赤の似合う君と
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16
《華麗なる逆転の逆転その後》ヒロイン視点
(彼は、私を解ってくれた)
"ありがとな…"
その一言で全てが報われた。
私が待ち続けた日々は無駄じゃなかったんだ。
『ありがとう、怜侍。私は君のお陰でくじけずに最後を迎えられた。悔いがないわけじゃない…それでもいい終わりだった』
怜侍と吐麗美庵に向かう途中。
運転してくれる彼の隣で語りかける。どうも正面からは恥ずかしくて言える気がしない。
「いや…私は何もしていない。貴女が強かったのだ」
『ばーか』
「ば…っ?」
『私が強くあれたのは君のお陰。守る者なしに、支えてくれる人なしに強くなんていられないわよ』
不思議な気分。
あんなに重くのしかかっていた不安が一気になくなった。
「…」
『あ、怜侍その角左!』
「ム!」
吐麗美庵に着けば、フレンチとは思えないテンションで祝杯が上がっていた。
「ちょっ、未成年は飲んじゃ駄目っス!サイダーにするッス!」
「真宵様!この飲み物は口の中がパチパチしますっ!」
「それがサイダーだよ、はみちゃん♪」
フレンチ料理風の何かが並ぶテーブルを成歩堂君、真宵ちゃん、春美ちゃん、冥ちゃん、糸鋸刑事が囲んでいる。
「あら、やっと来たわね。料理終わっちゃうわよ」
「…自分の給料も終わりそうッス…」
「…無理をするからだ」
『部下に奢らせたりしないよ、私が払う』
「羽影さん太っ腹!」
何とも賑やかで、綾里の二人が笑顔でいてくれるのが嬉しい。千尋さんとも話をしたいところだけど、とりあえずいいか。
「………予想通り足りねぇッス」
『だから私が払うって言ってるのに』
「女性に払わせる訳にはいくまい。だろう、成歩堂?」
「えっ、僕!?」
『はいはい、後輩と祝われる側は大人しくご馳走されなさい』
「羽影さんご馳走様です!」
「ありがとうございます!」
『どういたしまして』
私がこの子達にできるのはこのくらいしかない。
喜んでくれて何よりだ。
「羽影雨月、感謝してるわ。法廷で御剣怜侍と戦わせてくれた事」
『冥ちゃんと御剣君なら、上手くやってくれそうだと思って頼んだだけよ。そういって貰えて何より』
「…機会があれば貴女とも戦ってみたいわ…。またいつかね」
お店を出て、冥ちゃんと別れる。
続いて糸鋸刑事とも別れて、成歩堂君達を駅まで見送った。
『なんだか急に静かになったね』
「まあ…あの騒ぎだったからな」
私の家について、紅茶の入ったティーカップを手にソファーに並ぶ。マンションを引き払っている怜侍はお泊りだ。
『そうだね。すっかり言いそびれちゃったよ。お帰りなさい、怜侍』
「ム…ただいま」
思えば、一年ぶりの再会なのに事件の事で頭が一杯だった。
『お帰りっ、て言ってもまたすぐに行っちゃうんだよね』
「ああ…裁判だと聞いていたから4日程で戻ると伝えてきた」
『あれ、裁判なら最長3日でしょ?』
「貴女も意地が悪いな。日本にせっかく帰るのだから、貴女と過ごす日を含めるのは当然だろう?」
『意地が悪いのは怜侍でしょ。私との日は1日しか設定してくれなかったんだ?』
ぐっ…と言葉を詰まらせた彼。
尤も。私が休みをとれても一日だろうし、彼だって長く休みは取れない。少しからかっただけだ。
『今回は裁判二日だったからね。明日は無理だと思うけど明後日なら半日くらいはなんとかするよ』
主席検事ともなってしまうとそう簡単に休みは取れない。
ましてこんな事件の後じゃ尚更。
でも、明日残務処理さえ終えてしまえば裁判はもう少し先になる筈だ。
「すまないな」
『いいよ。私だって怜侍といたいもの』
クスクスと笑って怜侍の肩に頭を乗せる。
紅茶を飲み終えていた彼はカップを置いて私を引き寄せた。
肩に回された腕の部分だけ熱を帯びる。
「…雨月」
『怜侍?』
「……、今日は早く休むといい。疲れただろう?」
