短編①
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《チョコレヱト》∶花宮
高1花宮とカノジョのバレンタイン
[花宮視点]
***
『ん』
俯いて差し出す手が、何を持っているかは一目瞭然だった。
2月14日に女子がこぞって渡すもの。
「…バレンタイン?」
チョコレート。
それなりに綺麗なラッピングで、有名どころのブランド名が見える。
一目瞭然なのに疑問符がついた返しになったのは。
まさか羽影が渡してくるとは思ってなかったから。
彼女は部活のマネージャーで、『部活でチョコは配らないからね』と宣言していた筈。
全員分用意するのも手間だし、そっちもお返し気にするのめんどうでしょ?と行事に興味がないくらいの勢いだったと思うが。
『………うん。…花宮君には、渡したくて』
一向に上げられない顔。
白くなる指先は震えながらチョコの箱を差し出している。
それが、なんだか可愛らしく見えた。
それまで意識して見てたわけではないけれど、嫌いじゃなかったし。
部活でチョコを配らないのを一瞬寂しく思うくらいには、…いや、これは意識してたってことだな。
「…生憎、義理は受け取らないことにしてんだ」
この状況で予防線を張る自分が、存外彼女を好きなのだと自嘲する。
それに、彼女に言葉を言わせようとする自分は、変わらず意地の悪い人間だと思う。
『…っ……、ばか!』
わっ、と顔を上げた羽影は目に涙の膜を張っていて。
勢いよくチョコレートの箱を投げつけると、一目散に駆けていった。
(痛っ…顔に向かって投げるかよ、どっちが馬鹿だバァカ)
(……あ?メッセージカード…?)
『花宮君へ 好きです 大本命だから、答がノーでも受け取ってください』
(手渡しするなら、カードに書く意味は無かっただろ)
(本当に馬鹿だな……)
(…………大本命、ねぇ)
じわじわと顔が熱くなる。
なんでホワイトデーは1ヶ月も先なんだ、返事を1ヶ月先伸ばす意味が解らねぇ。
殆ど毎日顔を合わせるのにノーリアクションで居続けるのはおかしいだろ。
そう、彼女が言うように答がノーならそれでもいい。
お返しをせず、無かったことにするだけでいい。
けど、そうじゃないときは。
(1ヶ月かけて返事とお返しを考えろってか)
(……腐るほどキャンディ送ってやる)
***
高1花宮とカノジョのホワイトデー
[ヒロイン視点]
***
バレンタインデーにチョコを渡した。
ばか、と叫びながら顔面に投げつけたが、中身は本命。
…花宮君が意地悪を言わなければ、普通に渡して『家で開けてね』なんて素知らぬ顔して帰ったのに。
わざわざ「義理なら受け取らない」と揶揄するあたり、本当に悪童だ。性格悪い。
頭のいい彼なら、解っていただろうに。
部活で義理チョコは配らないと豪語した私が、人気のないところで、顔も上げられない程緊張して渡した代物が…本命か義理かなんて。
(なんでホワイトデーなんてあるんだろう…返事を1ヶ月も待つなんて拷問だ)
仮に義理なら、どうでもよかった。花宮君ならお返しをしないのも解らなくないし、もしお返しを貰えれば当然嬉しい。一喜一憂するのは3月14日だけ。
そんなことを考えてもしょうがない。だって、今回は本命。大、大、大本命。
花宮君が好きだと気づいた日から、一挙手一投足が気になって仕方ない毎日だったのに。この1ヶ月は殊更。
なのに、花宮君は何も変わらなかった。
一喜一憂なんてない、毎日憂鬱。脈が無いにも程がある。
3月14日の朝、春休み中でも変わらず部活を始める彼に、私は色々と諦めた。
バレンタインなんて、無かったことにされたのだ。
ならば、私だって、忘れてしまうよりない。
スポドリとタオルを用意しながら、鬱々と1日をやり過ごすだけだ。ホワイトデーさえ終わってしまえば、僅かな期待だって捨てられるだろう。
お昼休みを終えて、午後の練習が始まって。
もういいや、そう思えてきたとき。
「羽影、帰り残れよ」
『…え…?』
「言ったからな」
一縷の希望を植えられる。
花宮君の性格からして、得られる答は極端な2択だろう。このままで、なんて生優しい返事はくれない。
それならイベント自体をスルーして無かったことにしていたはず。
だから、砂1粒程の期待の他に。手酷くフラれて嗤われる覚悟を大いにしなければならない。
(深呼吸も無駄だね、むり、泣きそう)
夕方、体育館の鍵を職員室に返して。
彼が居るであろう部室の前まで戻る。
他の人は帰ったのか、花宮君は部室のドアに凭れて立っていた。
『…おまたせ』
「ふはっ、待ったのはお前じゃねぇの?1ヶ月だもんなぁ?」
緊張してガチガチな私に引き替え、彼は愉しそうだった。
『…っ』
口を引き結んでいないと、歯が鳴りそうなくらい、怖い。
なんて、フラれるんだろう。
なんて、嗤われるんだろう。
ジリジリと喉も頭も焼けてくる。
「…ったく、なんでお前がそんな緊張してんだよ」
部活のエナメルバックを漁りながら、花宮君は悪態をついた。
取り出したのは、綺麗な袋。ちょっと大きい、花宮君は片手で持ってるけど、私は両手じゃないと厳しそう。
それを、ごつっ、と。額に当てられた。
『…!?』
いっったい!
