赤の似合う君と
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《華麗なる逆転の逆転》御剣視点
また冬がやってきた。
ここ数年、この時期を落ち着いて過ごした事がない。
今年もまた然り。
『あ…!御剣君!』
「羽影検事…一体?」
『それが…』
矢張の電話で舞い戻った日本。真っ先に連れて来られたのは病院で。
そこには大層顔色の悪い成歩堂と、久しぶりに見る彼女の姿があった。
成歩堂の代わりに事の成り行きを話す彼女も…どこか落ち着きがない。
『橋から落ちて命があっただけでも十分ね。風邪は大分悪性みたいだけど…御剣君、お願いできる?』
「御剣…」
「………」
今回は"弁護をしてくれ"ときた。
しかも、矢張が関わっていて真冬の山奥が現場。
「引き受けたからにはやるが…」
『手回しはしたよ』
「感謝する、検事局長」
『やめてよ。…それにこの事件……』
彼女の表情が曇った。
「"例の"か?」
『うん…』
血の気が引いたような顔色が、彼女の不安を物語っている。
『私は局に残って手筈を進める。気をつけて』
「ああ…貴女も、無理をするな」
1年ぶりの帰国。
雨月との再会を喜ぶ間もなく、事件の捜査が始まる。
まさか、自分が弁護側に立つ日がくるとは思わなかった。
いや、昔はここに立つ事を目標にしていたのだ。
ずっとずっと…。
(その夢を叶えられたのは…ある種成歩堂のおかげという事か)
苦笑を交えて立った弁護席。
悪いものではなかった。
これで、バトンはつないだ。
『お疲れ様、上手くいったね』
「てっきり貴女が検事席に立つと思っていたが…」
『冥ちゃんにもこの裁判は関わって欲しくて。多分、明日からは正規の担当検事が立つわ…』
裁判を何とか終え、一度警察庁へ資料を取りに来ると、私が欲しかったものは既に彼女によって準備されていて。
資料を受け取った時、刑事課から電話が鳴った。
『…そう、解りました。直ぐに手配を……』
「どうしたのだ?」
『御剣君、刑事達と一緒にあやめさんを護送して欲しい…』
「…解った」
経緯を大方聞いて、急いで準備へと走る。
「貴女は現場に行かないのか?」
『現場に検事ばかりいても仕方ないわ。捜査の邪魔にもなる。それに……今の私は、検事でいる自信がないから』
会話を交わす間の、泣き出しそうな顔で微笑む顔が頭から離れない。
『君にも解るかもしれない。何故この事件が起きてしまったのか、全てがどこから始まってるのか…』
『大事に至らなかったし、事の始末は自分でしているから…お咎めはなしということで』
「すまない、私のミスで…支えると言ったのにこの様だ…」
『日本に帰ってきてくれただけで心強いよ、ありがとう』
「…感謝する」
今日起きた地震で、あやめさんを取り逃がした。
吹っ切れていた筈の悪夢を、体はまだ忘れてくれない。
「羽影検事…聞きたい事があるのだが…」
『なに?』
「この事件を担当するゴドーとは何者だ?いつから検事になったのだ?」
その質問で、雨月の顔は一瞬にして強張った。
勾玉を持っていれば、さいころ錠が見えたに違いない。
…相当な量の。
『…コーヒー好きの腕のいい検事だよ。それ以上知りたかったら明日の法廷を見に来たらいい。きっと…成歩堂君が教えてくれる』
「今日の裁判までに連絡が取れなかった理由も知っているのか?」
『…………』
「どうやら…貴女の悩みの種は彼のようだな」
『…………』
彼女は何も答えず、困ったように笑うだけだった。
法廷2日目。
あやめさんが検察側の証人になった事を成歩堂に伝えにいった。
『…うらやましいな』
「何が、だ?」
『成歩堂君を"相棒"って呼べることが、かな』
「……」
『さあ、始まるよ』
私を傍聴席へ追い立てる一方、彼女は扉から中へは入ってこない。
『私は外で裁判を聞いている』
そして、そういうと背を向けてしまった。
「見届けなくていいのか?」
『…………もう、解ってるんだ』
「…!」
『君は見届けるといいよ。霊媒の世界を、真相を、始まりと終わりを…』
裁判の流れは、信じられない方へ傾いていった。
死んだはずの千奈美の姿に、霊媒を信じることが余儀なくされ、真宵君は証人として召喚された。
真宵君の身を削るような証言が続く中、明らかになったゴドー検事の正体。
(彼が、神ノ木荘龍…!)
