短編①
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《モーニングコール》:瀬戸
……瀬戸視点……
「お前さー、マジで朝とかどうやって起きてんの?」
部活中、ザキにキレながら叩き起こされた。
だってまあ、起きたくないし。
「起きる必要性があれば起きるよ」
「練習は必用ねーのかよ!」
「少なくともフルでやる必要性は感じてない。ただ、花宮を敵に回すとろくなことないからさ」
「……腑に落ちねーけど、花宮がミーティングするから起こせって」
「あー……ワックス取って。起きるから」
「自分でやれよ!」
寝るのは好きだ。
考えなくていいし、何もしなくても時間が経つから。
それでも、毎朝遅刻しない程度には登校できてるのは、彼女のおかげ。
『健ちゃん、おはよう。今日もいい天気だよ』
「おはよ。そうなの?天気予報雨だったのに」
『お昼過ぎからになったみたいだよ。傘、持って行ってね』
「ん、んー…」
『こら、寝ないの。布団から出て、顔洗ってきて』
毎朝6時に電話してくれる彼女は、恋人の彼女、ではない。
向かいの家に住んでいた3つ年上の幼なじみだ。
彼女、雨月は、小学校に上がるかそこらからの付き合いで、いつも本当の弟のように可愛がってくれた。
俺も兄とは年が離れていて、本当の姉のように頼ったし、なついたと思う。
それが、いつの間にか、一人暮らしをする雨月に電話で起こして貰うくらい甘えているのだから、本当の姉ではこうはならないと苦笑するよりない。
『健ちゃんさ、一人で起きれないと困ることあるでしょ?合宿とか、修学旅行とか。ちょっと練習しよ?』
「やだ」
『健ちゃんは甘えん坊だもんねー』
「俺は、」
雨月の声で起きたいだけ。
その言葉を飲み込んだ。言ったって、彼女は子供の戯れ言としか思わない。
『あ、会社着いちゃった。ちゃんと起きた?学校、気を付けて行ってらっしゃい』
「起きたよ。雨月もね。仕事頑張って」
『ありがと、またね』
雨月のモーニングコールは今年3年目。俺が高校に入ったころから両親の出勤時間が早まって、俺が起きる時間にはもう家に居なかった。
朝のホームルームに遅刻ばっかしてる、って言ったら、専門学校に行ってた雨月が電話してくれるようになって、俺は高3で彼女が就職した今もまだ続いてる。
彼女の仕事も朝早いらしく、通勤中の車内で電話してくれてるらしい。
(いつまでたっても弟なんだよな)
彼女は多分。俺を世話の焼ける可愛い弟、くらいにしか思ってない。
まあ、これだけ甘えてるんだし、対等には思えないか。
(というか、雨月と同じ大学行こうと思ってたのに)
彼女は頭が良かったのだ。
この霧崎第一の卒業生だし、3年間主席だったって聞いてる。
花宮と比べても優劣つけがたいだろう。
でも、大学進学はしなかった。
"どの学科にも興味ないし、勉強はしたくなったらしたいものをするから"
なんて言って、ビジネススクールへ入学。
実際、高所得で年間休日も多い会社に就職して、気になることはとことん勉強している彼女は、その辺の大学生より遥かに頭がいいし、賢い。
(進路、どうでもよくなった…)
そんな回想をしてたら午前の授業が終わった。
「瀬戸、昼だぞ起き……起きてる⁉」
「うん。起きてる」
「だから今日雨なんだな、きっと」
「さっきから土砂降りだもんねー」
あ、傘忘れた。
…
……
………
部活が始まって、未だ土砂降りの外にうんざりした。
折角雨月が雨だって教えてくれてたのに、玄関に置いてあるだろう折り畳み傘を思ってまたうんざり。
(……寝よ。基礎練したしミーティングもないし)
いつも以上に気が乗らない練習を尻目に、ベンチに横になってアイマスクがわりにタオルをかけた。
『健ちゃん、おはよう』
バチっと目が覚めた。
