短編①
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《ひととき》:花宮
‐5周年記念 フリリク‐
蕾様へ捧ぐ 花宮夢
2017/08/30
*****
とある休日の体育館、練習試合を組まれた2校の男子バスケ部が顔を合わせた。
「今日はよろし…あ?」
「いえ、こちらこ…は?」
しかも、それは因縁があると言って間違いない2チーム。
WC優勝校、誠凛。予選敗退校、霧崎第一。
そもそも勝敗以前の問題がある組み合わせだった。
「おい、どういうことか説明しろ」
「カントク!どうなってんだよ」
お互いのキャプテンはマッチングした本人を怒りの形相で呼びつけるが、当人達はけろっとしたもので。
「『見ての通りよ』」
にこやかに、かつ凄みのある声で返事をした。
さて、ことの発端は数週間前。
霧崎第一のマネージャー、雨月が街を歩いていた時に、偶然同中だったリコと再会したところに至る。
『アメリカだっけ?遠距離大変だね』
「だから、鉄平とは別れたって…」
『別れてても名前呼びなんだー?』
「…雨月は付き合ってても苗字呼びだけどね」
『人前では呼ばないようにしてるだけ。花宮君、結構気にするから』
双方バスケ部に関わり、無冠の五将を恋人に持つ(持っていた)という共通点もあり、高校が違っても縁があった。
「…なんであんなゲスがいいのよ」
『ちょっと、人の彼氏を貶さないで。私だってあの能天気君に魅力感じないから』
「鉄平は能天気なだけじゃないわよ!確かにちょっと不思議だし天然だけど、仲間思いだし優しいんだから」
『まるで花宮君に情も優しさもないような言い方しないでよ。ないけどさ!』
「知ってる」
カフェで暫く恋バナをしていたが、そこはカントクとマネージャー。話はバスケットのことへ転がっていく。
『…まあ、練習試合組めないのがネックかな』
「あー…そうよね。…そういえば、ラフプレー卒業したってホント?」
『本当。なんか、飽きちゃったんだってさ。確かに最近してないしね』
「へー」
そこまで話して、二人とも息があったように笑うのだ。
『引き受けてくれる?』
「ええ。こっちも、鉄平なしのチームバランス見たいしね」
こうして組まれた試合だが、選手同士は殺伐としている。
「カントク!なんであいつらと…!」
「なんかラフプレー止めたって聞いたから。別に難しいことは考えなくていいの。ただ、」
ブチのめせ
異議を申し立てた日向や火神は、笑顔で威圧されて押し黙る。
それを見た誠凛全体が、震え上がりながらアップを始めた。
一方変わって霧崎では、
「なんで対戦校黙ってた」
『ビックリさせようと思って』
「…んなこったろうと思った」
呆れたようにため息をつく花宮と、面倒な相手だと愚痴を溢し合う面々。
『ごめんね?でも、花宮君なら勝てるって思ったから』
「……」
『ラフプレーと揉め事なしで勝てたら、帰りにデートしよ?』
「ふはっ、俺を餌で釣る気か?仕方ねぇ、のってやるよ」
「お前らノロケうぜぇよ」
「皆は勝てたら来月オフを入れます」
「よし、勝ちにいこう」
しかし結局、和気藹々とワチャワチャとしたアップを始めた。
リコも雨月も単純に自分のチームを勝たせたい…というのがあるが。
この練習試合の打ち合わせをしたときにまた恋バナをして。
ちょっとした喧嘩をしたのだ。
「ゲスで外道だもんね、そのうち不倫とかあるかも」
『は、花宮君はゲスだけどそんなことしないから!木吉君だってボヤッとして惚けてるから、アメリカでほだされてちゃうかもね』
「鉄平だって抜けてるけどそういうのはちゃんとしてるから!」
『花宮君もちゃんとしてるよ、色沙汰で噂になったことないもん』
「モテないだけでしょ」
『チョコいっぱい届くし!毎年ライバル多くて大変なの、そっちと違って』
「鉄平だってチョコくらいもらってたわよ!」
とまあ、とてもくだらない喧嘩を。
.
