赤の似合う君と
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11
《再会の逆転》御剣視点
『お帰りなさい』
彼女が私を見て最初に放った言葉。この一言で私はすべてを悟った。
彼女は、私の帰りを信じ待っていてくれたのだ。…何も言わずに消えた私を。
「…っ、ただいま」
声が詰まった。それは、私にあった後ろめたさがもたらしたものだった。
私は自分の答えを見つけて戻ってきた。それを、彼女も望んでいる。でも…その結果は彼女を待たせた。
『そっか。君は答えを見つけたんだね』
「今回は、御剣の協力なしで二人を救うことはできなかった…」
『そういうことか、…納得』
この事件の経緯を知り、彼女は小さく笑みをこぼした。
一年ぶりに見る笑顔は、以前と同じように優しかった。
「あの、みつるぎけんじさん!」
『…む?』
「愛しい方と再会して何か言うことはないのですか?」
彼女の期待するような瞳は"愛の言葉"とやらを望んでいるのだろうし、成歩堂の視線は"謝罪"を求めてるのだろう。
「う…ム」
『春美ちゃん、もう御剣君は私の聞きたい言葉は言ってくれたよ』
「え!ですが、"ただいま"としか…」
『うん、それが聞きたかった』
驚いた。皆がそんな顔をした。…私も含めて。
「雨月さんいいの?愛の言葉とか聞かなくて」
ニヤニヤとする真宵くんに、雨月はにこやかに頷いた。
『だって、"ただいま"ってことは御剣君が無事に帰ってきた証拠だし、私が帰る場所ってことだもの』
これで十分よ。
そういった彼女に、糸鋸刑事は頭を掻き、真宵くんは笑い、春美くんは照れ、成歩堂は複雑な顔をしていた。
「自分は帰るッス、これ以上ここにいても惚気を聞くだけみたいッスから」
「私達も終電だから帰ろっか」
「はいっ、大人の愛…しかと見させて頂きましたっ」
「じゃあ僕も帰ろうかな」
皆、ぞろぞろと病室を後にする。
"二度と泣かせるなよ"
成歩堂は小さく耳打ちして出ていった。
『…君の答え、聞かせてもらえる?』
「あ、あぁ。私は…」
"検事は有罪を得るために戦うもの、たが…それがすべてとは思わない。"
『うん、君らしいや』
にこりと笑った彼女を、思わず抱きしめた。
『怜…侍?』
彼女が過労で倒れたと、成歩堂に聞いた。細くなった体の線がその多忙さを物語っている。
「すまなかった…」
自分の都合で支え続けられなかったこと、何も言わずに行ったこと、待たせたこと、苦労をかけたこと。
全て。
『…もう』
背中に回される腕が華奢になっている。一年間、もしかしたら彼女は一人で戦ったのかもしれない。
「貴女の強さに甘えてしまった…貴女なら、信じて待っていてくれると…解ってくれると思った」
『信じてたよ。解ってたつもり。でもね…』
"少しだけ寂しかった"
くぐもった、鼻にかかった声が腕の中から聞こえた。
"二度と泣かせるな"…か。彼女は成歩堂に話したのだろう。
『成歩堂君たら余計な事言って…今顔見たら怒るからね』
鼻を啜る音を交え、肩を震わせる彼女。
いくら師とはいえ、一人の女性だ。と痛感する。
「雨月の怒った顔はみたことがないからな…是非拝見したいのだが」
『そんな事したらヒラヒラに鼻水つけちゃうから』
「それは…困るな」
頭をそっと撫でて抱きしめる力を強くする。
少しでも加減を間違えれば折れてしまいそうだ。
「ありがとう…愛してる」
はっと顔をあげた雨月は目が真っ赤で、潤んでいて。
『帰ってきてくれてありがとう、愛してる』
ああ。この笑顔は。
私に安堵と罪悪感を与える。
脆い彼女の心の強さに、ひた感銘を受けるしかない。
『明日の9時。迎えにきてくれるよね?』
「ム…」
『久しぶりに家に帰るんだもの、来てくれるでしょ?』
「勿論だ」
悪戯めいた笑顔にそっと唇をおとす。
…せめてもの償い。
