短編①
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《類が友を呼んだ話》∶花宮
[花宮視点]
霧崎第一高校男子バスケ部のマネージャーは、性格が悪い。
この選手にこのマネージャー、類は友を呼ぶ、まさしくそれ。
『カズ、このガム死ぬほど不味いんだけど』
「やっぱ?ザキも不味いって言ってたし、食うのやめとこ」
『毒味に使いやがったな。ヒロも知ってたなら言えよ!』
「折角だし巻き添えにしてやろうと思って」
『…最悪。マコのチョコのがマシだわ…。マコ、今持ってる?』
「持ってたが今食べ終えた。残念だったな」
『わざとだろ!』
こんな口調でこんな扱いだが、俺らのマネージャーは れっきとした女だ。
ただ、身長170オーバーなのと、いつもパーカーのフードを目深に被ってるせいで、男と間違えられるのは日常茶飯事である。
『あー、もう本当後味悪いわ』
「…、何騒いでんの?」
『ケン聞いてよ、ガムがくれたカズが激マズ』
「逆だね。サルミアッキ?」
「瀬戸はやっぱ知ってたねー」
「…寧ろよく手にいれたと思うけど。……飲みかけの缶コーヒーでよければあるよ?」
『欲しい。割とマジで欲しい』
「ダメだ、イチゴ飴をやるからこっちにしろ」
『流石コウ、ありがたく貰うわ。てかもうちょっと早く出して』
「…悶絶するお前がなかなか可愛くてな」
『やめろ気持ち悪い』
「古橋も雨月もイチゴ飴がくっそ似合わねー」
『黙れ前髪ガム男』
それでも部内では人気だし、康次郎みたいに露骨に好意を寄せる奴もいる。
健太郎だって、未開封のコーヒーを持ってたのに、わざと開封済を勧めていた。
そんないつも通りの茶番をした帰り道、イレギュラーは起こる。
「先輩の敵!」
最後尾を歩いていた雨月より、さらに後ろから声がした。
振り返れば、角材らしいものを振り上げた他校の生徒が立っていて、雨月目掛けて振り下ろそうとしている。
『あ?人違いじゃあないですかぁ?』
避けろ、という前に雨月は距離をとっていて、先頭にいた俺の横まで来た。
「やっぱ近道だからって路地裏なんて通るもんじゃないねー。何人いんの?」
「…5、6人じゃないか?」
「人には正々堂々とか言っておいて不意討ちか」
先程の生徒の後ろから、更に数人の生徒が出てくる。
「ふざけんな!お前らが、お前らが最初にあんな卑怯なやり方しやがったから!」
『じゃあ正統なバスケでもう一回挑んでこいよ。イイコちゃんの軸までぶれてたら潰しがいもねーっての』
「な、ならお前、俺と1on1しろよ!」
『は?………くっは、いいよ!楽しませてくれんだろーな?』
面倒くさいことになった。
今まで他校のこういうのは基本スルーしてきたし、コートの外で争うのは利がない。
まして、
(あーあ、こいつ愉しそうに笑いやがって)
雨月が、口角をつり上げている。
ろくなことにならない。
路地裏を抜けて、近くにあったストバスコート。
相手は放置されていたボールを適当に拝借して、軽くウォーミングアップをしている。
「ねぇマジでやんの?帰るか、せめて俺らが相手するよ?」
『いーよ、こんなとこで怪我したり手の内晒してもアホらしい。それに、ご指名だからさ?』
雨月もストレッチをして、肘にサポーターを巻いた。
「……」
『大丈夫、問題は起こさないから』
怪訝な俺に気づいたんだろう、ケラケラと笑って見せる。
最初に述べたが、こいつはマネージャーで女だ。ただ、今回も例外なく男だと思われていて、それも面白くない故の行動だ。
だから、
『マコ、パーカー持ってて。で、ジャージ貸してよ』
わざと、いつも着ているパーカーを脱いだ。
整った目元と、下の方で結わえたポニーテールが現れる。
「っ、女?」
『そ、しかもマネージャー』
「おちょくってんのか!選手出せ!」
