短編①
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《彼も人の子です》∶花宮
‐4周年記念 フリリク‐
悠氷様へ捧ぐ 花宮夢
2016/09/25
*****
今日は秋祭り。
夏に浴衣を着損ねた雨月は、彼の部活のオフに浴衣デートのお誘いをした。
「まあ、いいけど…お前、浴衣持ってたのか」
『うん。お婆ちゃんが縫ってくれたの。1回くらい着てあげなくちゃ』
然して興味もないような彼に、ちょっとばかし不安を抱えたまま。待ち合わせ場所である駅前の木陰に立っている。
「馬子にも衣装とは言ったもんだな」
『…っ!?ま、真君…』
「なんだよ」
『浴衣持ってたの?』
「…買った。今時スーパーで安っちいの売ってるだろ」
『そうなんだ、全然安く見えないよ、真君が着てるからかな?和装も格好いいね』
「……お前、俺の最初の嫌味を返せ」
『へ?』
「なんでもねぇよ。お前も浴衣似合ってるぜ?婆さん、いいセンスしてる」
そこへ、時間通りに現れた雨月の彼。花宮真。
少しだけ垂らした横髪を軽く撫でられて、彼女は擽ったさと気恥ずかしさに笑った。
「…行くか」
『うん』
「転ぶなよ?ほら」
『ありがと』
そして、差し出された手を繋いでお祭りの会場へ進んでいく。
それを、練習試合帰りの誠凛高校バスケ部が遠目に見ていた。
折角だから荷物番しながら交代で見に行こうか、なんて話していた矢先
「あれ、花宮じゃないか?」
「え?あ、本当だ」
伊月が花宮を見つけ、小金井がそれに反応した。
つられて全員がそちらを見る。そして、一部始終を見ていた。
「…なんだあのげろ甘い雰囲気」
「青春の甘酸っぱいかんじだろ」
日向や水戸部なんかは既に、花宮の優しげな笑顔と言動が信じられず目を見開いたまま。
降旗に続く同期生も、甘酸っぱい空気に中てられて"リア充爆発しろ"と言わんばかりだ。
そこへ黒子の発言。
「僕、ちょっと後を着けてきます」
「は?ああ…あの娘絶体騙されてるもんな…ヤバそうだったら助けるのか」
「あの花宮の彼女だろ?大人しい顔して中身は同じなんじゃねえの…です」
「助けるなんてまさか。100%興味本意です」
((((((ええー…))))))
そんなやり取りがあって、黒子と降旗が尾行することに。
相田も行きたがったが、先輩達は顔バレするから、火神は目立つから。と。
相田は報告よろしく!なんて案外乗り気だ。
.
『真君は食べたいものある?』
「これといってねぇな。お前は?」
『綿飴!チョコバナナ!クレープ!あとは…』
「なんでそんな甘いもんばっかなんだよ…」
『甘いもの好きなんだもん。甘くなくても串焼きとかたこ焼も食べたいもん』
「拗ねんなって」
『拗ねてないもん』
「もんもんうるせえ」
『むぅ』
手を繋いだまま屋台の間をうろうろと歩く二人。
人通りもそこそこあるが、賑わっている程度で、往来には然程困らない。
「…で?綿飴は白いのでいいのか?」
『いらない』
「臍曲げてんじゃねぇよ」
『甘いの嫌なんでしょ?真君と半分こできないならいらない。あっちのたこ焼買いにいこ』
「…はぁ、わかったわかった、綿飴も一口貰うし、たこ焼も半分にすりゃいいんだろ」
『ありがと!』
「つかなんで半分?」
『幸せは好きな人と分かち合うと倍になるの』
「数学的におかしい」
『でも私は今幸せ』
「…あっそ」
一方、屋台の影に隠れいた黒子達は耳を疑い続けていた。
(…あんなピュアな娘いるわけない)
(…騙されてるに一票投じます)
そのうちにも二人は綿飴とたこ焼を買っていく。
『はい、綿飴』
「ん。…あっま」
『砂糖だもんね。あ、今キスしたら甘いかな』
「味見してやろうか?」
『い、今はいい!』
「ふはっ、今は、な」
(ちょっとイグナイトしてきていいですか)
(お、落ち着け黒子)
(だってあれ、あーんですよ、たこ焼に至ってはフーフーしてます。本気でボールとかないですか)
(駄目だって、今バレたらカントクに怒られる)
だって、あの悪童が、片手に綿飴持って、もう片手は彼女と手を繋い歩いてる。
憎い相手だけど、だからこそ、落ち着けといってる降旗が一番困惑しているのだ。
.
