人外霧崎とわちゃわちゃ
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一つ目の原と梅雨にわちゃわちゃ
※人外霧崎 原落ち独立ストーリー
ジトジトした湿った空気が充満する季節。
シトシトと細かな雨糸が窓の外に見える。
ラジオの天気予報によれば、晴れ間はまだ遠いらしい。
「[#dn=2#]ー、ドライヤー貸してー」
そんなノイズ混じりのラジオと、穏やかな雨音の合間に。間延びした声が玄関から聞こえて来た。
『一哉?どうしたの』
「髪の毛が、さ?」
『…うん、いらっしゃい』
そこに立っていたのは、厚めの前髪と、少し癖毛な後ろ髪が湿気でボリューミーなことになってる一哉。
薄紫の綿飴みたいだ。
「…綿飴は酷くない?」
『美味しそうで可愛いよ。コットンキャンディー』
「だから可愛いも嬉しくない」
ぷくっと頬を膨らませた彼を笑い、リビングの座布団に座らせる。
『はい、ドライヤー。あと鏡とブラシ』
「ありがとー。本当人間の道具って便利」
一哉はそれらを机に並べて髪を弄り始めた。
私は、それを横目にお茶を2ついれて。
ドライヤーの風の音を聞きながら窓の外を見やる。
雨は相変わらずシトシトと降り続いて、霧雨に庭先の紫陽花霞んで見えるのも趣深い。
「…なに見てんの?」
『紫陽花。咲いてるうちに何度も色を変える花って言うのも珍しいし、色が変わっても紫陽花は紫陽花って言うのもいい』
「わかる、俺もアジサイは好き。でも梅雨はヤダ」
『そうなの?』
「ジメジメしてんの嫌いだし、カエルとかカタツムリも無理。アジサイが梅雨以外に咲けばいいのにって思うくらい」
『蛙も蝸も可愛いと思うけどね。ジメジメしてるけど、雨の音も土の匂いもいいものだと思う』
「可愛くは無くね?」
髪の毛を落ち着かせた一哉は、毛先を弄りながら窓の外を見る。
『そうかな?…前から思ってたんだけど、その髪は染めてるの?』
「え?ああ、うん、染めてるよん。なんで?」
『アジサイみたいな色だなって』
「ああ、まあね。そうかも。ちょくちょく色変えるし…ピンクとか、青とか金とか色々」
その、ふわふわとした、綺麗な綿飴みたいな髪に。移ろう、華やぐ色を浮かべて見つめた。
『また、変えるの?』
「どうかな。次は銀とかメッシュとかやってみたいけど、予定はない」
『なら、暫くそのままがいいな』
私は、この優しい紫が好きだ。
最初はファンキーで少し怖いとも思ったけど…気高くて不思議な力を持つと言われる紫が、親しみやすいとすら思える色合いでここにある。
ふわふわとした一哉の髪質ともあっていると思うし。
やっぱり綿飴みたいで可愛い。
「だーかーら、可愛いは嬉しくないし、綿飴も嫌だ」
『ごめんね。悪気はないの、可愛いってのも、馬鹿にしてるんじゃなくて…ああ、好きって意味。好きよ、その色。綿飴も、私が綿飴好きだからつい』
「……そんなに好き?この色」
『うん。よく似合ってるし、綺麗、可愛い、好き』
「……なら、[#dn=2#]が飽きるまでこの色にしてる」
口角を弛めて、照れ臭そうに、嬉しそうに彼は笑う。
やっぱりそれを、私は可愛いと思うのだけど。彼は"可愛い"が嫌いなようだし、どうしたものか。
「…ねー、その可愛いもさ、好きって意味なの?」
『え?…、そうだね、好き。笑ってる一哉が好きだし、私の為に色を変えないでいてくれる一哉が好き』
「……」
『一哉?』
質問してきたのに、答えたら黙られた。
変なこと言っただろうか。
