短編①
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《双葉》:花宮
‐7周年記念 フリリク‐ ペンギン様
※ヒロインの姉が出ます、今吉と恋人です
2019/09/05
*****
初めて彼女ができた。
…作った、が正しいか。告白されたことは何度かあるが、よい返事をしたのは彼女が初めてだったんだ。
甘え上手で甘やかし上手。
甘やかせば相応に可愛い反応を見せ、凭れかかればちゃんと受け止めてくれる。
そんな奴だ。
羽影雨月、って女は。
「…なあ、次の休み」
『なあに、デートしてくれるの?』
「そのつもりだが」
『やったぁ!』
久しぶりのデート。
如何せん、部活もテストも模試も…となれば中々時間が取れない。
勉強もなく、練習もない、純粋なデートは本当にご無沙汰だ。
…だから、飛び付かん勢いで喜んでる雨月の気持ちも解らなくはない。
「ただなぁ、その日は母さんが居るんだよな…」
『あ、真君は内緒にしてるんだっけ?』
「内緒でもないんだが、色々と面倒くせぇんだ」
『そっかぁ…………あ。私の家は?』
「あ?家族いんだろ?」
『いるけど、お姉ちゃんだけ。お姉ちゃんも彼氏連れて来る日だけど、大丈夫だよ』
「…大丈夫か?それ」
『お姉ちゃんと彼氏さんはリビングに居ることが多いし、私達は2階の私の部屋に居ようよ。お姉ちゃんの部屋とは廊下挟んでるし、どっちも部屋に籠ってもそんなに気にならないって』
「……ふぅん」
そりゃあ、図書館とか買い物みたいに人目が多いところよりは、二人で静かに過ごせる場所が良かったから。
(コイツは家族にオープンなんだよな)
(俺がネコ被るのも知ってるし…)
雨月が良いなら良いかと思った。
「じゃあ、雨月んちな」
『うん!駅まで迎えにいくからね!』
そう、それが一週間前の話。
『真君!』
「…おう」
『あのね、先にお姉ちゃんの彼氏さん来てるんだけど、事情話したら部屋じゃなくてリビングでデートしてくれるって』
「お前んとこは本当に姉妹で仲良いな」
『お互いに彼氏自慢してるだけだよ。好みも似てるから"知らないとこで同じ人を好きにならないように"って、恋バナは打ち明ける決まりなの』
雨月の1つ上の姉は、話に聞く限り雨月と仲がよく中身も見た目も似ている。
二人で撮ったプリクラを見たが、目元とかそっくりだ。
そんな会話をしながら、家の玄関前。
「………」
『別に、いつもの真君でいいんだよ?』
「でも、お前のねーちゃんだろ?彼氏までいんのに、博打打つのもな」
『………気にしないのに』
初対面の彼女の家族に、悪童のまま挨拶をするのは気が引けた。
それくらい、雨月に本気だととってくれて構わない。
長い付き合いになるんだから、第一印象くらい良くなければ。
『ただいまー』
「…お邪魔します」
「あ、雨月ー?彼氏君来たんでしょ?リビング上がって!ちょっとお茶しよう」
そう、取り繕わなければ。
と思った矢先だ。
「……っ!?」
彼女に続いてリビングに入って。
最初に目についたのは。
「お?なんや雨月ちゃんの彼氏君て花宮やったんか」
ソファーでコーヒー片手に寛ぐ今吉サンだった。
「はぁ!?なんでアンタがここに…っ」
「なんでて、ワシの彼女の家やからデートしに来てん」
「彼女の家?」
「え、妹ちゃんから聞いとんのやろ?ねーちゃんの彼氏も来よるって」
「まさかアンタだとは夢にも思わねーよバァカ!!」
完全に素で、割りと大きな声で怒濤のツッコミをしてしまった。
ハッ、と我に帰った時には。
コーヒーカップを持つ雨月と、
シュガーポットとミルクポットを持つ雨月と良く似た女が。横からきょとんと見つめていた。
「どうも、雨月の姉です。知り合いなら、翔一の説明はいらないかな?」
「あ………ああ、花宮、真です」
「今更そんな大人しゅうならんでもええやん」
「……………」
ああ、やってしまった。
コイツがいたらネコを被るも何もあったもんじゃない。
つーか雨月のねーちゃん悪趣味だな!
