短編①
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《イタズラと帰り道は悪友と》:花宮
‐6周年記念 フリリク‐ 星乃様へ
2018/10/10
*****
「霧崎の七不思議ってあるだろ?」
「あー、最近流行りだよね、7つ目のない七不思議」
「しかし、6個はありきたりな奴だったな」
原と山崎と古橋の話題に出た七不思議。
学校の怪談にあたるそれが、何故か最近流行りなのだ。
「勝手に鳴る音楽室のピアノ」
「瞬きをする美術室の肖像画」
「誰も居ないのに足音のする階段」
「理科室の骨格標本が歩く」
「玄関の鏡は違う世界に繋がってる」
「夜中の体育館でボールの音がする」
ここまでが共通。
7つ目だけが皆違うことを言っていて、突き詰めれば誰も知らないからそれらしいことを付け足しただけ…というもの。
どこから流行りだしたのかは解らないし、いつからなのかも解らない。
「くだらねぇ」
それが花宮の意見だった。
『同感。っていうか、6個目は私だし』
マネージャーの雨月も同じく。
「あー、夜中に忘れ物取りに来てそのまま遊んでたんだっけ?」
『うん。まあ、偶々肝試しに来てる生徒がいるって知っててやったけど』
「うわぁ」
「じゃあ他の5つもガセか」
「学校の怪談なんて本当なわけねぇだろバァカ」
心底馬鹿にした様子の花宮を見て、寝ぼけた様子で見守っていた瀬戸が口を開く。
「怪談じゃないけど、俺は花宮の本性がバレないのが不思議」
それを聞いて。各々が頷いた。
「確かにな。なら、雨月の本性がバレないのも不思議」
「古橋の目にハイライトが無いのが不思議」
「原の目が無いのが不思議」
「目はあるよ!」
「瀬戸のホクロを押したらどうなるか不思議」
「押さないで、怒るよ」
ワイワイガヤガヤ、騒ぎだす部員を一瞥して、花宮はため息を吐く。
「おい、部活始めるぞ」
『今日は私も入るよ』
「え、」
「ガチでやらないと俺らが潰される」
『手加減しないよー、私、いたいけな乙女だから』
「どこが」
『あ?』
そして、雨月のすごみで、部活が始まった。
ちなみに雨月、確かに女子の筈なのだけど、性格は花宮に負けず劣らず裏表があって、運動神経の良さ故に練習に加わることしばしば。
相手は男子だし、と、容赦なくラフプレーしてくる。
「……さっきの話だけどさ」
「七不思議?」
「そう。俺としてはね、花宮がマネージャーと付き合ってないのが不思議」
「あー…わかる」
「付き合ってないのか?」
「そう思うよね」
部活を終えて、着替えながらの会話は始まる前と同じ。
「随分体力余ってそうだな。練習増やすか」
「勘弁してくれ」
『なになに、雨月ちゃんが可愛いって話?』
「それだけは無い」
『カズ、どこ刺されたい?』
「刺すのは前提!?」
花宮と雨月は、傍目からして仲が良かった。
猫を被っているときも、素でいるときもよく一緒にいて。
似た者同士、つるんでいたのだ。
「……帰るぞ、施錠する」
『ごー、よーん、さーん』
「急げ!アイツマジで鍵かける!」
人の不幸は蜜の味。
焦る部員を見て、雨月はニタニタと笑っていた。
(類は友を呼ぶ…が)
花宮は、隣を歩く雨月を見下ろしながらふと思う。
(自分でいうのもなんだが、こんな性格の奴がゴロゴロいるってのもな)
中学の先輩。
それから雨月。
性格が悪い、とか悪さが好きな奴はそれなりにいるけれど、表を繕って上手く隠してる奴のが質悪い。
…自分でいうのもなんだが。
「じゃあな、花宮」
「またね、雨月」
帰り、帰路は俺と雨月、その他の2つに分れる。
『またねー』
雨月はパーカーを目深に被りながらも、手を振ってその他と分かれた。
「…」
『どしたの、マコ』
彼女はそこそこ背が高く、顔もそこそこ良い。
俺の表は目立たない優等生だが、彼女の場合は少し抜けてる一般人だ。
本当は、瀬戸くらいには頭がいい。
頭の良さを教養と閃きに分けるなら、閃きに関しては瀬戸の上を行くだろう。
でも
「背が高いのを気にしてフード被ってる頭の弱い天然女子」
を演じてるのだ。
『頭いいと色々頼まれるじゃん、面倒』
と。のたまって。
『マコー?』
「うるせぇ」
『…。どうしたの花宮君。具合悪い?痛いの痛いのとんでけー、する?』
考え事をしてる所を茶々入れられて。
ぞんざいに扱ったら表の方で返された。
ホント、こういう養殖だとわかりきった天然をやってるのに、男どもは「高身長とのギャップがいい」とか言ってる。
馬鹿しかいない。
「心配ありがとう。大丈夫、考えごとしてただけなんだ。でも、雨月さんがやったら本当に痛みも無くなりそうだね。今度お願いしてもいいかな?」
ちなみに俺の表はこんな感じ。
誰にでも使うこんな対応で、ブスからスクールカーストのトップまで引っ掛かるんだから、女も馬鹿しかいない。
『………マコ、キモい』
「そりゃどうも。お前もキモい」
唯一、お互いだけが通用しなかった。
部員の面々は表裏のギャップを面白いと笑えるような奴らで。
まともな奴はいない。
(まあ、まともな奴らとは付き合えねぇけど)
なんだかんだ、雨月は悪友として重宝だった。
『しかし、まさか、ここまでとはね』
「どうする?いっそ7つ目作るか」
『作る?でも無い方が怪談じみてていいけどな』
「まあな。ただ、こうも簡単に広まると逆につまんねぇ」
何の話かって?
