純白の花と紺碧の蝶
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*7日目 [花宮視点]
ハネムーン最終日。
名残惜しさよりも、家が恋しい気持ちが勝っていて。
家路も旅行の一部。
どこか、旅行初日のような気分だ。
「忘れ物はないか?」
『大丈夫』
早朝にキャリーケースをガラガラと引いて。
ホテルのタクシーで空港まで送ってもらう。
来るときはフェリーだったが、サントリーニからアテネまで、今度は飛行機で戻った。
1時間ほどのフライトでアテネ空港へ着き、エアポートバスで一度市街へ。
サントリーニのホテルを6時に出立して、アテネ市街に着いた今が10時前。ギリシャを発つ便が13時半だからアテネを出るのは最低でも12時。忙しいが、空港で時間を潰すよりはいいだろう。
『5日ぶりだとアテネも久しぶりな感じ』
「相変わらずパルテノン神殿の迫力は凄まじいな」
『この距離であれだけはっきり見えるんだもんね』
初日に散策出来なかったプラカ地区で土産を買い足す。
露店も多く賑やかな通りで、STRKYのメンバーや俺の母さんへの土産を買い足していく。
自宅用にも更に買い足し。
蜂蜜、オリーブ油、ハーブ。それから木製のカトラリー。
『クレタ島のレストランで、木のカッティングボードあったでしょ?あれ、私も使ってみたくて』
「…あのまな板みたいな皿か。いいんじゃね?うちの皿は陶器ばっかだし。フォークとスプーンと…サラダボウルも買うか…いや、木製の食器は手入れ面倒だったりするのか?」
『多少はね。冷蔵庫と電子レンジ不可とか、それなりに制限はあるけど…使ったら早く洗って陰干しすれば大体は大丈夫』
オリーブウッドの食器に憧れがあったのだと、「オリーブツリーストア」という店で雨月は嬉しそうに食器を選ぶ。
オリーブの樹は硬く加工がとても難しいため、カッティングボードや飾り物は一点物が多い。一方、技術も進歩しているらしく、皿や積み木なんかは同じ大きさにできるようだ。
木目がそれぞれ違って似たような模様が一つもないのは面白いと思う。
『カッティングボード、サラダボウル、サラダトング、スプーン、フォーク、小皿、プレート、スープ皿…』
「俺が持つから、空身で選べよ」
『あ、ごめん。ありがと。真君は?気になるものある?』
「食器は門外漢だ」
彼女は満足したらしく、俺の手に積み重なる食器をそっと撫でる。
『ブランチは、プレートにエッグベネディクトのマフィンとカットトマト、耐熱ガラスのマグにホットコーヒー。ディナーはカッティングボードにローストビーフ、サラダボウルに2色の玉ねぎとコーン。小皿にトングで取り分けて、スープ皿には…モロヘイヤのコンソメスープ』
「昼前に飯テロすんな。それ、日本に戻ったら絶対作れよ」
想像して唾液が分泌されるくらいには、完全に胃袋捕まれてるわけで。
本気でこいつの飯が恋しい時分だ、止めてくれと思う。
『勿論。期待してて』
ニコニコと上機嫌な彼女は、工芸品や木製のアクセサリーを一瞥した後。木製の小物を手にしてレジに向かった。
「アクセサリーはいいのか?ウッドブロックの髪飾りもあるぞ」
『いいの。私の分はサントリーニでいっぱい買って貰ったから。これはね、真君に』
「…カフスボタンとボールペンか?」
『仕事場に持っていくにはいいかなって』
見せられたカフスボタンは、シルバーで縁取った中に
樹をあしらったダイヤ型。
ボールペンは木製の本体に螺鈿で模様が描かれているもの。
「…ありがとな」
『どういたしまして』
お財布一緒なんだけどね。なんて、照れ隠しのように笑いながら彼女はボタンとペンをバックに仕舞った。
『そろそろシンタグマ広場いかなきゃ』