練習試合はギスギスしたまま始まり、第1Qでは誠凛の速攻が発揮されないまま終わってしまった。
その時に霧崎がつけた点差も、第2Qで調子を掴んだ誠凛に追い付かれてほぼ同点となってしまう。
そしてハーフタイム。
「木吉に会わなくて済んだのはいいが、いないと張り合いもないな」
「花宮は木吉嫌いすぎて好きだよね」
「その言い方やめろ」
『……誠凛と組んだの…怒ってる?』
「………」
「…花宮?」
「はあ…雨月、よく聞け。お前に練習試合の相手を見つけろって言ったのは俺だろ?理由は、選手のモチベーション、感覚をさげない為だ」
『…うん』
「誠凛以上に、負けたくない相手…モチベーションの上がる相手がいると思うか?」
『…!』
「…そういことだ。信頼してやってんだから自信持ってろ、バーカ」
「そうだよ。皆面倒とかいいながらめっちゃ楽しそうでしょ?」
「後半、ちゃんと取り返すから。来月のオフ、約束だぞ」
ドリンクを飲んだり作戦会議をする傍ら、そんな会話も紡がれて。
それを眺める誠凛も少し雑談をする。
「…なんか、霧崎フワフワしてね?ですか?」
「………」
「だよな、水戸部。あの子が輪にいると笑顔が増えるっていうか」
「雨月は優しいし真っ直ぐだからな…霧崎にも有効とは流石というか」
「確かにかなり一途だもんな。案外悪童の心も動いたんじゃないか」
「あれ、伊月と日向は知ってるの?」
「同中なんだ。バスケ部のマネージャーしてたよ」
「へー」
「好きなものとか、自分が認めたものには妥協を許さないタイプでよ。花宮は気に入らねぇけど、アイツがマネージャーを続けるってことは…ラフプレーに勝る何かがあるんだろうな」
「……」
「でも、遠慮はいらないわ。彼女が選んだチームに負けないくらい、私が選んだチームが素敵だってこと、見せつけてよね!」
第3Q、誠凛はメンバーの交代をして、部員全員をコートに立たせた。
赤司の前に立った降旗がライオンに差し出されたチワワだったように、花宮の前に立った彼も毒蜘蛛に差し出された芋虫レベルで萎縮している。
「ふはっ、赤司の威圧なんてこんなもんじゃなかったろ?経験を生かせよバァカ」
「ひっ!」
「へえ?ただのバカじゃなさそうだ」
花宮のフェイクに身動ぐも、道を譲らない降旗に、花宮は口角をあげた。
「ただ、まだたりねぇな」
「あっ!」
しかし、降旗が一瞬視線を動かした隙にボールはサイドの古橋へ回り、シュートが決まる。
けれど、次のターンでは火神がダンクを決めたり小金井がシュートしたりと一進一退が続いた。
「…WC優勝校に互角ってヤバくね?」
「互角ではないな。俺らは1軍レギュラーだけど、向こうは下級生まで満遍なく使って様子を見てる。ベストメンバーではない」
「…でも…俺らもこれから瀬戸が出る訳じゃん?」
「俺がいても黒子の独断パスは防げなかったろ?」
『あ、ねぇ、それなんだけど』
「大丈夫だ。…お前ら全員集中してろよ、あのパス止めるぞ」
そして始まった最終Q。
双方切り札の黒子と瀬戸を投入しての激戦だ。
