短編①
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《マイヒーロー》:原
私は、"嫌だ"と言うのが苦手だ。
優しい、思いやりがある、責任感がある、と誉められ育ってきた自分は。
否定的な返事をすることで"優しい私"というアイデンティティーを壊したくなかったのだ。
そしてついには。
"嫌だ"と思うことすら忘れてしまったらしい。
「ねーえー、なんで羽影は毎日保健室にいるわけ?」
『保健委員だから』
「俺も保健委員だからわかるけど、当番は週1回じゃん。しかも委員長じゃなくて副委員長だし」
『…だって、皆こないんだもの』
週1回の当番。
加湿器をセットして片付けて、あれば保健便りを各学年に配布して。
2年生になると交代で保健便りを書く側にもなる。
大した仕事じゃないから別に構わない。
でも、彼はそれを快く思わないらしかった。
「それは羽影がいつもいるから、やらなくていいやって思われてんでしょ」
『でも、一哉君は来てくれるじゃない』
「委員会なら部活サボっても言い訳できるからね。ほら、俺が片付けるからたまには早く帰ったら?」
『ありがとう。でも、保健便り書き終わってから帰るよ』
「また書いてんの?今度は委員長の番じゃん」
『部活、忙しいんだってさ』
「それ先月も聞いた」
彼は、小学校からずっと一緒。前はこんなに前髪なかったのにな。なんて思いながら話を続ける。
『いいんだよ。私は部活も忙しくないし』
「はーあ、相変わらずイイコチャンなのはいいけどさ。嫌なことは嫌だって言わないと後悔するよ?」
片付けが終わった彼は、私から保健便りをひったくって歩き出す。
『え、まってコピー…』
「俺がしとくし、終わったら保健室置いとく。各クラスに委員はいるんだから、自分達で数えて持ってかせればいいっしょ。放送部に昼休みに放送してもらうよう原稿渡しとくから」
『…ありがとう』
「お礼とかいらないからー」
じゃあね。
と去っていく猫背な薄紫の頭を見送った。
『ふぅ』
いつもより余裕を持って来れたバイト先のカフェ。
料金設定がちょっと高めなのもあって学生の客は少ない。
同じ学校で来てくれたのは一哉君の部活のメンバー。コーヒーが好きな瀬戸君と、苦いものが好きな花宮君。一哉君はコーヒーも苦いものも好きじゃないけど、ケーキが美味しいって言ってくれた。
今日は部活が早く終わったんだろうか、制服姿で3人が来てくれたので、奥のテーブルへ通す。
「ポチ、それ奥のテーブルね」
ポチ、と呼ばれたのは私だ。
ぽっちゃりしてる、というのと柔順なところが犬っぽいとかそんな理由で店長がつけた。
最初こそ抵抗があったものの、他にないんですか、と聞いても直す気のない店長に諦めが勝る。
他のスタッフに浸透してないだけいいや。そんな感じ。
エスプレッソと、マンデリンのレギュラー、キャラメルマキアートを受け取ってホールへ戻る。
『お待たせいたしました、お飲物どうぞ』
「お前らいつも思うけどよくこんな苦いの飲めるよね」
「お前こそよくそんな甘ったるいもの飲めんな」
「花宮と俺の味覚を一緒にしないで」
「おいどういうことだ」
『ふふ。高校生で豆の指定してくる人なんていないですからね』
「ちなみにエスプレッソは何使ってるの?」
『店のオリジナルブレンドです。モカとコロンビア、トラジャをメインにしていたと思います』
「すごーい、よく覚えてんね」
『よくお客様に聞かれますので』
今日は客が少ないというのもあって、少しばかり話していた。
基本的にはメニューや店のことを聞かれているから無駄話をしている訳ではないし、私も店員として言葉遣いを崩してはいない。
ただ、遠目そうは見えないのだろう。
「ポチ!ケーキ運んで」
『はいただいま』
店長がキッチンから呼びつけたので慌ててテーブルを離れる。
『失礼します、ガトーショコラとオレンジミルフィーユです』
「ねえ、ポチって呼ばれてんの?」
『…店長がね、呼びやすいんだって』
「……」
「モラハラで訴えとけ」
『まあ店長しか呼ばないし、今年一杯のバイトだしね』
「にしても」
『また呼ばれちゃうから、ごめんね。ごゆっくりどうぞ』
ケーキ皿を置いてそそくさと立ち去る。
彼らには、ポチと呼ばれてるのを知られたくなかったのに。
「…原、面倒なこと起こすなよ」
「なんで?」
「お前がストローとかフォークを噛んでる時はろくなこと考えてねぇからだ」
「じゃあIQ160オーバーなお前らに聞くけどさ。あれ…どうしたらスマートに解決する?」
「本人次第だろ」
「…それができないからフォーク噛んでんだよね」
彼女はポチなんて呼ばれ方をしたくない。嫌だと思っている筈なのに。
嫌だと思うことすら諦めたらしい。
(そんなの、全然面白くない)
よく見てれば、暇とはいえスタッフで動いてるのは彼女だけだ。テーブルを拭きながらオーダーを取って品物を運んで。店長と話し込んでるもう一人が動けばいいのに。
あいつは、いつもそう。
一人で片付けしてたり、係の代わりに準備してたり、面倒な役員やらされたあげく協力してもらえなかったり。
嫌だ。
手伝って。
代わって。
無理。
否定的な返事ができないでいる。
(ちょー胸糞悪い)
「原、会計」
「んー…」
「…ここのコーヒー飲めなくなるようなことすんなよ」
「彼女のウエイトレスが見れなくなるのもなしね」
「善処しますよー」
レジに行けば、丁度店長がレジ打ちをしていた。
「お会計こちらになりますね」
「あのさ。この店って相応なもの出して相応の金額とるじゃんか」
「は、はあ」
「ある程度格式があって、俺らみたいな学生なんてどんなに気に入ってもしょっちゅうこれないの。そういう特別な場所なのにさ、スタッフをポチ呼ばわりする店長がいるなんて興醒めだよ」
「…すみません、スタッフ間のあだ名でして」
「あだ名ってプライベートで使うものでしょ。客に聞こえるなんてありえないし、聞こえないにしても、そんなあだ名つける程度のモラルしか持ち合わせない店ってこと?」
「…」
「おい」
「あっ、この店のメニューは好きだから店の悪口言ってんじゃないよ?端的にいうとさ」
あのスタッフ嫌がってんだから呼び方変えたら?