だって、聞こえる筈のない、雨月の声がしたから。
ここは体育館のはず。
「おお、本当に一発で起きた」
「練習おわる前に起きて欲しかったねー」
口々に喋るいつものメンバーの端、見間違える訳もない。
「……なんでいるの」
スーツ姿の雨月。
姿を見るのは何ヵ月ぶりだろうか。
「雨酷いから迎えに来たんだとよ」
彼女は花宮の説明に軽く頷いて、
『ちょうどね、近くで研修があったの。もう終わるみたいだし、待ってるから一緒に帰ろう?』
やんわり笑った。
「…ん。」
久しぶりに会えたのは嬉しい。とても嬉しいけど、もっとちゃんとしてるとこ見せたかった。
『健ちゃんって、部活中も寝ちゃうんだね』
「…だって、気が乗らないから」
今、彼女は車の助手席に俺を乗せて、遠くもない家路を運転している。
『またそんなこという。花宮君、だっけ?あの子面白いじゃない』
「……話したの?」
『少しね。なんか私と同じ匂いのする子だったよ。彼、ひねくれてるでしょ』
「まあね」
花宮も雨月も、頭が良すぎて周りに理解されない。
花宮においては、周りに合わせる方法を知っていながら我が道をゆくタイプだけど、自分の守り方を心得てる。
一方雨月は、理解されないから自分を出さない、他人と関わらないことを選んだタイプだ。
『あの子、きっと健ちゃんに凄く助けられてるよ』
「違う。あいつは、都合のいい駒が欲しいだけ」
『そこが彼のひねくれてるとこだね。そんな自分中心の世界にいるあの子が、部活中寝てる健ちゃんを黙認してるんだよ。お互いが理解の範疇にいるって解ってるんじゃない?』
「……花宮のことで俺が理解できることなんか、ほとんどないよ」
それは、我ながら悔しい返事だ。
花宮を理解できない俺は、雨月の見ている世界も殆んど理解できない。
彼女に追い付こうと藻掻いているのに、ちっとも距離が縮まらないまま。
ちらりとみた横顔は、何故か少し悲し気だった。
吃驚して"雨月?"と声を掛ければ、はっとしたように笑う。
『あの子もね、完全に理解されようなんて思ってないよ。でも、解ろうとしてくれる人って、案外嬉しいものだから』
私がそうだったし。
あの子も、の、「も」は、彼女自身らしかった。
『健ちゃんって、物覚えがいいし、物分かりもいいからさ。昔から私の飛躍する話とか討論に付き合ってくれたでしょ?ああいうの、結構疎まれちゃうのよ』
確かに彼女の話は飛躍する。
道にバッタがいたとして、話題は食糧難だ。これはバッタの大量発生で小麦がとれなくなったからだが、その説明は行われない。
同じバッタなら、裁判のありかたに飛んだこともある。大昔のヨーロッパで、バッタだかキリギリスに尋問が行われた話からだが、その解説はやっぱりされない。
そのまま、死刑制度の問題だとか医療倫理だとか、とにかく若い人が楽しく話す話題が出ることは希だった。
「…俺は、…雨月の話、好きだったよ。学校の奴じゃできない話が沢山できた。花宮も、嫌いじゃない」
花宮を付け足したのは照れ隠しだ。
実際花宮の話も飛躍するが、その度彼女を思い出して"きっとここから飛んだんだろうな"なんて、普通に話している。
……ああ、花宮が話すの楽だって前に言ってたのはそれか。
『まあ、健ちゃんはあと一年、学校生活楽しみなよ』
「…雨月がいたら楽しいのに」
『私はもう高校生にはなれないよ、健ちゃんは本当に甘えん坊ね』
「俺は、」
いつも一緒にいたい。
伝えてしまおうかと思った時。彼女の車が停まる。
『お家、ついたよ。部活お疲れ、ゆっくりおやすみ』
朝と同じように、言いかけた言葉は到着に遮られた。
でも、もう、もどかしくて嫌だ。
「…ねえ、雨月。俺は、もっと雨月の声を聞いていたい。もっと会いたい、一緒にいたい、近くなりたい……同じ世界が見たい、追い付きたい…ねえ、雨月。俺は…!」
欲求を口にしたら、歯止めが効かなくなった。