彼女が憧れ、待ち続けた人物。
しかし、その人の経歴に一度たりとも彼女は現れなかった。
…成歩堂はすべてを立証した。
そして、血の涙と共に結末を迎えた法廷に、私は唯一異議を抱いていた。
「お祝いだな」
「直ぐにいくから、先に行っててくれ」
少女を探しにいった成歩堂と真宵君を抜いてレストランへ向かいだす糸鋸刑事達に、声をかける。
「私も後から行こう、探し人がいる」
「…主席検事ね」
「ああ、あの人もどこへ行ったものか…」
法廷を出ると、そこに姿はなく、主席検事執務室にもいなかった彼女。
おおよそ見当はついている。案の定、留置所の前で佇んでいた。
「雨月!」
『!御剣、くん…』
真っ青な顔をこちらに向けると、力なく微笑んだ。
『ここまでダメージ受けるのは、予想してなかったや…』
ドアノブにかけた手はそれを捻ることができずに震えている。
「私も行こう、言いたいことがある」
その手に自分の掌を重ねて面会室へ入った。
「この寝坊助に、何か用かい?主席検事と…上級検事」
「異議あり、と言いに来た」
「…証言台でなけりゃ無意味な台詞だな」
赤いマスク越しに注がれる視線と、傍らで必死に立っている雨月に、緊張が走る。
「貴方を待っている者はいた」
表情が読めず、言葉を詰まらせれば、口を開いたのは向こうだった。
「知ってたさ。久しぶりだな、雨月」
『…っ!』
「だが法廷ではっ」
「医者から通って来る女がいると聞いていた。だが、そのボウヤがいる。らしくねぇな、妬いちまったのさ」
笑うようなそぶりに、込み上げていた負の感情は行き場を失う。
『私を、嫌いになったんじゃないんですね?』
「まさか。まあ、検事になった時は驚いたし…ヒラヒラのボウヤとの噂を聞いたから…な」
『私は御剣君と成歩堂君の様な関係を夢見ていました。だから、検事になって貴方と肩を並べたかった』
「それが、検事になった理由か」
『ええ…』
少し緊張が解れたような彼女に一安心する。
ボウヤ、は頂けないが。
「ボウヤとの噂は否定しないんだな」
『この状況で否定も何もないでしょう』
「クッ、つくづく妬けるな」
『赤も理由ですか…?』
「流石だな。気づいたかい?」
「どういう事だ?」
二人は顔を見合わせて、困ったように笑った。先程からついていけてない。
「俺が赤を見れねぇのは解ってるよな?」
「ム、」
『御剣君のスーツ、何色?』
「…!」
「好きな飲み物は何色だ?」
「…!!」
ワイン"レッド"のスーツに、"紅"茶。
「情けねぇ話だ。見えない色に妬くなんてな…」
自嘲気味に笑うと、バイザーから血が滴った。
『なっ、まだ治療受けてなかったんですかっ』
「せっかちなお客が来ちまったんでな」
『~~っ、保健師さんに手続きとってきますっ』
慌ただしく部屋を飛び出した彼女を視線で見送る。
しばし茫然としていると向こうから話し掛けてきた。
「御剣、だったな」
「…なんだろうか」
「俺が言えたことじゃねぇが、アンタにアイツを守れるのかい?」
「…」
「知っているかもしれねぇが、アイツもそれなりに苦労した道を通ってる。…これ以上苦汁を飲ませる必要はねぇ」
「…」
「お前は傍にいてやれるのか?御剣」
ダンッ、と机を叩く音。
雰囲気から如何に本気かが伝わってくる。
「私はまだ未熟だ…彼女の支えが務まるか解らない。だが、二度と泣かせないと誓った」
「…そうか」
先程の熱さとは打って変わって。落ち着いた、冷静な声色が続いた。
「クッ、俺はまた守ってやれる立場じゃなくなっちまった。…頼んだぜ、雨月のこと。泣き虫で寂しがりだからな」
「…承知した」
『手続きとれましたよっ、すぐに行って下さい』
「ああ」
彼女は駆け込むやいなや早口に叫んだ。
神之木も答えて立ち上がる。
『…刑期終わってコーヒー屋のマスターになったら呼んで下さいね。待ってますから』
「…ありがとな」
背を向けて部屋を出ていく彼を見送る。
心做しか、雨月の表情が晴れやかだ。
「…私達も行こう、糸鋸刑事がレストランを予約してくれたようだ」
『えっ、糸鋸刑事が?…行こう!なんてお店?』
「確かトレビアンと言っていたな」
『…吐麗美庵……やっぱりね』
一瞬引き攣った様だったが、楽しそうに笑った。
『怜侍場所知らないでしょ?案内するよ』
「む…お願いしよう」
泣き虫で、寂しがりな彼女。
泣かせてしまうのも、
一人にしてしまうのも私だ。
(私も
もっと強くならねば
彼女のこの笑顔を
守れないのだろうな…)
.
