人外霧崎とわちゃわちゃ
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蛟龍の瀬戸と夏にわちゃわちゃ
※人外霧崎 瀬戸落ち独立ストーリー
今日は健太郎に会いに行こう。
そう思い立ったのは朝。庭の、白と紫の朝顔が咲いたから。
彼の白い鱗と紫色の瞳を思い出したら、無性に会いたくなった。
でも、手ぶらで行くのもな…夏で昼間は暑いし…などと考えて。
「…なんか、凄くいい匂いがする」
『コーヒーだよ。苦くて香ばしくて、ちょっと酸味のある飲み物。苦いのが苦手な人は牛乳とか砂糖を入れて飲むの』
「ふーん…綺麗な色だね」
『澄んだ黒だよね。透かすと琥珀みたいで』
夕方、夏の長い陽も落ちる頃。
アイスコーヒーを持って海辺へ出かけた。
今日はおにぎりじゃなくて、ポテサラとトマトのサンドイッチ。
受けとる健太郎は最初渋い顔をした。
夕方、狭間の時間は海に来ると良くないものが出るから駄目って言ってるのに、と。
『…ね、夕涼みも悪くないでしょ』
「それは結果論でしょ。俺がいない時だったら海坊主とか水子に連れてかれちゃうかもしれないんだから。妖混じりの自覚持って」
『健太郎がいない時なんてあるの?』
「稀にね…崎の反対とか、海の底とか。すぐ助けられないときもあるし、約束してない日に陽が落ちたら来ちゃ駄目、わかった?」
『はーい』
「…約束してね」
『…、うん』
切れ長の、紫色の瞳が力強く見つめている。
こんなに、慈しむような視線を向けられたことなんてなかったから。
素直に反省した。
心配されてる、大切にされてる、それが伝わってきて嬉しかったし。
「じゃあ反省もしたとこで早めの夕飯ね。サンドイッチ美味しそう」
『召し上がれ。私が畑で作った野菜だよ』
「それは一層楽しみ」
健太郎は涼しげに笑いながら、蛇よろしく舌舐めずりをした。
蝮が500年で蛟となるというのは本当かもしれない。
『…どう?』
「美味しいよ。見た目と期待通り」
『それは良かった』
期待以上、と言わないのが良い。
誇大表現じゃないのと、期待を上回るってある意味期待値低いってことだし。
「…食べ終わったら、約束通り背中に乗せてあげるね」
『いいの?』
「うん。ちょっと前に流行った歌で、夏は夜、月の頃はさらなり。闇もなほ、蛍の飛び違いたる。ってのがあって、夏は新月も趣深いらしいから。丁度いいでしょ?」
『…そうだね。蛍もいいし、陽が暮れて天の川が見えるのもいい』
こういう時、彼らとの時の流れの違いを感じる。
枕草子、清少納言が書いたその物語は、夏は明るい満月もいいし、新月の晩に蛍が儚く光るのも綺麗。というもの。
教科書で知るそれを、ちょっと前…と感じる彼と、大昔…と感じる私は、本当に同じ世界に生きているのだろうか。
「…なんか難しいこと考えてる?」
『あー、うん』
「止めなよ。考えるだけ無駄」
『…うん』
ポンポンと、子供の頭を撫でるように私の頭に手を乗せた彼は優しく笑う。
それから、食べ終わったサンドイッチのバスケットを、以前作った階段の上に置いた。
それと同時に、彼の体はキラキラと白く輝いて。大きくて綺麗な龍…蛟が現れる。
『…何度見ても綺麗ね』
「[#dn=2#]に言われると悪い気はしないね。さ、どうぞ」
彼の背中、首の辺りに跨がって角を握った。
それを確認したのか、彼は海面スレスレを泳ぐとも飛ぶとも言えない動きで進んでいく。
夜風が、海風が心地よい。
『凄い…海を飛んでる…』
「じゃあ、今度は天の川でも泳ぐ?」
『え?…うわ、あっ!?』
波のさざめきか急に遠退いた。
代わりに星空がぐんと近づいて。
天の川を泳ぐ…なんて、素敵な響き。
『本当に泳いでるみたい…綺麗…』
「喜んで貰えて良かった」
『…ありがとう、健太郎』
