短編①
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《引込思案で進めない貴女が》:花宮
‐6周年記念 フリリク‐ 雪奴様へ
2018/08/15
*****
同窓会の出席通知、投稿期限は明日に迫っていた。
未だに参加にも不参加にも丸をつけられずにいる。
同級会じゃなくて同窓会。
クラス関係なく集められるこの会に、私の知り合いは果たして何人いるだろう。
1番仲の良かった親友は、来れないと聞いている。
数日前、「出産しました」の手紙が届いたので理由は想像に難くないけど。
部活の人たちの近況が気にならない訳でもない。
ただ、会いたい人もいれば会いたくない人もいる。
……片思いしてた人、とか。
(結婚したって、いってたなぁ)
花宮真君。
一昨年、ばったり出会した古橋君によれば、見合いかなんかで結婚したらしい。
そういえば、彼は、生まれも育ちも良かった気がする。イイトコのお嬢様との縁談があっても可笑しくはない。
(おめでとうって、言えるだろうか)
彼のことだ、同窓会には来るだろう。
余所行きの綺麗な笑顔で、久しぶり、なんて言いながら。
なんでこんなに引き摺ってるかといえば。
ただの片思いならいざ知らず、これが、両想いだったから。
彼は、告白してくれた、のに。
私は応えることが出来なかった。
天秤にかける大好きな人が、もう1人いたから。
「雨月!隣のクラスの花宮君、やっぱりカッコいい!」
高校2年生。私の前ではしゃぐ親友、カナコ。バスケ部の男子に目下片思いしていた。
『その、花宮君?頭もいいよね』
「そうなの!しかもバスケ上手くて、優しくて!王子様みたい!」
王子様、とまで言われるその人を、私は見たことがない。
まあ、教室と花壇、たまに図書館の3点だけで生活がなりたっていた私に、人付き合いが無いというのもあったけど。
「あ、体育館の割り振りとか聞きに行くんだ。雨月も花宮君見てみなよ!」
『え……いいよ』
「私の後ろにいればいいから、ね?」
とある日の昼休み、そんな軽いノリで、カナコの後ろから花宮君とお目見えした。
「ああ、バレー部の……うん、体育館は今まで通りでいいかな。大会前だけ、お互い尊重して……?後ろの人は?」
「友人の雨月。園芸部だけど、用事があって一緒に」
「へえ?初めまして」
突然自分に向けられた視線に驚きつつ、あわてて会釈したけれど。
その恭しさが、妙に気持ち悪かった。
完璧すぎて、凄く作り物じみた、人形みたいな笑顔。その完璧さ、綺麗すぎて苦しそうな程。
声すら、この人のものじゃないような違和感。
それだけ繕っているくせに、寂しそうな雰囲気。
(なんて、気のせいかな)
「園芸なら、案外古橋とか話合うかもね。アイツそういうの好きだよ」
「そうなの?意外!」
話をしているのはカナコなのに、視線は私に向いたまま。
それも不思議で、私は一層身を固くした。
それ以降も、勿論カナコの花宮君の話は続いて。
1日1回はその名前を聞く。
ついでに古橋君とも話をするようになれば、その回数はどんどん増えて。
どちらからも、「花宮」という存在をずっと感じていた私は。
1度しか会っていない彼が、随分身近に感じられた。
だって、それが丸1年続いたのだ。
高校3年生の夏。
カナコの部活は予選敗退で受験生へと切り替わり、私はとっくに受験モード。
男子バスケはそれなりにいい戦績だったと聞いている。
今は放課後の自習中。
「……私さ、花宮君に告ろうと思う」
そんな時、カナコがそう言った。
私は思わずノートを捲る手を止めて顔をあげる。