「そうだな、出来れば11時半のバスに乗りたいところだが」
今、11時少し前。
ここで食べ損ねると次の食事まで間が空くし、昼も済ませたい。
『あ、ギロピタのお店』
「あー…スブラギをピタパンで包んだ、だったか」
ケバブの、肉塊が大きい版みたいなもんだな。焼き鳥みたいなサイズの羊や牛が入ったピタパン。
クレープのようにテイクアウトして、広場に着いたら食べればいい。最悪、歩きながら食べれるし。
「ギリシャ料理も食べ納めだ、昼はあれにするか」
彼女はクレタ島で食べたマトンとハーブソルトのギロピタが気に入っていたようで、同じ味付けを注文する。
いつもは割りと違う味を頼んで一口ずつ交換するけれど、俺も同じものを頼んだ。
クレタのレシムノではその味しか無かったからだが、今回は選ぶ余裕がないから。
…こんなに長いこと雨月の作った料理を食べなかったのは結婚してから初めてで、普段は外食や旅行先でも一緒に食事をすれば味は感じるし美味いか否かも判別できたから、油断していた。
昨日の昼、雨月の料理が食べたいと実感してしまってからは、微妙に食べ物が不味いのだ。
今朝のパンと蜂蜜も薄味で苦味を感じる始末。
シンタグマ広場まで歩き、空いていたベンチでピタパンを齧れば。
(レシムノの時…こんな味じゃなかった)
確定。依存の弊害の片鱗が現れた。
ハーブの風味もマトンの食感も生地の舌触りも、どれもこれも不快に思う。
同じものを食べてる…という感覚で自分を騙そうと思ったが上手くいかなかった。
「…美味いか?」
多分、彼女はその異変を察したんだろう。
少し驚いたように目を瞬いて。訳も聞かず、ぴったりと隣に座り直した。
『美味しいよ。塩気が効いててね、オレガノとタイムと胡椒とニンニクの香りがする。生地にもローズマリーが入っててね、いい香りだよ。マトンも臭みがないし、柔らかくてジューシー。野菜も新鮮でしゃきしゃきしてる』
彼女の言葉を、胸の内で反芻して。
目を瞑って2口目を齧る。
「……そうだな、美味いな」
『レシムノのお店より野菜が多くてボリューミーだよね。トマトが入ってて美味しい』
彼女が解説した通りの味を感じて、ほっとした。
たとえ応急措置とはいえ、雨月がいれば食事ができる。
何より、旅行中に彼女が“眠れない”という弊害を被らなくて良かったと思った。
彼女の場合、俺がいればそこが布団でもベッドでも座席のシートでもいい。
『真君、バス来たよ』
そういって乗り込んだアテナ空港行きのエアポートバスで、雨月は爆睡だったのだから。
次はアテネからイスタンブールまで90分のフライト。
バスで寝てしまったのが悔やまれる彼女は、飛行機の中で少しばかり拗ねていた。
『長崎の時も…帰りの景色見たいって言ったのに。どうして寝ちゃったかな…起こしていいんだよ、真君』
窓の外と俺を交互に見ながら言外に“起こして欲しかった”と口を尖らせるのが可愛くて。
そっと肩を抱き寄せる。
「お前の寝顔見ると安心するんだ。…悪かった」
『…怒ってないの。ごめんね、ただ、一緒に景色見てたかったから…』
「ああ、俺はお前の寝顔しか見てなかったから景色は見てないぜ?」
『それは恥ずかしいよ馬鹿』
目下小さくなっていくギリシャの地、海を越えれば近付いていく中継地点のトルコ。
「…乗り継ぎ忙しいぞ、はぐれるなよ」
『大丈夫、はぐれても見つけてもらえる』
「拐われるのも無しだからな。……絶対見つけるが」
年間2億人が行き交う中継空港。笊計算でも日に50万人が利用するんだ、荷物検査だけで1時間かかるし乗り継ぎだとしても移動を含めたらそのくらいにはなるだろう。
15時頃着いたイスタンブールで、彼女は往来を前にしどろもどろと付いてくる。