張り巡らせた蜘蛛の巣に穴を開けるように黒子のパスが飛び交う。
しかし、そのパスですら、今回の蜘蛛の巣の上では徐々に絡め取られていた。
「っ⁉」
「何驚いてんだよ、俺がスティール得意なのは知ってるだろ?」
「…僕のコースすら、読めるということですか」
「平たく言えばそうだな」
「…なんで」
「答えるわけないだろ」
パスコースに突然現れてコースを勝手に変更する黒子の行動は、すべてのコースが花宮に読まれているのが前提だ。
黒子のアジリティーは決して早くないから、花宮の動きを見て動き出しているのでは間に合わない。
故に、花宮が動くのを前提に、味方のパスを見て走り出している。
ならば、そのパスと同時に、花宮は黒子がカットしそうなところに動けばいいだけのことだ。
勿論、黒子が動かなければ成り立たないので、お互いに賭けでもある。
強いて言うなら、花宮は黒子のパスの癖、見えなくてもどの辺りに居るかを記憶しているから。回を重ねる毎に精度が上がった。
そして、誠凛リードの2点差。
花宮が黒子からスティールするパスは、イグナイトを叩き折るように繰り出されるものもあり、軌道の読めないパスに霧崎の集中もそろそろ限界に近づいている。
「あと10秒…逃げ切れるか⁉」
「ふはっ、蜘蛛の巣から逃げようなんて甘いんだよ!」
「なっ!」
「経験を生かせってさっきも言ったろ」
そんな中、ずっとスティールをしていた花宮が、自らフローターショットを放つ。
それはリングをするりと潜って、残り5秒で同点となる。
「取り返せ!」
「…させないから…っ」
「…っ⁉」
そこへ来て、切り返す誠凛に霧崎の壁。
走る火神に瀬戸と原がスクリーンをかけて足を止めさせると、火神は後ろに控えた黒子へ後ろ手にパスをする。
「まだ、終わらねーよ!」
「それはこっちの台詞だよん」
「⁉」
火神の後ろに山崎と古橋が迫り、黒子が受け止めたパスはもう、タイムリミット的に彼が打つより他ない。
幻のシュート、その種は既に明かされてる。
「負ける気もねぇし勝たせる気もねぇから」
構えた黒子のボールを花宮が弾き出せば、ブザービーターが響いた。
練習試合は、同点で幕を閉じた。
「…マジでラフプレーしねぇのな」
「だから卒業したって言ったろ?してほしかったのか?」
「ふざけんな!」
「まあまあ、肩の力抜けよ」
「……アンタは色々抜けすぎてる気がする」
「それは当たってるわー」
試合前よりはギスギスしてないやりとりに、雨月は胸を撫で下ろした。
それから、リコに向き直って握手を求める。
『ありがとう、練習試合受けてくれて』
「こちらこそ。いいデータとれたわ」
『今度は公式戦でね』
「そうね。その時に決着着けましょ」
仲直りもかねた握手を終えて。
各々片付けと挨拶を済ませる。
「じゃあな、雨月。そっちはそっちで頑張れよ」
「伊月と日向もね。リコを泣かせちゃダメよ?」
「…泣きたいくらいのメニューを組まれてるのはこっちだがな」
『あー…うん、頑張れ』
そして、霧崎一行は帰路に着くのだった。
.