『最初に指名したのそっちだろ。それに、お前なら私で十分だ。先攻くれてやる』
そのままコートに出れば、挑発された相手は簡単に動いた。
「こんの!」
『遅すぎ』
1度抜いた筈の雨月に追い付かれ、相手はシュートを外した。
奪ったボールを持って走り、相手をかわしながらのレイアップを雨月が決める。
次も、同じ展開でレイアップ。
『しかも単調』
3ターン目も相手ゴール下で奪い返して、今度は全力で投げる。
「はっ!外してんじゃねーか」
バックボードに当たったボールを取ろうと走る相手を鼻で笑った。
あれは、雨月の得意技。
『だろうと思ってさー』
どこに跳ね返るかは計算済。
投げると同時に走り出した足はすぐにボールに追い付いて、背中まで迫った相手をダブルクラッチでかわしながらのシュート。
『え、なに、技もないの?』
4ターン目、粘る相手に攻防が続いたが、雨月がバックステップを踏んでフローターショットを放つ。
『王手ですけど、本気出してそれ?』
「ふ、っざけんな!」
『ラフプレイをするにも不器用すぎたな。見え見え』
激情と焦りから、相手は横からエルボーを繰り出した。
普段やるがわの康次郎が走り出しそうになるのを止める。
あいつは本当に見えてるし、決めるから。
横から飛んでくる肘を身を翻して避けて、軽くリズムを崩してステップすれば。つられて相手は転んだ。
『はい、おーわり』
その場、コートの真ん中から放ったシュートはスルリとリングをくぐった。
5対0の完勝。
「…くっそ!お前らに肘を壊されてなければ!」
『ふ、あっはははははは!マネージャーに負けた言い訳がそれ!?だっせ!』
「…つ!」
『じゃあもっとイイコト教えてあげる。私、中学でバスケしてたけど、そんとき利き腕の右肘壊れてさ、左でプレイしてたの!』
「…う、嘘だ」
『嘘じゃねぇよ?信じなくてもいいけど、もう帰るから。な、バスケしたら事故なんてなくても君らの負けだっただろ?マネージャーに勝てないのに選手に勝てるわけないじゃん』
呆然とする相手をおいて雨月はコートから戻ってくる。
『マコ、パーカーとジャージありがと。洗って返すわ』
「構わねーよ」
そのやり取りの背後、別の生徒がまた殴りかかって来た。
ゴッ、という音が響く。
「おい、勝負ついてんだろ。往生際悪いな」
ザキが、振り下ろされた角材をバッグで受けて押し返した。
その角材に一哉が足をかけてへし折る。
「それともなに、その頭はババロアすら詰まってないの?」
その威圧で1人は退いていくが、反対から素手で殴りかかってくるやつがいる。
「…本当うぜぇな。」
ガッ、と。雨月に振りかざされた拳を腕で受けた。
「さっきからこいつばっか狙いやがって。バスケじゃ敵わねーなら武力ってか。どっちが不真面目だよ、蛆虫が」
「……そこまで。今殴りかかった動画撮ったし、顔も映ってる。学校に出されたくなかったら全員帰れ」
「二度と俺達の前に現れるな。故意に現れたら…何も保証しない」
康次郎と健太郎の機転で全員散っていく。
ひとまず胸を撫で下ろした。
「相変わらず雨月無双は健在だな」
「怪我はないか?」
『私は。ヒロとカズは?』
「大丈夫大丈夫」
『良かった。マコも、腕…』
「何ともない」
『ならいいや。あースッキリした』
「本当、下手したら俺らだって負けかねないのに。馬鹿な奴もいたものだ」
「吠え面2回も拝めるなんてな」
「……帰るぞ。長居しても面倒だ」
うちのマネージャーは性格が悪い。
本当に類は友をよんだと思う。
女だし、口も悪いが、右肘が悪いのも事実。
中学の女バスで全国制覇した実力もある。
それから、
『マコ、腕本当に怪我ないか?』
「…ほら、痣にもなってねぇ」
『そうか。……ありがとな』
たまに可愛い。
Fin
「折角顔だけは綺麗なんだし、傷になって長所が1つもないなんて可哀想だろ」
『おいマユ、さっきの感謝は取り消すぞ』
Fin.