『私も翔一さんと真君が知り合いだったなんて、知らなかったです』
「せやろな。中学一緒やねん。部活も一緒やったわ。なぁ、花宮?」
「………ええ、そうですね…」
完全にどのペースで喋ったらいいか解らなくなった。
もう取り繕えやしないんだが、せめてなんか、敬語使うべきだろうか………
そもそも雨月は今吉サン知ってたのかよ…しかも"翔一さん"呼び…
俺が先輩だったら"真さん"的なことが起きて……今はそれどころじゃない!
「せっかくだから、少しお茶してからお部屋行きなよ。私達は今日2階行かないから」
まだここに留まらなければいけなくなった………。
仕方なく、今吉サンの正面に座る。
『あ、お姉ちゃん、お茶菓子出さなきゃ』
「そうだった。ふふ、雨月ったらね、真君来るからって張り切ってクッキー焼いたんだよ。ちょっとパサパサするけど、多目に見てあげて」
『なんでバラしちゃうの!お姉ちゃんだって翔一さんも食べるからってハート型わざわざ買いに行ったくせに!』
「言わないでよ!チョコチップもハートにしたのは雨月じゃん!」
………でも、いいこと聞けたな。
「花宮ぁ、ニヤニヤしとるで?」
「…今吉サンもデレデレしてますけど?」
「しゃあないやん。可愛ええんやもん」
「…まあ……しょうがないですね」
彼女達は、キッチンから賑やかにクッキーを運んで来た。
今吉サンの隣にねーちゃんが座り、俺の隣には雨月。
確かにハート型のクッキーで、飾りのチョコもハート型。
ねーちゃんの宣言通り、ちょっと粉っぽいが、それも愛嬌だろう。
『……どう?』
「いいんじゃね?コーヒーが進む」
『んんん、褒めてないね?』
「褒めてる褒めてる」
2枚、3枚、とクッキーに手を出せば、ねーちゃんがクスクス笑いだした。
「…?」
「あ、ごめんね、気を悪くしないで。妹から真君の話を聞いてる時、ちょっと不安だったの。頭がよくて、スポーツが出来て、部活ではキャプテンしてるし風紀委員会に入ってるって言われて…そんな模範少年みたいな人、なんか裏があると思って」
「………」
「でも、世渡りが上手なだけだね。ちゃんと人らしいとこあるし、子どもらしいとこもあるし、………雨月のことは大切にしてくれてるし。…安心した。これからも、どうぞ宜しくね」
「…はい、こちらこそ」
『ね?いつも通りで良かったでしょ?』
ニコニコと笑う雨月を見て。
納得した。
だって、俺を受け止めてくれたコイツと、好みも中身もそっくりなねーちゃんだ。
別に疎まれることもないだろう。
「うち、お母さんもこんな感じだからさ。ゆるっと遊びにおいでよ。今度夕飯でも一緒に食べよ」
「おとんは?」
『お父さんはねー、女所帯だから尻に敷かれてます。だから、婿が来るのを楽しみにしてるんです』
どうやら、両親にも心配は要らなそうだ。
………そうか、婿か…なんて思っていれば。
「あら。嫁に貰おうと思ってたんやけど、婿に来なアカンか」
「………っ!?」
「ちょお、痛い痛い!恥ずかしいからって照れ隠しに人をつねんなや!」
今吉サンも似たようなことを思ったらしい。
………コイツらの、好みが似てるは本当かもしれない。
とっっっっても不本意だが。
『お嫁に貰ってくださいよ。お姉ちゃんの小さい時の将来の夢「お嫁さんになりたい」でしたから』
「それほんま?可愛ええとこあるやん。それは叶えたれるわ。どう?」
雨月と今吉サンは揃ってねーちゃんを茶化す。
………いや、雨月は多分本気。
………今吉サンは、絶対本気だ。
雨月からは見えないかもしれないが、俺の目線では見えてしまう。
ねーちゃんの左隣に座る今吉サンが、つねっていたねーちゃんの左手をそっと取って。
薬指を、撫でているのが。
「………っ、男に二言はないよね!絶対白無垢着せてもらうんだから」
「え、ワシはドレス見たかったんやけど」
「じゃあ両方着せて!」
(よく妹と他人がいる前でいちゃつけるよな…)