「ねえ、引き分けってどうなの?」
『うーん…どっか朝練休みでもいれようかな』
「マジ?てっきり勝ててないから無しになるかと思った」
『最初はそうしようと思ったんだけどねー。思った以上に手応えあったから』
「やった!」
帰り道に揚々とする霧崎面々。
それから、各々の帰路に着いていく。
「じゃあまた明日なー」
『うん、またね』
残された花宮と雨月。
花宮は、ちらりと目線を下に向ける。
「……」
『真君、お疲れさま』
「…ああ」
『…』
「…」
『ふふ、デート行こう?』
「勝てなかったのに?」
『恋人とデートするのに理由いる?』
「ふはっ、最初からデートしたかっただけかよ」
『うん。それに、好きな人のあんなカッコいいとこみたら一層って感じ』
彼女がへらりと笑って見せれば、花宮も呆れたように…でも愛しそうに笑う。
「はいはい。じゃあ可愛い彼女のためにエスコートでもしてやろうな」
『…っ、真君の可愛いは反則!』
「さて、どこ行くかな…」
『聞いてない…』
「俺ジャージだし、行けるとこ限られてんだよな」
『あ…ねぇ、』
「マジバくらいか?ゲーセンとかは高校バレるのめんどいし」
『あのさ!日を、改めませんか?』
一人で話を進める花宮の腕を強く掴んで、雨月は叫ぶ。
『来月のオフ、一緒にどっかいこうよ。ゆっくり、いっぱい』
「…今日がよかったんじゃねぇの?」
『…。でも、何処かに出掛けるデートはもっと時間のある時でいい。今日は、飲み物買って公園でお喋りとかでいいの』
「……」
『それを、デートって呼ばないならデートじゃなくていい。もう少し、一緒に居て。一緒に話して。…我が儘言えば、手を繋いで…欲しい』
叫んだ筈の声は、どんどん小さくなっていくけれど。
代わりに心音は大きくなっていく。
「……ふはっ、欲のねぇ女だな」
『っ!』
「それが我が儘のうちかよ」
『真…君…』
「手。繋いで欲しかったんだろ?」
掴んだ腕をほどかれて、代わりに指をからめられれば。心臓が張り裂けそうなくらいだ。
「それから飲み物?公園は…噴水あるとこあっただろ。あそこならテイクアウトのコーヒーショップ出てたし」
『…ありがとう』
「……バカじゃねぇの。恋人とそうしたいと思うのは当然だろ」
舌をべーっと出して笑うくせに。
彼は絡めた指を一層強く握る。
(こういうところを、知ってしまった)
(他人には情も優しさもないけれど)
(身内にはとてもとても優しい)
『真君』
「なんだよ」
『……大好き』
(知ってるわ、バァカ!)
(…クソ、同中連中に妬いたのがバカみてぇだ)
fin
‐5周年記念 フリリク‐
蕾様へ捧ぐ 花宮夢
2017/08/30
*****
とある休日の体育館、練習試合を組まれた2校の男子バスケ部が顔を合わせた。
「今日はよろし…あ?」
「いえ、こちらこ…は?」
しかも、それは因縁があると言って間違いない2チーム。
WC優勝校、誠凛。予選敗退校、霧崎第一。
そもそも勝敗以前の問題がある組み合わせだった。
「おい、どういうことか説明しろ」
「カントク!どうなってんだよ」
お互いのキャプテンはマッチングした本人を怒りの形相で呼びつけるが、当人達はけろっとしたもので。
「『見ての通りよ』」
にこやかに、かつ凄みのある声で返事をした。
さて、ことの発端は数週間前。
霧崎第一のマネージャー、雨月が街を歩いていた時に、偶然同中だったリコと再会したところに至る。
『アメリカだっけ?遠距離大変だね』
「だから、鉄平とは別れたって…」
『別れてても名前呼びなんだー?』
「…雨月は付き合ってても苗字呼びだけどね」
『人前では呼ばないようにしてるだけ。花宮君、結構気にするから』
双方バスケ部に関わり、無冠の五将を恋人に持つ(持っていた)という共通点もあり、高校が違っても縁があった。
「…なんであんなゲスがいいのよ」
『ちょっと、人の彼氏を貶さないで。私だってあの能天気君に魅力感じないから』
「鉄平は能天気なだけじゃないわよ!確かにちょっと不思議だし天然だけど、仲間思いだし優しいんだから」
『まるで花宮君に情も優しさもないような言い方しないでよ。ないけどさ!』