また冬がやってきた。
ここ数年、この時期を落ち着いて過ごした事がない。
今年もまた然り。
『あ…!御剣君!』
「羽影検事…一体?」
『それが…』
矢張の電話で舞い戻った日本。真っ先に連れて来られたのは病院で。
そこには大層顔色の悪い成歩堂と、久しぶりに見る彼女の姿があった。
成歩堂の代わりに事の成り行きを話す彼女も…どこか落ち着きがない。
『橋から落ちて命があっただけでも十分ね。風邪は大分悪性みたいだけど…御剣君、お願いできる?』
「御剣…」
「………」
今回は"弁護をしてくれ"ときた。
しかも、矢張が関わっていて真冬の山奥が現場。
「引き受けたからにはやるが…」
『手回しはしたよ』
「感謝する、検事局長」
『やめてよ。…それにこの事件……』
彼女の表情が曇った。
「"例の"か?」
『うん…』
血の気が引いたような顔色が、彼女の不安を物語っている。
『私は局に残って手筈を進める。気をつけて』
「ああ…貴女も、無理をするな」
1年ぶりの帰国。
雨月との再会を喜ぶ間もなく、事件の捜査が始まる。
まさか、自分が弁護側に立つ日がくるとは思わなかった。
いや、昔はここに立つ事を目標にしていたのだ。
ずっとずっと…。
(その夢を叶えられたのは…ある種成歩堂のおかげという事か)
苦笑を交えて立った弁護席。
悪いものではなかった。
これで、バトンはつないだ。
『お疲れ様、上手くいったね』
「てっきり貴女が検事席に立つと思っていたが…」
『冥ちゃんにもこの裁判は関わって欲しくて。多分、明日からは正規の担当検事が立つわ…』
裁判を何とか終え、一度警察庁へ資料を取りに来ると、私が欲しかったものは既に彼女によって準備されていて。
資料を受け取った時、刑事課から電話が鳴った。
『…そう、解りました。直ぐに手配を……』
「どうしたのだ?」
『御剣君、刑事達と一緒にあやめさんを護送して欲しい…』
「…解った」
経緯を大方聞いて、急いで準備へと走る。
「貴女は現場に行かないのか?」
『現場に検事ばかりいても仕方ないわ。捜査の邪魔にもなる。それに……今の私は、検事でいる自信がないから』
会話を交わす間の、泣き出しそうな顔で微笑む顔が頭から離れない。
『君にも解るかもしれない。何故この事件が起きてしまったのか、全てがどこから始まってるのか…』
『大事に至らなかったし、事の始末は自分でしているから…お咎めはなしということで』
「すまない、私のミスで…支えると言ったのにこの様だ…」
『日本に帰ってきてくれただけで心強いよ、ありがとう』
「…感謝する」
今日起きた地震で、あやめさんを取り逃がした。
吹っ切れていた筈の悪夢を、体はまだ忘れてくれない。
「羽影検事…聞きたい事があるのだが…」
『なに?』
「この事件を担当するゴドーとは何者だ?いつから検事になったのだ?」
その質問で、雨月の顔は一瞬にして強張った。
勾玉を持っていれば、さいころ錠が見えたに違いない。
…相当な量の。
『…コーヒー好きの腕のいい検事だよ。それ以上知りたかったら明日の法廷を見に来たらいい。きっと…成歩堂君が教えてくれる』
「今日の裁判までに連絡が取れなかった理由も知っているのか?」
『…………』
「どうやら…貴女の悩みの種は彼のようだな」
『…………』
彼女は何も答えず、困ったように笑うだけだった。
法廷2日目。
あやめさんが検察側の証人になった事を成歩堂に伝えにいった。
『…うらやましいな』
「何が、だ?」
『成歩堂君を"相棒"って呼べることが、かな』
「……」
『さあ、始まるよ』
私を傍聴席へ追い立てる一方、彼女は扉から中へは入ってこない。
『私は外で裁判を聞いている』
そして、そういうと背を向けてしまった。
「見届けなくていいのか?」
『…………もう、解ってるんだ』
「…!」
『君は見届けるといいよ。霊媒の世界を、真相を、始まりと終わりを…』
裁判の流れは、信じられない方へ傾いていった。
死んだはずの千奈美の姿に、霊媒を信じることが余儀なくされ、真宵君は証人として召喚された。
真宵君の身を削るような証言が続く中、明らかになったゴドー検事の正体。
(彼が、神ノ木荘龍…!)