彼女を庇いながら人波を掻き分けて、なんとか次の搭乗口へたどり着いた。
『つ、つかれたぁ。行き の時より混んでない?』
「タイミングなんだろうな。流石最大の中継空港、人混みなんてレベルじゃない」
『ほんと…初詣より人多いと思う』
「でも、あとは11時間座りっぱなしだからな」
『また寝ちゃいそう…』
「いや16時から日付またいで10時までの11時間の夜間フライトだぞ。夕食の機内食、食ったら寝ようぜ」
そんな話をして、実際に機内食を前にした俺は。
(…本来は、ターキッシュエアラインの機内食は旨いって評判なんだがな)
エコノミーにしては華やかな夕食をつつく感想はいまいちだった。
…彼女の方はハンバーグが美味しいと喜んでいるが。
「なあ、」
『うん?』
「…眠い」
皿を途中で下げて貰ったあと、胸に残る妙に空虚な物足りなさを…眠気と呼ぶことにした。
『お疲れ様、今回の旅行は真くんにいっぱい頼っちゃったね。通訳も案内も移動も』
「別に苦じゃねぇよ。…お前と2人で過ごすには必要だったんだ。大した努力もなくそれが叶えられるんだから、自分の頭に初めて感謝したくらいだぜ」
『それでも。貴方のおかげで素敵なハネムーンだったのは変わらないもの。ありがとう、…おやすみ』
窓際に雨月、通路側に俺。
彼女を短く抱き寄せてから、手を繋ぐ。
ブランケットの下で繋がるそれに、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「…俺もいい旅行だった。おやすみ、寄りかかっていいぞ」
少しでも、と。すり寄って眠る彼女が可愛くて。
俺が先に眠いと言ったのに、俺より早く寝息をたて始めた彼女の額にキスをした。
We are making our final approach to Narita International Airport.
Have a nice day!!
fin
ハネムーン最終日。
名残惜しさよりも、家が恋しい気持ちが勝っていて。
家路も旅行の一部。
どこか、旅行初日のような気分だ。
「忘れ物はないか?」
『大丈夫』
早朝にキャリーケースをガラガラと引いて。
ホテルのタクシーで空港まで送ってもらう。
来るときはフェリーだったが、サントリーニからアテネまで、今度は飛行機で戻った。
1時間ほどのフライトでアテネ空港へ着き、エアポートバスで一度市街へ。
サントリーニのホテルを6時に出立して、アテネ市街に着いた今が10時前。ギリシャを発つ便が13時半だからアテネを出るのは最低でも12時。忙しいが、空港で時間を潰すよりはいいだろう。
『5日ぶりだとアテネも久しぶりな感じ』
「相変わらずパルテノン神殿の迫力は凄まじいな」
『この距離であれだけはっきり見えるんだもんね』
初日に散策出来なかったプラカ地区で土産を買い足す。
露店も多く賑やかな通りで、STRKYのメンバーや俺の母さんへの土産を買い足していく。
自宅用にも更に買い足し。
蜂蜜、オリーブ油、ハーブ。それから木製のカトラリー。
『クレタ島のレストランで、木のカッティングボードあったでしょ?あれ、私も使ってみたくて』
「…あのまな板みたいな皿か。いいんじゃね?うちの皿は陶器ばっかだし。フォークとスプーンと…サラダボウルも買うか…いや、木製の食器は手入れ面倒だったりするのか?」
『多少はね。冷蔵庫と電子レンジ不可とか、それなりに制限はあるけど…使ったら早く洗って陰干しすれば大体は大丈夫』
オリーブウッドの食器に憧れがあったのだと、「オリーブツリーストア」という店で雨月は嬉しそうに食器を選ぶ。
