赤の似合う君と
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10
《消失の逆転》※ヒロイン視点
御剣君が。消えた。
「あいつ、羽影さんにも話してなかったんですか…」
『うん、何も聞いてない…けど』
「けど?」
『なるほど君が考えているような理由でいなくなったんじゃないと思う』
法廷から、判決から逃げたんじゃない。
『きっと、自分の進む道を探しにいったんだと思う』
「……何も言わずにですか」
『…止められたくなかったんだよ、そして、切羽詰まってたんじゃないかな』
「だって、」
『なるほど君』
「…!」
『それ以上言わないで』
自分の思いに反して、涙が溢れる。
解ってる、解ってるんだ。
それ程彼が切羽詰まっている時、なるほど君は相談できる親友ではなかった。きっと、プライドが許さなかったんだろう。
それ程彼が苦しんでいる時、私は…頼れる先輩でもなければ救える恋人でもなかったのだ。
零れていく涙をそのままにしていれば、なるほど君がハンカチを差出してくれた。
「羽影さん…」
『御剣君には、私が泣いたこと内緒ね?』
「…解りました」
弱い先輩だなんて、おもわれたくないもの。
『それに、御剣君絶対に帰ってきてくれるよ。いつか、植物園にいく約束したから』
「…貴女は、強いですね」
『……強いんじゃないよ、そう思ってないとくじけそうなだけ…』
病院のベッドの横で小さく呟く。
『貴方が起きるまで私を支えてくれるって言ったのに…』
白くなってしまった、憧れの人の髪を撫でる。
『皆して私を待たせて置いていってしまうのね』
『やっぱり、私だって苦しいよ……』
.
※成歩堂視点
『あら、なるほど君。お疲れ様』
「お久しぶりです、羽影さん」
久しぶりに見かけた彼女は以前見たときよりも痩せていた。"痩せた"というより"やつれた"というべきだろう。
「最近、お忙しいんですか?」
『まあね、仕事が立て込んじゃって。冥ちゃんが来てくれてちょっと助かってる。君には迷惑かけててごめんね』
「はあ…今日の裁判見てたんですか?」
『うん。アクロさんの気持ちに感動しちゃった。君が真実を見つけてくれて何より』
「成歩堂龍一っ!!」
かっ、狩魔検事!!
バシッ!
「痛っ!!」
『冥ちゃん、ムチをしまいなさい』
「何よ!検事の癖に有罪も取らなければ弁護士に肩入れして!!」
何故か僕の方に振り下ろされたムチを、彼女は素手で受け止めた。
『…傷害罪で訴えられたいの?』
「っ!」
『その口が何の為に付いているか考えなさい。そして、そのムチは何を打つべきものなのかも』
ムチを振り払う彼女は、冷笑にも似た、不思議な顔をしていた。にしても…
(かっこいいなぁ…)
なんて思っていると、突き刺さるような言葉が飛んできた。
「貴女がそうやって砕いたのよ、御剣怜侍の心も、プライドもっ!!」
凍てついた自分の横で、彼女も無表情でいた。
「成歩堂龍一、アンタなんかに負けて、羽影雨月、貴女にほだされて!」
ムチを張ったまま睨みつける狩魔検事。僕はただ硬直していたのに。
『笑止』
そういって、彼女はニヤリと口角を上げた。
『狩魔冥、貴女は御剣君がそんなに弱い男だと思ってるの?彼は生きていると信じている貴女が』
「なんですって?実際怜侍はいなくなって『異議あり』っ…」
『そんな状況証拠で私を敗る事はできない』
今度こそ。確実に冷笑を浮かべて彼女は歩みだす。
『成歩堂君、冥ちゃん、良いお歳を』
背中を向けたまま、ヒラヒラと手を振って――――
「糸鋸刑事、羽影さんはっ!?」
「今検査してるッスが…安心するッス。命に別状はないらしいッスから」
「良かった…」
羽影さんが病院に搬送されたのは、そうやって別れてから一ヶ月後くらいだった。
「一体、どうしたんですか?」
「栄養失調と過労、睡眠不足で倒れたッス…しかも運悪く倒れた時に机の角に頭を打って…」
「この時代に栄養失調なんて…」
「自分が栄養剤を買いに行った直後だったッス…自分がもう少し早く気づいていれば…」
「糸鋸刑事のせいじゃないですよ」
ゼリーや栄養ドリンクが入ったコンビニの袋を恨めしげに見つめる。
こんな時に、一番心配しなくちゃいけないのはアイツのはずなのに。
「一気に3人も腕のある検事がいなくなって…重たい仕事が羽影検事に集中してたッスから…食べる暇も、寝る暇もなかったんスかね…」
「……アイツには、連絡つかないんですか?」
「御剣検事ッスか?…それが…羽影検事に止められてるッス」
「…!」
渡されたメモ。
走り書きされた、少しいびつな文字が並ぶ。
『私になにかあっても ミツルギ君には つたえないで』
倒れるほどボロボロになっていた体で綴った言葉。
彼女の意に反することはできなかった。
「気分はどうですか?」
『ん…何とか。早く法廷に帰りたいのに…』
「まだ口からご飯食べれないッスからねぇ。今までの分きっちり休んだらいいッス」
一週間眠り続けた羽影さんが目を覚ましたと聞いて、僕と糸鋸刑事と真宵ちゃんでお見舞いに来ていた。
『結構暇なんだよ?ぱっと目が覚めてもすることはないし、できることはないし…』
「そういう時はもう一回寝ちゃうとか。あ、私もナルホド君も暇だから呼出してもいいよっ」
「勝手に決めるなよ…でも、実際暇だから来ていいなら話し相手くらいにはなると思います」
「自分も…非番の時は来るッス」
『ありがとう…楽しみにしてるね』
それからほぼ毎日、短時間でも顔をだすようになった。僕がいけない日は、真宵ちゃんか、イトノコ刑事が。
そうこうしてまた一ヶ月近くたった。
『真宵ちゃん無事でよかった』
「ご心配をおかけしました…」
『流石なるほど君、ってところかな?』
「それは、それは!愛する真宵様の為に…//」
「もうっ、はみちゃん!!」
「自分もがんばったッス!」
『うん、お疲れ様です。怪我、早くよくなるといいですね』
「うッス!」
オートロの事件が終わって、春美ちゃんもつれて皆でお見舞いにきた。
すっかり顔色もよくなって、この前の話では退院まで僅かだとか。
『でも、冥ちゃんが君にそこまで協力するなんて』
「あっ、そのことなんだけどね」
「いい土産があるッス」
「きっと、よろこんで下さいます」
色めき立つ春美ちゃんと真宵ちゃんに首を傾げて僕に目を向ける。
「コイツのお陰でもあるんです。今回真実に辿りつけたのは……」
まさか。そんな顔をした彼女に背を向けてカーテンの後ろに声をかける。
「入って来いよ。…………御剣」
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