「部活も終わって、勉強だらけの毎日になるし。玉砕覚悟でも、伝えちゃった方がスッキリしそう」
『そっか。頑張ってね!』
「うん!」
カナコの凄いところは、その勇気だと思う。
私には告白するという選択肢が無い。
それ以前に、好きだと認めることすら出来ない。
(花宮君、なんて返事するだろう)
たった1度会っただけの彼が、私を占める割合をどんどん増やしていて。
カナコの話を聞くたびに、あの、ぎこちない、苦しそうな笑顔を浮かべてるんだろうと思うと。
切なくて堪らなかった。
それを、恋だなんて名付けてはいけない。
「告るの、来週のテスト明けにする」
『そうだね、それがいいよ』
カナコの為にも。
「……雨月?」
『…っ!?』
テストも明日で終わり。
私は一人、裏庭で花壇を眺めていた。
明日のテストは選択してない科目ばかりで、勉強も要らない。
今も、私の選択してない科目のテストをカナコが受けていて。
その終了を待っていたところ。
まさか、花宮君に声をかけられるとは思わず。
「ああ、ゴメン。バレー部の人が君の話ばっかりするから名前覚えちゃったんだ」
最初と変わらない、綺麗すぎる笑顔。
思わず半歩下がれば、彼は不思議そうに首を傾げる。
「会ったことあるよね?忘れちゃった?」
『……』
「それとも、怖いか?」
最後、声色を変えた彼が、妙にしっくりきた。
口許を歪めた笑いかたも、左右非対称につり上がった眉も、なんとなく、彼らしい気がしたのだ。
まだ、会って2回目だというのに。
「…こっちがお好みか?変わった奴もいるんだな」
『あ…え…だって、今の方が、…えっと、楽しそう?っていうか…苦しくなさそうで、いいよ』
走って逃げたい衝動と、焦がれた人と直接話せる機会を失いたくない気持ちが競り合って、脚がガクガクと震える。
「………苦しそうに見えてたのか?」
『…うん。最初、会った時は』
「そ。それでも、親友とやらには言わなかったんだな」
『…言わなくても、いいでしょ』
カナコには、確かに違和感を伝えなかった。気のせいかもしれないし、好きな人の評価など聞きたくもないだろうし。
「アイツも変な奴だよな。話しかけに来るくせに、話題は雨月ばっか。古橋も雨月の話、よくするし」
『古橋君も花宮君の話ばっかりだよ。練習きついとか、今日は機嫌がいいとか。…カナコも、花宮君の話ばっかりだし』
カナコの想いに、気付いているんだろうか。
少しでも、そちらに、傾いて、
傾いて…ほしい
「……ふぅん。アイツはどうでもいいや、言っちゃなんだが元気過ぎる奴は苦手でな。ただ、雨月の情報をくれるから突き放さなかっただけ」
『え、』
違う。そっちに傾いてほしいんじゃない
「最初に会った時、お前、俺に媚びなかったろ。なんでそんなに悲しそうな顔を…とは思ってたが、俺が苦しそうに見えたから?」
『…っ』
「図星か。なら、答えろよ」
ず、と近づいた彼を、避けることもできず。
至近距離で見上げる。
「俺の傍に、いてほしい」
『…』
「す『ダメ!』…っ」
けど、彼の瞳が、切なげに揺れて。
言葉を紡ぎかけた瞬間、彼を突き飛ばした。
『ごめんなさい…っ、ごめんなさい……、答えられない、応えられないの…本当に、ごめんなさい』
だって、その言葉は、来週、カナコが言うから。
カナコにあげて。
私じゃなくて。
「……泣くくらいなら、言わせろよ」
『ダメなの…でもね、私も、同じように思ってるから』
「ふはっ、狡いな、お前」
『…ごめんなさい』
頭のいい彼は、事の次第を察してくれたようだった。
だからこそ。
「だから嫌いなんだ、信頼とか、友情ってやつ」
そんな台詞を、彼に吐かせてしまった。
.