あれ、中身ビンだ!ガラスの固さだった!
「とりあえず3倍返しな。顔面は痛かったぞ」
ああ…顔に向かって投げたのを根に持たれてる…
「…ほら、やる」
受け取ったそれは、重たい。
さわった感じもビンだった。
『…開けてもいい?』
中身が全部砂の可能性もあるからね。
期待はしない。しないように。
「ああ」
うなずく彼を少し見つめて。
ゆっくりラッピングを外す。
『わぁ…』
綺麗な飴が沢山入ったビンだった。
半透明で、星やハートの形をしている。
ピンクが多いけれど、黄色、オレンジ、みどり、水色、白もあった。
『ありがとう…とっても綺麗…』
胸に抱えて、蓋をそっと撫でる。
花宮君が選んでくれたんだ…大事に食べよう…
「……返事はそれで伝わったか」
『へ…』
「…。お前、ホワイトデーの菓子の意味知らねぇのかよ…バァカ」
意味なんて知らない。
お返しが貰えただけで喜んでるけど、実は飴って良くないのかな?…フラれてる?それなのに喜んでてバカ、みたいな?
『…え…ごめん、知らなくて…』
一気に背筋が寒くなって足がすくむ。
追い討ちをかけるように、花宮君の舌打ち。
頭をガシガシと掻いた彼は、一歩私に詰め寄ると小さく息を吐いた。
「好きでもないやつに、お返しなんて用意しないんだよ」
それから、私の頭もガシガシと撫でる。
『…っ!?』
びっくりして。とりあえず飴だけは落とさないようにギュッと抱き締めた。
それは。つまり。
『砂1粒の期待が…叶った…』
「お前の期待値少なすぎるだろ」
ふはっ、と笑う花宮君は。僅かに頬が赤い気がした。
「とりあえず、一緒に帰るか?」
『…うん!』
fin
高1花宮とカノジョのバレンタイン
[花宮視点]
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『ん』
俯いて差し出す手が、何を持っているかは一目瞭然だった。
2月14日に女子がこぞって渡すもの。
「…バレンタイン?」
チョコレート。
それなりに綺麗なラッピングで、有名どころのブランド名が見える。
一目瞭然なのに疑問符がついた返しになったのは。
まさか羽影が渡してくるとは思ってなかったから。
彼女は部活のマネージャーで、『部活でチョコは配らないからね』と宣言していた筈。
全員分用意するのも手間だし、そっちもお返し気にするのめんどうでしょ?と行事に興味がないくらいの勢いだったと思うが。
『………うん。…花宮君には、渡したくて』
一向に上げられない顔。
白くなる指先は震えながらチョコの箱を差し出している。
それが、なんだか可愛らしく見えた。
それまで意識して見てたわけではないけれど、嫌いじゃなかったし。
部活でチョコを配らないのを一瞬寂しく思うくらいには、…いや、これは意識してたってことだな。
「…生憎、義理は受け取らないことにしてんだ」
この状況で予防線を張る自分が、存外彼女を好きなのだと自嘲する。
それに、彼女に言葉を言わせようとする自分は、変わらず意地の悪い人間だと思う。
『…っ……、ばか!』
わっ、と顔を上げた羽影は目に涙の膜を張っていて。
勢いよくチョコレートの箱を投げつけると、一目散に駆けていった。
(痛っ…顔に向かって投げるかよ、どっちが馬鹿だバァカ)
(……あ?メッセージカード…?)