「知ってる」
カフェで暫く恋バナをしていたが、そこはカントクとマネージャー。話はバスケットのことへ転がっていく。
『…まあ、練習試合組めないのがネックかな』
「あー…そうよね。…そういえば、ラフプレー卒業したってホント?」
『本当。なんか、飽きちゃったんだってさ。確かに最近してないしね』
「へー」
そこまで話して、二人とも息があったように笑うのだ。
『引き受けてくれる?』
「ええ。こっちも、鉄平なしのチームバランス見たいしね」
こうして組まれた試合だが、選手同士は殺伐としている。
「カントク!なんであいつらと…!」
「なんかラフプレー止めたって聞いたから。別に難しいことは考えなくていいの。ただ、」
ブチのめせ
異議を申し立てた日向や火神は、笑顔で威圧されて押し黙る。
それを見た誠凛全体が、震え上がりながらアップを始めた。
一方変わって霧崎では、
「なんで対戦校黙ってた」
『ビックリさせようと思って』
「…んなこったろうと思った」
呆れたようにため息をつく花宮と、面倒な相手だと愚痴を溢し合う面々。
『ごめんね?でも、花宮君なら勝てるって思ったから』
「……」
『ラフプレーと揉め事なしで勝てたら、帰りにデートしよ?』
「ふはっ、俺を餌で釣る気か?仕方ねぇ、のってやるよ」
「お前らノロケうぜぇよ」
「皆は勝てたら来月オフを入れます」
「よし、勝ちにいこう」
しかし結局、和気藹々とワチャワチャとしたアップを始めた。
リコも雨月も単純に自分のチームを勝たせたい…というのがあるが。
この練習試合の打ち合わせをしたときにまた恋バナをして。
ちょっとした喧嘩をしたのだ。
「ゲスで外道だもんね、そのうち不倫とかあるかも」
『は、花宮君はゲスだけどそんなことしないから!木吉君だってボヤッとして惚けてるから、アメリカでほだされてちゃうかもね』
「鉄平だって抜けてるけどそういうのはちゃんとしてるから!」
『花宮君もちゃんとしてるよ、色沙汰で噂になったことないもん』
「モテないだけでしょ」
『チョコいっぱい届くし!毎年ライバル多くて大変なの、そっちと違って』
「鉄平だってチョコくらいもらってたわよ!」
とまあ、とてもくだらない喧嘩を。
.
練習試合はギスギスしたまま始まり、第1Qでは誠凛の速攻が発揮されないまま終わってしまった。
その時に霧崎がつけた点差も、第2Qで調子を掴んだ誠凛に追い付かれてほぼ同点となってしまう。
そしてハーフタイム。
「木吉に会わなくて済んだのはいいが、いないと張り合いもないな」
「花宮は木吉嫌いすぎて好きだよね」
「その言い方やめろ」
『……誠凛と組んだの…怒ってる?』
「………」
「…花宮?」
「はあ…雨月、よく聞け。お前に練習試合の相手を見つけろって言ったのは俺だろ?理由は、選手のモチベーション、感覚をさげない為だ」
『…うん』
「誠凛以上に、負けたくない相手…モチベーションの上がる相手がいると思うか?」
『…!』
「…そういことだ。信頼してやってんだから自信持ってろ、バーカ」
「そうだよ。皆面倒とかいいながらめっちゃ楽しそうでしょ?」
「後半、ちゃんと取り返すから。来月のオフ、約束だぞ」
ドリンクを飲んだり作戦会議をする傍ら、そんな会話も紡がれて。
それを眺める誠凛も少し雑談をする。
「…なんか、霧崎フワフワしてね?ですか?」
「………」
「だよな、水戸部。あの子が輪にいると笑顔が増えるっていうか」
「雨月は優しいし真っ直ぐだからな…霧崎にも有効とは流石というか」
「確かにかなり一途だもんな。案外悪童の心も動いたんじゃないか」
「あれ、伊月と日向は知ってるの?」
「同中なんだ。バスケ部のマネージャーしてたよ」
「へー」
「好きなものとか、自分が認めたものには妥協を許さないタイプでよ。花宮は気に入らねぇけど、アイツがマネージャーを続けるってことは…ラフプレーに勝る何かがあるんだろうな」
「……」
「でも、遠慮はいらないわ。彼女が選んだチームに負けないくらい、私が選んだチームが素敵だってこと、見せつけてよね!」
第3Q、誠凛はメンバーの交代をして、部員全員をコートに立たせた。
