人外霧崎とわちゃわちゃ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人狼の山崎とわちゃわちゃ
最寄り駅から山道を徒歩30分。
私はちょっとした辺境に暮らしている。
人付き合いや喧騒が苦手な私は、亡き祖母から譲り受けた山奥の一軒家に住み着いて、仕事の為だけに里へ降りていた。
そんな、外灯もろくにない道を帰ってくる途中に、対の祠と松の木があって。
松の木も対だったらしいが、昔、雷で焼け落ちたと聞いている。
で、その焼け松の横に、今日は大きな犬がいた。
『…?』
最初は寝てるのかと思ったが、どうやら衰弱してるらしい。
近づいても、薄く開けた目で睨んでいるが動けないでいる。
『お腹が空いてるの?怪我してるの?』
そう問えば、理解したかのように視線を後ろ脚にやった。
『…手当てするから、そこで待ってて』
頷くように目を閉じた犬に背を向けて、家に急ぐ。
後ろ足に大きな擦り傷があったから、傷口を洗う水、止血するタオルなんかを物置から出したリヤカーに積んだ。
そのままもと来た道をガラガラとリヤカーを引いて戻る。
『足、見せて』
大人しく体を捩る犬を、いいこ、と撫でながら傷口を洗う。
「…がっ!」
『ごめんね、染みるね。もう少しだから、我慢して』
痛みに耐えかねた犬が、前足で私の腕を引っ掻いた。
でも、構わず傷を流して包帯とタオルで止血を試みる。
『こんなとこ…かな。今夜は雨降るらしいよ、君はどうする?うちにくるなら乗って』
結んだ包帯を見てリヤカーの荷台をポンポン叩けば。
犬は前足でなんとかリヤカーによじ登った。
『はは、君は体格にみあった重さがあるね…ちょっと時間かかるかも』
なんたって山道。
いつもの倍の時間をかけて家まで帰った。
『明るいとこでみると、結構汚れてるね』
土がついた体を温かいタオルで拭いていれば、犬は心地良さげに目を閉じる。
『ふぅん、地は朱?オレンジ?目も緑だし、君カッコイイね』
拭きながら話しかければ、驚いたように目を丸くした。
『さっきから言葉が通じるみたいで楽しいよ。カッコイイ上に賢いのかな』
終わったよ、中まで歩ける?
部屋の隅にタオルや座布団を重ねて即席ベッドを作った。そこに犬を案内して、自分も横に座る。
「…くぅん」
『あ?いいよ気にしなくて、君のが痛かったでしょ。引っ掻いたのは昔の猟の罠みたいだし、人間が報いをみるのは当然』
私の腕を引っ掻いたのを思い出したのか、申し訳なさそうに傷口を舐めるから、思わず笑ってしまった。
『お腹空いてない?君が食べれるものがあるか解らないけど』
その頭を撫でながら、今日買った買い物袋の中身を漁る。
サラダ用の蒸し鶏、生の豚肉、サンドイッチ、牛乳、レタスとトマト。卵にウインナー。
塩分とかダメだった気がするな。
と、蒸し鶏のパウチをあけて、自分はサンドイッチをとる。
『あはは、お腹も空いてたの』
あっという間になくなった鶏肉を見てまた笑ってしまった。
『どうしよっか、豚肉も茹でて……ふふ、それがいいの?』
ねこまんまでも作るかと思っていれば、ウインナーの袋を興味深々にみているので、開封してあげた。
それも、もののわずかで平らげてしまう。
『…?もういいの?遠慮しなくていいよ』
冷蔵庫にあった野菜と豚肉を茹でて、少し冷水にさらした。
『食べられる時にお食べ。いつも助けられる訳じゃないんだから』
遠慮するように顔を背けた癖に、お皿に出したらバクバク食べるから面白い。
可愛いなぁ、人間もこのくらい素直なら楽なのになぁ。
なんて思いながら、どっと疲れてそのままリビングの床で眠ってしまった。
「…い、…おいっ!」
『んん、今日は休みだから起きなくてもいいの』
「そうなのか?…じゃねぇ、起きろ!」
『なあに……?あれ、昨日の犬?』
目が覚めたら、オレンジ色の髪をした、ちょっと目付きの悪い青年が私の肩を揺すっていた。
「俺犬じゃねえから!狼!」
『へえー、オレンジの狼かぁ。一層カッコイイじゃない』
「…お前、疑問はなんもないのか?」
『ん?…あ、人じゃん』
ちゃんと頭が起きたのは今。
隣で寝てた犬、もとい狼が人になってる。
『霧崎に霧が出ると不思議なことがおこるって本当だったんだ』
「……呑気だな」
『うん?そう?なんにせよ元気そうでよかったよ。足、痛くない?』
「痛ぇけど、歩けそうだ。…いや、あのな?」
ぐぅぅ…
『はは、朝ごはんにしてからにしよっか。今なら人と同じものでいいんだよね?』
腹の虫が話を遮って。
お腹は空いてたのか、文句を言うこともなく彼は座って待っていた。
朝食の目玉焼きとサラダを食べながら彼の話を聞くと、どうやら人狼らしい。
霧崎の西側の山を根城にしていて、人の時は山崎弘と名乗っているそうだ。
『そうなんだ。弘は霧崎の土地神様なの?』
「神なんて大それたもんじゃねえよ。ただの妖怪だ」
『へー。いつもお散歩でお邪魔してます』
「……昨日からさ、お前適応しすぎっていうか、怖くねーの?」
弘は、私をじっとみつめる。
昨日のことと、今日の話を考えながら、あー…と、言葉を紡いだ。
『私さ、人とちょっと変わってて。普通と違うってのがよくわからないの。君はあそこで困ってるように見えたし、話しかけたら通じてる気がした。人間のせいで怪我したのに、私を引っ掻いた時、すごく悲しそうな顔してた。弘は、優しいと思う』
「…」
『素直だしね。人間は皆裏表とか、それこそ普通とかうるさいけど。君は私を疑わずに手当てされて、ご飯食べてた。怖がる要素、無いじゃない』
ね?と笑えば、照れ臭そうに
"ありがとう"
と呟いた。
『弘こそ、私のこと警戒しなかったの?』
「お前は山で見るから。…小鳥を巣に戻したりしてたし、悪いやつじゃないのは知ってた」
『あら。次からは声かけてね?一緒にお散歩しようよ』
「…おう」
弘は、やっぱり照れ臭そうに笑って。
また来てもいいかと聞いた。
『是非。待ってる』
「おもしれー人間もいるもんだな。足も飯も、本当にありがとな」
そう言うと、するりと犬…じゃなくて狼の姿に戻った。
『またね』
「ばぅ!」
そして、開けた玄関から霧の中へ走り去っていったのだった。
(霧崎には主がいる…って、本当なのかな、おばあちゃん)
Fin
1/11ページ