沿うように、彼の背中に体を倒して。
ひんやりとした鱗に頬を寄せる。
私が、蛍を儚いと思うように
彼は、私との時間を儚いと思うだろうか
私が、その儚さを愛しく思うように
彼は、私との時間を愛しく思うだろうか
「また難しいこと考えてる」
『だって、あんまり綺麗で、嬉しくて、幸せで…終りたくないって思っちゃう』
「案外ロマンチスト?」
『…そうかも』
薄く笑う彼は、ゆっくり飛びながら霧崎を見下ろす。
「君の為なら、何度だって海を飛ぶし空を泳ぐというのに」
『…健太郎の方がロマンチストでしょ』
「かもね。本当は、君を連れてこのまま、星になりたいくらいだ。龍とお姫様の星座なんて素敵だろ?」
そんなことができたら、どんなにいいか。
返事をしようと息を吸えば、吐き出すより先に健太郎が高度を下げる。
「でもね。君は地に根をおろし、可憐に咲き続ける花だ。君の生きる場所は海でも空でもない。ここなんだよ」
『…』
出発した砂浜に足を降ろして、人の体を成した彼が私を抱き寄せた。
海の匂いと星の光と、砂の感触。それから健太郎の声。
「だから、難しく考えないで。[#dn=2#]はここにいて、俺もここにいるんだからさ」
『…』
「儚いから愛しいんじゃないよ、愛しいから儚いんだ。永遠なんて何処にもないのに、愛しいからそこに永遠を求める。ね?」
『…うん』
「だから、この一瞬を楽しんで、喜んで、幸せだって笑ってよ。只でさえ儚い君なんだ、少しでも長く、多く、笑顔が見たい」
ああ、そうか。
そうだよね。
この瞬間がどうしようもなく儚くて苦しくて切ないのは、愛しいからだ。
そんな瞬く間に過ぎる時間の中で、彼に覚えていて欲しい私は、いつも悩んでる私じゃない。
『…ありがとう』
「どういたしまして」
『それから、大好き』
「うん。俺も」
私を、儚いと感じてくれた彼に。
私もきつく腕をまわして。
朝顔の花言葉に、儚い恋、があることを思い出していた。
(愛しくて大切だからこそ)
(この想いは儚い)
Fin.
※人外霧崎 瀬戸落ち独立ストーリー
今日は健太郎に会いに行こう。
そう思い立ったのは朝。庭の、白と紫の朝顔が咲いたから。
彼の白い鱗と紫色の瞳を思い出したら、無性に会いたくなった。
でも、手ぶらで行くのもな…夏で昼間は暑いし…などと考えて。
「…なんか、凄くいい匂いがする」
『コーヒーだよ。苦くて香ばしくて、ちょっと酸味のある飲み物。苦いのが苦手な人は牛乳とか砂糖を入れて飲むの』
「ふーん…綺麗な色だね」
『澄んだ黒だよね。透かすと琥珀みたいで』
夕方、夏の長い陽も落ちる頃。
アイスコーヒーを持って海辺へ出かけた。
今日はおにぎりじゃなくて、ポテサラとトマトのサンドイッチ。
受けとる健太郎は最初渋い顔をした。
夕方、狭間の時間は海に来ると良くないものが出るから駄目って言ってるのに、と。
『…ね、夕涼みも悪くないでしょ』
「それは結果論でしょ。俺がいない時だったら海坊主とか水子に連れてかれちゃうかもしれないんだから。妖混じりの自覚持って」
『健太郎がいない時なんてあるの?』
「稀にね…崎の反対とか、海の底とか。すぐ助けられないときもあるし、約束してない日に陽が落ちたら来ちゃ駄目、わかった?」
『はーい』
「…約束してね」
『…、うん』
切れ長の、紫色の瞳が力強く見つめている。
こんなに、慈しむような視線を向けられたことなんてなかったから。
素直に反省した。
心配されてる、大切にされてる、それが伝わってきて嬉しかったし。
「じゃあ反省もしたとこで早めの夕飯ね。サンドイッチ美味しそう」
『召し上がれ。私が畑で作った野菜だよ』
「それは一層楽しみ」
健太郎は涼しげに笑いながら、蛇よろしく舌舐めずりをした。
蝮が500年で蛟となるというのは本当かもしれない。
『…どう?』
「美味しいよ。見た目と期待通り」