赤司の前に立った降旗がライオンに差し出されたチワワだったように、花宮の前に立った彼も毒蜘蛛に差し出された芋虫レベルで萎縮している。
「ふはっ、赤司の威圧なんてこんなもんじゃなかったろ?経験を生かせよバァカ」
「ひっ!」
「へえ?ただのバカじゃなさそうだ」
花宮のフェイクに身動ぐも、道を譲らない降旗に、花宮は口角をあげた。
「ただ、まだたりねぇな」
「あっ!」
しかし、降旗が一瞬視線を動かした隙にボールはサイドの古橋へ回り、シュートが決まる。
けれど、次のターンでは火神がダンクを決めたり小金井がシュートしたりと一進一退が続いた。
「…WC優勝校に互角ってヤバくね?」
「互角ではないな。俺らは1軍レギュラーだけど、向こうは下級生まで満遍なく使って様子を見てる。ベストメンバーではない」
「…でも…俺らもこれから瀬戸が出る訳じゃん?」
「俺がいても黒子の独断パスは防げなかったろ?」
『あ、ねぇ、それなんだけど』
「大丈夫だ。…お前ら全員集中してろよ、あのパス止めるぞ」
そして始まった最終Q。
双方切り札の黒子と瀬戸を投入しての激戦だ。
張り巡らせた蜘蛛の巣に穴を開けるように黒子のパスが飛び交う。
しかし、そのパスですら、今回の蜘蛛の巣の上では徐々に絡め取られていた。
「っ⁉」
「何驚いてんだよ、俺がスティール得意なのは知ってるだろ?」
「…僕のコースすら、読めるということですか」
「平たく言えばそうだな」
「…なんで」
「答えるわけないだろ」
パスコースに突然現れてコースを勝手に変更する黒子の行動は、すべてのコースが花宮に読まれているのが前提だ。
黒子のアジリティーは決して早くないから、花宮の動きを見て動き出しているのでは間に合わない。
故に、花宮が動くのを前提に、味方のパスを見て走り出している。
ならば、そのパスと同時に、花宮は黒子がカットしそうなところに動けばいいだけのことだ。
勿論、黒子が動かなければ成り立たないので、お互いに賭けでもある。
強いて言うなら、花宮は黒子のパスの癖、見えなくてもどの辺りに居るかを記憶しているから。回を重ねる毎に精度が上がった。
そして、誠凛リードの2点差。
花宮が黒子からスティールするパスは、イグナイトを叩き折るように繰り出されるものもあり、軌道の読めないパスに霧崎の集中もそろそろ限界に近づいている。
「あと10秒…逃げ切れるか⁉」
「ふはっ、蜘蛛の巣から逃げようなんて甘いんだよ!」
「なっ!」
「経験を生かせってさっきも言ったろ」
そんな中、ずっとスティールをしていた花宮が、自らフローターショットを放つ。
それはリングをするりと潜って、残り5秒で同点となる。
「取り返せ!」
「…させないから…っ」
「…っ⁉」
そこへ来て、切り返す誠凛に霧崎の壁。
走る火神に瀬戸と原がスクリーンをかけて足を止めさせると、火神は後ろに控えた黒子へ後ろ手にパスをする。
「まだ、終わらねーよ!」
「それはこっちの台詞だよん」
「⁉」
火神の後ろに山崎と古橋が迫り、黒子が受け止めたパスはもう、タイムリミット的に彼が打つより他ない。
幻のシュート、その種は既に明かされてる。
「負ける気もねぇし勝たせる気もねぇから」
構えた黒子のボールを花宮が弾き出せば、ブザービーターが響いた。
練習試合は、同点で幕を閉じた。
「…マジでラフプレーしねぇのな」
「だから卒業したって言ったろ?してほしかったのか?」
「ふざけんな!」
「まあまあ、肩の力抜けよ」
「……アンタは色々抜けすぎてる気がする」
「それは当たってるわー」
試合前よりはギスギスしてないやりとりに、雨月は胸を撫で下ろした。
それから、リコに向き直って握手を求める。
『ありがとう、練習試合受けてくれて』
「こちらこそ。いいデータとれたわ」
『今度は公式戦でね』
「そうね。その時に決着着けましょ」
仲直りもかねた握手を終えて。
各々片付けと挨拶を済ませる。
「じゃあな、雨月。そっちはそっちで頑張れよ」
「伊月と日向もね。リコを泣かせちゃダメよ?」
「…泣きたいくらいのメニューを組まれてるのはこっちだがな」
『あー…うん、頑張れ』
そして、霧崎一行は帰路に着くのだった。
.
