純白の花と紺碧の蝶
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*4日目[ヒロイン視点]
4日目の朝、早くにホテルを出立した私達はフェリーに乗っていた。
本当に綺麗なホテルでプールまである素敵なとこだったんだけど、歩き疲れてしまった私は殆ど見て回らないうちに熟睡してしまったのだ。…勿体なかった…。
「気持ちは解るが、ホテルを楽しみたいならフェリーで寝たらどうだ」
『でも、日本でこんなオーシャンビューは拝めないから』
その失態を引きずって、私はフェリーの窓に張り付きっぱなし。時折飲み物を貰いにカウンターへ行っては、真君の隣で海を眺めていた。
「………ああ、綺麗な海だな」
真君は片手にコーヒーを持って、窓の外の海原と私を交互に見つめる。
『海の神様のギリシャ神話、なんかなかったっけ』
「……トリトンか?ポセイドンか?」
『どっちも』
「トリトンなら、あれだ。化けクジラとアンドロメダ」
紺碧が広がる景色に視線を移しながら、真君に無言の催促。
知っている話だけど、真君の声で噺を聞くのがとても好きだから。
「……………遠いエチオピアの地、かの地を治めていたケフェウス王とカシオペア妃の間には1人の娘がいた。名前をアンドロメダといい、彼女の美しさは母カシオペアの自慢の種だった。…それが災いした。カシオペアは[海神トリトンの娘より、我がアンドロメダの方が美しい]と口を滑らせてしまったのだ。トリトンは激怒した。人間風情が神の子を引き合いに出そうとは」
察してくれた真君は、ギリシャ神話を語ってくれた。
視線は2人とも海へ向いて、繋いだ手でお互いを感じている。
「神の娘を侮辱した罪は重かった。エチオピアは毎日のように、国を飲み込まんとする大津波に襲われるようになったのだ。王と妃が赦しを乞う方法は1つ、娘のアンドロメダを生け贄に捧げること。津波の原因である、海で暴れている化けクジラに差し出すことだった。…健気なアンドロメダは、鎖で岩に繋がれた。波飛沫が上がる断崖に、哀れにも立たされた。…彼女になんの罪があったのか、それを考えることもしない健気で哀れなアンドロメダ」
ちらり、一瞬、真君は私に視線を移した。
私は続きを促して、彼にそっと寄りかかる。
「…あわや化け物が姫を喰らわんとする時だった。ペガサスに乗る1人の青年が上空を通りかかる。刹那、化け物は忽ち石へと変わり、動かなくなった。予期せぬ英雄の登場にアンドロメダもその両親も安堵の息を漏らす。…エチオピアを、アンドロメダを救った英雄の名はペルセウス。見たものを石へと変えるメドゥーサを討伐した帰りで、化けクジラが石化したのは、メドゥーサの首を見たからだった。斯くして、エチオピアの危機は去り、アンドロメダは自らの命を救ったペルセウスの妻として暮らすこととなる」
『…』
「満足か」
『うん。ありがとう』
この噺を聞く度、アンドロメダにとってペルセウスは運命の王子様だっただろうな。と、胸がときめいた。
絶対絶命、恐怖と使命感の狭間から救い出してくれたその人は…崇拝の対象にすらなりうる。
「……まあ、伝聞だから仕方無いが、中々穴の多い話だよな」
『そう?』
「化けクジラが退治されちまったらトリトンの怒りは鎮まらないだろ。それに、メドゥーサを見ると石化するのは恐怖が原因だったはず。「怖すぎて石化する」ならば化け物とはいえ神が遣わしたクジラが首ひとつに恐怖するとは思えない」
『え、メドゥーサって目が合うと石になるんじゃないの?』
「それはバジリスクじゃないか?つーか、メドゥーサもたしか自分の美しさを自慢したからアテナの怒りを買って蛇髪にされたんだ。その時の恋人がポセイドンで、自分に会ったポセイドンが石化したら立ち直れないから…と洞窟に引き込もっていた…って噺をどっかで聞いた」
『なんか、その話だとメドゥーサを見る目が変わる』
「いや、これだってアテナがかけた呪いをポセイドンは解けないのか?って思うんだが」
『…でも、解けちゃったら、さっきのトリトンじゃないけど、アテナの怒りが収まらなくて戦争にならないかな』
「なるかもな。まあ、ギリシャを守る女神アテナは、自分が呪いをかけたメドゥーサのせいで罪のない人間達が石になるのを気に留めなかった。日本とは“神”の在り方が違う…って話」
これ以上は、カミサマの逆鱗に触れて船が転覆でもしたら堪らないから止めだ。と、真君は愉しそうに笑った。