「もうさー…本当無神経無頓着」
『え、』
溜め息を吐きながら、一哉は自ら前髪を上げて、綺麗なひとつ目を晒す。
星空みたいにキラキラして、思わず魅入ってしまった。
「[#dn=2#]、可愛いよ」
『……』
そんな私に、彼は、聞いたことのない、真っ直ぐな声でそう言った。
可愛いは、好きと同義だ、と、言った私に。
ああ、そうか、私が先に。
一哉が好き、と言ってしまったんだ。
…2回も。
だから無神経無頓着なんて言われたんだな、無自覚だったから。
なら、これは返事をしてくれたのだろうか。
目を見られるのが、目を合わせるのが苦手な彼が。ちゃんと、私の目を見て。
『……っ、ありがとう…』
「あー、ねぇ、泣かないで?どんな[#dn=2#]も好きけど、笑ってる時が一番好きなんだから」
彼は、いつかの私みたいに、私の頬を両手で包んで目を覗き込んだ。
その手の温かさに、言葉の重みに、また胸が締め付けられて涙が溢れる。
こんなにも、誰かに想われるとは幸せなことだったのか。
こんなにも、誰かを想うとは温かな感情だったのか。
『…一哉、好きだよ。可愛くなくても好き、髪の色が変わっても好き、きっと、ずっと好き』
「……ありがと。俺も、[#dn=2#]のコト、大好きだよ。おばあちゃんになっても好き、きっと、ずっと」
まあ、おばあちゃんになっても可愛いだろうけど。
なんて、一哉は額をくっつけて笑う。
『お願い、紫陽花は好きだけど、あの花の色みたいに…気持ちは移ろっていかないでね』
「…、だから、ずっと好きって言ってるじゃん」
降りしきる雨の音と、ノイズ混じりのラジオをBGMに。
私達は額を合わせたまま、穏やかに梅雨明けを待っていた。
(花の色は 移りにけりな いたずらに)
(けれどこの想いは)
(移ろうことも 褪せることもない)
fin
※人外霧崎 原落ち独立ストーリー
ジトジトした湿った空気が充満する季節。
シトシトと細かな雨糸が窓の外に見える。
ラジオの天気予報によれば、晴れ間はまだ遠いらしい。
「[#dn=2#]ー、ドライヤー貸してー」
そんなノイズ混じりのラジオと、穏やかな雨音の合間に。間延びした声が玄関から聞こえて来た。
『一哉?どうしたの』
「髪の毛が、さ?」
『…うん、いらっしゃい』
そこに立っていたのは、厚めの前髪と、少し癖毛な後ろ髪が湿気でボリューミーなことになってる一哉。
薄紫の綿飴みたいだ。
「…綿飴は酷くない?」
『美味しそうで可愛いよ。コットンキャンディー』
「だから可愛いも嬉しくない」
ぷくっと頬を膨らませた彼を笑い、リビングの座布団に座らせる。
『はい、ドライヤー。あと鏡とブラシ』
「ありがとー。本当人間の道具って便利」
一哉はそれらを机に並べて髪を弄り始めた。
私は、それを横目にお茶を2ついれて。
ドライヤーの風の音を聞きながら窓の外を見やる。
雨は相変わらずシトシトと降り続いて、霧雨に庭先の紫陽花霞んで見えるのも趣深い。
「…なに見てんの?」
『紫陽花。咲いてるうちに何度も色を変える花って言うのも珍しいし、色が変わっても紫陽花は紫陽花って言うのもいい』
「わかる、俺もアジサイは好き。でも梅雨はヤダ」
『そうなの?』
「ジメジメしてんの嫌いだし、カエルとかカタツムリも無理。アジサイが梅雨以外に咲けばいいのにって思うくらい」
『蛙も蝸も可愛いと思うけどね。ジメジメしてるけど、雨の音も土の匂いもいいものだと思う』
「可愛くは無くね?」