「ねえ、引き分けってどうなの?」
『うーん…どっか朝練休みでもいれようかな』
「マジ?てっきり勝ててないから無しになるかと思った」
『最初はそうしようと思ったんだけどねー。思った以上に手応えあったから』
「やった!」
帰り道に揚々とする霧崎面々。
それから、各々の帰路に着いていく。
「じゃあまた明日なー」
『うん、またね』
残された花宮と雨月。
花宮は、ちらりと目線を下に向ける。
「……」
『真君、お疲れさま』
「…ああ」
『…』
「…」
『ふふ、デート行こう?』
「勝てなかったのに?」
『恋人とデートするのに理由いる?』
「ふはっ、最初からデートしたかっただけかよ」
『うん。それに、好きな人のあんなカッコいいとこみたら一層って感じ』
彼女がへらりと笑って見せれば、花宮も呆れたように…でも愛しそうに笑う。
「はいはい。じゃあ可愛い彼女のためにエスコートでもしてやろうな」
『…っ、真君の可愛いは反則!』
「さて、どこ行くかな…」
『聞いてない…』
「俺ジャージだし、行けるとこ限られてんだよな」
『あ…ねぇ、』
「マジバくらいか?ゲーセンとかは高校バレるのめんどいし」
『あのさ!日を、改めませんか?』
一人で話を進める花宮の腕を強く掴んで、雨月は叫ぶ。
『来月のオフ、一緒にどっかいこうよ。ゆっくり、いっぱい』
「…今日がよかったんじゃねぇの?」
『…。でも、何処かに出掛けるデートはもっと時間のある時でいい。今日は、飲み物買って公園でお喋りとかでいいの』
「……」
『それを、デートって呼ばないならデートじゃなくていい。もう少し、一緒に居て。一緒に話して。…我が儘言えば、手を繋いで…欲しい』
叫んだ筈の声は、どんどん小さくなっていくけれど。
代わりに心音は大きくなっていく。
「……ふはっ、欲のねぇ女だな」
『っ!』
「それが我が儘のうちかよ」
『真…君…』
「手。繋いで欲しかったんだろ?」
掴んだ腕をほどかれて、代わりに指をからめられれば。心臓が張り裂けそうなくらいだ。
「それから飲み物?公園は…噴水あるとこあっただろ。あそこならテイクアウトのコーヒーショップ出てたし」
『…ありがとう』
「……バカじゃねぇの。恋人とそうしたいと思うのは当然だろ」
舌をべーっと出して笑うくせに。
彼は絡めた指を一層強く握る。
(こういうところを、知ってしまった)
(他人には情も優しさもないけれど)
(身内にはとてもとても優しい)
『真君』
「なんだよ」
『……大好き』
(知ってるわ、バァカ!)
(…クソ、同中連中に妬いたのがバカみてぇだ)
fin