(…行こう、同窓会)
私が、突き放してしまった。
傍にいてほしい、そう言ってくれた彼を。
今、傍にいてくれる誰かがいるのなら、それを、祝わなければならない。
私へのけじめ。
カナコが結婚した。出産もした。
花宮君も結婚した。
私だけが、進めていないから。
参加 に丸をして、ポストへ投げこんだ。
(本当に居るかなんて、わからないのに)
いざ、同窓会となれば大人数だった。
霧崎が名門なだけあって、ブランドスーツに身を包む人も少なくなく。
議員になった人、起業した人、医者、弁護士、他諸々。
仕事に誇りは持っているけど、『花屋です』とは言いにくい空気。
そんな中。
「……雨月?」
『…っ!?』
あの時と変わらない声で、後ろから呼ばれた。
『あ…』
「久しぶり、覚えてる?」
想像した通り、綺麗すぎる笑顔で。
「…ったく、この顔するとお前は泣きそうな顔するよな」
『だって…怖いのよ。綺麗すぎて、壊れてしまいそうで』
「ふぅん、随分話せるようになったな?最後に会った時、脚ガクガクさせてた癖に」
『……私たち、最初と最後しかなかったでしょ』
「あれを最後にしたのは、雨月だろ」
『…………』
花宮君は素敵なスーツを着こなし、メガネをかけている。
そのレンズ越しに注がれる視線が冷たくて、居心地は悪かった。
けど、違和感や気持ち悪さは無く、自然体だと窺える。
『うん。でも、古橋君から、花宮君が結婚したって聞いたから…』
お祝いを、と言おうとしたら、彼は左手を私に突きだした。
『…?』
「してるように見えるか?」
その薬指に、指輪はない。
『え…』
「1年ももたなかったな、結婚生活。こっちの俺は嫌だとよ」
『…そう、なんだ…』
「俺も無理だったがな。雨月なら受け入れてくれるだろうなんて考えながら生活してれば、女も逃げるわ」
口許を歪めた笑い方は変わらず、"受け入れる"が本心だと気付いてしまえば。
もう、どうしようもなくて。
『今の笑い方のほうが、ずっと花宮君らしいのに』
「2回しか会ってないくせに」
『寧ろ2回しか会ってない私がそう思うのに、なんで皆わからないのか不思議』
再び、距離を詰められて。
思わず息を飲んだ。
「…今回は遮んなよ?…雨月は、このままの俺でも傍にいてくれるよな?」
その瞳は相変わらず、切なげに揺れて。
「好きだった。忘れたことは、一度もない」
紡ぎ終わった唇は、緊張に戦慄いていて。
『…私も、忘れられなかった。好きよ、今も』
私も、震えた声しか出せなかったけど。
「ふはっ、知ってるっつーの。待たせやがって」
強がった彼の声もまだ震えていたから、なんだか笑えてしまった。
ライラックの花束を君に
ハナミズキが咲くのを待って
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‐6周年記念 フリリク‐ 雪奴様へ
2018/08/15
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同窓会の出席通知、投稿期限は明日に迫っていた。
未だに参加にも不参加にも丸をつけられずにいる。
同級会じゃなくて同窓会。
クラス関係なく集められるこの会に、私の知り合いは果たして何人いるだろう。
1番仲の良かった親友は、来れないと聞いている。
数日前、「出産しました」の手紙が届いたので理由は想像に難くないけど。
部活の人たちの近況が気にならない訳でもない。
ただ、会いたい人もいれば会いたくない人もいる。
……片思いしてた人、とか。
(結婚したって、いってたなぁ)
花宮真君。
一昨年、ばったり出会した古橋君によれば、見合いかなんかで結婚したらしい。
そういえば、彼は、生まれも育ちも良かった気がする。イイトコのお嬢様との縁談があっても可笑しくはない。
(おめでとうって、言えるだろうか)
彼のことだ、同窓会には来るだろう。
余所行きの綺麗な笑顔で、久しぶり、なんて言いながら。
なんでこんなに引き摺ってるかといえば。
ただの片思いならいざ知らず、これが、両想いだったから。
彼は、告白してくれた、のに。
私は応えることが出来なかった。
天秤にかける大好きな人が、もう1人いたから。
「雨月!隣のクラスの花宮君、やっぱりカッコいい!」
