短編①
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《壊れればガラクタだから②》:花宮
※2022花宮生誕祭
※2021花宮生誕祭の続き、1年後
………花宮視点………
「……今年は、何をくれるんだか」
ぽつりと。クローゼットの引き出しを開けながら呟いた。
羽影と付き合って10年経った。
10回分の誕生日プレゼントが、包み紙やメッセージカードと一緒に整えられつつも引き出しの中に犇めいている。
「天才も秀才も壊れれば只のガラクタ」と言ってのけた自分は変わっていない。
だから、どんなに気に入った文房具も、手触りのよいマフラーや手袋も、使い勝手のよい傘や財布も。消耗することでガラクタになってしまうのは嫌だった。
只の物ならいざ知らず、羽影に貰ったものだから。
そんな自分は。プレゼントの包み紙も、バレンタインチョコの空き容器も、デートで行った店のレシートや映画のパンフレットまで。あからさまに用途の済んだガラクタだというのに、捨てられないでいる。
包み紙を見れば、渡す彼女の指先が震えていたことを思い出す。綺麗に塗られたネイルと、合わせた色の口紅で、『誕生日、おめでとう』とはにかむ声まで頭に響く。
チョコの空き容器ならば。どんな味の物が、どんな形で入っていたか思い出すのは容易だし、彼女の服装まで思い出せる。
レシートやパンフレットもそう。
彼女が楽しそうにはしゃぐ姿や、嬉しそうに笑う声。手に取るだけで頭を駆け巡っていく。
なまじ記憶力がいいばっかりに、鮮明に覚えている光景や音や感情は、小さなきっかけで溢れんばかりに甦った。
まるで、宝箱の鍵のようだった。
そんなものが、沢山あった。
そんなものを、ゴミ箱に入れることが出来なくて。
「入れる場所、考えねぇと」
もとより私物は少ない。
部屋にあるのはクローゼットと本棚とベッドだけ。
それでいて、クローゼットの引き出しは彼女からの誕生日プレゼントで埋まっており、ベッド下の収納部分は先の話にあったバレンタインチョコの空き容器やレシート類がいっぱいに詰まっている。
余程小さなものでない限り、入らないだろう。
今回は彼女も俺が使わずに仕舞うことを承知しているから、今までどおりのプレゼントはしないかもしれない。
(それは。嫌だな)
羽影からのプレゼント。嬉しいに決まってる。
彼女が時間を割いて、俺のことを考えて選んだもの。
金額が全てではないけれど、彼女が俺に使っていいと判断した出費。
それが伝わるものをくれるから、彼女のプレゼントが好きだった。
この、プレゼントが詰まった引き出しを見るのが密かに癒しだった。
だから。
どうせ仕舞うなら、もの、じゃなくても。
そうなってしまうのは、いささか。
(さみしいなんて。いうわけ…)
(……)
***
『おじゃまします』
彼女は1月12日の夜に訪れた。
毎年変わらない、冷凍パスタと小さなケーキを携えて。
(…それだけ。に見える)
『…花宮、デジャブを感じるんだけど』
「なにが」
『また卵がパックのまま残ってるんだけど!?』
「ああ」
『ああ。じゃないよ…普段自炊してるじゃん…ええ…』
冷蔵庫を開けた彼女は、去年同様に悲鳴をあげていた。
俺は去年、どうしていただろう。
羽影がプレゼントを用意しない、とは考えていなかったから。手提げ鞄に収まる大きさのものなのかと思っていた。
実際は、彼女がプレゼントを考えあぐねて『喜ぶものが解らない』と言わせてしまったのだけど。
