赤の似合う君と
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14
《遠距離での逆転》ヒロイン視点
彼は毎月絵葉書を送ってくれた。
アメリカの風景、名物、どれも私好みの絵。
そこに、文章はなかった。
いつも英語で私と彼の名前が綺麗に書かれているだけ。
もっとも、不満があるわけではない。
絵の上に文字を書くのは興醒めだし、表では足りないのだろう。
だから、私も文は書かず、自分の育てた花の写真を載せた葉書を返事にしていた。
しかし、一番楽しみにしているのは二週間に一度かかってくる電話。
14時間の時差のせいでどうしてもお互いに休日である必要があった。
土曜の夜0時、電話が鳴る。
ワンコールもしないうちに出れば、呆れたような笑いが聞こえた。
「早いな」
『だって、かかって来るって解ってるから』
「確かにそうだが…」
顔を見なくても解る。
彼は、困ったように笑みを浮かべているのだろう。
『元気にしてる?』
「ああ、順調だ。そちらは?」
『まあまあね。少し忙しいけど』
「首席検事ともなるとそうだろうな」
『デスクワークばかりで退屈よ。向いてない気がする』
「私は適任だと思うが?雨月ほど信頼できる責任者はいない」
『それが重たいの』
電話だと、どうも弱気になってしまう。顔を見られていない安心感がそうさせるのか。
「私にできることは?」
『…大丈夫、自分でなんとかしないといけないことだから』
まさか、あの人が目覚めて検事をしているなんて。
まして、あの人が私を敵視している気がするなんて。
言えるわけなかった。
「…無理はするな。力にはなれないかもしれないが、頼って欲しい。一緒に考えることくらいできる」
『…ありがとう』
電話だと、彼は強気な気がする。吃ったり、支えたりせずに断言してくれる。
それだけで十分元気がでた。
『でも本当に大丈夫。怜侍が力不足とかじゃなくて、私の管轄なんだ。何とかして見せる』
「フフッ、頼もしいな」
『…私が強くいれるのは怜侍がいるからよ。君との約束があるから』
左手の薬指を眺める。
形のない約束。
でも、何より信じられる約束。
「私が強くいられるのも…貴女のおかげだ」
しばらく沈黙があった。
お互いがお互いの事を考えていると、音のない時間が流れる。
「そういえば…最近病院へは行けているのか?」
先に沈黙を破ったのは彼だった。
『え?』
「彼…の見舞いにほとんど毎日行っていたろう?」
『あ、…うん。…あの人……目を覚ましたの……』
「…なぜだ?あまり、嬉しそうじゃないな」
『……私が入院している時に目を覚まして…退院しちゃってた』
「な…」
自分でも驚く程暗い声だった。
声を詰まらせる怜侍からも、気まずさが伝わって来る。
『わ…たし、待ってたのに…おはようって…言えなかったよ…っ』
涙が、零れてきた。
泣かないようにしてたのに。
私より辛い人が誰かなんて解ってるのに。
「目が覚めて、よかったではないか。…退院できたということは、元気、なのだろう?」
『そうだけど…そうじゃな…い、神之木さん…私のことっ…』
言えなかった。
やっぱり、言ってはいけない。
もし怜侍が聞いたら、日本に帰ってきてしまうかもしれない。自意識過剰でも…私の蒔いた種で彼の決心を塞ぐ訳にはいかない。
「何があったのだ…?」
『…言えないっ…言えないけど、私、馬鹿みたい…なんの為に、なんの為に6年も…っ…』
「雨月…」
『れい…じ、あの人信じてくれるかな?待ってたんだって…信じてくれるかな…っ?』
自分でも何を言っているか解らなかった。
ただ、どうしようもない過ちをどうしたら償えるか解らなくて。
これから起こりうる悲劇を食い止める術も思いつかなくて。
ひたすら泣いた。
「貴女のその強い想いは…きっと伝わるだろう……この私が妬く程のものだからな」
『…っ』
「こんな時にこそ、隣にいて抱きしめられたらどんなにいいか…」
『ありがとう、その気持ちだけで嬉しいよ。ごめんね…ごめんね…っ』
「謝らないで頂きたい、貴女は何も悪くなどないのだから……」
嗚呼、もし怜侍が本当に隣にいたら。抱きしめて頭を撫でてくれるのだろう。
『ありがとう。……ねぇ、怜侍』
きっと、何かが起きる。
誰が何の為に引き起こすのか。
誰の身に降り懸かるものなのか。
何一つ解らないけれど。
私も怜侍も、無関係ではない気がしてならないことが…。
「…心得ておこう」
『ただの杞憂に過ぎないといいけれど…』
「ああ。だがもし、現実になった時は」
次こそ貴女を支えよう。
貴女の隣で。
私の両手で。
『怜侍…』
「約束したからな、支えると」
『…うん、頼りにしてるよ』
この時、抱いていた嫌な予感。
一時は怜侍の言葉で和らいでいたけれど…
的中した嫌な予感は、想像を超えるものだった。
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