高校生のくせに、結婚なんて話が出る辺り。
…いや、高校生だから言えるのか。
二十歳越えたら一気に現実感でるもんな。
なんて、ちょっと引いて見ていれば。
『…』
雨月が、俺の手をするりと撫でた。
上から被せるようにして、指同士が絡むように組んでいる。
(…ああ、なに、触発されてんの)
俺達を他所に、微笑み合う今吉サン達を見つめながら。
***
「…俺達は、そろそろお邪魔するか」
『そうだね、じゃあ、ごゆっくりー』
そんな二人を置いて、手を引かれるように、リビングを後にした。
2階の雨月の部屋。カーペットにクッションを並べて、ベッドを背凭れに隣同士で座り込む。
「………お前なあ、引き合わせといて触発されるなよ」
『だってぇ…いつもより翔一さん、いちゃつくんだもん』
「それは、俺に見せつけたいだけだな」
『………?』
「………いい性格してんだよ、あの人。ねーちゃんと雨月似てるだろ?だから、"これは自分の" "自分達はこんなに仲良し"って、アピールしてんだ」
『あー…そういう』
納得したように、1つため息をついて。
彼女はまた、隣り合う指先を絡める。
「なんだよ、お前はそんなんで満足するのか?」
肩を引いて、雨月を横から抱き締めれば。
彼女は目をぱちくりと瞬いて。
それから、くすぐったそうに笑う。
『えへへ、真君も誘発されてる』
「……まあな。ああ、俺も見るのはドレスがいい」
『…っ!』
「なんだ、それが聞きたかったんじゃねぇの?」
耳に唇を寄せて、髪を撫でながら囁けば、彼女はビクッと肩を震わせて。
挙げ句真っ赤になって息を飲んだ。
『わ、私は、まだ、けっ結婚とか、わからなくて』
「おう、生憎俺も婿とか嫁とかピンとこねぇよ。けど、似合うだろうなって思ったし…………まあ、雨月と過ごしたいと思った今日があるんだから、その延長線にはそんな未来があったらいいとも思う」
触発されたのは事実だ。
ただ、俺は雨月の姉とはいえ他人の…まして今吉サンの前でこんな台詞は本心でも言えない。
本当に、二人きりの時でなければ、俺は雨月を甘やかしてやれないんだ。
『……私もね、ずっと一緒に居たいと思ってるよ』
そういって、体の向きを変えて抱き付いてくる雨月を。
抱き締め返すなんてことは、他人の前ではできない。
羞恥というより、心を開いた相手にしか…という感じ。
繰り返しになるが、それがたとえ、将来義姉や義兄になる人だったとしても。
『それに、真君のタキシード…見たいし』
「俺、自分で言うのもなんだが白似合わないんだよな………白じゃなくて黒…せめてグレーじゃねぇと」
『そうかな?真君だって、白スーツ…………あ、』
彼女は不意に言葉を切って。
腕を伸ばして俺から距離を取った。
何事かと覗き込めば、彼女の顔と顔を押さえる手に血が滴っている。
「…このタイミングで鼻血かよ」
『うえええ、ティッシュ…。真君の服は汚れてない?大丈夫?』
「俺は大丈夫から自分の心配しろ。なんだ急に、部屋暑かったか?」
『違う………』
彼女は口と鼻をティッシュで覆って俯く。
その背中を擦ってやれば、緩く首を振った。
「じゃなきゃ、俺のタキシード想像して興奮したとしか考えられないんだが」
滅多に見ないか弱い姿だったから、少し冗談混じりに嗤って言えば。
『…ぅ』
ほんのわずか、コクンと頷いた。
頷かれて、しまった。
「…雨月、俺のこと好きすぎるだろ」
そんな告白の仕方があって堪るかと、今度はため息混じりに嗤った。
すると、彼女は鼻や口を拭って顔を上げる。
『………大好き。好きすぎて、苦しい』
ああ、血は止まったんだな、良かった。
なんて一周回って冷静な頭と。
「…っ!」
『え、あ、ティッシュ!』
嬉しさに耐え兼ねた俺の鼻粘膜が切れるのは同時で。
『大丈夫?真君こそ、部屋暑かった?……それとも、私のこと好きすぎた?』
今度は俺が俯いて鼻と口をティッシュで押さえる。
ああそうだよ!
