人外霧崎とわちゃわちゃ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
絡新婦の花宮とわちゃわちゃ
今日もまた霧が出ている。
いや、もう何に出会っても驚かないな。
東西南北の主と、門番であろう松。
この調子なら統括してる大主みたいなのもいるんじゃなかろうか。
なんて、思ってみるものだ。
『君も、霧崎の主?』
玄関先に黒と濃緑の横縞模様に、紅色の花が一輪施された蜘蛛がぶら下がっている。
珍しい模様なうえに、手の平ほどある大きさ。
ただの蜘蛛ではないだろう。
『今夜は冷えるから、良ければ入って』
鍵を開けた玄関を開きっぱなしにすれば、その蜘蛛は壁を伝い家に入った。
それを見届けて鍵を閉め、改めて家の中を振り返る。
「変わり者だとは聞いてたが、予想以上だな」
そこには、いつの間にか黒髪で平安っぽい眉をした少年が着物姿で立っていた。
少年、と形容したが背は高いし、賢そうな出で立ちでもある。
濃緑と黒を地にした蜘蛛の巣模様の着物からして、先程の蜘蛛か。
『綺麗な着物ね』
「人の話を聞けよ」
『ああ、ごめん。変わり者っていう自覚はあるよ。で?君も霧崎の主?』
「さっきも聞いたぞ。"も"じゃなくて俺が霧崎の主だ。あいつらは各々の方角を根城にしてるから任せてるだけ。まあ、松を含めて世話になったみたいだから顔出しに来た」
『そうなんだ』
「……そんだけか」
特徴的な眉をしかめて睨まれた意味がよく解らず、とりあえずの疑問を投げ掛ける。
『君はなんて名前なの?区分は何?』
それも期待外れの言葉だったらしく、しかめた顔はそのまま。でも、ちゃんと答えてくれた。
「花宮真。絡新婦だ」
『ジョロウグモ?…女の子なの?』
「男だ。お前らがその名前で呼ぶからそう名乗ってるだけで、化け蜘蛛だとでも思えばいい」
『なるほどね。ふふ、こんな綺麗な蜘蛛もいるんだ』
合点がいって微笑んだ私に、彼、真は目を丸くすると、今度は可笑しそうに目を細めた。
「俺が綺麗?笑わせるな」
言うや、彼は体を変化させる。上半身はそのままに、下半身は大蜘蛛となった。
その柄は先程みた蜘蛛同様、濃緑と黒の縞に一輪の赤い花。
『…うん?綺麗だよ?』
カサカサと音を立てる長い8本の脚。
私の身長程はあるそれは、以外とモフモフしていて。細くて細やかで柔らかな毛がびっしり生えている。
本体も乗れるんじゃないかと思う大きさに、虫特有の艶やかさを持っていて、これはこれで綺麗だ。なんだろ、鎧とかマントとかを連想させるというか。
「………、怖がらねぇのな」
「怖くはないもの」
さっきの感想はすべて口に出ていて。
真は呆れたように笑うと、また人の姿に戻った。
「ふはっ、あいつらが気に入るわけだ」
『あ、気に入られてたんだ』
まあ、玄関もなんだしあがりなよ。
なんて居間に通してコーヒーを出せば。
真はなんの遠慮もなく口をつけた。
「ああ。ま、幸か不幸かは知らないが」
『不幸ではないかなぁ、私も彼らは好きだもの。似た者同士って寄り合うのね』
「類は友を呼ぶってな」
『本当に。あ、真は?』
「は?」
『私、気に入った?』
「まあ、悪くはないな」
隣に座って、私もコーヒーをすする。
真は値踏みでもするように私を見ると、口角を僅かに上げて嗤うように返事をした。
『私は真、気に入った』
「そりゃどうも」
『なんでだろね?人と関わるの苦手だし、人に好かれるとか嫌われるとかどうでもよかったのに。君達と話すのは楽しいし、君達に嫌われたくないし、君達は好きだと思う。…ふふ、変なの』
「…普通だろ。気の合う奴がいたら手放したいとは思わないだろうよ。そういう相手がいなかっただけだ、たまたま…な」
『そうかな?ふふ、真って優しいね』
「…言ってろ」
真は意地悪な口調をするくせに、結構優しかった。
彼らをまとめる主だけあって、賢い。欲しい言葉も、どこまでは相手が耐えられる言葉なのかも、選ぶのが上手いのだ。
それが、同類と判断された者にしか発揮されないのかもしれないが。
『…ねえ、真ならこれ、わかる?』
その賢さと主という肩書きに期待して、彼に背中をむける。
そして、そのままシャツを脱いだ。
「……これ」