彼女がそれで笑顔でいてくれるなら。
『さすが、時間ピッタリだね』
入院中の寝巻を着替え、諸々の荷物を持った彼女が病院のエントランスに立っていた。
「すまないな、道が混んでいて…もう少し早く来るつもりだったのだが」
『怜侍の事だからそういって早く来るんじゃないかと思って30分遅く伝えたんだけど、私の方が30分手間取っちゃった。だからいいの』
「…貴女を待たせる事は、もうしたくないのだよ」
手荷物を預かりながら答えれば、彼女は一瞬目を見開いてから微笑んだ。
「家に直行でよいのだろうか?」
『あれ、ドライブでも連れていってくれるの?』
「…病み上がりの人間を連れ回す訳にもいくまい。買い物などはいいのか?」
『なんだ、期待したのに…買い物は一旦帰ってからかな。まだ何が必要か解らないし』
「…ドライブは明日でよければ行こう。買い物も人手が必要なら手伝う」
多少口ごもりながら返事をすれば、クスクスと笑い声が聞こえて。
そうして貰おうかな、と続いた。
彼女の家についてみると、2ヶ月近く帰っていない割にとても片付いていた。
『真宵ちゃん達部屋も片してくれたんだ。冷蔵庫だけでいいって言ったのに』
どうやら、食材が傷むからと冷蔵庫の中身の処分を頼んだ際や、日用品を頼んだ時などに軽く掃除までしてくれていたらしい。
『…!…クスクス』
「どうしたのだ?」
『これ、見て』
冷蔵庫から取り出されたメモ。
"プリンごちそうさまでした!
真宵ちゃんがどうしてもって
なるほど君が食べていいって"
「……」
『なんだか絵が浮かぶよね』
「…まったくだな」
そんなこんなで家には食材がなかった為、結局買い物にいくことになった。
『今日はオムライス♪』
「いいのか?消化がよいものとかでなくとも」
『大丈夫だよー。久しぶりに好きなもの食べれるから嬉しい』
楽しそうに卵、鶏肉、ケチャップ。諸々の野菜やその他の食材を買った。
…………
…………………
『ごめんね、暫く作らなかったから腕落ちちゃった…』
「問題ない、その、味は美味い」
彼女の作ったオムライスはうまく包めず破けてしまった。二つ目は卵だけ焼いてチキンライスの上で開くものだったが、火が通り過ぎて上手くいかなかった。
しかし、サイドのサラダやスープまで味付けは全て美味しかった。
『ふふ、ありがとう』
「ム…」
買い物の後、夕食に招待してくれた彼女は病院で見るよりずっと生き生きとして見えた。
『ねぇ怜侍…次はいつ行ってしまうの?』
「…!」
私はまだ、アメリカへ行っていた事も行く事も伝えていなかった。
『やっぱり。どこか行くんだ』
「…今、アメリカで法廷について学んでいる。まだ、学びたい事があるのだ」
『アメリカかぁ…いいんじゃない?視野が広いに越したことはないよ』
「…その…出発は明後日の夜だ」
少し、雨月の動きが止まった。何か考えるようにしてから口を開いた。
『日本にいる時間は、私にくれる?』
「ああ…」
『じゃあ明日はデートでそのまま家に泊まってね』
「な、だが!」
『あ、今日も泊まってく?んー、でも寝巻とかないと不便だよね』
とんとんと話を進めていく彼女に圧倒される。
何か言おうとした瞬間、彼女の目が深い哀しみを帯びた。
『今日……一人になりたくない』
何も。
何も言えなかった。
「…車に積んである荷物をとって来よう、来た時のままだからな」
『!、ありがとっ』
子供の様なあどけない笑顔を見せる。
できることはしてやりたい。私のしたいこと、全て支えてくれる貴女に。
『怜侍、オムライス冷めちゃうよ?』
「う…ム」
『ふふ、また描いてあげるから遠慮なく食べてよ』
明日のドライブは水族館がいいか、植物園がいいか。
考えながらゆっくり卵にスプーンをいれた。
.
(マナーがいい怜侍が、オムライスの真ん中だけ残して食べてた)
(ケチャップで描いたハートを残すように)
(なんか、可愛い)
.