[花宮視点]
霧崎第一高校男子バスケ部のマネージャーは、性格が悪い。
この選手にこのマネージャー、類は友を呼ぶ、まさしくそれ。
『カズ、このガム死ぬほど不味いんだけど』
「やっぱ?ザキも不味いって言ってたし、食うのやめとこ」
『毒味に使いやがったな。ヒロも知ってたなら言えよ!』
「折角だし巻き添えにしてやろうと思って」
『…最悪。マコのチョコのがマシだわ…。マコ、今持ってる?』
「持ってたが今食べ終えた。残念だったな」
『わざとだろ!』
こんな口調でこんな扱いだが、俺らのマネージャーは れっきとした女だ。
ただ、身長170オーバーなのと、いつもパーカーのフードを目深に被ってるせいで、男と間違えられるのは日常茶飯事である。
『あー、もう本当後味悪いわ』
「…、何騒いでんの?」
『ケン聞いてよ、ガムがくれたカズが激マズ』
「逆だね。サルミアッキ?」
「瀬戸はやっぱ知ってたねー」
「…寧ろよく手にいれたと思うけど。……飲みかけの缶コーヒーでよければあるよ?」
『欲しい。割とマジで欲しい』
「ダメだ、イチゴ飴をやるからこっちにしろ」
『流石コウ、ありがたく貰うわ。てかもうちょっと早く出して』
「…悶絶するお前がなかなか可愛くてな」
『やめろ気持ち悪い』
「古橋も雨月もイチゴ飴がくっそ似合わねー」
『黙れ前髪ガム男』
それでも部内では人気だし、康次郎みたいに露骨に好意を寄せる奴もいる。
健太郎だって、未開封のコーヒーを持ってたのに、わざと開封済を勧めていた。
そんないつも通りの茶番をした帰り道、イレギュラーは起こる。
「先輩の敵!」
最後尾を歩いていた雨月より、さらに後ろから声がした。
振り返れば、角材らしいものを振り上げた他校の生徒が立っていて、雨月目掛けて振り下ろそうとしている。
『あ?人違いじゃあないですかぁ?』
避けろ、という前に雨月は距離をとっていて、先頭にいた俺の横まで来た。
「やっぱ近道だからって路地裏なんて通るもんじゃないねー。何人いんの?」
「…5、6人じゃないか?」
「人には正々堂々とか言っておいて不意討ちか」
先程の生徒の後ろから、更に数人の生徒が出てくる。
「ふざけんな!お前らが、お前らが最初にあんな卑怯なやり方しやがったから!」
『じゃあ正統なバスケでもう一回挑んでこいよ。イイコちゃんの軸までぶれてたら潰しがいもねーっての』
「な、ならお前、俺と1on1しろよ!」
『は?………くっは、いいよ!楽しませてくれんだろーな?』
面倒くさいことになった。
今まで他校のこういうのは基本スルーしてきたし、コートの外で争うのは利がない。
まして、
(あーあ、こいつ愉しそうに笑いやがって)
雨月が、口角をつり上げている。
ろくなことにならない。
路地裏を抜けて、近くにあったストバスコート。
相手は放置されていたボールを適当に拝借して、軽くウォーミングアップをしている。
「ねぇマジでやんの?帰るか、せめて俺らが相手するよ?」
『いーよ、こんなとこで怪我したり手の内晒してもアホらしい。それに、ご指名だからさ?』
雨月もストレッチをして、肘にサポーターを巻いた。
「……」
『大丈夫、問題は起こさないから』
怪訝な俺に気づいたんだろう、ケラケラと笑って見せる。
最初に述べたが、こいつはマネージャーで女だ。ただ、今回も例外なく男だと思われていて、それも面白くない故の行動だ。
だから、
『マコ、パーカー持ってて。で、ジャージ貸してよ』
わざと、いつも着ているパーカーを脱いだ。
整った目元と、下の方で結わえたポニーテールが現れる。
「っ、女?」
『そ、しかもマネージャー』
「おちょくってんのか!選手出せ!」
『最初に指名したのそっちだろ。それに、お前なら私で十分だ。先攻くれてやる』