そこからいくつかの買い食いをしては、必ずそれを分け合って食べた。
烏賊焼きとクレープを交互にかじったり、お好み焼きを半分こしたり…。
その度LINEに降旗が書き込むと、相田の詳細希望、伊月のダジャレ、日向の突っ込みが足されていく。
(…あ、ヨーヨー釣りするみたいですよ)
降旗が打ち込むのに必死になっていれば、黒子が歩みを止めて、反対の通りの屋台を見ていた。
『金魚すくいしたいな』
「飼えるのか?」
『……部室…とか』
「却下。水風船で我慢しろ」
『ヨーヨー!やる!真君もやろ、ね?』
「はいはい」
そんなやり取りをしながら代金を払って、屋台の水槽の前にしゃがみこんだ。
(…あの彼女、年下かな?顔は全然見えないけど、雰囲気幼いっていうか)
(花宮さんと同い年じゃないですか?敬語も使ってないですし)
(なるほど)
後ろからつけてるのもあって顔は殆ど見えないが、黒子の影の薄さで会話が聞こえる距離には近づけた。
『真君何色にする?』
「黒。お前は?」
『透明なやつ!あれが一番涼しそう』
「ふはっ、確かにな」
そして、花宮はするりとヨーヨーを釣り上げる。
『早い!私も…あっ!?』
しかし、彼女の方はヨーヨーを浮かせることなく釣糸を切ってしまった。
『…ヨーヨー…』
「…、すみません、もう1回いいですか」
「あいよ。そうだ、兄ちゃんの釣糸でとれたら追加料金チャラにしてやるよ」
「のります」
可哀想なくらい悄気た彼女に、既に濡れた釣糸で花宮は透明なヨーヨーを狙う。
それでも、器用にヨーヨーを釣り上げて彼女に渡した。
『ありがとう!』
「兄ちゃんイカすなぁ」
「こういうの結構得意なんで」
『おじさんもありがとうございます!』
「いーっていーって。じゃあ楽しんでいってな」
屋台を離れて少し歩いたところで、花宮は歩みを止めた。
黒子達も慌てて木陰に隠れる。
「とりあえずベンチに座れ」
『え、真君、疲れた?』
「誤魔化すな。足、軽く手当てしてやるから出せ」
『……』
差し出された彼女の足は、草履の鼻緒が擦れて血が滲んでいた。
「…ちょっと待ってろ」
その傷を見て眉間にシワを寄せると、近くの自販機からミネラルウォーターを買って戻ってくる。
『っ、冷たいっ』
「無理して歩くから砂とかついてるし、このままにするわけにはいかないだろ」
そのミネラルウォーターで傷口を洗い、ハンカチで水気を拭き取った。
そして、財布に挟んでいた絆創膏を貼る。
『…準備いいね』
「前にサンダルで同じことやった奴がいたからな。念のためもってた」
『…それ、私…』
「お前は自分から休みたいとか痛いって言わないからな、そのくらいは考える」
(木吉先輩の膝を壊しといて随分甲斐甲斐しいですね)
(人の不幸は蜜の味とかいってたよな?)
(彼の考えが解らなくなります…)
『ありがとう、今日はありがとうっていっぱい言った気がする』
「…礼を言われる程のことはしてねぇよ。ほら、花火が見える場所まで歩けるか?」
『うん、大丈夫』
そういうと花宮は手を差し出して彼女を立たせ、花火会場へと進んでいく。
(ちょ、このまま人込みに入られたら見失うよ)
(……進めないです)
花火会場への道は先程よりずっと混んでいて、尾行の為に距離を取っている黒子達はどんどん離されて、
(見失いましたね)
(もう普通に花火見て帰ろう…)
影の薄さが災いして周りに避けて貰えず、とうとう見失ってしまった。
.
