短編①
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《アプリコット》:山崎
同じマンションの、同じ階に住んでる男の子。山崎弘。
彼と私は高校で初めて同じ学校になった。まあ、私が私立の学校に通っていたせいで。
でも、親同士の付き合いもあったりして、小さい時から仲がいい。
『ヒロくん、英語のノート頂戴』
「ほい。じゃ、数学のプリントくれ」
『どうもー。相変わらず綺麗なノートだね』
「お前のプリントもな。丸しかねぇし」
『あー、最終問題は正当率2割だったから、難問だよ』
「マジか。英語もそれ、向こうの風習から来た表現らしいから、引用読んどけよ」
『おー、ありがと』
数学が得意で英語の出来ない私と、英語が得意で数学が苦手なヒロくんは、予習や課題の交換をよくやっている。
良い子は真似しちゃいけないが、進学校でハードな部活に入ってると、こうでもしないと睡眠時間が削れて仕方ない。
まして、
「よっしゃ、じゃあ久しぶりにゲームしようぜ!」
『またあれ?やだよ、私負けてばっかじゃん』
「今日はボードゲームも付き合うから」
『のった!』
こんな風に遊ぶ時間はまずとれない。
ヒロくんは格闘ゲームが好きで、私はオセロとか、どっちかというと頭脳系のゲームが好きだ。
私はヒロくんに一回も格闘ゲームじゃ勝てないし、私も、オセロじゃヒロくんに一回も負けたことない。
「普通にやってもつまんねぇな。俺に格ゲーで勝ったらなんか言うこと聞いてやるよ」
『言ったなー?じゃあ私にオセロで勝てたら私も言うこと聞いてあげる』
「望むところだ」
別に。何かして欲しいことなんてないけど、どうせなら勝ちたい。
そう思ってコントローラーをグリグリするのだけど
『あっ!また負けたー…』
「惜しかったなー」
『いいよ、オセロ今度は一面白にしてやるから』
勝てないこと勝てないこと。
嫌になってヒロくんに凭れかかって伸びをする。
「さっきは3つしか残らなかったからな…」
『ヒロくんの弱さも大概だよね。たまに凄くいい手も打つのにさー』
「頭使うの苦手なんだよな」
『格ゲーコンボあんだけ組んどいて何いってんの』
そのままヒロくんの胡座をかいてる脚に頭を乗せてゴロゴロする。
「オセロ、いいのか?」
『んー、ちょっと休んでから。なんか、眠くなって来ちゃった』
「じゃあ帰って寝ろよ。俺は明日オフだから、明日ならいつでも相手できるし」
『え、明日オフなの?』
「言ってなかったか?」
『初耳だよ!』
それで、ぐるんと上を向いて、ヒロくんの顔を見上げる。
『私もオフなの!ね、このまま泊まっていい?やりたいゲームがあるんだけど、バトルパートがクリアできなくてさ。一緒にやろ?』
「なんてやつ?」
『氷霧の城。フリーゲームなんだけど』
「俺もやりたかったやつだ。ロジックパートがめんどくて辞めたんだよな」
『決まりだね!おふろ入ってまた来るよ』
そのままケラケラと話をして、起き上がろうとしたら頭をぽんぽん撫でられた。
「今日は姉ちゃんしか帰って来ねぇから、シャワー使っていいぞ」
『んー、でも着替え…』
「お前…、この前また来るからって一式置いてったろ」
「あ、そうだった」
お前、バカだな。
と、笑ったヒロくんはちょっと大人びてて。悔しかったから
『一緒に入る?』
なんて茶化したら
「早く行け!」
って部屋を追い出された。
真っ赤になったヒロくんが可愛くて、まだ子供だな、と、ちょっと安心した。
『シャワーありがとー』
「おー。どうする?夜更かしするか?明日にするか?」
『んー…明日かなぁ。結構眠いや』
そんなことをいいながら部屋に戻れば、ヒロくんはもう布団を敷いてくれていた。
私が泊まりに来ると、ヒロくんは自分の布団を譲って、自分は座布団に薄い毛布で寝る。
『…ヒロくん、私が今日そっちで寝るよ。足、めっちゃはみ出てる』
「あ?いいよ、別に」
『私がやだ。私に譲るか、私とこの布団で寝るかのどっちか』
「なんだよその選択肢」
バスケ部のレギュラーの脚だ。
そんな狭いとこで寝させたくない。
そう思って、座布団の方へ座れば、ヒロくんはしぶしぶ自分の布団に潜る。
「雨月」
その上、悪戯めいた声で、私を呼んだ。
「一緒に寝ねぇの?」
ああ、これはさっきの仕返しだろう。
腕枕をする体勢で笑う彼は、また少し大人びて。
やっぱりそれが悔しい私は、
『撤回は無しだからね』
それに応じてしまうのだ。
布団の片側に入って、遠慮なく腕枕をして貰う。
びっくりして固まるヒロくんが可愛い。
『狭くない?』
「お、おう」
『布団かけてよ。届かないし、流石に なんか掛けないと寒い』
「わがまま」
『ヒロくんにしか我儘しませんよーだ』
おどけて笑えば、彼は私の頬をつつく。
そしてふと気付いたように、
「俺のシャンプーの匂いがする」
と笑った。
ああ、悔しい。悔しい!