そのままコートに出れば、挑発された相手は簡単に動いた。
「こんの!」
『遅すぎ』
1度抜いた筈の雨月に追い付かれ、相手はシュートを外した。
奪ったボールを持って走り、相手をかわしながらのレイアップを雨月が決める。
次も、同じ展開でレイアップ。
『しかも単調』
3ターン目も相手ゴール下で奪い返して、今度は全力で投げる。
「はっ!外してんじゃねーか」
バックボードに当たったボールを取ろうと走る相手を鼻で笑った。
あれは、雨月の得意技。
『だろうと思ってさー』
どこに跳ね返るかは計算済。
投げると同時に走り出した足はすぐにボールに追い付いて、背中まで迫った相手をダブルクラッチでかわしながらのシュート。
『え、なに、技もないの?』
4ターン目、粘る相手に攻防が続いたが、雨月がバックステップを踏んでフローターショットを放つ。
『王手ですけど、本気出してそれ?』
「ふ、っざけんな!」
『ラフプレイをするにも不器用すぎたな。見え見え』
激情と焦りから、相手は横からエルボーを繰り出した。
普段やるがわの康次郎が走り出しそうになるのを止める。
あいつは本当に見えてるし、決めるから。
横から飛んでくる肘を身を翻して避けて、軽くリズムを崩してステップすれば。つられて相手は転んだ。
『はい、おーわり』
その場、コートの真ん中から放ったシュートはスルリとリングをくぐった。
5対0の完勝。
「…くっそ!お前らに肘を壊されてなければ!」
『ふ、あっはははははは!マネージャーに負けた言い訳がそれ!?だっせ!』
「…つ!」
『じゃあもっとイイコト教えてあげる。私、中学でバスケしてたけど、そんとき利き腕の右肘壊れてさ、左でプレイしてたの!』
「…う、嘘だ」
『嘘じゃねぇよ?信じなくてもいいけど、もう帰るから。な、バスケしたら事故なんてなくても君らの負けだっただろ?マネージャーに勝てないのに選手に勝てるわけないじゃん』
呆然とする相手をおいて雨月はコートから戻ってくる。
『マコ、パーカーとジャージありがと。洗って返すわ』
「構わねーよ」
そのやり取りの背後、別の生徒がまた殴りかかって来た。
ゴッ、という音が響く。
「おい、勝負ついてんだろ。往生際悪いな」
ザキが、振り下ろされた角材をバッグで受けて押し返した。
その角材に一哉が足をかけてへし折る。
「それともなに、その頭はババロアすら詰まってないの?」
その威圧で1人は退いていくが、反対から素手で殴りかかってくるやつがいる。
「…本当うぜぇな。」
ガッ、と。雨月に振りかざされた拳を腕で受けた。
「さっきからこいつばっか狙いやがって。バスケじゃ敵わねーなら武力ってか。どっちが不真面目だよ、蛆虫が」
「……そこまで。今殴りかかった動画撮ったし、顔も映ってる。学校に出されたくなかったら全員帰れ」
「二度と俺達の前に現れるな。故意に現れたら…何も保証しない」
康次郎と健太郎の機転で全員散っていく。
ひとまず胸を撫で下ろした。
「相変わらず雨月無双は健在だな」
「怪我はないか?」
『私は。ヒロとカズは?』
「大丈夫大丈夫」
『良かった。マコも、腕…』
「何ともない」
『ならいいや。あースッキリした』
「本当、下手したら俺らだって負けかねないのに。馬鹿な奴もいたものだ」
「吠え面2回も拝めるなんてな」
「……帰るぞ。長居しても面倒だ」
うちのマネージャーは性格が悪い。
本当に類は友をよんだと思う。
女だし、口も悪いが、右肘が悪いのも事実。
中学の女バスで全国制覇した実力もある。
それから、
『マコ、腕本当に怪我ないか?』
「…ほら、痣にもなってねぇ」
『そうか。……ありがとな』
たまに可愛い。
Fin
「折角顔だけは綺麗なんだし、傷になって長所が1つもないなんて可哀想だろ」
『おいマユ、さっきの感謝は取り消すぞ』
Fin.