私も釣られて笑いながら、肩を抱き寄せられて海原を眺める。
「…まったく、今日はハネムーンのメインなんだから体力残しとけよ?」
『解ってる、楽しみにしてたんだもの』
そう、今日は、サントリーニ島で。
ウェディングフォトを撮影する日。
『ここが、サントリーニ…』
ハネムーンの中で、一番楽しみにしてたとこ。
白い壁と、青い海のツートンだけで彩られた島。
フェリーが着いた港がフィラ地区、目的のイア地区まではホテルタクシーを使って1時間強。
そのくらいの移動は苦にならない程、憧れてた場所。
「……綺麗だな」
真君が呟くように口にした言葉は、紺碧の海でも純白の町でもないところを見て放たれる。
『…真君のために着るんだもの、そう言ってもらえなきゃ寂しい』
「ふはっ、式の当日は感極まって泣いてた癖に」
白い町に負けないくらい白いドレス。
ふわふわして裾の広がった、レースとフリルもあしらわれた可愛いプリンセススタイル。
頭からベールもちゃんと被ってる。
『だって…真君があんまりかっこ良くて。今だって少し気を抜いたら泣きそう。なんでそんなにタキシード似合うの』
真君も、白いタキシード…正式にはフロックコートを着ている。差し色には珍しい深緑。…私が、好きになった真君のユニフォームの色を入れてもらった。
そんな服装で、現地のカメラマンと貸衣装さんと一緒にウェディングフォトを撮影して回っている。
貸衣装さんはメイクもヘアセットもできる凄腕の人で、カメラマンさんもウェディングフォトが専門とか言う。…真君が、日本にいるうちからチャットでやり取りして押さえてた人達。
「****?」
「####!」
一応英語で指示を出してくれてるけど、半分も解らなくて真君の動きに倣って進んでいく。
普通に正面から、ベールを外して貰うとこ、指輪交換、…キス、そんな感じの写真を撮って。
自分で言うのもなんだけど、どれも綺麗だった。
「…あとは、お色直しだな」
『え?』
「サプライズ。もう一着用意したから、着替えてこい」
小休止。と言われて入った小さな家は、着替え部屋も化粧台もあって。計画されていたのは明白。
あれよあれよと脱がされ着せられ粧されて。
鏡台の前で私は目を見開いた。
「ああ、やっぱりこっちも綺麗だな」
その後ろに、黒いスーツの真君が写る。
『…真君は、なんでもお見通しだね』
私が今着てるのはマーメイドスタイル、と呼ばれる脚のラインがストレートのドレス。
大人っぽさに憧れがあったけれど、私の顔立ちでは着こなせない…と密かに諦めたものだった。
ドレスに合わせて髪型も変えてもらって、真君から2回目の「綺麗だな」を聞いた私は涙腺決壊まで秒読み状態。
そのうえ
『っ、真君までお色直しは狡い…似合う、ばか、格好いい』
白が似合わない、と宣言していた真君。別に、白も凄くかっこ良かったけれど。
黒い燕尾服の真君は段違いにかっこ良かった。
しかも、片側の前髪と横髪を耳にかけてアップにしてる。
「ふはっ、狡いってなんだよ」
前髪に隠れない、綺麗な瞳が私を見て微笑むの、本当に胸が苦しい。愛しいの上をいく言葉なんて知らない私は、結局涙を溢した。
『だって…これ以上、真君を好きにさせてどうするつもりなの』
この人に恋してから、10年も近いのに。
未だに恋を自覚した瞬間のような熱い想いが沸き上がる。
そういう瞬間を、くれる。
「どうするって…これからも、俺と生きて貰うつもりだ。それに、新婚旅行はこれが最初で最期だろう?悔いを残させるつもりはない」
少し意地悪な微笑は、“これが最初で最期”という部分への自信。
その通りになる、と。確信している自分もいる。
『…私は、私に、そして真君に、改めて誓うよ。病めるときも健やかなる時も、貴方を愛して寄り添い、共に在ること。例え、死が訪れても、この想いだけは永久であると』
「…狡いのはお前の方だわ。ほんと、俺のこと好きすぎて馬鹿なとこ、全然変わらねえ」
マーメイドドレスなんか着てるからか。
私は、彼のためなら聲でも脚でも命ですら投げ出せると思っている。
彼は彼で、聲がなくても脚がなくても、私のことを愛してくれるんだと思う。例え、泡になっても。
…まあ、これがウェディングフォト撮影中のことだったから。
一部始終から何枚か撮られていて。
なんてコメントするのがいいか解らないけど、一番いい写真だった。真君の眼差しが絶妙。日の光の入り具合も合間って。
『私は王子様と結婚したんだな』
そう痛感した。
4日目終.