…まあ、「どうも」じゃ言葉足らずなのはわかっていたが。誕生日というものの特別さを感じない性格な上に、プレゼントに喜ぶ素直さも足りなかった。
『花宮、すぐ食べる?シャワー浴びてくる?』
「…シャワー」
『おっけー。ご飯用意してるから、行ってらっしゃい』
思考が過去に引っ張られていたら、冷蔵庫から調理台に向き直った彼女はにんまりと笑った。
どっちが家主だか。
***
特に誕生日の音頭もとらず。
温めたスパゲッティとサラダ。ささやかなケーキ。
それだけで夕飯は終わった。
(卵、どうなったんだ)
6個入りの卵。去年は、彼女が全て料理してくれた。
そもそも、去年は正月に『おせち一緒に食べよ!』と伊達巻やだし巻き玉子を手作りするんだ、と張り切って買い込んできたのだ。手作りするつもりだったのに、ちゃっかり既製品の伊達巻とだし巻き玉子と茶碗蒸しまで買ってしまった彼女は。
自炊してるでしょ、使って。と、卵と何故か生クリームを置いていった。
……卵を見る度にそれを思い出しては笑い、結局使えなかった。
今年もそう。
今年こそ、と卵を買ってきたにも関わらず。同じ買い物カゴには伊達巻とだし巻き玉子。
やっぱり置いていかれた卵を見ては、思わず笑ってしまい、使えないまま。
「なあ、たまご」
『今年は使わなかったよ。去年コレステロールヤバそうって言われたから』
「…根に持ってたのか」
『まさか。卵焼きにしたから、朝ごはんとかお弁当に使って。食べきれなければ冷凍できるからさ』
ふふふ、なんて褒めて欲しそうな笑みを溢す彼女の頭を、そっと撫でた。
彼女は多分、俺が「ありがとう」なんて口にできないのを解ってる。わかって、くれてる。
お決まりのソファで、彼女を抱き寄せようとしたときだ。
ピンポーン
チャイムが鳴る。
家主の俺より早く『はーい』と玄関に向かう彼女。
不思議に思いながら後を追えば。
『はなみや』
大きな箱、彼女が寄りかかれるくらい大きな箱。
それから。
『おめでとう。…ことしも、だいすき』
小さな声で、誕生日の祝詞。
もっと小さな声で、愛の言葉。
察するに、その大きな箱が、プレゼント。
何を貰ったのかよくわかっていないが、俺の返事はいつも同じ。
「…どうも」
緩い笑みを浮かべた彼女は、その箱を寝室に運び始めた。
重そうだったので手伝えば、中身も四角いような気がする。
『花宮はさ、思い出、とっといてくれるじゃない?』
「……」
『だからね。それ用の、棚』
「た…な…?」
『なんでそんな急にアホの子になったの?ほら、よくない?クローゼットと本棚の間にピッタリで、色も同じ。扉も引き出しもあるから日焼けしないし埃も入らない』
棚。
ガラス扉と、引き出し。クラシックな色合いの木製収納棚。
しかも組み換えができる。
どう見ても今までで一番値の張る代物。
『これごと、大切にしてね。これなら勿体無くて使えない、とはならないでしょ?消耗品じゃないからね』
きっと、彼女なりに考えたのだろう。
贈り物をしたい、できることなら使ってほしい、けれど使わないことで大切にされているなら尊重したい。
消耗せず、大切にされて、使われるもの。
「…まさか、家具とは思わなかったな」
『私は、これからも花宮にプレゼントを贈るから。始めに仕舞う場所をプレゼントしようと思って』
そう言われて、改めて、それを見る。
今まで10年分の贈り物が詰まっていたスペースを鑑みるに、20年…いや30年は収納に困らない。
(…それだけの未来を、共にする覚悟があるって…?)