高校2年生。私の前ではしゃぐ親友、カナコ。バスケ部の男子に目下片思いしていた。
『その、花宮君?頭もいいよね』
「そうなの!しかもバスケ上手くて、優しくて!王子様みたい!」
王子様、とまで言われるその人を、私は見たことがない。
まあ、教室と花壇、たまに図書館の3点だけで生活がなりたっていた私に、人付き合いが無いというのもあったけど。
「あ、体育館の割り振りとか聞きに行くんだ。雨月も花宮君見てみなよ!」
『え……いいよ』
「私の後ろにいればいいから、ね?」
とある日の昼休み、そんな軽いノリで、カナコの後ろから花宮君とお目見えした。
「ああ、バレー部の……うん、体育館は今まで通りでいいかな。大会前だけ、お互い尊重して……?後ろの人は?」
「友人の雨月。園芸部だけど、用事があって一緒に」
「へえ?初めまして」
突然自分に向けられた視線に驚きつつ、あわてて会釈したけれど。
その恭しさが、妙に気持ち悪かった。
完璧すぎて、凄く作り物じみた、人形みたいな笑顔。その完璧さ、綺麗すぎて苦しそうな程。
声すら、この人のものじゃないような違和感。
それだけ繕っているくせに、寂しそうな雰囲気。
(なんて、気のせいかな)
「園芸なら、案外古橋とか話合うかもね。アイツそういうの好きだよ」
「そうなの?意外!」
話をしているのはカナコなのに、視線は私に向いたまま。
それも不思議で、私は一層身を固くした。
それ以降も、勿論カナコの花宮君の話は続いて。
1日1回はその名前を聞く。
ついでに古橋君とも話をするようになれば、その回数はどんどん増えて。
どちらからも、「花宮」という存在をずっと感じていた私は。
1度しか会っていない彼が、随分身近に感じられた。
だって、それが丸1年続いたのだ。
高校3年生の夏。
カナコの部活は予選敗退で受験生へと切り替わり、私はとっくに受験モード。
男子バスケはそれなりにいい戦績だったと聞いている。
今は放課後の自習中。
「……私さ、花宮君に告ろうと思う」
そんな時、カナコがそう言った。
私は思わずノートを捲る手を止めて顔をあげる。
「部活も終わって、勉強だらけの毎日になるし。玉砕覚悟でも、伝えちゃった方がスッキリしそう」
『そっか。頑張ってね!』
「うん!」
カナコの凄いところは、その勇気だと思う。
私には告白するという選択肢が無い。
それ以前に、好きだと認めることすら出来ない。
(花宮君、なんて返事するだろう)
たった1度会っただけの彼が、私を占める割合をどんどん増やしていて。
カナコの話を聞くたびに、あの、ぎこちない、苦しそうな笑顔を浮かべてるんだろうと思うと。
切なくて堪らなかった。
それを、恋だなんて名付けてはいけない。
「告るの、来週のテスト明けにする」
『そうだね、それがいいよ』
カナコの為にも。
「……雨月?」
『…っ!?』
テストも明日で終わり。
私は一人、裏庭で花壇を眺めていた。
明日のテストは選択してない科目ばかりで、勉強も要らない。
今も、私の選択してない科目のテストをカナコが受けていて。
その終了を待っていたところ。
まさか、花宮君に声をかけられるとは思わず。
「ああ、ゴメン。バレー部の人が君の話ばっかりするから名前覚えちゃったんだ」
最初と変わらない、綺麗すぎる笑顔。
思わず半歩下がれば、彼は不思議そうに首を傾げる。
「会ったことあるよね?忘れちゃった?」
『……』
「それとも、怖いか?」
最後、声色を変えた彼が、妙にしっくりきた。
口許を歪めた笑いかたも、左右非対称につり上がった眉も、なんとなく、彼らしい気がしたのだ。
まだ、会って2回目だというのに。
「…こっちがお好みか?変わった奴もいるんだな」
『あ…え…だって、今の方が、…えっと、楽しそう?っていうか…苦しくなさそうで、いいよ』
走って逃げたい衝動と、焦がれた人と直接話せる機会を失いたくない気持ちが競り合って、脚がガクガクと震える。
「………苦しそうに見えてたのか?」
『…うん。最初、会った時は』
「そ。それでも、親友とやらには言わなかったんだな」
『…言わなくても、いいでしょ』
カナコには、確かに違和感を伝えなかった。気のせいかもしれないし、好きな人の評価など聞きたくもないだろうし。
「アイツも変な奴だよな。話しかけに来るくせに、話題は雨月ばっか。古橋も雨月の話、よくするし」