4日目の朝、早くにホテルを出立した私達はフェリーに乗っていた。
本当に綺麗なホテルでプールまである素敵なとこだったんだけど、歩き疲れてしまった私は殆ど見て回らないうちに熟睡してしまったのだ。…勿体なかった…。
「気持ちは解るが、ホテルを楽しみたいならフェリーで寝たらどうだ」
『でも、日本でこんなオーシャンビューは拝めないから』
その失態を引きずって、私はフェリーの窓に張り付きっぱなし。時折飲み物を貰いにカウンターへ行っては、真君の隣で海を眺めていた。
「………ああ、綺麗な海だな」
真君は片手にコーヒーを持って、窓の外の海原と私を交互に見つめる。
『海の神様のギリシャ神話、なんかなかったっけ』
「……トリトンか?ポセイドンか?」
『どっちも』
「トリトンなら、あれだ。化けクジラとアンドロメダ」
紺碧が広がる景色に視線を移しながら、真君に無言の催促。
知っている話だけど、真君の声で噺を聞くのがとても好きだから。
「……………遠いエチオピアの地、かの地を治めていたケフェウス王とカシオペア妃の間には1人の娘がいた。名前をアンドロメダといい、彼女の美しさは母カシオペアの自慢の種だった。…それが災いした。カシオペアは[海神トリトンの娘より、我がアンドロメダの方が美しい]と口を滑らせてしまったのだ。トリトンは激怒した。人間風情が神の子を引き合いに出そうとは」
察してくれた真君は、ギリシャ神話を語ってくれた。
視線は2人とも海へ向いて、繋いだ手でお互いを感じている。
「神の娘を侮辱した罪は重かった。エチオピアは毎日のように、国を飲み込まんとする大津波に襲われるようになったのだ。王と妃が赦しを乞う方法は1つ、娘のアンドロメダを生け贄に捧げること。津波の原因である、海で暴れている化けクジラに差し出すことだった。…健気なアンドロメダは、鎖で岩に繋がれた。波飛沫が上がる断崖に、哀れにも立たされた。…彼女になんの罪があったのか、それを考えることもしない健気で哀れなアンドロメダ」
ちらり、一瞬、真君は私に視線を移した。
私は続きを促して、彼にそっと寄りかかる。
「…あわや化け物が姫を喰らわんとする時だった。ペガサスに乗る1人の青年が上空を通りかかる。刹那、化け物は忽ち石へと変わり、動かなくなった。予期せぬ英雄の登場にアンドロメダもその両親も安堵の息を漏らす。…エチオピアを、アンドロメダを救った英雄の名はペルセウス。見たものを石へと変えるメドゥーサを討伐した帰りで、化けクジラが石化したのは、メドゥーサの首を見たからだった。斯くして、エチオピアの危機は去り、アンドロメダは自らの命を救ったペルセウスの妻として暮らすこととなる」
『…』
「満足か」
『うん。ありがとう』
この噺を聞く度、アンドロメダにとってペルセウスは運命の王子様だっただろうな。と、胸がときめいた。
絶対絶命、恐怖と使命感の狭間から救い出してくれたその人は…崇拝の対象にすらなりうる。
「……まあ、伝聞だから仕方無いが、中々穴の多い話だよな」
『そう?』
「化けクジラが退治されちまったらトリトンの怒りは鎮まらないだろ。それに、メドゥーサを見ると石化するのは恐怖が原因だったはず。「怖すぎて石化する」ならば化け物とはいえ神が遣わしたクジラが首ひとつに恐怖するとは思えない」
『え、メドゥーサって目が合うと石になるんじゃないの?』
「それはバジリスクじゃないか?つーか、メドゥーサもたしか自分の美しさを自慢したからアテナの怒りを買って蛇髪にされたんだ。その時の恋人がポセイドンで、自分に会ったポセイドンが石化したら立ち直れないから…と洞窟に引き込もっていた…って噺をどっかで聞いた」
『なんか、その話だとメドゥーサを見る目が変わる』
「いや、これだってアテナがかけた呪いをポセイドンは解けないのか?って思うんだが」
『…でも、解けちゃったら、さっきのトリトンじゃないけど、アテナの怒りが収まらなくて戦争にならないかな』
「なるかもな。まあ、ギリシャを守る女神アテナは、自分が呪いをかけたメドゥーサのせいで罪のない人間達が石になるのを気に留めなかった。日本とは“神”の在り方が違う…って話」
これ以上は、カミサマの逆鱗に触れて船が転覆でもしたら堪らないから止めだ。と、真君は愉しそうに笑った。
私も釣られて笑いながら、肩を抱き寄せられて海原を眺める。