お前の"大好き"はエコーが掛かって聞こえるし、笑顔の後ろは花弁が舞って見えるくらい、そんくらいには
「…好きだ、バァカ」
(おま、また鼻血出してんじゃねーよ、せっかく止まったのに)
(無理だよぉ…久しぶりの二人きりで、そんなの聞いたら血圧も上がるって…)
(………とりあえず口濯ぎたいな)
(洗面所は下にあるよ。行こう、私も漱ぎたい)
***
「ん?二人してどないしたん、その血ぃついたティッシュ………ああ、鼻血でも出たんか」
『はい、なので口を洗いに』
「二人同時とか何事やねん…部屋暑かったんかい。それとも…なんかしよった?」
「…なんもないんで口出さないでください」
「図星かいな。まあ、口すすがんとキスも出来へんもんなぁ?」
『…っんん!?』
「またかよ!鼻の粘膜弱すぎか馬鹿!」
「……あー、なんかする前にこの状況やったんか」
「だからアンタは黙っててください!」
Fin
‐7周年記念 フリリク‐ ペンギン様
※ヒロインの姉が出ます、今吉と恋人です
2019/09/05
*****
初めて彼女ができた。
…作った、が正しいか。告白されたことは何度かあるが、よい返事をしたのは彼女が初めてだったんだ。
甘え上手で甘やかし上手。
甘やかせば相応に可愛い反応を見せ、凭れかかればちゃんと受け止めてくれる。
そんな奴だ。
羽影雨月、って女は。
「…なあ、次の休み」
『なあに、デートしてくれるの?』
「そのつもりだが」
『やったぁ!』
久しぶりのデート。
如何せん、部活もテストも模試も…となれば中々時間が取れない。
勉強もなく、練習もない、純粋なデートは本当にご無沙汰だ。
…だから、飛び付かん勢いで喜んでる雨月の気持ちも解らなくはない。
「ただなぁ、その日は母さんが居るんだよな…」
『あ、真君は内緒にしてるんだっけ?』
「内緒でもないんだが、色々と面倒くせぇんだ」
『そっかぁ…………あ。私の家は?』
「あ?家族いんだろ?」
『いるけど、お姉ちゃんだけ。お姉ちゃんも彼氏連れて来る日だけど、大丈夫だよ』
「…大丈夫か?それ」
『お姉ちゃんと彼氏さんはリビングに居ることが多いし、私達は2階の私の部屋に居ようよ。お姉ちゃんの部屋とは廊下挟んでるし、どっちも部屋に籠ってもそんなに気にならないって』
「……ふぅん」
そりゃあ、図書館とか買い物みたいに人目が多いところよりは、二人で静かに過ごせる場所が良かったから。
(コイツは家族にオープンなんだよな)
(俺がネコ被るのも知ってるし…)
雨月が良いなら良いかと思った。
「じゃあ、雨月んちな」
『うん!駅まで迎えにいくからね!』
そう、それが一週間前の話。