何がこんなに悔しいんだろう。
だって、だって…
(私ばっかドキドキしてて、悔しい)
『……』
「そろそろ寝るか?どうせなら明日はゲームだけじゃなくて買い物とかも行きてぇし」
『買い物?』
「さっき勝ったら言うこときく、って話したろ?俺が勝ったらバッシュ選ぶの付き合って貰おうと思っててよ」
『そんなの勝たなくても聞いてあげんのに』
「そんな気がしたから言ってみた。お前は?何言おうとしたんだ?」
『んー、何も考えてなかったなぁ…』
ヒロくんに聞いて欲しいこと。
腕枕をしてるのにも、もう慣れてしまった彼にしてほしいこと。
『あ……口紅』
「は?」
『口紅の色、選んでほしい』
「…、いいぜ。明日それも見に行こうな」
なんで口紅なんて言ったかなぁ。
今まで欲しいと思ったこともなかったのに。
でも、優しく笑いながら了承したヒロくんを見て、お洒落するのもいいかな、とも思った。
『私、ヒロくんみたいな彼氏欲しいなぁ』
「はは、なんだよそれ。俺も雨月みたいな彼女欲しいわ」
お互い冗談なんだろうけど、嬉しくなってそのまま寝落ちてしまった。
翌日は朝からゲームをした。
胡座をかくヒロくんの脚に座って、それぞれの得意分野を攻略して進める。
今はラスボス戦、ヒロくんがキーを叩く番。
「だぁー、この敵 防御堅ぇよ。超時間かかった」
私の肩に頭を乗せて唸る彼を、よしよし、と撫でる。
『お疲れさまー。お陰様でトゥルーエンド見れるよ』
「おー、これでヒロイン助かるのか?」
『あ、ほら、二人で脱出できてる』
「よかったな」
何とかハッピーエンドでクリアしたのは、もうお昼時だった。
「昼飯食いに行って、そのまま買い物するか」
『さんせー。パスタ食べたい』
「俺は米食いたい」
『えー、じゃあファミレスね』
代わり映えのしないファミレスで思い思いに好きなものを食べて。
バッシュは荷物になるから先に口紅を買おう、という話になった。
「結構いっぱいあるもんだな」
『そうなんだよね』
ドラッグストアの一画、コスメコーナーで立ち尽くす。
私だって別に、真剣にみたことなかったし、メーカーとかもよくわからない。
「あ、これよくね?」
ふと、ヒロくんがとったのはアプリコットピンク。オレンジかかった明るいピンクを、私の口元に乗せている。
「ほら、鏡みろよ、明るくて綺麗だろ?」
ああ、確かに綺麗だ。
少し大人びて見えるその色が嬉しくなって、ゆっくり笑って見る。
『似合う?』
「似合う。……けど、学校してくんなよ?」
『えー、なんで』
「なんか彼氏できそう」
『何よそれ』
笑いながら口紅を買って、化粧室で塗って外へ出た。
『いいじゃん、付けてっても。ヒロくんが選んでくれたんだよー、って自慢するだけだし』
「じゃあ俺のバッシュも雨月が選んでくれた、って自慢しねぇとな」
スポーツ用品店でみて回ったバッシュは、黒地にオレンジのラインが入ったやつ。私が見た目を気にいって、ヒロくんが履いたら履き心地が良かったみたい。
翌日、
「あれ、ザキ新しいバッシュ買ったの?」
「珍し、雨月が口紅してる」
「ああ、雨月が選んでくれた」
『えへへ、ヒロくんに選んでもらった』
なんてやり取りがあって。
((なんで付き合ってないんだろうなー))
と、いつも通りの疑問を抱かれたのを、私達は知らない。
fin
同じマンションの、同じ階に住んでる男の子。山崎弘。
彼と私は高校で初めて同じ学校になった。まあ、私が私立の学校に通っていたせいで。
でも、親同士の付き合いもあったりして、小さい時から仲がいい。
『ヒロくん、英語のノート頂戴』
「ほい。じゃ、数学のプリントくれ」
『どうもー。相変わらず綺麗なノートだね』
「お前のプリントもな。丸しかねぇし」
『あー、最終問題は正当率2割だったから、難問だよ』
「マジか。英語もそれ、向こうの風習から来た表現らしいから、引用読んどけよ」
『おー、ありがと』
数学が得意で英語の出来ない私と、英語が得意で数学が苦手なヒロくんは、予習や課題の交換をよくやっている。