目元が熱くなった。
喉が、胸が、息が詰まるような。
もどかしい。こそばゆい。
「雨月…。……ありがとう」
10年かかって、やっと言えた。
生まれた日を祝われることが嬉しいと、やっと認められた。
『…っ!わたし、こそ。真、』
ー生まれてきてくれて、ありがとうー
まだ何も入っていない棚の前で。
ひしと抱き締め合いながら、俺達は笑った。
fin
何度でも、何度でも。
貴方の誕生日が愛おしい。
※2022花宮生誕祭
※2021花宮生誕祭の続き、1年後
………花宮視点………
「……今年は、何をくれるんだか」
ぽつりと。クローゼットの引き出しを開けながら呟いた。
羽影と付き合って10年経った。
10回分の誕生日プレゼントが、包み紙やメッセージカードと一緒に整えられつつも引き出しの中に犇めいている。
「天才も秀才も壊れれば只のガラクタ」と言ってのけた自分は変わっていない。
だから、どんなに気に入った文房具も、手触りのよいマフラーや手袋も、使い勝手のよい傘や財布も。消耗することでガラクタになってしまうのは嫌だった。
只の物ならいざ知らず、羽影に貰ったものだから。
そんな自分は。プレゼントの包み紙も、バレンタインチョコの空き容器も、デートで行った店のレシートや映画のパンフレットまで。あからさまに用途の済んだガラクタだというのに、捨てられないでいる。
包み紙を見れば、渡す彼女の指先が震えていたことを思い出す。綺麗に塗られたネイルと、合わせた色の口紅で、『誕生日、おめでとう』とはにかむ声まで頭に響く。
チョコの空き容器ならば。どんな味の物が、どんな形で入っていたか思い出すのは容易だし、彼女の服装まで思い出せる。
レシートやパンフレットもそう。
彼女が楽しそうにはしゃぐ姿や、嬉しそうに笑う声。手に取るだけで頭を駆け巡っていく。
なまじ記憶力がいいばっかりに、鮮明に覚えている光景や音や感情は、小さなきっかけで溢れんばかりに甦った。
まるで、宝箱の鍵のようだった。
そんなものが、沢山あった。
そんなものを、ゴミ箱に入れることが出来なくて。
「入れる場所、考えねぇと」
もとより私物は少ない。
部屋にあるのはクローゼットと本棚とベッドだけ。
それでいて、クローゼットの引き出しは彼女からの誕生日プレゼントで埋まっており、ベッド下の収納部分は先の話にあったバレンタインチョコの空き容器やレシート類がいっぱいに詰まっている。
余程小さなものでない限り、入らないだろう。
今回は彼女も俺が使わずに仕舞うことを承知しているから、今までどおりのプレゼントはしないかもしれない。
(それは。嫌だな)
羽影からのプレゼント。嬉しいに決まってる。
彼女が時間を割いて、俺のことを考えて選んだもの。
金額が全てではないけれど、彼女が俺に使っていいと判断した出費。
それが伝わるものをくれるから、彼女のプレゼントが好きだった。
この、プレゼントが詰まった引き出しを見るのが密かに癒しだった。
だから。
どうせ仕舞うなら、もの、じゃなくても。
そうなってしまうのは、いささか。
(さみしいなんて。いうわけ…)
(……)
***
『おじゃまします』
彼女は1月12日の夜に訪れた。
毎年変わらない、冷凍パスタと小さなケーキを携えて。
(…それだけ。に見える)
『…花宮、デジャブを感じるんだけど』
「なにが」
『また卵がパックのまま残ってるんだけど!?』
「ああ」
『ああ。じゃないよ…普段自炊してるじゃん…ええ…』
冷蔵庫を開けた彼女は、去年同様に悲鳴をあげていた。
俺は去年、どうしていただろう。
羽影がプレゼントを用意しない、とは考えていなかったから。手提げ鞄に収まる大きさのものなのかと思っていた。
実際は、彼女がプレゼントを考えあぐねて『喜ぶものが解らない』と言わせてしまったのだけど。
…まあ、「どうも」じゃ言葉足らずなのはわかっていたが。誕生日というものの特別さを感じない性格な上に、プレゼントに喜ぶ素直さも足りなかった。