「……撒いたか」
『なんか言った?』
「なんでもない。この辺で見えるか?」
『うん、大丈夫。こんなとこよく知ってたね。古い陸橋?』
「どうせなら静かに見たいだろ。雨月は浴衣のことしか頭になかったみたいだしな…軽く調べた」
『さすが真君』
わざわざ人込みを通って、人気のない場所までやってきた。
見知った顔がウロウロしていたが、ここまでは来れなかったようだ。
彼女を隣に引き寄せれば、丁度花火が上がり始める。
『わぁ…綺麗だね』
「そうだな」
小さいものから大きなもの、柳のように尾を引くものからてんでに飛び散るもの、様々な花が咲いた。
時折雨月は興奮したように俺の浴衣を引っ張って指を指す。
『見て見て、あれ、すごいね』
「見てる見てる」
楽しそうだな、と。
時間を作ってよかったと思った。
『…ね、真君は今日楽しかった?』
「なんで?」
『私の我が儘に付き合わせてばっかな気がして…お前、とか呼ぶし…』
「雨月が楽しいと思う時間を共有したら、同じかそれ以上楽しい。それに、嫌なことはそもそもしねぇ。野暮なこと聞いてんじゃねーよ」
雨月の数学を無視した計算が、少しわかった気がした。
名前を呼ばなかったのは、単に、周りに見知った顔を見つけたから。
途中から尾行されてるのは確信したし、そいつらに雨月の情報は欠片も渡してやる気はなかった。
名前も、顔も。
そういう計算をしながらは面倒だったが、それでも、一緒に秋祭りを回りたいと思ったんだから、きっと楽しかったんだろう。
『……、大好き』
「さっきから脈絡ねぇな」
『…だって、かっこいいんだもん、言いたくなったんだもん、大好きなんだもん』
「だからもんもん五月蝿ぇ」
『むぅ!』
「俺だって好きだ、それくらい知ってる」
花火の方へ向けていた視線を、ちらりと横へずらせば、彼女はこちらをむいていて。
最後の花火だろうか、やたらと明るく大きなその光に照らされた頬は、真っ赤だった。
「ふはっ、花火みなくてよかったのかよ」
『…来年また見るからいいもん…っ!?』
「…、ほんと、拗ねるともんっていう癖直せよな」
それに追い討ちをかけるように、彼女の言葉尻を奪ってキスをする。
「じゃあ、帰るか。ほら、手」
『うん』
「来年も付き合ってやるよ」
『…うん!絶対だからね!』
「はいはい」
それは季節外れのお祭りの話
(カントク、報告します)
(どうだった?)
((悪童も人の子です))
あんなに優しく微笑めるなんて!
Fin
‐4周年記念 フリリク‐
悠氷様へ捧ぐ 花宮夢
2016/09/25
*****
今日は秋祭り。
夏に浴衣を着損ねた雨月は、彼の部活のオフに浴衣デートのお誘いをした。
「まあ、いいけど…お前、浴衣持ってたのか」
『うん。お婆ちゃんが縫ってくれたの。1回くらい着てあげなくちゃ』
然して興味もないような彼に、ちょっとばかし不安を抱えたまま。待ち合わせ場所である駅前の木陰に立っている。
「馬子にも衣装とは言ったもんだな」
『…っ!?ま、真君…』
「なんだよ」
『浴衣持ってたの?』
「…買った。今時スーパーで安っちいの売ってるだろ」
『そうなんだ、全然安く見えないよ、真君が着てるからかな?和装も格好いいね』
「……お前、俺の最初の嫌味を返せ」
『へ?』
「なんでもねぇよ。お前も浴衣似合ってるぜ?婆さん、いいセンスしてる」
そこへ、時間通りに現れた雨月の彼。花宮真。
少しだけ垂らした横髪を軽く撫でられて、彼女は擽ったさと気恥ずかしさに笑った。
「…行くか」
『うん』
「転ぶなよ?ほら」
『ありがと』
そして、差し出された手を繋いでお祭りの会場へ進んでいく。
それを、練習試合帰りの誠凛高校バスケ部が遠目に見ていた。
折角だから荷物番しながら交代で見に行こうか、なんて話していた矢先
「あれ、花宮じゃないか?」
「え?あ、本当だ」
伊月が花宮を見つけ、小金井がそれに反応した。
つられて全員がそちらを見る。そして、一部始終を見ていた。
「…なんだあのげろ甘い雰囲気」
「青春の甘酸っぱいかんじだろ」
日向や水戸部なんかは既に、花宮の優しげな笑顔と言動が信じられず目を見開いたまま。
降旗に続く同期生も、甘酸っぱい空気に中てられて"リア充爆発しろ"と言わんばかりだ。
そこへ黒子の発言。
「僕、ちょっと後を着けてきます」
「は?ああ…あの娘絶体騙されてるもんな…ヤバそうだったら助けるのか」
「あの花宮の彼女だろ?大人しい顔して中身は同じなんじゃねえの…です」
「助けるなんてまさか。100%興味本意です」
((((((ええー…))))))
そんなやり取りがあって、黒子と降旗が尾行することに。
相田も行きたがったが、先輩達は顔バレするから、火神は目立つから。と。
相田は報告よろしく!なんて案外乗り気だ。
.