髪の毛を落ち着かせた一哉は、毛先を弄りながら窓の外を見る。
『そうかな?…前から思ってたんだけど、その髪は染めてるの?』
「え?ああ、うん、染めてるよん。なんで?」
『アジサイみたいな色だなって』
「ああ、まあね。そうかも。ちょくちょく色変えるし…ピンクとか、青とか金とか色々」
その、ふわふわとした、綺麗な綿飴みたいな髪に。移ろう、華やぐ色を浮かべて見つめた。
『また、変えるの?』
「どうかな。次は銀とかメッシュとかやってみたいけど、予定はない」
『なら、暫くそのままがいいな』
私は、この優しい紫が好きだ。
最初はファンキーで少し怖いとも思ったけど…気高くて不思議な力を持つと言われる紫が、親しみやすいとすら思える色合いでここにある。
ふわふわとした一哉の髪質ともあっていると思うし。
やっぱり綿飴みたいで可愛い。
「だーかーら、可愛いは嬉しくないし、綿飴も嫌だ」
『ごめんね。悪気はないの、可愛いってのも、馬鹿にしてるんじゃなくて…ああ、好きって意味。好きよ、その色。綿飴も、私が綿飴好きだからつい』
「……そんなに好き?この色」
『うん。よく似合ってるし、綺麗、可愛い、好き』
「……なら、[#dn=2#]が飽きるまでこの色にしてる」
口角を弛めて、照れ臭そうに、嬉しそうに彼は笑う。
やっぱりそれを、私は可愛いと思うのだけど。彼は"可愛い"が嫌いなようだし、どうしたものか。
「…ねー、その可愛いもさ、好きって意味なの?」
『え?…、そうだね、好き。笑ってる一哉が好きだし、私の為に色を変えないでいてくれる一哉が好き』
「……」
『一哉?』
質問してきたのに、答えたら黙られた。
変なこと言っただろうか。
「もうさー…本当無神経無頓着」
『え、』
溜め息を吐きながら、一哉は自ら前髪を上げて、綺麗なひとつ目を晒す。
星空みたいにキラキラして、思わず魅入ってしまった。
「[#dn=2#]、可愛いよ」
『……』
そんな私に、彼は、聞いたことのない、真っ直ぐな声でそう言った。
可愛いは、好きと同義だ、と、言った私に。
ああ、そうか、私が先に。
一哉が好き、と言ってしまったんだ。
…2回も。
だから無神経無頓着なんて言われたんだな、無自覚だったから。
なら、これは返事をしてくれたのだろうか。
目を見られるのが、目を合わせるのが苦手な彼が。ちゃんと、私の目を見て。
『……っ、ありがとう…』
「あー、ねぇ、泣かないで?どんな[#dn=2#]も好きけど、笑ってる時が一番好きなんだから」
彼は、いつかの私みたいに、私の頬を両手で包んで目を覗き込んだ。
その手の温かさに、言葉の重みに、また胸が締め付けられて涙が溢れる。
こんなにも、誰かに想われるとは幸せなことだったのか。
こんなにも、誰かを想うとは温かな感情だったのか。
『…一哉、好きだよ。可愛くなくても好き、髪の色が変わっても好き、きっと、ずっと好き』
「……ありがと。俺も、[#dn=2#]のコト、大好きだよ。おばあちゃんになっても好き、きっと、ずっと」
まあ、おばあちゃんになっても可愛いだろうけど。
なんて、一哉は額をくっつけて笑う。
『お願い、紫陽花は好きだけど、あの花の色みたいに…気持ちは移ろっていかないでね』
「…、だから、ずっと好きって言ってるじゃん」
降りしきる雨の音と、ノイズ混じりのラジオをBGMに。
私達は額を合わせたまま、穏やかに梅雨明けを待っていた。
(花の色は 移りにけりな いたずらに)
(けれどこの想いは)
(移ろうことも 褪せることもない)
fin