《再会の逆転》御剣視点
『お帰りなさい』
彼女が私を見て最初に放った言葉。この一言で私はすべてを悟った。
彼女は、私の帰りを信じ待っていてくれたのだ。…何も言わずに消えた私を。
「…っ、ただいま」
声が詰まった。それは、私にあった後ろめたさがもたらしたものだった。
私は自分の答えを見つけて戻ってきた。それを、彼女も望んでいる。でも…その結果は彼女を待たせた。
『そっか。君は答えを見つけたんだね』
「今回は、御剣の協力なしで二人を救うことはできなかった…」
『そういうことか、…納得』
この事件の経緯を知り、彼女は小さく笑みをこぼした。
一年ぶりに見る笑顔は、以前と同じように優しかった。
「あの、みつるぎけんじさん!」
『…む?』
「愛しい方と再会して何か言うことはないのですか?」
彼女の期待するような瞳は"愛の言葉"とやらを望んでいるのだろうし、成歩堂の視線は"謝罪"を求めてるのだろう。
「う…ム」
『春美ちゃん、もう御剣君は私の聞きたい言葉は言ってくれたよ』
「え!ですが、"ただいま"としか…」
『うん、それが聞きたかった』
驚いた。皆がそんな顔をした。…私も含めて。
「雨月さんいいの?愛の言葉とか聞かなくて」
ニヤニヤとする真宵くんに、雨月はにこやかに頷いた。
『だって、"ただいま"ってことは御剣君が無事に帰ってきた証拠だし、私が帰る場所ってことだもの』
これで十分よ。
そういった彼女に、糸鋸刑事は頭を掻き、真宵くんは笑い、春美くんは照れ、成歩堂は複雑な顔をしていた。
「自分は帰るッス、これ以上ここにいても惚気を聞くだけみたいッスから」
「私達も終電だから帰ろっか」
「はいっ、大人の愛…しかと見させて頂きましたっ」
「じゃあ僕も帰ろうかな」
皆、ぞろぞろと病室を後にする。
"二度と泣かせるなよ"
成歩堂は小さく耳打ちして出ていった。
『…君の答え、聞かせてもらえる?』
「あ、あぁ。私は…」
"検事は有罪を得るために戦うもの、たが…それがすべてとは思わない。"
『うん、君らしいや』
にこりと笑った彼女を、思わず抱きしめた。
『怜…侍?』
彼女が過労で倒れたと、成歩堂に聞いた。細くなった体の線がその多忙さを物語っている。
「すまなかった…」
自分の都合で支え続けられなかったこと、何も言わずに行ったこと、待たせたこと、苦労をかけたこと。
全て。
『…もう』
背中に回される腕が華奢になっている。一年間、もしかしたら彼女は一人で戦ったのかもしれない。
「貴女の強さに甘えてしまった…貴女なら、信じて待っていてくれると…解ってくれると思った」
『信じてたよ。解ってたつもり。でもね…』
"少しだけ寂しかった"
くぐもった、鼻にかかった声が腕の中から聞こえた。
"二度と泣かせるな"…か。彼女は成歩堂に話したのだろう。
『成歩堂君たら余計な事言って…今顔見たら怒るからね』
鼻を啜る音を交え、肩を震わせる彼女。
いくら師とはいえ、一人の女性だ。と痛感する。
「雨月の怒った顔はみたことがないからな…是非拝見したいのだが」
『そんな事したらヒラヒラに鼻水つけちゃうから』
「それは…困るな」
頭をそっと撫でて抱きしめる力を強くする。
少しでも加減を間違えれば折れてしまいそうだ。
「ありがとう…愛してる」
はっと顔をあげた雨月は目が真っ赤で、潤んでいて。
『帰ってきてくれてありがとう、愛してる』
ああ。この笑顔は。
私に安堵と罪悪感を与える。
脆い彼女の心の強さに、ひた感銘を受けるしかない。
『明日の9時。迎えにきてくれるよね?』
「ム…」
『久しぶりに家に帰るんだもの、来てくれるでしょ?』
「勿論だ」
悪戯めいた笑顔にそっと唇をおとす。
…せめてもの償い。
彼女がそれで笑顔でいてくれるなら。
『さすが、時間ピッタリだね』
入院中の寝巻を着替え、諸々の荷物を持った彼女が病院のエントランスに立っていた。
「すまないな、道が混んでいて…もう少し早く来るつもりだったのだが」