『真君!』
「…おう」
『あのね、先にお姉ちゃんの彼氏さん来てるんだけど、事情話したら部屋じゃなくてリビングでデートしてくれるって』
「お前んとこは本当に姉妹で仲良いな」
『お互いに彼氏自慢してるだけだよ。好みも似てるから"知らないとこで同じ人を好きにならないように"って、恋バナは打ち明ける決まりなの』
雨月の1つ上の姉は、話に聞く限り雨月と仲がよく中身も見た目も似ている。
二人で撮ったプリクラを見たが、目元とかそっくりだ。
そんな会話をしながら、家の玄関前。
「………」
『別に、いつもの真君でいいんだよ?』
「でも、お前のねーちゃんだろ?彼氏までいんのに、博打打つのもな」
『………気にしないのに』
初対面の彼女の家族に、悪童のまま挨拶をするのは気が引けた。
それくらい、雨月に本気だととってくれて構わない。
長い付き合いになるんだから、第一印象くらい良くなければ。
『ただいまー』
「…お邪魔します」
「あ、雨月ー?彼氏君来たんでしょ?リビング上がって!ちょっとお茶しよう」
そう、取り繕わなければ。
と思った矢先だ。
「……っ!?」
彼女に続いてリビングに入って。
最初に目についたのは。
「お?なんや雨月ちゃんの彼氏君て花宮やったんか」
ソファーでコーヒー片手に寛ぐ今吉サンだった。
「はぁ!?なんでアンタがここに…っ」
「なんでて、ワシの彼女の家やからデートしに来てん」
「彼女の家?」
「え、妹ちゃんから聞いとんのやろ?ねーちゃんの彼氏も来よるって」
「まさかアンタだとは夢にも思わねーよバァカ!!」
完全に素で、割りと大きな声で怒濤のツッコミをしてしまった。
ハッ、と我に帰った時には。
コーヒーカップを持つ雨月と、
シュガーポットとミルクポットを持つ雨月と良く似た女が。横からきょとんと見つめていた。
「どうも、雨月の姉です。知り合いなら、翔一の説明はいらないかな?」
「あ………ああ、花宮、真です」
「今更そんな大人しゅうならんでもええやん」
「……………」
ああ、やってしまった。
コイツがいたらネコを被るも何もあったもんじゃない。
つーか雨月のねーちゃん悪趣味だな!
『私も翔一さんと真君が知り合いだったなんて、知らなかったです』
「せやろな。中学一緒やねん。部活も一緒やったわ。なぁ、花宮?」
「………ええ、そうですね…」
完全にどのペースで喋ったらいいか解らなくなった。
もう取り繕えやしないんだが、せめてなんか、敬語使うべきだろうか………
そもそも雨月は今吉サン知ってたのかよ…しかも"翔一さん"呼び…
俺が先輩だったら"真さん"的なことが起きて……今はそれどころじゃない!