この二日でどっと疲れた私は、その温もりだけで十分眠たくなってしまっていて。その言葉で更に追い撃ちをかけられる。
本当はもっと。彼と話したい。もっと、このままでいたい。
『ありがとう、お言葉に甘えて。…さ、怜侍も一緒に寝よう』
「なっ」
『怜侍も疲れたでしょ、ね?』
一度現れた眠気に勝つことは出来なくて。
無理矢理彼を布団の中に引きずり込む。
私が眠るまででもいいからそこにいて欲しい。
『おやすみなさい』
「ああ、おやすみ」
そう思って。手を握って瞼を下ろした。
翌朝目を覚まして、朝ごはんを作る。それが終わってから怜侍を起こした。
『怜侍は検事局にいくの?』
「いや…今日は他に行く所がある」
『ふーん…?じゃあ出る時は鍵かけてね』
「ああ」
みそ汁を啜りながらそんな会話をして。怜侍が用事のある所ってどこだろう…、なんて考えながら出勤した。
ただ、検事局は慌ただしくてそんなことはすぐに忘れてしまったけれど。
『神乃木さん、貴方の証言次第で正当防衛・過剰防衛・危険回避・殺人…いずれかの容疑になります』
「だろうな」
『事実自体は危険回避ですが…貴方の気持ちがどうだったかが大きく関わります。どうか…まっすぐ自分と向き合ってください。罪以上の罰を受ける必要はありませんから』
「…あんた、やっぱり弁護士になった方がよかったんじゃないか?」
『そうですねー…でも、私は皆に犯した罪の分償って欲しいだけなんです。犯した罪を解ろうとしない者を裁きたいだけ…私のエゴですよ』
「なら、アンタが俺を裁いてくれよ。相応に。」
『駄目ですよ…私は神乃木さんがずっと罪の意識を背負って生きていくのが解りますから…これ以上の罰を課そうとは思えないんです』
神乃木荘龍との面会。
検事局もどの方向で起訴するか悩み倦ねている。
この私も。
「ったく、検事にしちゃ優し過ぎるぜ」
けれど、この人は殺人犯のレッテルを貼られるべきじゃない。皆が解っている。
だから…きっといい方向へいくだろう。
『神乃木さん…』
「なまくらな立件よこすなよ?コーヒーのようなキレのあるのを頼むぜ?」
『勿論です。たとえどんなに激しく攻めても…貴方の心は立証されると信じてますから』
「…」
徐に手を伸ばした彼。
その手の平は私の頭を撫でた。
『っ…!』
ぎゅっと、胸を捕まれるような感覚がした。切なくて切なくて…泣き出したくなる。
思えば、彼が私に触れてくれたのは初めてだ。
「意地張らねぇで早く捕まえておけばよかったな……。御剣のボウヤとお似合いだぜ」
口角を上げて、2回くらい私の頭を軽く叩いた。
『神乃木さん……』
「祝い事の時はゴドーブレンドスペシャルバージョン煎れてやるからな。幸せになりな」
『…っ、ありがとうございます』
神乃木さんがそういってくれるなら、私が迷う訳にはいかない。
この人の為に最善の裁判をして、精一杯自分の道を行こう。
「そろそろ、終わる時間だな」
『ええ。面会ありがとうございました』
「クッ、こんな会話で立件できるのかい?」
『人の幸せを願ってくれる人が、私利私欲の為だけに命を奪うはずがないって解ったので。そこそこ方向は決まりましたよ』
頭の上から掌を退かして、また口角を上げる彼。
「…そうかい。じゃあ、暫くな」
『はい。また裁判で』
『裁判は一週間後になったから、明日は一日休めるよ』
「そうか、私も明後日の昼の便でも間に合うように伸ばしたから時間はあるな」
明日休む為に前倒しで仕事をしたためにすっかり遅くなってしまった。
布団に潜りこめば強い睡魔が襲ってくる。
『明日は予定決めてあるの?』
「それなりにな」
『何処か行くの?』
「まだ秘密だ」
『じゃあ楽しみにしてるね』
もともと、怜侍とならなんだって構わない。この空白だらけの日々を少しでも埋められるなら、それで十分だから。
「明日は少し早いからな、寝よう」
『うん、眠くて楽しめないんじゃ嫌だもの。おやすみ、怜侍』
「おやすみ、雨月」
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