オリーブの樹は硬く加工がとても難しいため、カッティングボードや飾り物は一点物が多い。一方、技術も進歩しているらしく、皿や積み木なんかは同じ大きさにできるようだ。
木目がそれぞれ違って似たような模様が一つもないのは面白いと思う。
『カッティングボード、サラダボウル、サラダトング、スプーン、フォーク、小皿、プレート、スープ皿…』
「俺が持つから、空身で選べよ」
『あ、ごめん。ありがと。真君は?気になるものある?』
「食器は門外漢だ」
彼女は満足したらしく、俺の手に積み重なる食器をそっと撫でる。
『ブランチは、プレートにエッグベネディクトのマフィンとカットトマト、耐熱ガラスのマグにホットコーヒー。ディナーはカッティングボードにローストビーフ、サラダボウルに2色の玉ねぎとコーン。小皿にトングで取り分けて、スープ皿には…モロヘイヤのコンソメスープ』
「昼前に飯テロすんな。それ、日本に戻ったら絶対作れよ」
想像して唾液が分泌されるくらいには、完全に胃袋捕まれてるわけで。
本気でこいつの飯が恋しい時分だ、止めてくれと思う。
『勿論。期待してて』
ニコニコと上機嫌な彼女は、工芸品や木製のアクセサリーを一瞥した後。木製の小物を手にしてレジに向かった。
「アクセサリーはいいのか?ウッドブロックの髪飾りもあるぞ」
『いいの。私の分はサントリーニでいっぱい買って貰ったから。これはね、真君に』
「…カフスボタンとボールペンか?」
『仕事場に持っていくにはいいかなって』
見せられたカフスボタンは、シルバーで縁取った中に
樹をあしらったダイヤ型。
ボールペンは木製の本体に螺鈿で模様が描かれているもの。
「…ありがとな」
『どういたしまして』
お財布一緒なんだけどね。なんて、照れ隠しのように笑いながら彼女はボタンとペンをバックに仕舞った。
『そろそろシンタグマ広場いかなきゃ』
「そうだな、出来れば11時半のバスに乗りたいところだが」
今、11時少し前。
ここで食べ損ねると次の食事まで間が空くし、昼も済ませたい。
『あ、ギロピタのお店』
「あー…スブラギをピタパンで包んだ、だったか」
ケバブの、肉塊が大きい版みたいなもんだな。焼き鳥みたいなサイズの羊や牛が入ったピタパン。
クレープのようにテイクアウトして、広場に着いたら食べればいい。最悪、歩きながら食べれるし。
「ギリシャ料理も食べ納めだ、昼はあれにするか」
彼女はクレタ島で食べたマトンとハーブソルトのギロピタが気に入っていたようで、同じ味付けを注文する。
いつもは割りと違う味を頼んで一口ずつ交換するけれど、俺も同じものを頼んだ。
クレタのレシムノではその味しか無かったからだが、今回は選ぶ余裕がないから。
…こんなに長いこと雨月の作った料理を食べなかったのは結婚してから初めてで、普段は外食や旅行先でも一緒に食事をすれば味は感じるし美味いか否かも判別できたから、油断していた。
昨日の昼、雨月の料理が食べたいと実感してしまってからは、微妙に食べ物が不味いのだ。
今朝のパンと蜂蜜も薄味で苦味を感じる始末。
シンタグマ広場まで歩き、空いていたベンチでピタパンを齧れば。
(レシムノの時…こんな味じゃなかった)
確定。依存の弊害の片鱗が現れた。
ハーブの風味もマトンの食感も生地の舌触りも、どれもこれも不快に思う。
同じものを食べてる…という感覚で自分を騙そうと思ったが上手くいかなかった。
「…美味いか?」
多分、彼女はその異変を察したんだろう。
少し驚いたように目を瞬いて。訳も聞かず、ぴったりと隣に座り直した。
『美味しいよ。塩気が効いててね、オレガノとタイムと胡椒とニンニクの香りがする。生地にもローズマリーが入っててね、いい香りだよ。マトンも臭みがないし、柔らかくてジューシー。野菜も新鮮でしゃきしゃきしてる』