例の七不思議、俺と雨月が種を蒔いた噂なのだ。
体育館でのボール騒ぎを偶然起こしたから、それらしいものを見繕って仕立て上げた。
…といっても、ほんの小細工。
雨月が音楽室のピアノを鳴らしてから暗幕に隠れながら逃げて、俺が骨格標本の向きを毎日少し弄ったくらい。
玄関の鏡と壁の隙間に髪の毛と錆びたヘアピンを忍ばせた、と雨月から聞いた時はイイ趣味してんなと思った。
階段の足音と瞬きする肖像画は、俺と雨月がそれぞれ先輩や兄弟から聞いたと付け足して。
7つ目の無い七不思議が完成。
好奇心旺盛な奴らが鏡裏から髪の毛とヘアピンを発見してからは瞬く間に広まった。
「…ちょっと考えれば解りそうだよな」
『ね。まあ、次の遊び考えよ。深追いするとボロが出るし、正直飽きた』
「ほんと飽き性だな」
『楽しくなきゃやってらんないよ。マコもそうでしょ?』
「そりゃな」
彼女との悪巧みは、小さなことから大規模なものまで様々。
今回みたいに学校を巻きこんだものもあれば、勘違いブスの名前を使って偽ラブレターを書くような幼稚なものまで。
『…あ、あの英語の教員さ、』
「あー、新任2年目のか。どうする?」
『はは!やっぱどうにかしたいよね?うっざいもん』
彼女はどうやら、次のイタズラのターゲットを絞っているようだった。
「偏差値自慢も大概にしろって感じだな。英語特化の偏差値70だったか?」
『らしいね。理系からの文転だったから"私オールマイティー"みたいなことも言ってた。あと、"私、アイドルの「みゆみゆ」と「あーちゃん」を足して2で割ったかんじだよね"…だってさ』
「………そのアイドルを可愛いと感じたこともないが、足して2で割ってもあんなブスにはならねぇな」
『鏡って文明知ってる?って聞きたくなっちゃった』
「悪いのは視力ですか?頭ですか?とも聞きてぇな」
話題に出た、英語教員は新卒2年目で下の学年の担任を持ってる女。
学生のノリが全然抜けてなくて、ジョークや煽りが多いから、好く生徒もいるがうざかる生徒も少なくない。
というか「どうしてわかんないの?」とか、教員としてアウトな台詞をかましたりする奴だ。
『マコが誉めれば一発なんだよね。女子生徒のやっかみ効果でさ』
「それならお前の馬鹿キャラ使えば?わかんないアピールしとけば男子生徒乗っかるぜ?」
『…あー、それ、使ってい?』
「ふは、悪い顔」
帰り道でなされる次のイタズラの計画はそんなとこで。
効果的なタイミング、誘導を考えてそれぞれの家へ帰った。
(実行力がえげつないよな。演技力も)
翌日、件の英語教員の授業。ライティングだったから文法がメインなのだが、理解しているのが前提で進んでいく。
確かに予習はしてくるのだが、予習で理解して授業で演習というスタイルは授業じゃないと思う。
現に予習で理解しきれなかった面々が、指名された問題が解けずに唸っている。
雨月も、問題を与えられていた。
それがまた、ちょっと特殊なやつ。
イレギュラーな表現を使わなきゃ解けないその問いを前に、黒板と睨みあっていた。
『これ、わかりません』
「予習してきたの?」
『はい』
「じゃあ、どうしてわかんないの?本当に予習した?」
チョークを置いた彼女は、自分の予習ノートを開いて教員に突きつける。
『予習したんですけど、この単語だけ文法が変わるから表記がわからなかったんです。それを授業で教えて貰えるんだと思ってたのに…質問する前に当てられちゃって…』
突きつけた腕は力なく下がって、泣きそうな雰囲気を醸す。
「……今の、解けないのを前提に雨月さんを当てたみたいだよね」
そこへ、俺がボソリと呟く。
丁度、隣はやんちゃで正義感のあるタイプの男子。名前は忘れたが、確か雨月を可愛いとか言ってた奴。
「せんせー、そうやって苛めるの良くないと思いまーす」
「え、いじめ…?」
「雨月さん予習してきてたんでしょ?そんな言い方しなくてもよくないですか?」