『生まれた時からあるの。でもね、私の成長に合わせて大きくなってるんだよ』
私の背中には、生まれつき痣がある。
火傷の痕のように赤いそれは、まるで椿のような形をしていて。
いつも両の肩甲骨の下辺りに、大きく一輪咲いていた。
「…まさかとは思ったが、納得したわ」
『…え?』
「お前、妖混じりだ」
『なに、それ』
「人間の体だが、妖の部分を持ってる…が簡単な説明だな」
まくりあげたシャツをもどし、彼を見れば。愉しげに笑っていた。
「裏庭に椿があったんだ。もう随分と古くて、あの樹が霧崎の主だった。だが、それもついに枯れてしまった。…まさかお前の背中にも宿ってるとは思わなかったわ」
では、この痣は。
椿が最後の力を振り絞って、枯れない花を咲かせたということか。
『へぇ……ん?待って、"お前にも"って言った?』
「俺の背中にもあっただろ、あれもその椿だ。冬とか雨の時はそいつの花の中とか葉の裏に匿ってもらってな、代わりに害虫を食ってやってた契約の名残だ」
『……それで、花宮って言うんだね』
その、力の強さに吃驚した。
そして、結び付きの強さにも。
私は結局、椿に導かれて霧崎に来たのかもしれない。
「まあ、悪いものじゃねえよ。その椿はどの花より綺麗な花だ。ああ、別にお前を椿の生まれ変わりだとかと思うつもりはない。そうだったとしても、あいつには自我とか意思はなかったし、お前はお前だ」
『…じゃあ、改めて。椿雨月っていうの、よろしくね』
「ふはっ、苗字が椿かよ。よろしくな」
なんだか、とっても今更な自己紹介をして。可笑しくてずっと笑ってた。
誰かと関わるのがこんなに楽しいのは初めてで、変わり者と言われ続けた私が普通であることも初めてで。
『真、ご飯食べてって?私これから夕飯なんだ』
「いいのか?」
ついつい彼を長居させてしまった。
ご飯の後もずっと話していて、いつの間にか寝てしまったらしい。
体にはタオルケットがかけてくれてあって、玄関の鍵は締まってるのに、開けたこともない高い小窓の鍵は空いている。
『真、やっぱり優しいんだね』
多分、彼は次に来る時、あの窓から入ってくるんだろう。
(おばあちゃん、霧崎っていいとこだね)
fin
今日もまた霧が出ている。
いや、もう何に出会っても驚かないな。
東西南北の主と、門番であろう松。
この調子なら統括してる大主みたいなのもいるんじゃなかろうか。
なんて、思ってみるものだ。
『君も、霧崎の主?』
玄関先に黒と濃緑の横縞模様に、紅色の花が一輪施された蜘蛛がぶら下がっている。
珍しい模様なうえに、手の平ほどある大きさ。
ただの蜘蛛ではないだろう。
『今夜は冷えるから、良ければ入って』
鍵を開けた玄関を開きっぱなしにすれば、その蜘蛛は壁を伝い家に入った。
それを見届けて鍵を閉め、改めて家の中を振り返る。
「変わり者だとは聞いてたが、予想以上だな」
そこには、いつの間にか黒髪で平安っぽい眉をした少年が着物姿で立っていた。
少年、と形容したが背は高いし、賢そうな出で立ちでもある。
濃緑と黒を地にした蜘蛛の巣模様の着物からして、先程の蜘蛛か。
『綺麗な着物ね』
「人の話を聞けよ」
『ああ、ごめん。変わり者っていう自覚はあるよ。で?君も霧崎の主?』
「さっきも聞いたぞ。"も"じゃなくて俺が霧崎の主だ。あいつらは各々の方角を根城にしてるから任せてるだけ。まあ、松を含めて世話になったみたいだから顔出しに来た」
『そうなんだ』
「……そんだけか」
特徴的な眉をしかめて睨まれた意味がよく解らず、とりあえずの疑問を投げ掛ける。
『君はなんて名前なの?区分は何?』
それも期待外れの言葉だったらしく、しかめた顔はそのまま。でも、ちゃんと答えてくれた。
「花宮真。絡新婦だ」
『ジョロウグモ?…女の子なの?』
「男だ。お前らがその名前で呼ぶからそう名乗ってるだけで、化け蜘蛛だとでも思えばいい」
『なるほどね。ふふ、こんな綺麗な蜘蛛もいるんだ』
合点がいって微笑んだ私に、彼、真は目を丸くすると、今度は可笑しそうに目を細めた。
「俺が綺麗?笑わせるな」
言うや、彼は体を変化させる。上半身はそのままに、下半身は大蜘蛛となった。
その柄は先程みた蜘蛛同様、濃緑と黒の縞に一輪の赤い花。