『真君は食べたいものある?』
「これといってねぇな。お前は?」
『綿飴!チョコバナナ!クレープ!あとは…』
「なんでそんな甘いもんばっかなんだよ…」
『甘いもの好きなんだもん。甘くなくても串焼きとかたこ焼も食べたいもん』
「拗ねんなって」
『拗ねてないもん』
「もんもんうるせえ」
『むぅ』
手を繋いだまま屋台の間をうろうろと歩く二人。
人通りもそこそこあるが、賑わっている程度で、往来には然程困らない。
「…で?綿飴は白いのでいいのか?」
『いらない』
「臍曲げてんじゃねぇよ」
『甘いの嫌なんでしょ?真君と半分こできないならいらない。あっちのたこ焼買いにいこ』
「…はぁ、わかったわかった、綿飴も一口貰うし、たこ焼も半分にすりゃいいんだろ」
『ありがと!』
「つかなんで半分?」
『幸せは好きな人と分かち合うと倍になるの』
「数学的におかしい」
『でも私は今幸せ』
「…あっそ」
一方、屋台の影に隠れいた黒子達は耳を疑い続けていた。
(…あんなピュアな娘いるわけない)
(…騙されてるに一票投じます)
そのうちにも二人は綿飴とたこ焼を買っていく。
『はい、綿飴』
「ん。…あっま」
『砂糖だもんね。あ、今キスしたら甘いかな』
「味見してやろうか?」
『い、今はいい!』
「ふはっ、今は、な」
(ちょっとイグナイトしてきていいですか)
(お、落ち着け黒子)
(だってあれ、あーんですよ、たこ焼に至ってはフーフーしてます。本気でボールとかないですか)
(駄目だって、今バレたらカントクに怒られる)
だって、あの悪童が、片手に綿飴持って、もう片手は彼女と手を繋い歩いてる。
憎い相手だけど、だからこそ、落ち着けといってる降旗が一番困惑しているのだ。
.
そこからいくつかの買い食いをしては、必ずそれを分け合って食べた。
烏賊焼きとクレープを交互にかじったり、お好み焼きを半分こしたり…。
その度LINEに降旗が書き込むと、相田の詳細希望、伊月のダジャレ、日向の突っ込みが足されていく。
(…あ、ヨーヨー釣りするみたいですよ)
降旗が打ち込むのに必死になっていれば、黒子が歩みを止めて、反対の通りの屋台を見ていた。
『金魚すくいしたいな』
「飼えるのか?」
『……部室…とか』
「却下。水風船で我慢しろ」
『ヨーヨー!やる!真君もやろ、ね?』
「はいはい」
そんなやり取りをしながら代金を払って、屋台の水槽の前にしゃがみこんだ。
(…あの彼女、年下かな?顔は全然見えないけど、雰囲気幼いっていうか)
(花宮さんと同い年じゃないですか?敬語も使ってないですし)
(なるほど)
後ろからつけてるのもあって顔は殆ど見えないが、黒子の影の薄さで会話が聞こえる距離には近づけた。
『真君何色にする?』
「黒。お前は?」
『透明なやつ!あれが一番涼しそう』
「ふはっ、確かにな」
そして、花宮はするりとヨーヨーを釣り上げる。
『早い!私も…あっ!?』
しかし、彼女の方はヨーヨーを浮かせることなく釣糸を切ってしまった。
『…ヨーヨー…』
「…、すみません、もう1回いいですか」
「あいよ。そうだ、兄ちゃんの釣糸でとれたら追加料金チャラにしてやるよ」
「のります」
可哀想なくらい悄気た彼女に、既に濡れた釣糸で花宮は透明なヨーヨーを狙う。
それでも、器用にヨーヨーを釣り上げて彼女に渡した。
『ありがとう!』
「兄ちゃんイカすなぁ」
「こういうの結構得意なんで」
『おじさんもありがとうございます!』
「いーっていーって。じゃあ楽しんでいってな」
屋台を離れて少し歩いたところで、花宮は歩みを止めた。
黒子達も慌てて木陰に隠れる。
「とりあえずベンチに座れ」
『え、真君、疲れた?』
「誤魔化すな。足、軽く手当てしてやるから出せ」
『……』
差し出された彼女の足は、草履の鼻緒が擦れて血が滲んでいた。
「…ちょっと待ってろ」
その傷を見て眉間にシワを寄せると、近くの自販機からミネラルウォーターを買って戻ってくる。
『っ、冷たいっ』
「無理して歩くから砂とかついてるし、このままにするわけにはいかないだろ」
そのミネラルウォーターで傷口を洗い、ハンカチで水気を拭き取った。
そして、財布に挟んでいた絆創膏を貼る。
『…準備いいね』
「前にサンダルで同じことやった奴がいたからな。念のためもってた」
『…それ、私…』
「お前は自分から休みたいとか痛いって言わないからな、そのくらいは考える」
(木吉先輩の膝を壊しといて随分甲斐甲斐しいですね)
(人の不幸は蜜の味とかいってたよな?)