彼女が憧れ、待ち続けた人物。
しかし、その人の経歴に一度たりとも彼女は現れなかった。
…成歩堂はすべてを立証した。
そして、血の涙と共に結末を迎えた法廷に、私は唯一異議を抱いていた。
「お祝いだな」
「直ぐにいくから、先に行っててくれ」
少女を探しにいった成歩堂と真宵君を抜いてレストランへ向かいだす糸鋸刑事達に、声をかける。
「私も後から行こう、探し人がいる」
「…主席検事ね」
「ああ、あの人もどこへ行ったものか…」
法廷を出ると、そこに姿はなく、主席検事執務室にもいなかった彼女。
おおよそ見当はついている。案の定、留置所の前で佇んでいた。
「雨月!」
『!御剣、くん…』
真っ青な顔をこちらに向けると、力なく微笑んだ。
『ここまでダメージ受けるのは、予想してなかったや…』
ドアノブにかけた手はそれを捻ることができずに震えている。
「私も行こう、言いたいことがある」
その手に自分の掌を重ねて面会室へ入った。
「この寝坊助に、何か用かい?主席検事と…上級検事」
「異議あり、と言いに来た」
「…証言台でなけりゃ無意味な台詞だな」
赤いマスク越しに注がれる視線と、傍らで必死に立っている雨月に、緊張が走る。
「貴方を待っている者はいた」
表情が読めず、言葉を詰まらせれば、口を開いたのは向こうだった。
「知ってたさ。久しぶりだな、雨月」
『…っ!』
「だが法廷ではっ」
「医者から通って来る女がいると聞いていた。だが、そのボウヤがいる。らしくねぇな、妬いちまったのさ」
笑うようなそぶりに、込み上げていた負の感情は行き場を失う。
『私を、嫌いになったんじゃないんですね?』
「まさか。まあ、検事になった時は驚いたし…ヒラヒラのボウヤとの噂を聞いたから…な」
『私は御剣君と成歩堂君の様な関係を夢見ていました。だから、検事になって貴方と肩を並べたかった』
「それが、検事になった理由か」
『ええ…』
少し緊張が解れたような彼女に一安心する。
ボウヤ、は頂けないが。
「ボウヤとの噂は否定しないんだな」
『この状況で否定も何もないでしょう』
「クッ、つくづく妬けるな」
『赤も理由ですか…?』
「流石だな。気づいたかい?」
「どういう事だ?」
二人は顔を見合わせて、困ったように笑った。先程からついていけてない。
「俺が赤を見れねぇのは解ってるよな?」
「ム、」
『御剣君のスーツ、何色?』
「…!」
「好きな飲み物は何色だ?」
「…!!」
ワイン"レッド"のスーツに、"紅"茶。
「情けねぇ話だ。見えない色に妬くなんてな…」
自嘲気味に笑うと、バイザーから血が滴った。
『なっ、まだ治療受けてなかったんですかっ』
「せっかちなお客が来ちまったんでな」
『~~っ、保健師さんに手続きとってきますっ』
慌ただしく部屋を飛び出した彼女を視線で見送る。
しばし茫然としていると向こうから話し掛けてきた。
「御剣、だったな」
「…なんだろうか」
「俺が言えたことじゃねぇが、アンタにアイツを守れるのかい?」
「…」
「知っているかもしれねぇが、アイツもそれなりに苦労した道を通ってる。…これ以上苦汁を飲ませる必要はねぇ」
「…」
「お前は傍にいてやれるのか?御剣」
ダンッ、と机を叩く音。
雰囲気から如何に本気かが伝わってくる。
「私はまだ未熟だ…彼女の支えが務まるか解らない。だが、二度と泣かせないと誓った」
「…そうか」
先程の熱さとは打って変わって。落ち着いた、冷静な声色が続いた。
「クッ、俺はまた守ってやれる立場じゃなくなっちまった。…頼んだぜ、雨月のこと。泣き虫で寂しがりだからな」
「…承知した」
『手続きとれましたよっ、すぐに行って下さい』
「ああ」
彼女は駆け込むやいなや早口に叫んだ。
神之木も答えて立ち上がる。
『…刑期終わってコーヒー屋のマスターになったら呼んで下さいね。待ってますから』
「…ありがとな」
背を向けて部屋を出ていく彼を見送る。
心做しか、雨月の表情が晴れやかだ。
「…私達も行こう、糸鋸刑事がレストランを予約してくれたようだ」
『えっ、糸鋸刑事が?…行こう!なんてお店?』
「確かトレビアンと言っていたな」
『…吐麗美庵……やっぱりね』
一瞬引き攣った様だったが、楽しそうに笑った。
『怜侍場所知らないでしょ?案内するよ』
「む…お願いしよう」
泣き虫で、寂しがりな彼女。
泣かせてしまうのも、
一人にしてしまうのも私だ。
(私も
もっと強くならねば
彼女のこの笑顔を
守れないのだろうな…)
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