その癖、欲求に塗りつぶされた感情は言葉にならない。
なんでこんなに必死なのか、あと一息なのに……。
『…健ちゃん。私のシフトは水曜と日曜休みで退勤は基本16時。家はここから車で20分。そこから職場まで30分。他に必要な情報はある?』
「…一番大事な事が欠けてるじゃん」
何でも、全部見透かして解ってる癖に、彼女は悪戯に笑うばかり。
「会いに行っていいの?」
『当然、大前提じゃない。それに、健ちゃんだって大事なことが欠けたままだよ?』
「……」
『ふふ、待ってるよ。健ちゃんが言ってくれるの、待ってる』
そして、やっぱり悪戯に笑いながら俺の頭をゆるゆると撫でた。
「…子供扱いしないでよ」
『一人で起きれないのに?』
「俺は、雨月の声で起きたいだけ」
朝、飲み込んだ言葉を吐き出して。
横から彼女を抱きすくめた。
「……雨月が大好きなんだ。君の声無しに俺の朝は始まらないよ」
これには、彼女も少し照れてくれたらしい。
(この"も"が、俺を含んでいるのは隠していたい)
『…待ってるって言ったじゃん…早いよ』
「ごめん」
『……明日、10コール以内に起きれたら、返事してあげる』
だから、早く起きてね。
はにかみながら俺の背中に腕を回してくれた。
『健ちゃん、おはよう』
「おはよう。間に合った?」
『まさかワンコールで起きてくれるなんて思わなかったよ』
「それは俺もびっくりだ。じゃあ、約束通り」
『そうだね。ふふ、私も健ちゃん大好き』
「……、良かった」
『ふふ、解ってた癖に』
「……」
『それにね、最初から健ちゃんは私と同じ世界を見てたし、私の傍に居てくれたんだよ。答えなんて決まってるじゃない』
「嘘。だって、俺は」
『健ちゃん、私を信じてよ。こんなに、健ちゃんを好きになった私を』
「…っ!」
翌日の朝、眠気は一発で吹き飛んで。
安心しきった俺は、昨日とはうって変わって授業を全部寝てた。
『健ちゃん、日曜はどっかデートしようか』
Fin.
……瀬戸視点……
「お前さー、マジで朝とかどうやって起きてんの?」
部活中、ザキにキレながら叩き起こされた。
だってまあ、起きたくないし。
「起きる必要性があれば起きるよ」
「練習は必用ねーのかよ!」
「少なくともフルでやる必要性は感じてない。ただ、花宮を敵に回すとろくなことないからさ」
「……腑に落ちねーけど、花宮がミーティングするから起こせって」
「あー……ワックス取って。起きるから」
「自分でやれよ!」
寝るのは好きだ。
考えなくていいし、何もしなくても時間が経つから。
それでも、毎朝遅刻しない程度には登校できてるのは、彼女のおかげ。
『健ちゃん、おはよう。今日もいい天気だよ』
「おはよ。そうなの?天気予報雨だったのに」
『お昼過ぎからになったみたいだよ。傘、持って行ってね』
「ん、んー…」
『こら、寝ないの。布団から出て、顔洗ってきて』
毎朝6時に電話してくれる彼女は、恋人の彼女、ではない。
向かいの家に住んでいた3つ年上の幼なじみだ。
彼女、雨月は、小学校に上がるかそこらからの付き合いで、いつも本当の弟のように可愛がってくれた。
俺も兄とは年が離れていて、本当の姉のように頼ったし、なついたと思う。
それが、いつの間にか、一人暮らしをする雨月に電話で起こして貰うくらい甘えているのだから、本当の姉ではこうはならないと苦笑するよりない。
『健ちゃんさ、一人で起きれないと困ることあるでしょ?合宿とか、修学旅行とか。ちょっと練習しよ?』
「やだ」
『健ちゃんは甘えん坊だもんねー』
「俺は、」
雨月の声で起きたいだけ。
その言葉を飲み込んだ。言ったって、彼女は子供の戯れ言としか思わない。
『あ、会社着いちゃった。ちゃんと起きた?学校、気を付けて行ってらっしゃい』
「起きたよ。雨月もね。仕事頑張って」