「せっかくだから、少しお茶してからお部屋行きなよ。私達は今日2階行かないから」
まだここに留まらなければいけなくなった………。
仕方なく、今吉サンの正面に座る。
『あ、お姉ちゃん、お茶菓子出さなきゃ』
「そうだった。ふふ、雨月ったらね、真君来るからって張り切ってクッキー焼いたんだよ。ちょっとパサパサするけど、多目に見てあげて」
『なんでバラしちゃうの!お姉ちゃんだって翔一さんも食べるからってハート型わざわざ買いに行ったくせに!』
「言わないでよ!チョコチップもハートにしたのは雨月じゃん!」
………でも、いいこと聞けたな。
「花宮ぁ、ニヤニヤしとるで?」
「…今吉サンもデレデレしてますけど?」
「しゃあないやん。可愛ええんやもん」
「…まあ……しょうがないですね」
彼女達は、キッチンから賑やかにクッキーを運んで来た。
今吉サンの隣にねーちゃんが座り、俺の隣には雨月。
確かにハート型のクッキーで、飾りのチョコもハート型。
ねーちゃんの宣言通り、ちょっと粉っぽいが、それも愛嬌だろう。
『……どう?』
「いいんじゃね?コーヒーが進む」
『んんん、褒めてないね?』
「褒めてる褒めてる」
2枚、3枚、とクッキーに手を出せば、ねーちゃんがクスクス笑いだした。
「…?」
「あ、ごめんね、気を悪くしないで。妹から真君の話を聞いてる時、ちょっと不安だったの。頭がよくて、スポーツが出来て、部活ではキャプテンしてるし風紀委員会に入ってるって言われて…そんな模範少年みたいな人、なんか裏があると思って」
「………」
「でも、世渡りが上手なだけだね。ちゃんと人らしいとこあるし、子どもらしいとこもあるし、………雨月のことは大切にしてくれてるし。…安心した。これからも、どうぞ宜しくね」
「…はい、こちらこそ」
『ね?いつも通りで良かったでしょ?』
ニコニコと笑う雨月を見て。
納得した。
だって、俺を受け止めてくれたコイツと、好みも中身もそっくりなねーちゃんだ。
別に疎まれることもないだろう。
「うち、お母さんもこんな感じだからさ。ゆるっと遊びにおいでよ。今度夕飯でも一緒に食べよ」
「おとんは?」
『お父さんはねー、女所帯だから尻に敷かれてます。だから、婿が来るのを楽しみにしてるんです』
どうやら、両親にも心配は要らなそうだ。
………そうか、婿か…なんて思っていれば。
「あら。嫁に貰おうと思ってたんやけど、婿に来なアカンか」
「………っ!?」
「ちょお、痛い痛い!恥ずかしいからって照れ隠しに人をつねんなや!」
今吉サンも似たようなことを思ったらしい。
………コイツらの、好みが似てるは本当かもしれない。
とっっっっても不本意だが。
『お嫁に貰ってくださいよ。お姉ちゃんの小さい時の将来の夢「お嫁さんになりたい」でしたから』
「それほんま?可愛ええとこあるやん。それは叶えたれるわ。どう?」
雨月と今吉サンは揃ってねーちゃんを茶化す。
………いや、雨月は多分本気。
………今吉サンは、絶対本気だ。
雨月からは見えないかもしれないが、俺の目線では見えてしまう。
ねーちゃんの左隣に座る今吉サンが、つねっていたねーちゃんの左手をそっと取って。
薬指を、撫でているのが。
「………っ、男に二言はないよね!絶対白無垢着せてもらうんだから」
「え、ワシはドレス見たかったんやけど」
「じゃあ両方着せて!」
(よく妹と他人がいる前でいちゃつけるよな…)
高校生のくせに、結婚なんて話が出る辺り。
…いや、高校生だから言えるのか。
二十歳越えたら一気に現実感でるもんな。
なんて、ちょっと引いて見ていれば。
『…』
雨月が、俺の手をするりと撫でた。
上から被せるようにして、指同士が絡むように組んでいる。
(…ああ、なに、触発されてんの)
俺達を他所に、微笑み合う今吉サン達を見つめながら。
***
「…俺達は、そろそろお邪魔するか」
『そうだね、じゃあ、ごゆっくりー』
そんな二人を置いて、手を引かれるように、リビングを後にした。
2階の雨月の部屋。カーペットにクッションを並べて、ベッドを背凭れに隣同士で座り込む。
「………お前なあ、引き合わせといて触発されるなよ」