『花宮、すぐ食べる?シャワー浴びてくる?』
「…シャワー」
『おっけー。ご飯用意してるから、行ってらっしゃい』
思考が過去に引っ張られていたら、冷蔵庫から調理台に向き直った彼女はにんまりと笑った。
どっちが家主だか。
***
特に誕生日の音頭もとらず。
温めたスパゲッティとサラダ。ささやかなケーキ。
それだけで夕飯は終わった。
(卵、どうなったんだ)
6個入りの卵。去年は、彼女が全て料理してくれた。
そもそも、去年は正月に『おせち一緒に食べよ!』と伊達巻やだし巻き玉子を手作りするんだ、と張り切って買い込んできたのだ。手作りするつもりだったのに、ちゃっかり既製品の伊達巻とだし巻き玉子と茶碗蒸しまで買ってしまった彼女は。
自炊してるでしょ、使って。と、卵と何故か生クリームを置いていった。
……卵を見る度にそれを思い出しては笑い、結局使えなかった。
今年もそう。
今年こそ、と卵を買ってきたにも関わらず。同じ買い物カゴには伊達巻とだし巻き玉子。
やっぱり置いていかれた卵を見ては、思わず笑ってしまい、使えないまま。
「なあ、たまご」
『今年は使わなかったよ。去年コレステロールヤバそうって言われたから』
「…根に持ってたのか」
『まさか。卵焼きにしたから、朝ごはんとかお弁当に使って。食べきれなければ冷凍できるからさ』
ふふふ、なんて褒めて欲しそうな笑みを溢す彼女の頭を、そっと撫でた。
彼女は多分、俺が「ありがとう」なんて口にできないのを解ってる。わかって、くれてる。
お決まりのソファで、彼女を抱き寄せようとしたときだ。
ピンポーン
チャイムが鳴る。
家主の俺より早く『はーい』と玄関に向かう彼女。
不思議に思いながら後を追えば。
『はなみや』
大きな箱、彼女が寄りかかれるくらい大きな箱。
それから。
『おめでとう。…ことしも、だいすき』
小さな声で、誕生日の祝詞。
もっと小さな声で、愛の言葉。
察するに、その大きな箱が、プレゼント。
何を貰ったのかよくわかっていないが、俺の返事はいつも同じ。
「…どうも」
緩い笑みを浮かべた彼女は、その箱を寝室に運び始めた。
重そうだったので手伝えば、中身も四角いような気がする。
『花宮はさ、思い出、とっといてくれるじゃない?』
「……」
『だからね。それ用の、棚』
「た…な…?」
『なんでそんな急にアホの子になったの?ほら、よくない?クローゼットと本棚の間にピッタリで、色も同じ。扉も引き出しもあるから日焼けしないし埃も入らない』
棚。
ガラス扉と、引き出し。クラシックな色合いの木製収納棚。
しかも組み換えができる。
どう見ても今までで一番値の張る代物。
『これごと、大切にしてね。これなら勿体無くて使えない、とはならないでしょ?消耗品じゃないからね』
きっと、彼女なりに考えたのだろう。
贈り物をしたい、できることなら使ってほしい、けれど使わないことで大切にされているなら尊重したい。
消耗せず、大切にされて、使われるもの。
「…まさか、家具とは思わなかったな」
『私は、これからも花宮にプレゼントを贈るから。始めに仕舞う場所をプレゼントしようと思って』
そう言われて、改めて、それを見る。
今まで10年分の贈り物が詰まっていたスペースを鑑みるに、20年…いや30年は収納に困らない。
(…それだけの未来を、共にする覚悟があるって…?)
目元が熱くなった。
喉が、胸が、息が詰まるような。
もどかしい。こそばゆい。
「雨月…。……ありがとう」
10年かかって、やっと言えた。
生まれた日を祝われることが嬉しいと、やっと認められた。
『…っ!わたし、こそ。真、』
ー生まれてきてくれて、ありがとうー
まだ何も入っていない棚の前で。
ひしと抱き締め合いながら、俺達は笑った。
fin
何度でも、何度でも。
貴方の誕生日が愛おしい。