『それは良かった』
期待以上、と言わないのが良い。
誇大表現じゃないのと、期待を上回るってある意味期待値低いってことだし。
「…食べ終わったら、約束通り背中に乗せてあげるね」
『いいの?』
「うん。ちょっと前に流行った歌で、夏は夜、月の頃はさらなり。闇もなほ、蛍の飛び違いたる。ってのがあって、夏は新月も趣深いらしいから。丁度いいでしょ?」
『…そうだね。蛍もいいし、陽が暮れて天の川が見えるのもいい』
こういう時、彼らとの時の流れの違いを感じる。
枕草子、清少納言が書いたその物語は、夏は明るい満月もいいし、新月の晩に蛍が儚く光るのも綺麗。というもの。
教科書で知るそれを、ちょっと前…と感じる彼と、大昔…と感じる私は、本当に同じ世界に生きているのだろうか。
「…なんか難しいこと考えてる?」
『あー、うん』
「止めなよ。考えるだけ無駄」
『…うん』
ポンポンと、子供の頭を撫でるように私の頭に手を乗せた彼は優しく笑う。
それから、食べ終わったサンドイッチのバスケットを、以前作った階段の上に置いた。
それと同時に、彼の体はキラキラと白く輝いて。大きくて綺麗な龍…蛟が現れる。
『…何度見ても綺麗ね』
「[#dn=2#]に言われると悪い気はしないね。さ、どうぞ」
彼の背中、首の辺りに跨がって角を握った。
それを確認したのか、彼は海面スレスレを泳ぐとも飛ぶとも言えない動きで進んでいく。
夜風が、海風が心地よい。
『凄い…海を飛んでる…』
「じゃあ、今度は天の川でも泳ぐ?」
『え?…うわ、あっ!?』
波のさざめきか急に遠退いた。
代わりに星空がぐんと近づいて。
天の川を泳ぐ…なんて、素敵な響き。
『本当に泳いでるみたい…綺麗…』
「喜んで貰えて良かった」
『…ありがとう、健太郎』
沿うように、彼の背中に体を倒して。
ひんやりとした鱗に頬を寄せる。
私が、蛍を儚いと思うように
彼は、私との時間を儚いと思うだろうか
私が、その儚さを愛しく思うように
彼は、私との時間を愛しく思うだろうか
「また難しいこと考えてる」
『だって、あんまり綺麗で、嬉しくて、幸せで…終りたくないって思っちゃう』
「案外ロマンチスト?」
『…そうかも』
薄く笑う彼は、ゆっくり飛びながら霧崎を見下ろす。
「君の為なら、何度だって海を飛ぶし空を泳ぐというのに」
『…健太郎の方がロマンチストでしょ』
「かもね。本当は、君を連れてこのまま、星になりたいくらいだ。龍とお姫様の星座なんて素敵だろ?」
そんなことができたら、どんなにいいか。
返事をしようと息を吸えば、吐き出すより先に健太郎が高度を下げる。
「でもね。君は地に根をおろし、可憐に咲き続ける花だ。君の生きる場所は海でも空でもない。ここなんだよ」
『…』
出発した砂浜に足を降ろして、人の体を成した彼が私を抱き寄せた。
海の匂いと星の光と、砂の感触。それから健太郎の声。
「だから、難しく考えないで。[#dn=2#]はここにいて、俺もここにいるんだからさ」
『…』
「儚いから愛しいんじゃないよ、愛しいから儚いんだ。永遠なんて何処にもないのに、愛しいからそこに永遠を求める。ね?」
『…うん』
「だから、この一瞬を楽しんで、喜んで、幸せだって笑ってよ。只でさえ儚い君なんだ、少しでも長く、多く、笑顔が見たい」
ああ、そうか。
そうだよね。
この瞬間がどうしようもなく儚くて苦しくて切ないのは、愛しいからだ。
そんな瞬く間に過ぎる時間の中で、彼に覚えていて欲しい私は、いつも悩んでる私じゃない。
『…ありがとう』
「どういたしまして」
『それから、大好き』
「うん。俺も」
私を、儚いと感じてくれた彼に。
私もきつく腕をまわして。
朝顔の花言葉に、儚い恋、があることを思い出していた。
(愛しくて大切だからこそ)
(この想いは儚い)
Fin.