赤の似合う君と
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13
《出逢いは逆転》ヒロイン視点
※御剣出ません
私は取り返しのつかないことをした。
その日のために生きていたのに。
「神乃木さんなら5日前に退院なされましたよ」
私が倒れて一週間後に目覚め、私が退院する前日にリハビリを終えていた。
『おはようって言えなかった…』
私は待ってたよって。
伝えられなかった。
でも、私は心のどこかで、彼は私のいるときに目覚めてくれると思ってしまっていた。
本当なら無理にでも入院中も見舞にいけばよかったのに。
5日経っていれば、もう綾里法律事務所が成歩堂法律事務所になっているのに気づき。
星影弁護士を尋ね千尋さんの死を知り。
倉院の里に訪れて…。
美柳千奈美の判決を知って…
成歩堂君のことを聞いて…。
彼はどこにいったのだろう?
星影法律事務所にいくのだろうか?
私を頼ってはくれないのだろうか?
私は…彼に何も出来ないのだろうか………
「上席検事、話が」
『なんでしょうか』
退院後、地方首席検事を代理することになって。
裁判よりも事務処理が増えた。
そこに、亜内検事が一人の男を連れてきた。
「初めまして、上席検事。相談なんだが、いいかい?」
連れられてきたその男。
見間違うはずなかった。
赤いバイザーこそしているが、彼は…
『貴方は…』
「俺はゴドーだ。他の名はねぇ」
『…っ…。亜内検事ありがとうございました、話は解りましたので下がって頂いて結構です…』
二人きりになって、しばらく沈黙が流れた。
『私にも、その名で呼ばせるのですね…』
「…話は俺を検事として置いてもらう件だ。司法試験は通ってる」
『…』
静かな怒り。とでもいおうか。
受け取れるはずのない視線は冷たく突き刺さるようだたった。
『解りました…受理します。だから、貴方の目的を教えて下さい…』
「……」
彼は答えなかった。
私も何も言えなかった。
その怒りの矛先が、感じ取れてしまったから…
『ゴドー検事、これからよろしくお願いしますね』
事務的に挨拶をして、彼を見送る為に席を立つ。
「念を押すぜ、上席検事…オレはアンタと初めまして…だ。あぁ、名前を聞いてなかったな」
ぐっ、と唇を噛んだ。
どうして一人で戦おうとするの。
どうして私を頼ってくれないの。
胸の中で渦巻く言葉達は出口を探しているというのに。
『私の名前なんて…貴方には必要ないのでしょう。知らなくても問題ありませんよ』
彼が私との間に置こうとしている距離を、さらに突き放して執務室の扉を開ける。
『では、これで』
扉が閉まる音が冷たく響いた。
私のいう彼の力になりたいとは…
こういうことではなかったのに…
ゴドー検事と成歩堂君の裁判を見て、予想は確信へと変わる。
彼が憎むもの。
犯人である千奈美と、千尋さんを守れなかった成歩堂君…
そして私。
自惚れかもしれない、でも、そこだけは宛てにされていたのではと思う。
(そうでなければ、あんなこと…)
そうでなければ、私に、初めましてだなんて…そんな、そんな悲しい挨拶はない。
千尋さんを救えず、待ってさえいなかった私に憎しみを抱くのも不思議ではない。
それでも、検事局にいる為には私のところへ来るしかなかった。
そんなところだろう。
解っていたって、悲しい。
でもきっと。
一番辛いのは、彼自身だから。
(最も憎んでいるのは、眠り続けた自分自身…)
悔しい。
結局、私は彼を救うことは出来ない。
…私では届かない。
それでも。
私は彼に手を差し出さずにはいられないのだ。
何度目かの逆接を繰り返し、彼らの裁判を見届けに向かう。
いつか、彼は。
ゴドー検事の正体も解き明かしてしまうのだろう。
仮面☆マスクの正体を暴くように。
『やあ、成歩堂君。半年振りくらいかな?』
「あ!羽影さん、お久しぶりです!首席検事になられたとか?」
『まあね。でもお蔭様で裁判はご無沙汰だよ、腕が鈍りそうだ』
冗談混じりに肩をすくませれば、これまた久々に聞いた声。
「あら、貴女の腕前はそんなものではないでしょう?」
『……お久しぶりです、千尋さん。私など、貴女に比べればまだまだです』
真宵ちゃんの体に宿る千尋さんの声。彼女と直接言葉を交えるのは2年振り…くらいだ。
「…雨月さん、迷惑かけるわね……でも」
『ええ、ご心配なく』
口止めされるようなそぶりに、体が強張った。
もし、彼女に八つ当たりであっても、何か言えたら…。言えっこないのにそう思った。
「ありがとう。じゃあ、またね」
嗚呼。
皮肉、無力にして悍ましき嫉妬。
彼女の笑顔は残酷だ。
「あの、羽影さん…ゴドー検事って何者ですか?」
「わ、私も気になります!」
まっすぐな瞳の成歩堂君と真宵ちゃん。私が答えるべきではないのだろう。
千尋さんが話さないのだから。
『腕のいい検事だよ。コーヒー好きのね』
(それは十分解ったよ!)
っていいたげな成歩堂君のカッターシャツはコーヒー色に染まっていた。
なんだか可笑しくて、笑いを噛み殺しながら続ける。
『君は正面から立ち向かうといい。真実はいつもすぐ近くにあるのに見えないものだから』
ますます解らないという顔の彼らに、ヒラヒラと手を振って背を向けた。
「上席検事はまるほどうとナカヨシみたいだな」
『…初裁判、敗訴おめでとうございます』
「クッ…連れないコネコちゃんだぜ」
そのあとすぐにすれ違った彼。背中同士、振り向くこともなく会話を繋ぐ。
『どっちがですか』
言わなければよかった。
彼からすれば、私は、待っていなかった、弁護士の敵の検事。
連れないのは私の方だ。
「…どっち、だろうな」
『…っ』
いたたまれなくなって足早にその場を後にした。
彼は振り向いてこちらを睨んでいるかもしれない。
無視して進んでいくかもしれない。
どちらも怖かった。
私だって悪い。
でも、その瞼の裏に、私を想って欲しいと思うのは…
我が儘?
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