『怜侍の事だからそういって早く来るんじゃないかと思って30分遅く伝えたんだけど、私の方が30分手間取っちゃった。だからいいの』
「…貴女を待たせる事は、もうしたくないのだよ」
手荷物を預かりながら答えれば、彼女は一瞬目を見開いてから微笑んだ。
「家に直行でよいのだろうか?」
『あれ、ドライブでも連れていってくれるの?』
「…病み上がりの人間を連れ回す訳にもいくまい。買い物などはいいのか?」
『なんだ、期待したのに…買い物は一旦帰ってからかな。まだ何が必要か解らないし』
「…ドライブは明日でよければ行こう。買い物も人手が必要なら手伝う」
多少口ごもりながら返事をすれば、クスクスと笑い声が聞こえて。
そうして貰おうかな、と続いた。
彼女の家についてみると、2ヶ月近く帰っていない割にとても片付いていた。
『真宵ちゃん達部屋も片してくれたんだ。冷蔵庫だけでいいって言ったのに』
どうやら、食材が傷むからと冷蔵庫の中身の処分を頼んだ際や、日用品を頼んだ時などに軽く掃除までしてくれていたらしい。
『…!…クスクス』
「どうしたのだ?」
『これ、見て』
冷蔵庫から取り出されたメモ。
"プリンごちそうさまでした!
真宵ちゃんがどうしてもって
なるほど君が食べていいって"
「……」
『なんだか絵が浮かぶよね』
「…まったくだな」
そんなこんなで家には食材がなかった為、結局買い物にいくことになった。
『今日はオムライス♪』
「いいのか?消化がよいものとかでなくとも」
『大丈夫だよー。久しぶりに好きなもの食べれるから嬉しい』
楽しそうに卵、鶏肉、ケチャップ。諸々の野菜やその他の食材を買った。
…………
…………………
『ごめんね、暫く作らなかったから腕落ちちゃった…』
「問題ない、その、味は美味い」
彼女の作ったオムライスはうまく包めず破けてしまった。二つ目は卵だけ焼いてチキンライスの上で開くものだったが、火が通り過ぎて上手くいかなかった。
しかし、サイドのサラダやスープまで味付けは全て美味しかった。
『ふふ、ありがとう』
「ム…」
買い物の後、夕食に招待してくれた彼女は病院で見るよりずっと生き生きとして見えた。
『ねぇ怜侍…次はいつ行ってしまうの?』
「…!」
私はまだ、アメリカへ行っていた事も行く事も伝えていなかった。
『やっぱり。どこか行くんだ』
「…今、アメリカで法廷について学んでいる。まだ、学びたい事があるのだ」
『アメリカかぁ…いいんじゃない?視野が広いに越したことはないよ』
「…その…出発は明後日の夜だ」
少し、雨月の動きが止まった。何か考えるようにしてから口を開いた。
『日本にいる時間は、私にくれる?』
「ああ…」
『じゃあ明日はデートでそのまま家に泊まってね』
「な、だが!」
『あ、今日も泊まってく?んー、でも寝巻とかないと不便だよね』
とんとんと話を進めていく彼女に圧倒される。
何か言おうとした瞬間、彼女の目が深い哀しみを帯びた。
『今日……一人になりたくない』
何も。
何も言えなかった。
「…車に積んである荷物をとって来よう、来た時のままだからな」
『!、ありがとっ』
子供の様なあどけない笑顔を見せる。
できることはしてやりたい。私のしたいこと、全て支えてくれる貴女に。
『怜侍、オムライス冷めちゃうよ?』
「う…ム」
『ふふ、また描いてあげるから遠慮なく食べてよ』
明日のドライブは水族館がいいか、植物園がいいか。
考えながらゆっくり卵にスプーンをいれた。
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(マナーがいい怜侍が、オムライスの真ん中だけ残して食べてた)
(ケチャップで描いたハートを残すように)
(なんか、可愛い)
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