『ありがと、またね』
雨月のモーニングコールは今年3年目。俺が高校に入ったころから両親の出勤時間が早まって、俺が起きる時間にはもう家に居なかった。
朝のホームルームに遅刻ばっかしてる、って言ったら、専門学校に行ってた雨月が電話してくれるようになって、俺は高3で彼女が就職した今もまだ続いてる。
彼女の仕事も朝早いらしく、通勤中の車内で電話してくれてるらしい。
(いつまでたっても弟なんだよな)
彼女は多分。俺を世話の焼ける可愛い弟、くらいにしか思ってない。
まあ、これだけ甘えてるんだし、対等には思えないか。
(というか、雨月と同じ大学行こうと思ってたのに)
彼女は頭が良かったのだ。
この霧崎第一の卒業生だし、3年間主席だったって聞いてる。
花宮と比べても優劣つけがたいだろう。
でも、大学進学はしなかった。
"どの学科にも興味ないし、勉強はしたくなったらしたいものをするから"
なんて言って、ビジネススクールへ入学。
実際、高所得で年間休日も多い会社に就職して、気になることはとことん勉強している彼女は、その辺の大学生より遥かに頭がいいし、賢い。
(進路、どうでもよくなった…)
そんな回想をしてたら午前の授業が終わった。
「瀬戸、昼だぞ起き……起きてる⁉」
「うん。起きてる」
「だから今日雨なんだな、きっと」
「さっきから土砂降りだもんねー」
あ、傘忘れた。
…
……
………
部活が始まって、未だ土砂降りの外にうんざりした。
折角雨月が雨だって教えてくれてたのに、玄関に置いてあるだろう折り畳み傘を思ってまたうんざり。
(……寝よ。基礎練したしミーティングもないし)
いつも以上に気が乗らない練習を尻目に、ベンチに横になってアイマスクがわりにタオルをかけた。
『健ちゃん、おはよう』
バチっと目が覚めた。
だって、聞こえる筈のない、雨月の声がしたから。
ここは体育館のはず。
「おお、本当に一発で起きた」
「練習おわる前に起きて欲しかったねー」
口々に喋るいつものメンバーの端、見間違える訳もない。
「……なんでいるの」
スーツ姿の雨月。
姿を見るのは何ヵ月ぶりだろうか。
「雨酷いから迎えに来たんだとよ」
彼女は花宮の説明に軽く頷いて、
『ちょうどね、近くで研修があったの。もう終わるみたいだし、待ってるから一緒に帰ろう?』
やんわり笑った。
「…ん。」
久しぶりに会えたのは嬉しい。とても嬉しいけど、もっとちゃんとしてるとこ見せたかった。
『健ちゃんって、部活中も寝ちゃうんだね』
「…だって、気が乗らないから」
今、彼女は車の助手席に俺を乗せて、遠くもない家路を運転している。
『またそんなこという。花宮君、だっけ?あの子面白いじゃない』
「……話したの?」
『少しね。なんか私と同じ匂いのする子だったよ。彼、ひねくれてるでしょ』
「まあね」
花宮も雨月も、頭が良すぎて周りに理解されない。
花宮においては、周りに合わせる方法を知っていながら我が道をゆくタイプだけど、自分の守り方を心得てる。
一方雨月は、理解されないから自分を出さない、他人と関わらないことを選んだタイプだ。
『あの子、きっと健ちゃんに凄く助けられてるよ』
「違う。あいつは、都合のいい駒が欲しいだけ」
『そこが彼のひねくれてるとこだね。そんな自分中心の世界にいるあの子が、部活中寝てる健ちゃんを黙認してるんだよ。お互いが理解の範疇にいるって解ってるんじゃない?』
「……花宮のことで俺が理解できることなんか、ほとんどないよ」
それは、我ながら悔しい返事だ。
花宮を理解できない俺は、雨月の見ている世界も殆んど理解できない。
彼女に追い付こうと藻掻いているのに、ちっとも距離が縮まらないまま。
ちらりとみた横顔は、何故か少し悲し気だった。
吃驚して"雨月?"と声を掛ければ、はっとしたように笑う。