良い子は真似しちゃいけないが、進学校でハードな部活に入ってると、こうでもしないと睡眠時間が削れて仕方ない。
まして、
「よっしゃ、じゃあ久しぶりにゲームしようぜ!」
『またあれ?やだよ、私負けてばっかじゃん』
「今日はボードゲームも付き合うから」
『のった!』
こんな風に遊ぶ時間はまずとれない。
ヒロくんは格闘ゲームが好きで、私はオセロとか、どっちかというと頭脳系のゲームが好きだ。
私はヒロくんに一回も格闘ゲームじゃ勝てないし、私も、オセロじゃヒロくんに一回も負けたことない。
「普通にやってもつまんねぇな。俺に格ゲーで勝ったらなんか言うこと聞いてやるよ」
『言ったなー?じゃあ私にオセロで勝てたら私も言うこと聞いてあげる』
「望むところだ」
別に。何かして欲しいことなんてないけど、どうせなら勝ちたい。
そう思ってコントローラーをグリグリするのだけど
『あっ!また負けたー…』
「惜しかったなー」
『いいよ、オセロ今度は一面白にしてやるから』
勝てないこと勝てないこと。
嫌になってヒロくんに凭れかかって伸びをする。
「さっきは3つしか残らなかったからな…」
『ヒロくんの弱さも大概だよね。たまに凄くいい手も打つのにさー』
「頭使うの苦手なんだよな」
『格ゲーコンボあんだけ組んどいて何いってんの』
そのままヒロくんの胡座をかいてる脚に頭を乗せてゴロゴロする。
「オセロ、いいのか?」
『んー、ちょっと休んでから。なんか、眠くなって来ちゃった』
「じゃあ帰って寝ろよ。俺は明日オフだから、明日ならいつでも相手できるし」
『え、明日オフなの?』
「言ってなかったか?」
『初耳だよ!』
それで、ぐるんと上を向いて、ヒロくんの顔を見上げる。
『私もオフなの!ね、このまま泊まっていい?やりたいゲームがあるんだけど、バトルパートがクリアできなくてさ。一緒にやろ?』
「なんてやつ?」
『氷霧の城。フリーゲームなんだけど』
「俺もやりたかったやつだ。ロジックパートがめんどくて辞めたんだよな」
『決まりだね!おふろ入ってまた来るよ』
そのままケラケラと話をして、起き上がろうとしたら頭をぽんぽん撫でられた。
「今日は姉ちゃんしか帰って来ねぇから、シャワー使っていいぞ」
『んー、でも着替え…』
「お前…、この前また来るからって一式置いてったろ」
「あ、そうだった」
お前、バカだな。
と、笑ったヒロくんはちょっと大人びてて。悔しかったから
『一緒に入る?』
なんて茶化したら
「早く行け!」
って部屋を追い出された。
真っ赤になったヒロくんが可愛くて、まだ子供だな、と、ちょっと安心した。
『シャワーありがとー』
「おー。どうする?夜更かしするか?明日にするか?」
『んー…明日かなぁ。結構眠いや』
そんなことをいいながら部屋に戻れば、ヒロくんはもう布団を敷いてくれていた。
私が泊まりに来ると、ヒロくんは自分の布団を譲って、自分は座布団に薄い毛布で寝る。
『…ヒロくん、私が今日そっちで寝るよ。足、めっちゃはみ出てる』
「あ?いいよ、別に」
『私がやだ。私に譲るか、私とこの布団で寝るかのどっちか』
「なんだよその選択肢」
バスケ部のレギュラーの脚だ。
そんな狭いとこで寝させたくない。
そう思って、座布団の方へ座れば、ヒロくんはしぶしぶ自分の布団に潜る。
「雨月」
その上、悪戯めいた声で、私を呼んだ。
「一緒に寝ねぇの?」
ああ、これはさっきの仕返しだろう。
腕枕をする体勢で笑う彼は、また少し大人びて。
やっぱりそれが悔しい私は、
『撤回は無しだからね』
それに応じてしまうのだ。
布団の片側に入って、遠慮なく腕枕をして貰う。
びっくりして固まるヒロくんが可愛い。
『狭くない?』
「お、おう」
『布団かけてよ。届かないし、流石に なんか掛けないと寒い』
「わがまま」
『ヒロくんにしか我儘しませんよーだ』
おどけて笑えば、彼は私の頬をつつく。
そしてふと気付いたように、
「俺のシャンプーの匂いがする」
と笑った。
ああ、悔しい。悔しい!