(彼の考えが解らなくなります…)
『ありがとう、今日はありがとうっていっぱい言った気がする』
「…礼を言われる程のことはしてねぇよ。ほら、花火が見える場所まで歩けるか?」
『うん、大丈夫』
そういうと花宮は手を差し出して彼女を立たせ、花火会場へと進んでいく。
(ちょ、このまま人込みに入られたら見失うよ)
(……進めないです)
花火会場への道は先程よりずっと混んでいて、尾行の為に距離を取っている黒子達はどんどん離されて、
(見失いましたね)
(もう普通に花火見て帰ろう…)
影の薄さが災いして周りに避けて貰えず、とうとう見失ってしまった。
.
「……撒いたか」
『なんか言った?』
「なんでもない。この辺で見えるか?」
『うん、大丈夫。こんなとこよく知ってたね。古い陸橋?』
「どうせなら静かに見たいだろ。雨月は浴衣のことしか頭になかったみたいだしな…軽く調べた」
『さすが真君』
わざわざ人込みを通って、人気のない場所までやってきた。
見知った顔がウロウロしていたが、ここまでは来れなかったようだ。
彼女を隣に引き寄せれば、丁度花火が上がり始める。
『わぁ…綺麗だね』
「そうだな」
小さいものから大きなもの、柳のように尾を引くものからてんでに飛び散るもの、様々な花が咲いた。
時折雨月は興奮したように俺の浴衣を引っ張って指を指す。
『見て見て、あれ、すごいね』
「見てる見てる」
楽しそうだな、と。
時間を作ってよかったと思った。
『…ね、真君は今日楽しかった?』
「なんで?」
『私の我が儘に付き合わせてばっかな気がして…お前、とか呼ぶし…』
「雨月が楽しいと思う時間を共有したら、同じかそれ以上楽しい。それに、嫌なことはそもそもしねぇ。野暮なこと聞いてんじゃねーよ」
雨月の数学を無視した計算が、少しわかった気がした。
名前を呼ばなかったのは、単に、周りに見知った顔を見つけたから。
途中から尾行されてるのは確信したし、そいつらに雨月の情報は欠片も渡してやる気はなかった。
名前も、顔も。
そういう計算をしながらは面倒だったが、それでも、一緒に秋祭りを回りたいと思ったんだから、きっと楽しかったんだろう。
『……、大好き』
「さっきから脈絡ねぇな」
『…だって、かっこいいんだもん、言いたくなったんだもん、大好きなんだもん』
「だからもんもん五月蝿ぇ」
『むぅ!』
「俺だって好きだ、それくらい知ってる」
花火の方へ向けていた視線を、ちらりと横へずらせば、彼女はこちらをむいていて。
最後の花火だろうか、やたらと明るく大きなその光に照らされた頬は、真っ赤だった。
「ふはっ、花火みなくてよかったのかよ」
『…来年また見るからいいもん…っ!?』
「…、ほんと、拗ねるともんっていう癖直せよな」
それに追い討ちをかけるように、彼女の言葉尻を奪ってキスをする。
「じゃあ、帰るか。ほら、手」
『うん』
「来年も付き合ってやるよ」
『…うん!絶対だからね!』
「はいはい」
それは季節外れのお祭りの話
(カントク、報告します)
(どうだった?)
((悪童も人の子です))
あんなに優しく微笑めるなんて!
Fin