『あの子もね、完全に理解されようなんて思ってないよ。でも、解ろうとしてくれる人って、案外嬉しいものだから』
私がそうだったし。
あの子も、の、「も」は、彼女自身らしかった。
『健ちゃんって、物覚えがいいし、物分かりもいいからさ。昔から私の飛躍する話とか討論に付き合ってくれたでしょ?ああいうの、結構疎まれちゃうのよ』
確かに彼女の話は飛躍する。
道にバッタがいたとして、話題は食糧難だ。これはバッタの大量発生で小麦がとれなくなったからだが、その説明は行われない。
同じバッタなら、裁判のありかたに飛んだこともある。大昔のヨーロッパで、バッタだかキリギリスに尋問が行われた話からだが、その解説はやっぱりされない。
そのまま、死刑制度の問題だとか医療倫理だとか、とにかく若い人が楽しく話す話題が出ることは希だった。
「…俺は、…雨月の話、好きだったよ。学校の奴じゃできない話が沢山できた。花宮も、嫌いじゃない」
花宮を付け足したのは照れ隠しだ。
実際花宮の話も飛躍するが、その度彼女を思い出して"きっとここから飛んだんだろうな"なんて、普通に話している。
……ああ、花宮が話すの楽だって前に言ってたのはそれか。
『まあ、健ちゃんはあと一年、学校生活楽しみなよ』
「…雨月がいたら楽しいのに」
『私はもう高校生にはなれないよ、健ちゃんは本当に甘えん坊ね』
「俺は、」
いつも一緒にいたい。
伝えてしまおうかと思った時。彼女の車が停まる。
『お家、ついたよ。部活お疲れ、ゆっくりおやすみ』
朝と同じように、言いかけた言葉は到着に遮られた。
でも、もう、もどかしくて嫌だ。
「…ねえ、雨月。俺は、もっと雨月の声を聞いていたい。もっと会いたい、一緒にいたい、近くなりたい……同じ世界が見たい、追い付きたい…ねえ、雨月。俺は…!」
欲求を口にしたら、歯止めが効かなくなった。
その癖、欲求に塗りつぶされた感情は言葉にならない。
なんでこんなに必死なのか、あと一息なのに……。
『…健ちゃん。私のシフトは水曜と日曜休みで退勤は基本16時。家はここから車で20分。そこから職場まで30分。他に必要な情報はある?』
「…一番大事な事が欠けてるじゃん」
何でも、全部見透かして解ってる癖に、彼女は悪戯に笑うばかり。
「会いに行っていいの?」
『当然、大前提じゃない。それに、健ちゃんだって大事なことが欠けたままだよ?』
「……」
『ふふ、待ってるよ。健ちゃんが言ってくれるの、待ってる』
そして、やっぱり悪戯に笑いながら俺の頭をゆるゆると撫でた。
「…子供扱いしないでよ」
『一人で起きれないのに?』
「俺は、雨月の声で起きたいだけ」
朝、飲み込んだ言葉を吐き出して。
横から彼女を抱きすくめた。
「……雨月が大好きなんだ。君の声無しに俺の朝は始まらないよ」
これには、彼女も少し照れてくれたらしい。
(この"も"が、俺を含んでいるのは隠していたい)
『…待ってるって言ったじゃん…早いよ』
「ごめん」
『……明日、10コール以内に起きれたら、返事してあげる』
だから、早く起きてね。
はにかみながら俺の背中に腕を回してくれた。
『健ちゃん、おはよう』
「おはよう。間に合った?」
『まさかワンコールで起きてくれるなんて思わなかったよ』
「それは俺もびっくりだ。じゃあ、約束通り」
『そうだね。ふふ、私も健ちゃん大好き』
「……、良かった」
『ふふ、解ってた癖に』
「……」
『それにね、最初から健ちゃんは私と同じ世界を見てたし、私の傍に居てくれたんだよ。答えなんて決まってるじゃない』
「嘘。だって、俺は」
『健ちゃん、私を信じてよ。こんなに、健ちゃんを好きになった私を』
「…っ!」
翌日の朝、眠気は一発で吹き飛んで。
安心しきった俺は、昨日とはうって変わって授業を全部寝てた。
『健ちゃん、日曜はどっかデートしようか』
Fin.