件が続いてそんな余裕はお互いなかった。
『ふふ、次はいつかなぁ』
「最短で…一ヶ月」
『えっ?』
シャーベットを掬う手を止めた彼女。
「来月、研修が終わる」
『じゃあ…』
そして、完全にスプーンを置いて目を見開いた。
「来月から日本に住む、ということだな」
『…っ、本当!?』
「嘘をついても仕方あるまい」
『だって…』
見開いた瞳からは涙がぱたぱたと落ちていく。
一瞬歪められた唇から、言葉は出てこない。
「帰ったら…一緒に住まないか?」
次はその涙さえ止まってしまうほど、ぱたりと動かなくなってしまう。
「貴女を置き去りにしてしまった日々を埋めさせてほしい」
差し出した鍵は昨日探しに行った新居のもの。
一瞬、はっとした彼女。
しかし、また涙を溜めて、鍵と私の顔を交互に見つめては…何度も何度も頷いた。
『怜侍』
「…」
『ありがとう、今日はとっても楽しかった』
「それは…私もだ」
彼女の部屋へ戻り、ソファーに並んで座る時間。
穏やかで、幸せで、せつなくて。
彼女の言葉に答えながら、その後頭部に手を当てる。
必然的にこちらに顔を向けた彼女は、うっすらと笑ってみせた。
そして、どちらともなく唇を寄せ合う。
『あと一ヶ月待ったら、もう待てないからね』
「ああ…だがあと一ヶ月待ってくれたら」
待たせた分、
いや、それ以上に
(幸せにすると)
(今は心に誓って)
「もう、待たせはしない」
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