『…うん?綺麗だよ?』
カサカサと音を立てる長い8本の脚。
私の身長程はあるそれは、以外とモフモフしていて。細くて細やかで柔らかな毛がびっしり生えている。
本体も乗れるんじゃないかと思う大きさに、虫特有の艶やかさを持っていて、これはこれで綺麗だ。なんだろ、鎧とかマントとかを連想させるというか。
「………、怖がらねぇのな」
「怖くはないもの」
さっきの感想はすべて口に出ていて。
真は呆れたように笑うと、また人の姿に戻った。
「ふはっ、あいつらが気に入るわけだ」
『あ、気に入られてたんだ』
まあ、玄関もなんだしあがりなよ。
なんて居間に通してコーヒーを出せば。
真はなんの遠慮もなく口をつけた。
「ああ。ま、幸か不幸かは知らないが」
『不幸ではないかなぁ、私も彼らは好きだもの。似た者同士って寄り合うのね』
「類は友を呼ぶってな」
『本当に。あ、真は?』
「は?」
『私、気に入った?』
「まあ、悪くはないな」
隣に座って、私もコーヒーをすする。
真は値踏みでもするように私を見ると、口角を僅かに上げて嗤うように返事をした。
『私は真、気に入った』
「そりゃどうも」
『なんでだろね?人と関わるの苦手だし、人に好かれるとか嫌われるとかどうでもよかったのに。君達と話すのは楽しいし、君達に嫌われたくないし、君達は好きだと思う。…ふふ、変なの』
「…普通だろ。気の合う奴がいたら手放したいとは思わないだろうよ。そういう相手がいなかっただけだ、たまたま…な」
『そうかな?ふふ、真って優しいね』
「…言ってろ」
真は意地悪な口調をするくせに、結構優しかった。
彼らをまとめる主だけあって、賢い。欲しい言葉も、どこまでは相手が耐えられる言葉なのかも、選ぶのが上手いのだ。
それが、同類と判断された者にしか発揮されないのかもしれないが。
『…ねえ、真ならこれ、わかる?』
その賢さと主という肩書きに期待して、彼に背中をむける。
そして、そのままシャツを脱いだ。
「……これ」
『生まれた時からあるの。でもね、私の成長に合わせて大きくなってるんだよ』
私の背中には、生まれつき痣がある。
火傷の痕のように赤いそれは、まるで椿のような形をしていて。
いつも両の肩甲骨の下辺りに、大きく一輪咲いていた。
「…まさかとは思ったが、納得したわ」
『…え?』
「お前、妖混じりだ」
『なに、それ』
「人間の体だが、妖の部分を持ってる…が簡単な説明だな」
まくりあげたシャツをもどし、彼を見れば。愉しげに笑っていた。
「裏庭に椿があったんだ。もう随分と古くて、あの樹が霧崎の主だった。だが、それもついに枯れてしまった。…まさかお前の背中にも宿ってるとは思わなかったわ」
では、この痣は。
椿が最後の力を振り絞って、枯れない花を咲かせたということか。
『へぇ……ん?待って、"お前にも"って言った?』
「俺の背中にもあっただろ、あれもその椿だ。冬とか雨の時はそいつの花の中とか葉の裏に匿ってもらってな、代わりに害虫を食ってやってた契約の名残だ」
『……それで、花宮って言うんだね』
その、力の強さに吃驚した。
そして、結び付きの強さにも。
私は結局、椿に導かれて霧崎に来たのかもしれない。
「まあ、悪いものじゃねえよ。その椿はどの花より綺麗な花だ。ああ、別にお前を椿の生まれ変わりだとかと思うつもりはない。そうだったとしても、あいつには自我とか意思はなかったし、お前はお前だ」
『…じゃあ、改めて。椿雨月っていうの、よろしくね』
「ふはっ、苗字が椿かよ。よろしくな」
なんだか、とっても今更な自己紹介をして。可笑しくてずっと笑ってた。
誰かと関わるのがこんなに楽しいのは初めてで、変わり者と言われ続けた私が普通であることも初めてで。
『真、ご飯食べてって?私これから夕飯なんだ』
「いいのか?」
ついつい彼を長居させてしまった。
ご飯の後もずっと話していて、いつの間にか寝てしまったらしい。
体にはタオルケットがかけてくれてあって、玄関の鍵は締まってるのに、開けたこともない高い小窓の鍵は空いている。
『真、やっぱり優しいんだね』
多分、彼は次に来る時、あの窓から入ってくるんだろう。
(おばあちゃん、霧崎っていいとこだね)
fin