「…まったく、今日はハネムーンのメインなんだから体力残しとけよ?」
『解ってる、楽しみにしてたんだもの』
そう、今日は、サントリーニ島で。
ウェディングフォトを撮影する日。
『ここが、サントリーニ…』
ハネムーンの中で、一番楽しみにしてたとこ。
白い壁と、青い海のツートンだけで彩られた島。
フェリーが着いた港がフィラ地区、目的のイア地区まではホテルタクシーを使って1時間強。
そのくらいの移動は苦にならない程、憧れてた場所。
「……綺麗だな」
真君が呟くように口にした言葉は、紺碧の海でも純白の町でもないところを見て放たれる。
『…真君のために着るんだもの、そう言ってもらえなきゃ寂しい』
「ふはっ、式の当日は感極まって泣いてた癖に」
白い町に負けないくらい白いドレス。
ふわふわして裾の広がった、レースとフリルもあしらわれた可愛いプリンセススタイル。
頭からベールもちゃんと被ってる。
『だって…真君があんまりかっこ良くて。今だって少し気を抜いたら泣きそう。なんでそんなにタキシード似合うの』
真君も、白いタキシード…正式にはフロックコートを着ている。差し色には珍しい深緑。…私が、好きになった真君のユニフォームの色を入れてもらった。
そんな服装で、現地のカメラマンと貸衣装さんと一緒にウェディングフォトを撮影して回っている。
貸衣装さんはメイクもヘアセットもできる凄腕の人で、カメラマンさんもウェディングフォトが専門とか言う。…真君が、日本にいるうちからチャットでやり取りして押さえてた人達。
「****?」
「####!」
一応英語で指示を出してくれてるけど、半分も解らなくて真君の動きに倣って進んでいく。
普通に正面から、ベールを外して貰うとこ、指輪交換、…キス、そんな感じの写真を撮って。
自分で言うのもなんだけど、どれも綺麗だった。
「…あとは、お色直しだな」
『え?』
「サプライズ。もう一着用意したから、着替えてこい」
小休止。と言われて入った小さな家は、着替え部屋も化粧台もあって。計画されていたのは明白。
あれよあれよと脱がされ着せられ粧されて。
鏡台の前で私は目を見開いた。
「ああ、やっぱりこっちも綺麗だな」
その後ろに、黒いスーツの真君が写る。
『…真君は、なんでもお見通しだね』
私が今着てるのはマーメイドスタイル、と呼ばれる脚のラインがストレートのドレス。
大人っぽさに憧れがあったけれど、私の顔立ちでは着こなせない…と密かに諦めたものだった。
ドレスに合わせて髪型も変えてもらって、真君から2回目の「綺麗だな」を聞いた私は涙腺決壊まで秒読み状態。
そのうえ
『っ、真君までお色直しは狡い…似合う、ばか、格好いい』
白が似合わない、と宣言していた真君。別に、白も凄くかっこ良かったけれど。
黒い燕尾服の真君は段違いにかっこ良かった。
しかも、片側の前髪と横髪を耳にかけてアップにしてる。
「ふはっ、狡いってなんだよ」
前髪に隠れない、綺麗な瞳が私を見て微笑むの、本当に胸が苦しい。愛しいの上をいく言葉なんて知らない私は、結局涙を溢した。
『だって…これ以上、真君を好きにさせてどうするつもりなの』
この人に恋してから、10年も近いのに。
未だに恋を自覚した瞬間のような熱い想いが沸き上がる。
そういう瞬間を、くれる。
「どうするって…これからも、俺と生きて貰うつもりだ。それに、新婚旅行はこれが最初で最期だろう?悔いを残させるつもりはない」
少し意地悪な微笑は、“これが最初で最期”という部分への自信。
その通りになる、と。確信している自分もいる。
『…私は、私に、そして真君に、改めて誓うよ。病めるときも健やかなる時も、貴方を愛して寄り添い、共に在ること。例え、死が訪れても、この想いだけは永久であると』
「…狡いのはお前の方だわ。ほんと、俺のこと好きすぎて馬鹿なとこ、全然変わらねえ」
マーメイドドレスなんか着てるからか。
私は、彼のためなら聲でも脚でも命ですら投げ出せると思っている。
彼は彼で、聲がなくても脚がなくても、私のことを愛してくれるんだと思う。例え、泡になっても。
…まあ、これがウェディングフォト撮影中のことだったから。
一部始終から何枚か撮られていて。
なんてコメントするのがいいか解らないけど、一番いい写真だった。真君の眼差しが絶妙。日の光の入り具合も合間って。
『私は王子様と結婚したんだな』
そう痛感した。
4日目終.