ムードメーカーな一面もあるそいつの発言で、教員に不満があった生徒の愚痴が溢れ出した。
「そもそも授業が演習だけっておかしいよ。教わってないじゃん」
「解くだけなら自習でいいよな。解説もしないし」
「なんでわかんないの?っていっとけば質問もされないもんね」
次々と男子をメインに発言される抗議、女子の間では"雨月さん可哀想"、"あれ私も解けなかった"という言葉に混じって"先生調子ノリ過ぎだよね"、"言うほど可愛くないのにね"なんて嘲りまで聞こえてくる。
「…っ!?」
急にアウェイになった教員は青ざめて、無意識か、教壇を降りそうになった。
それを、雨月が許さない。
『先生、これ、教えてください。予習したけど、解けなかったので…すみません』
申し訳なさそうに、頭を下げるのは全部演技。
このアウェイから、逃がさないための。
「これは…」
雨月を席に戻して、誰も聞いていない教室で初めて授業をする。
「なんでそうなるんですかー?」
「声小さくて聞こえないよ、せんせー」
「偏差値70もあるんだからもっと解りやすく教えてよ」
散々口を出されながらの授業を、ソイツはチャイムの鳴り始めと同時に打ち切って教室を出ていった。
『あー、満足』
「アイツ教員辞めんじゃね?」
『生徒にマウント取ってくる教員なんていらないし。にしても、何君だっけ?期待通り煽ってくれたね』
「ふは!あの程度の餌で釣れてくれるとは思わなかったぜ」
ことのほか悪戯が上手くいった。
もっとジワジワとヘイトを集めるつもりだったけど、そうするまでもなく鬱憤はたまっていたらしい。
『でも、おかげで一回で終わっちゃったなー』
「あとは教員がどう出るかだな」
『根に持たれたら助けてくれる?花宮君』
「うん、必ず」
『わー…キモい』
「お前もな」
帰り道は愉しい。
イタズラの感想を述べるのも、次のイタズラを考えるのも。
『じゃ、また明日ね、マコ』
「ああ、明日」
帰路が分かれているのが、なんとなく惜しいくらいには。
***
『………予想外だった』
「途中までは想定してたんだがな」
例の教員を吊るした後、報復される可能性は考えていた。
それは的中して「授業してるんだから答えられるでしょ」と、授業の最後に演習と宿題を課されるようになったのだ。
これがどちらも難問で、授業を理解するというよりは英語そのものを理解しないと解けないようなものだった。
それを、2回に1回は雨月が指名される。馬鹿で通してるコイツは、解けていても数回ごとに誤答をするのだけど「ちゃんと授業したんだから、聞いてなさいね」と、その度鼻高々に言い放った。
教員からのパワハラ。
と、訴えられるのも時間の問題。なんて、二人してほくそ笑んでいたところ。
「雨月さんを目の敵にすんなよ!」
例の隣の席の男子…名前は斉藤だった…が、横槍を入れた。
それはもう、授業中に声を張り上げて。
『動きにくいったらない。アイツ女子人気あるから私にもヘイト溜まるんだよね。マコ、緩和できる?』
「俺は目立ちたくないっての。俺に注目集めたら、それはそれで動きにくいだろ」
『だよねぇ…』
雨月は女子カーストでは中位、下位に優しく上位からも嫌われてない良ポジションだったけれど、最早穏やかでない。
クラスから教員のヘイトを集めて、職員会議くらいにはしてやろうと思ってたが、このままでは協力を仰げそうになかった。というか、雨月が集中砲火されているから指名されなくて楽だと思われているくらいだった。
『…なんなのあの正義感』
「恋は盲目だからだろ。周りが見えないくらいにはお前を好きなんじゃね」
『あ、そういうこと?尚更キモいわ』
「かわいそ」
『自分に置き換えなよ、興味無い女子から"花宮君をいじめないで"とか言われんの』
「うわキモい」
『でしょ』
顔をしかめて歩く帰路。
久しぶりに、直ぐ妙案が浮かばない事態になった。
「…お前は、アイツどうしたいんだよ」
『アイツ?なに、斉藤?関わりたくないよ』