何がこんなに悔しいんだろう。
だって、だって…
(私ばっかドキドキしてて、悔しい)
『……』
「そろそろ寝るか?どうせなら明日はゲームだけじゃなくて買い物とかも行きてぇし」
『買い物?』
「さっき勝ったら言うこときく、って話したろ?俺が勝ったらバッシュ選ぶの付き合って貰おうと思っててよ」
『そんなの勝たなくても聞いてあげんのに』
「そんな気がしたから言ってみた。お前は?何言おうとしたんだ?」
『んー、何も考えてなかったなぁ…』
ヒロくんに聞いて欲しいこと。
腕枕をしてるのにも、もう慣れてしまった彼にしてほしいこと。
『あ……口紅』
「は?」
『口紅の色、選んでほしい』
「…、いいぜ。明日それも見に行こうな」
なんで口紅なんて言ったかなぁ。
今まで欲しいと思ったこともなかったのに。
でも、優しく笑いながら了承したヒロくんを見て、お洒落するのもいいかな、とも思った。
『私、ヒロくんみたいな彼氏欲しいなぁ』
「はは、なんだよそれ。俺も雨月みたいな彼女欲しいわ」
お互い冗談なんだろうけど、嬉しくなってそのまま寝落ちてしまった。
翌日は朝からゲームをした。
胡座をかくヒロくんの脚に座って、それぞれの得意分野を攻略して進める。
今はラスボス戦、ヒロくんがキーを叩く番。
「だぁー、この敵 防御堅ぇよ。超時間かかった」
私の肩に頭を乗せて唸る彼を、よしよし、と撫でる。
『お疲れさまー。お陰様でトゥルーエンド見れるよ』
「おー、これでヒロイン助かるのか?」
『あ、ほら、二人で脱出できてる』
「よかったな」
何とかハッピーエンドでクリアしたのは、もうお昼時だった。
「昼飯食いに行って、そのまま買い物するか」
『さんせー。パスタ食べたい』
「俺は米食いたい」
『えー、じゃあファミレスね』
代わり映えのしないファミレスで思い思いに好きなものを食べて。
バッシュは荷物になるから先に口紅を買おう、という話になった。
「結構いっぱいあるもんだな」
『そうなんだよね』
ドラッグストアの一画、コスメコーナーで立ち尽くす。
私だって別に、真剣にみたことなかったし、メーカーとかもよくわからない。
「あ、これよくね?」
ふと、ヒロくんがとったのはアプリコットピンク。オレンジかかった明るいピンクを、私の口元に乗せている。
「ほら、鏡みろよ、明るくて綺麗だろ?」
ああ、確かに綺麗だ。
少し大人びて見えるその色が嬉しくなって、ゆっくり笑って見る。
『似合う?』
「似合う。……けど、学校してくんなよ?」
『えー、なんで』
「なんか彼氏できそう」
『何よそれ』
笑いながら口紅を買って、化粧室で塗って外へ出た。
『いいじゃん、付けてっても。ヒロくんが選んでくれたんだよー、って自慢するだけだし』
「じゃあ俺のバッシュも雨月が選んでくれた、って自慢しねぇとな」
スポーツ用品店でみて回ったバッシュは、黒地にオレンジのラインが入ったやつ。私が見た目を気にいって、ヒロくんが履いたら履き心地が良かったみたい。
翌日、
「あれ、ザキ新しいバッシュ買ったの?」
「珍し、雨月が口紅してる」
「ああ、雨月が選んでくれた」
『えへへ、ヒロくんに選んでもらった』
なんてやり取りがあって。
((なんで付き合ってないんだろうなー))
と、いつも通りの疑問を抱かれたのを、私達は知らない。
fin