人外霧崎とわちゃわちゃ
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蛟龍の瀬戸とわちゃわちゃ
霧崎は崎、と付くだけあって海に面している。小高くなってる地形なので殆ど崖なのだが、高低差が緩やかで磯や浜に下りられる場所がないわけではない。
その、浜に下りられる場所へ階段を作り始めたのは最近。
以前からそこで貝や海草を拾ってはいたのだが、荷物を持って登るには少々高い段差だったから。
祖父母が家に残していた木材や工具で少しずつ作り進めている。
今日も、工具とバケツを持って浜へとやって来た。
階段は粗方出来上がったので、今回は前回忘れた防腐剤の塗布と固定。
あわよくば、海の幸も頂戴したい心づもりだ。
『今日もお邪魔します』
浜を端へ歩くと足場は磯になって、崖は先程より高くなる。その崖を掘るようにしてある祠に手を合わせた。
貝とか貰ってるし、主がいるなら挨拶しようと、お菓子とかおにぎりを来る度に置いているのだ。
毎回それらは無くなっているから、きっと鳥とか獣が食べてくれてるんだろう。
磯の貝や蟹を拾いながら浜に戻り、防腐剤を塗ろうと工具を広げる。
そこへ、背後から足音が聞こえた。
振り返れば、背の高い男性がこちらを見ている。
「あー…やっぱり君か。この階段作ったの」
『あ、はい』
その手に、先程祠に置いたおにぎりが握られているのを見て驚いた。
私は祠とここの往復で人に会ってないし、祠より先の磯は常に波がかかっていて足場が悪い。更に、見通せないほど向こうなど高波が打ち付ける場所だ。崖も数メートルなんて高さじゃない。
そんな状況で、これっぽっちも濡れずにあのおにぎりを持っているのだ。
これは、人…ではない。
「こういうの作るときはね、お互いに悪いものを運ばないように呪いをかけなきゃいけないんだ。ちょっと退いて?」
そう言うなり、彼は階段の前にしゃがんで手をかざすと、ゆっくり息を吹いた。
一瞬、階段に六角形の鱗みたいな模様が浮かんで消える。
それをじっと見ていれば、その男は階段に気だるげに座り込み、徐におにぎりを食べ始めた。
『防腐剤塗りたかったんだけど』
「要らないよ。俺の加護があれば100年は壊れない」
『もしかして』
「神ではないな。妖怪…よりは格が上がった気がするけど。他のにも会ってるし驚かないみたいだね」
『うん。全然』
「俺はこの辺…北の海を根城にする蛟竜だ。いつも祠に飯置いてくれてありがとう」
瀬戸健太郎、と名乗る彼はやはり人ではなくて。一哉や弘も知っているようだった。
『健太郎が食べてくれてたんだ』
「まあね。人が食べるものなんて珍しいし久しぶりだったから。美味しかったよ、おかかのおにぎり」
『美味しいよね、あれ。そっか、健太郎が食べてくれるなら他のも作るよ。肉とか油を使うのは、鳥とか魚にどうなんだろうと思ってやめてたんだ』
隣の崖に寄りかかって話せば、健太郎は眠そうな顔のわりに話が早かった。
質問する前に聞きたいことを話してくれて、なんとも楽。
『私もありがとね、貝とか海草、美味しく食べてる』
「たまに人間が食べれないのもあるから気をつけてね」
『うん、ちゃんと調べてるよ。知らないのは手を出さないし』
いや、眠そうというか眠いんだろうな。
相槌の合間にふわぁっと欠伸をする。
ただ、その欠伸の瞬間、首筋に鱗が現れるのが綺麗で見入ってしまった。
「俺は美味しくないからね」
『そんなこと思ってない』
「うん。知ってた」
『綺麗ね。硝子みたいにキラキラしてる』
「見たい?」
人間の皮膚に戻った首を眺めていれば、健太郎は小さく舌舐めずりをして。
私がこくりと頷いたのを見る前に、その姿を変えていく。
蛟竜。
体はそんなに大きくない、10メートルくらい。
けれど、光り輝く鱗は不思議な色合いだった。
透明か白なのに、光の反射でピンクや黄色、水色や緑も見える。
それに、鋭い牙と爪。美しい角に深い紫色の瞳。
額にあったホクロは、瞳と同じ紫色の白毫になっていた。
『…綺麗。ミズチってことは、泳ぐの?』
「まあね。飛ぶより泳ぐ方が得意」
『ずっとこの大きさ?』
「まさか。本当の大きさで体現したら疲れるし、大変だよ?崎を一周するくらいはあるからね」
『うわ、凄い』
頭の中に響くように会話をする。
見た目は竜だから、それなりに迫力もあるし、畏敬を感じるけれど。
やっぱり眠そうな、優しい眼差しを見ているとそんなことはどうでも良くなってしまう。
『…ねぇ、今度乗ってもいい?』
「条件は逆鱗に触らないこと、見返りはご飯」
『任せて。おにぎりもサンドイッチも作ってくる』
そう言うと、朗らかに笑って。
楽しみにしてる。と、海に溶けるように消えていった。
(霧崎って、龍まで住んでるのね)
家に帰ってサンドイッチやおにぎりの具を考えよう。
そう思って持ってきたバケツを見れば。
『うわ、さすが』
知らぬ間に山のような貝や蟹、私では捕まえられないような魚が大量に入っていた。