彼女の言葉を、胸の内で反芻して。
目を瞑って2口目を齧る。
「……そうだな、美味いな」
『レシムノのお店より野菜が多くてボリューミーだよね。トマトが入ってて美味しい』
彼女が解説した通りの味を感じて、ほっとした。
たとえ応急措置とはいえ、雨月がいれば食事ができる。
何より、旅行中に彼女が“眠れない”という弊害を被らなくて良かったと思った。
彼女の場合、俺がいればそこが布団でもベッドでも座席のシートでもいい。
『真君、バス来たよ』
そういって乗り込んだアテナ空港行きのエアポートバスで、雨月は爆睡だったのだから。
次はアテネからイスタンブールまで90分のフライト。
バスで寝てしまったのが悔やまれる彼女は、飛行機の中で少しばかり拗ねていた。
『長崎の時も…帰りの景色見たいって言ったのに。どうして寝ちゃったかな…起こしていいんだよ、真君』
窓の外と俺を交互に見ながら言外に“起こして欲しかった”と口を尖らせるのが可愛くて。
そっと肩を抱き寄せる。
「お前の寝顔見ると安心するんだ。…悪かった」
『…怒ってないの。ごめんね、ただ、一緒に景色見てたかったから…』
「ああ、俺はお前の寝顔しか見てなかったから景色は見てないぜ?」
『それは恥ずかしいよ馬鹿』
目下小さくなっていくギリシャの地、海を越えれば近付いていく中継地点のトルコ。
「…乗り継ぎ忙しいぞ、はぐれるなよ」
『大丈夫、はぐれても見つけてもらえる』
「拐われるのも無しだからな。……絶対見つけるが」
年間2億人が行き交う中継空港。笊計算でも日に50万人が利用するんだ、荷物検査だけで1時間かかるし乗り継ぎだとしても移動を含めたらそのくらいにはなるだろう。
15時頃着いたイスタンブールで、彼女は往来を前にしどろもどろと付いてくる。
彼女を庇いながら人波を掻き分けて、なんとか次の搭乗口へたどり着いた。
『つ、つかれたぁ。行き の時より混んでない?』
「タイミングなんだろうな。流石最大の中継空港、人混みなんてレベルじゃない」
『ほんと…初詣より人多いと思う』
「でも、あとは11時間座りっぱなしだからな」
『また寝ちゃいそう…』
「いや16時から日付またいで10時までの11時間の夜間フライトだぞ。夕食の機内食、食ったら寝ようぜ」
そんな話をして、実際に機内食を前にした俺は。
(…本来は、ターキッシュエアラインの機内食は旨いって評判なんだがな)
エコノミーにしては華やかな夕食をつつく感想はいまいちだった。
…彼女の方はハンバーグが美味しいと喜んでいるが。
「なあ、」
『うん?』
「…眠い」
皿を途中で下げて貰ったあと、胸に残る妙に空虚な物足りなさを…眠気と呼ぶことにした。
『お疲れ様、今回の旅行は真くんにいっぱい頼っちゃったね。通訳も案内も移動も』
「別に苦じゃねぇよ。…お前と2人で過ごすには必要だったんだ。大した努力もなくそれが叶えられるんだから、自分の頭に初めて感謝したくらいだぜ」
『それでも。貴方のおかげで素敵なハネムーンだったのは変わらないもの。ありがとう、…おやすみ』
窓際に雨月、通路側に俺。
彼女を短く抱き寄せてから、手を繋ぐ。
ブランケットの下で繋がるそれに、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「…俺もいい旅行だった。おやすみ、寄りかかっていいぞ」
少しでも、と。すり寄って眠る彼女が可愛くて。
俺が先に眠いと言ったのに、俺より早く寝息をたて始めた彼女の額にキスをした。
We are making our final approach to Narita International Airport.
Have a nice day!!
fin