『古橋君も花宮君の話ばっかりだよ。練習きついとか、今日は機嫌がいいとか。…カナコも、花宮君の話ばっかりだし』
カナコの想いに、気付いているんだろうか。
少しでも、そちらに、傾いて、
傾いて…ほしい
「……ふぅん。アイツはどうでもいいや、言っちゃなんだが元気過ぎる奴は苦手でな。ただ、雨月の情報をくれるから突き放さなかっただけ」
『え、』
違う。そっちに傾いてほしいんじゃない
「最初に会った時、お前、俺に媚びなかったろ。なんでそんなに悲しそうな顔を…とは思ってたが、俺が苦しそうに見えたから?」
『…っ』
「図星か。なら、答えろよ」
ず、と近づいた彼を、避けることもできず。
至近距離で見上げる。
「俺の傍に、いてほしい」
『…』
「す『ダメ!』…っ」
けど、彼の瞳が、切なげに揺れて。
言葉を紡ぎかけた瞬間、彼を突き飛ばした。
『ごめんなさい…っ、ごめんなさい……、答えられない、応えられないの…本当に、ごめんなさい』
だって、その言葉は、来週、カナコが言うから。
カナコにあげて。
私じゃなくて。
「……泣くくらいなら、言わせろよ」
『ダメなの…でもね、私も、同じように思ってるから』
「ふはっ、狡いな、お前」
『…ごめんなさい』
頭のいい彼は、事の次第を察してくれたようだった。
だからこそ。
「だから嫌いなんだ、信頼とか、友情ってやつ」
そんな台詞を、彼に吐かせてしまった。
.
(…行こう、同窓会)
私が、突き放してしまった。
傍にいてほしい、そう言ってくれた彼を。
今、傍にいてくれる誰かがいるのなら、それを、祝わなければならない。
私へのけじめ。
カナコが結婚した。出産もした。
花宮君も結婚した。
私だけが、進めていないから。
参加 に丸をして、ポストへ投げこんだ。
(本当に居るかなんて、わからないのに)
いざ、同窓会となれば大人数だった。
霧崎が名門なだけあって、ブランドスーツに身を包む人も少なくなく。
議員になった人、起業した人、医者、弁護士、他諸々。
仕事に誇りは持っているけど、『花屋です』とは言いにくい空気。
そんな中。
「……雨月?」
『…っ!?』
あの時と変わらない声で、後ろから呼ばれた。
『あ…』
「久しぶり、覚えてる?」
想像した通り、綺麗すぎる笑顔で。
「…ったく、この顔するとお前は泣きそうな顔するよな」
『だって…怖いのよ。綺麗すぎて、壊れてしまいそうで』
「ふぅん、随分話せるようになったな?最後に会った時、脚ガクガクさせてた癖に」
『……私たち、最初と最後しかなかったでしょ』
「あれを最後にしたのは、雨月だろ」
『…………』
花宮君は素敵なスーツを着こなし、メガネをかけている。
そのレンズ越しに注がれる視線が冷たくて、居心地は悪かった。
けど、違和感や気持ち悪さは無く、自然体だと窺える。
『うん。でも、古橋君から、花宮君が結婚したって聞いたから…』
お祝いを、と言おうとしたら、彼は左手を私に突きだした。
『…?』
「してるように見えるか?」
その薬指に、指輪はない。
『え…』
「1年ももたなかったな、結婚生活。こっちの俺は嫌だとよ」
『…そう、なんだ…』
「俺も無理だったがな。雨月なら受け入れてくれるだろうなんて考えながら生活してれば、女も逃げるわ」
口許を歪めた笑い方は変わらず、"受け入れる"が本心だと気付いてしまえば。
もう、どうしようもなくて。
『今の笑い方のほうが、ずっと花宮君らしいのに』
「2回しか会ってないくせに」
『寧ろ2回しか会ってない私がそう思うのに、なんで皆わからないのか不思議』
再び、距離を詰められて。
思わず息を飲んだ。
「…今回は遮んなよ?…雨月は、このままの俺でも傍にいてくれるよな?」
その瞳は相変わらず、切なげに揺れて。
「好きだった。忘れたことは、一度もない」
紡ぎ終わった唇は、緊張に戦慄いていて。
『…私も、忘れられなかった。好きよ、今も』
私も、震えた声しか出せなかったけど。
「ふはっ、知ってるっつーの。待たせやがって」
強がった彼の声もまだ震えていたから、なんだか笑えてしまった。
ライラックの花束を君に
ハナミズキが咲くのを待って
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