「クラスのヒーローだぜ?振ろうが付き合おうが揶揄される。なら、利用しやすい駒にした方がいい」
『無理。面倒だし。私は無いものに惹かれるタイプじゃないの。似た者同士、価値観の合う人がいい』
「お前のタイプはどうでもいいが。…じゃあ、捨て駒でいいんだな?」
『勿論。噛ませ犬よ、あんなの。もっと言えば私から興味を無くしてくれればいいのに、ほんと邪魔』
「ふはっ、ひでぇの」
斉藤は、生かさなくていいし、殺さなくてもいい。
できれば、雨月から手を引く形で落ち着きたい。と。
「……まとまんねぇ」
『だね。んー、公園でも寄る?作戦会議したい』
「公園かよ。まあ、ファミレスとか、知り合い居ても厄介だしな」
帰り道の分岐までに収拾がつかなくて、できれば急ぎで活路を見出したかった俺たちは。
雨月の帰り道にある見晴らしのいい公園に立ち寄ることにした。
後ろは生け垣で人は通らず、公園を見渡せる端にあるベンチに座る。
今は誰もいないようだった。
『…あの教員、馬鹿のふりしてれば付け上がって…』
「でもあれ全部解けたら"私の教え方が良かった"って言い出すだろ」
『だよね。カースト上位に教わって"あなたのおかげ"って媚び売ってもいいけど、利用されそう』
「いっそ馬鹿貫くか。全部間違えてればまた方針変えてくるかもしれない」
『なら、マコも外してよ。優等生君が間違えれば考え改まるかもよ』
「それは機会があったらやるわ。凡ミスは効果ねぇし」
うっすら決まった方針。
上手くいくかは解らないが、教員には自分の無能さを知ってもらわなければ。
(あ?あれ、斉藤か?)
そんな中。公園の向こう、犬の散歩をしてる男に見覚えがあった。
雨月が、面倒がってる相手。
興味をなくさせたい相手。
(ああ、噛ませ犬…だったな)
「雨月」
向こうが、こっちに気づいた。
声を掛けられる前に雨月を呼ぶ。
『なに、マコ?』
「…似た者同士がお好みなら、俺ほど気の合う奴はいないだろう?」
手を伸ばし、雨月の髪を梳く。
渾身の微笑で小首を傾げれば、彼女はハッと目を見開いて。
唇に綺麗な弧を描いた。
『…そうだね。マコなら、いい』
それから、ゆっくり俺の首へ腕を回す。
その刹那、犬の鳴き声が公園の入り口からして。そちらに目線を向ければ、慌てた様子の斉藤が突っ立っていた。
『あ…斉藤くん』
「ご、ごめん、覗くつもりじゃ…あの、二人は…もしかして…」
「うん」
『ねぇ、内緒にしてくれないかな?その…恥ずかしいから』
「あ、ああ…」
笑顔をひきつらせて立ち去るソイツを見送って、残された俺たちはどちらともなく笑い始めた。
『ナイスタイミング』
「ナイスアドリブ」
そして、小さくハイタッチ。
『よく気づいたね、んで、よく思い付いた』
「それはこっちの台詞だ。よく察した、よく乗った」
思わぬところで一つ、厄介ごとが解決したので、とても気分がいい。
『これで女子からのヘイトも減るし、元の作戦と今の方針を重ねてけば、職員会議待ったなしでしょ』
「斉藤からの煽りは無くなるだろうが、まあ、その方が女子が団結してくれんだろ。女同士は根が深いからな、教員も含めて」
『それね。いやもうアイツに絡まれないだけで満足』
「そんなに嫌だったのか」
『休み時間に話しかけられんのダルいじゃん。部活あるのに一緒に帰ろうとか…マコと帰るから邪魔でしかない』
それから、思わぬ発見。
「お前、本当性格悪いな」
自分に好意を向ける相手に言う台詞じゃない。
『類は友を呼ぶんですー』
そう言い返されれば、返す言葉もないけれど。
(キモいって、言わないんだな)
斉藤の一件が片付いた解放感で気づいて無いだけかもしれないが。
俺が言った、とっさの告白を嗤ってこない。
(……俺も、キモいとは思わなかったしな)
…、類は友を呼ぶのなら、彼女も同じように感じたのかもしれない。
「ふはっ、じゃあ今後とも楽しもうぜ?悪友サン」
『こちらこそ、悪童サン』
fin