(おにぎりだけじゃなくて、お弁当作ってこよう)
妖怪より確かに格上かもしれない。
fin
霧崎は崎、と付くだけあって海に面している。小高くなってる地形なので殆ど崖なのだが、高低差が緩やかで磯や浜に下りられる場所がないわけではない。
その、浜に下りられる場所へ階段を作り始めたのは最近。
以前からそこで貝や海草を拾ってはいたのだが、荷物を持って登るには少々高い段差だったから。
祖父母が家に残していた木材や工具で少しずつ作り進めている。
今日も、工具とバケツを持って浜へとやって来た。
階段は粗方出来上がったので、今回は前回忘れた防腐剤の塗布と固定。
あわよくば、海の幸も頂戴したい心づもりだ。
『今日もお邪魔します』
浜を端へ歩くと足場は磯になって、崖は先程より高くなる。その崖を掘るようにしてある祠に手を合わせた。
貝とか貰ってるし、主がいるなら挨拶しようと、お菓子とかおにぎりを来る度に置いているのだ。
毎回それらは無くなっているから、きっと鳥とか獣が食べてくれてるんだろう。
磯の貝や蟹を拾いながら浜に戻り、防腐剤を塗ろうと工具を広げる。
そこへ、背後から足音が聞こえた。
振り返れば、背の高い男性がこちらを見ている。
「あー…やっぱり君か。この階段作ったの」
『あ、はい』
その手に、先程祠に置いたおにぎりが握られているのを見て驚いた。
私は祠とここの往復で人に会ってないし、祠より先の磯は常に波がかかっていて足場が悪い。更に、見通せないほど向こうなど高波が打ち付ける場所だ。崖も数メートルなんて高さじゃない。
そんな状況で、これっぽっちも濡れずにあのおにぎりを持っているのだ。
これは、人…ではない。
「こういうの作るときはね、お互いに悪いものを運ばないように呪いをかけなきゃいけないんだ。ちょっと退いて?」
そう言うなり、彼は階段の前にしゃがんで手をかざすと、ゆっくり息を吹いた。
一瞬、階段に六角形の鱗みたいな模様が浮かんで消える。
それをじっと見ていれば、その男は階段に気だるげに座り込み、徐におにぎりを食べ始めた。
『防腐剤塗りたかったんだけど』
「要らないよ。俺の加護があれば100年は壊れない」
『もしかして』
「神ではないな。妖怪…よりは格が上がった気がするけど。他のにも会ってるし驚かないみたいだね」
『うん。全然』
「俺はこの辺…北の海を根城にする蛟竜だ。いつも祠に飯置いてくれてありがとう」
瀬戸健太郎、と名乗る彼はやはり人ではなくて。一哉や弘も知っているようだった。
『健太郎が食べてくれてたんだ』
「まあね。人が食べるものなんて珍しいし久しぶりだったから。美味しかったよ、おかかのおにぎり」
『美味しいよね、あれ。そっか、健太郎が食べてくれるなら他のも作るよ。肉とか油を使うのは、鳥とか魚にどうなんだろうと思ってやめてたんだ』
隣の崖に寄りかかって話せば、健太郎は眠そうな顔のわりに話が早かった。
質問する前に聞きたいことを話してくれて、なんとも楽。
『私もありがとね、貝とか海草、美味しく食べてる』
「たまに人間が食べれないのもあるから気をつけてね」
『うん、ちゃんと調べてるよ。知らないのは手を出さないし』
いや、眠そうというか眠いんだろうな。
相槌の合間にふわぁっと欠伸をする。
ただ、その欠伸の瞬間、首筋に鱗が現れるのが綺麗で見入ってしまった。
「俺は美味しくないからね」
『そんなこと思ってない』
「うん。知ってた」
『綺麗ね。硝子みたいにキラキラしてる』
「見たい?」
人間の皮膚に戻った首を眺めていれば、健太郎は小さく舌舐めずりをして。
私がこくりと頷いたのを見る前に、その姿を変えていく。
蛟竜。
体はそんなに大きくない、10メートルくらい。
けれど、光り輝く鱗は不思議な色合いだった。
透明か白なのに、光の反射でピンクや黄色、水色や緑も見える。
それに、鋭い牙と爪。美しい角に深い紫色の瞳。
額にあったホクロは、瞳と同じ紫色の白毫になっていた。
『…綺麗。ミズチってことは、泳ぐの?』
「まあね。飛ぶより泳ぐ方が得意」
『ずっとこの大きさ?』
「まさか。本当の大きさで体現したら疲れるし、大変だよ?崎を一周するくらいはあるからね」
『うわ、凄い』
頭の中に響くように会話をする。
見た目は竜だから、それなりに迫力もあるし、畏敬を感じるけれど。
やっぱり眠そうな、優しい眼差しを見ているとそんなことはどうでも良くなってしまう。
『…ねぇ、今度乗ってもいい?』
「条件は逆鱗に触らないこと、見返りはご飯」
『任せて。おにぎりもサンドイッチも作ってくる』
そう言うと、朗らかに笑って。
楽しみにしてる。と、海に溶けるように消えていった。
(霧崎って、龍まで住んでるのね)
家に帰ってサンドイッチやおにぎりの具を考えよう。
そう思って持ってきたバケツを見れば。
『うわ、さすが』
知らぬ間に山のような貝や蟹、私では捕まえられないような魚が大量に入っていた。
(おにぎりだけじゃなくて、お弁当作ってこよう)
妖怪より確かに格上かもしれない。
fin