『だってぇ…いつもより翔一さん、いちゃつくんだもん』
「それは、俺に見せつけたいだけだな」
『………?』
「………いい性格してんだよ、あの人。ねーちゃんと雨月似てるだろ?だから、"これは自分の" "自分達はこんなに仲良し"って、アピールしてんだ」
『あー…そういう』
納得したように、1つため息をついて。
彼女はまた、隣り合う指先を絡める。
「なんだよ、お前はそんなんで満足するのか?」
肩を引いて、雨月を横から抱き締めれば。
彼女は目をぱちくりと瞬いて。
それから、くすぐったそうに笑う。
『えへへ、真君も誘発されてる』
「……まあな。ああ、俺も見るのはドレスがいい」
『…っ!』
「なんだ、それが聞きたかったんじゃねぇの?」
耳に唇を寄せて、髪を撫でながら囁けば、彼女はビクッと肩を震わせて。
挙げ句真っ赤になって息を飲んだ。
『わ、私は、まだ、けっ結婚とか、わからなくて』
「おう、生憎俺も婿とか嫁とかピンとこねぇよ。けど、似合うだろうなって思ったし…………まあ、雨月と過ごしたいと思った今日があるんだから、その延長線にはそんな未来があったらいいとも思う」
触発されたのは事実だ。
ただ、俺は雨月の姉とはいえ他人の…まして今吉サンの前でこんな台詞は本心でも言えない。
本当に、二人きりの時でなければ、俺は雨月を甘やかしてやれないんだ。
『……私もね、ずっと一緒に居たいと思ってるよ』
そういって、体の向きを変えて抱き付いてくる雨月を。
抱き締め返すなんてことは、他人の前ではできない。
羞恥というより、心を開いた相手にしか…という感じ。
繰り返しになるが、それがたとえ、将来義姉や義兄になる人だったとしても。
『それに、真君のタキシード…見たいし』
「俺、自分で言うのもなんだが白似合わないんだよな………白じゃなくて黒…せめてグレーじゃねぇと」
『そうかな?真君だって、白スーツ…………あ、』
彼女は不意に言葉を切って。
腕を伸ばして俺から距離を取った。
何事かと覗き込めば、彼女の顔と顔を押さえる手に血が滴っている。
「…このタイミングで鼻血かよ」
『うえええ、ティッシュ…。真君の服は汚れてない?大丈夫?』
「俺は大丈夫から自分の心配しろ。なんだ急に、部屋暑かったか?」
『違う………』
彼女は口と鼻をティッシュで覆って俯く。
その背中を擦ってやれば、緩く首を振った。
「じゃなきゃ、俺のタキシード想像して興奮したとしか考えられないんだが」
滅多に見ないか弱い姿だったから、少し冗談混じりに嗤って言えば。
『…ぅ』
ほんのわずか、コクンと頷いた。
頷かれて、しまった。
「…雨月、俺のこと好きすぎるだろ」
そんな告白の仕方があって堪るかと、今度はため息混じりに嗤った。
すると、彼女は鼻や口を拭って顔を上げる。
『………大好き。好きすぎて、苦しい』
ああ、血は止まったんだな、良かった。
なんて一周回って冷静な頭と。
「…っ!」
『え、あ、ティッシュ!』
嬉しさに耐え兼ねた俺の鼻粘膜が切れるのは同時で。
『大丈夫?真君こそ、部屋暑かった?……それとも、私のこと好きすぎた?』
今度は俺が俯いて鼻と口をティッシュで押さえる。
ああそうだよ!
お前の"大好き"はエコーが掛かって聞こえるし、笑顔の後ろは花弁が舞って見えるくらい、そんくらいには
「…好きだ、バァカ」
(おま、また鼻血出してんじゃねーよ、せっかく止まったのに)
(無理だよぉ…久しぶりの二人きりで、そんなの聞いたら血圧も上がるって…)
(………とりあえず口濯ぎたいな)
(洗面所は下にあるよ。行こう、私も漱ぎたい)
***
「ん?二人してどないしたん、その血ぃついたティッシュ………ああ、鼻血でも出たんか」
『はい、なので口を洗いに』
「二人同時とか何事やねん…部屋暑かったんかい。それとも…なんかしよった?」
「…なんもないんで口出さないでください」
「図星かいな。まあ、口すすがんとキスも出来へんもんなぁ?」
『…っんん!?』
「またかよ!鼻の粘膜弱すぎか馬鹿!」
「……あー、なんかする前にこの状況やったんか」
「だからアンタは黙っててください!」
Fin