『花宮君へ 好きです 大本命だから、答がノーでも受け取ってください』
(手渡しするなら、カードに書く意味は無かっただろ)
(本当に馬鹿だな……)
(…………大本命、ねぇ)
じわじわと顔が熱くなる。
なんでホワイトデーは1ヶ月も先なんだ、返事を1ヶ月先伸ばす意味が解らねぇ。
殆ど毎日顔を合わせるのにノーリアクションで居続けるのはおかしいだろ。
そう、彼女が言うように答がノーならそれでもいい。
お返しをせず、無かったことにするだけでいい。
けど、そうじゃないときは。
(1ヶ月かけて返事とお返しを考えろってか)
(……腐るほどキャンディ送ってやる)
***
高1花宮とカノジョのホワイトデー
[ヒロイン視点]
***
バレンタインデーにチョコを渡した。
ばか、と叫びながら顔面に投げつけたが、中身は本命。
…花宮君が意地悪を言わなければ、普通に渡して『家で開けてね』なんて素知らぬ顔して帰ったのに。
わざわざ「義理なら受け取らない」と揶揄するあたり、本当に悪童だ。性格悪い。
頭のいい彼なら、解っていただろうに。
部活で義理チョコは配らないと豪語した私が、人気のないところで、顔も上げられない程緊張して渡した代物が…本命か義理かなんて。
(なんでホワイトデーなんてあるんだろう…返事を1ヶ月も待つなんて拷問だ)
仮に義理なら、どうでもよかった。花宮君ならお返しをしないのも解らなくないし、もしお返しを貰えれば当然嬉しい。一喜一憂するのは3月14日だけ。
そんなことを考えてもしょうがない。だって、今回は本命。大、大、大本命。
花宮君が好きだと気づいた日から、一挙手一投足が気になって仕方ない毎日だったのに。この1ヶ月は殊更。
なのに、花宮君は何も変わらなかった。
一喜一憂なんてない、毎日憂鬱。脈が無いにも程がある。
3月14日の朝、春休み中でも変わらず部活を始める彼に、私は色々と諦めた。
バレンタインなんて、無かったことにされたのだ。
ならば、私だって、忘れてしまうよりない。
スポドリとタオルを用意しながら、鬱々と1日をやり過ごすだけだ。ホワイトデーさえ終わってしまえば、僅かな期待だって捨てられるだろう。
お昼休みを終えて、午後の練習が始まって。
もういいや、そう思えてきたとき。
「羽影、帰り残れよ」
『…え…?』
「言ったからな」
一縷の希望を植えられる。
花宮君の性格からして、得られる答は極端な2択だろう。このままで、なんて生優しい返事はくれない。
それならイベント自体をスルーして無かったことにしていたはず。
だから、砂1粒程の期待の他に。手酷くフラれて嗤われる覚悟を大いにしなければならない。
(深呼吸も無駄だね、むり、泣きそう)
夕方、体育館の鍵を職員室に返して。
彼が居るであろう部室の前まで戻る。
他の人は帰ったのか、花宮君は部室のドアに凭れて立っていた。
『…おまたせ』
「ふはっ、待ったのはお前じゃねぇの?1ヶ月だもんなぁ?」
緊張してガチガチな私に引き替え、彼は愉しそうだった。
『…っ』
口を引き結んでいないと、歯が鳴りそうなくらい、怖い。
なんて、フラれるんだろう。
なんて、嗤われるんだろう。
ジリジリと喉も頭も焼けてくる。
「…ったく、なんでお前がそんな緊張してんだよ」
部活のエナメルバックを漁りながら、花宮君は悪態をついた。
取り出したのは、綺麗な袋。ちょっと大きい、花宮君は片手で持ってるけど、私は両手じゃないと厳しそう。
それを、ごつっ、と。額に当てられた。
『…!?』
いっったい!
あれ、中身ビンだ!ガラスの固さだった!
「とりあえず3倍返しな。顔面は痛かったぞ」
ああ…顔に向かって投げたのを根に持たれてる…
「…ほら、やる」
受け取ったそれは、重たい。
さわった感じもビンだった。
『…開けてもいい?』
中身が全部砂の可能性もあるからね。
期待はしない。しないように。
「ああ」
うなずく彼を少し見つめて。
ゆっくりラッピングを外す。
『わぁ…』
綺麗な飴が沢山入ったビンだった。
半透明で、星やハートの形をしている。
ピンクが多いけれど、黄色、オレンジ、みどり、水色、白もあった。
『ありがとう…とっても綺麗…』
胸に抱えて、蓋をそっと撫でる。
花宮君が選んでくれたんだ…大事に食べよう…
「……返事はそれで伝わったか」
『へ…』
「…。お前、ホワイトデーの菓子の意味知らねぇのかよ…バァカ」
意味なんて知らない。
お返しが貰えただけで喜んでるけど、実は飴って良くないのかな?…フラれてる?それなのに喜んでてバカ、みたいな?
『…え…ごめん、知らなくて…』
一気に背筋が寒くなって足がすくむ。
追い討ちをかけるように、花宮君の舌打ち。
頭をガシガシと掻いた彼は、一歩私に詰め寄ると小さく息を吐いた。
「好きでもないやつに、お返しなんて用意しないんだよ」
それから、私の頭もガシガシと撫でる。
『…っ!?』
びっくりして。とりあえず飴だけは落とさないようにギュッと抱き締めた。
それは。つまり。
『砂1粒の期待が…叶った…』
「お前の期待値少なすぎるだろ」
ふはっ、と笑う花宮君は。僅かに頬が赤い気がした。
「とりあえず、一緒に帰るか?」
『…うん!』
fin