「また来るね。お代はこれ。ケーキ美味しかったよん」
『…』
店長が、お客に言われたから気を付ける。と、呼び方を考えてくれるらしい。
十中八九、一哉君が言ってくれたんだ。
彼は、小さい時から私のヒーロー。私が諦めたり、言えないでいる、"嫌" "止めて"にいつも気づいてくれた。
だから今回も、彼が言ってくれて初めて
(私、嫌だったんだ)
そう思えた。
『…一哉君、昨日ありがとう』
「店の中で気不味くなってない?」
『うん。大丈夫』
「ならいいけど。…ってか、嫌なら嫌っていいなよ。俺じゃなきゃ気づかないし、言われるまで待っててもいいことないから」
『…ごめん。でも、嫌なのか、言われるまで解んないんだよ…』
嫌だ、なんて。感じることも諦めたし。そもそも忘れてしまった。
言っても変わらないなら、感じないことのがずっと楽だから。
「…ふーん?嫌なことはないってこと?なんかあるでしょ」
『ある、かもだけど…すぐ浮かばない』
「俺なんか山ほどあるのに。テストも授業も嫌。走り込みも嫌い。あとウザイ奴もイヤ」
『……私も好きじゃないけど、やらなきゃいけないから仕方ないよ』
一哉君は、噛んでいたガムを膨らませて割った。
表情が伺えなくて見えない目を見つめてみる。
「マジなんなの?次は気づいても言わないかんね」
『……怒ったの?』
「どっちかといえばめんどくなった。俺だけイライラしてんのおかしいし」
部活戻るわ。
と、保健室の椅子から立ち上がった彼の腕をとっさに掴んだ。
「…何?」
『…や、だ』
「…」
『一哉君に嫌われるの、嫌だ』
絞り出した久し振りの"嫌だ"に、頭の中がぐちゃぐちゃしてくる。
だって、嫌とか駄目とかいうと皆いい顔をしない。
でも、ここで彼を引き留めないと、彼は離れて行ってしまう気がした。
そんなの…
『嫌だ…見捨てないでよ、一哉君』
「…なんだ。言えるんじゃん」
再び椅子に座った彼は、椅子ごとグッと近寄って。
私の頭をぐりぐりと撫でる。
「他には?まだあるっしょ?俺のことでもいいからさ」
その声色が優しくて、涙が出てきてしまう。
彼は適当に拭いながら"俺しか聞いてないし、誰も嫌わないよ"なんて、余計私を泣かせた。
『…一哉君が、私を羽影って呼ぶのも嫌…前みたいに、雨月がいい。前髪長いのも嫌、カッコいいけど、一哉君の目が見えない』
嗚咽の混ざる私の言葉を、ニヤニヤしながら聞いていたのに。
「ねえ、俺のこと好きなの?」
なんて口を開いた。
『え…』
「これで嫌いって言われても意味不だけどさ」
『…嫌いじゃない』
「あー…"好き"もどっかに落としてきたの?じゃあ聞き方変えるね」
俺とキスするのは、嫌?
「雨月」
『…っ、嫌じゃ、ない』
顔が真っ赤になる。
脈が早くなる。
呼吸が浅くなる。
唇に触れた温もりも、ミントの匂いも。なんだかとても幸せなものに感じた。
「今なら答えられる?」
俺のこと、好き?
『っ、好き。…一哉君は?』
「え、今更?」
俺が好きでもない奴の為に仕事したり、他人につっかかるわけないじゃん。
(マイヒーロー)
(イズ)
(マイダーリン)
Fin
私は、"嫌だ"と言うのが苦手だ。
優しい、思いやりがある、責任感がある、と誉められ育ってきた自分は。
否定的な返事をすることで"優しい私"というアイデンティティーを壊したくなかったのだ。
そしてついには。
"嫌だ"と思うことすら忘れてしまったらしい。
「ねーえー、なんで羽影は毎日保健室にいるわけ?」
『保健委員だから』
「俺も保健委員だからわかるけど、当番は週1回じゃん。しかも委員長じゃなくて副委員長だし」
『…だって、皆こないんだもの』
週1回の当番。
加湿器をセットして片付けて、あれば保健便りを各学年に配布して。
2年生になると交代で保健便りを書く側にもなる。
大した仕事じゃないから別に構わない。
でも、彼はそれを快く思わないらしかった。
「それは羽影がいつもいるから、やらなくていいやって思われてんでしょ」
『でも、一哉君は来てくれるじゃない』
「委員会なら部活サボっても言い訳できるからね。ほら、俺が片付けるからたまには早く帰ったら?」
『ありがとう。でも、保健便り書き終わってから帰るよ』
「また書いてんの?今度は委員長の番じゃん」
『部活、忙しいんだってさ』
「それ先月も聞いた」
彼は、小学校からずっと一緒。前はこんなに前髪なかったのにな。なんて思いながら話を続ける。
『いいんだよ。私は部活も忙しくないし』
「はーあ、相変わらずイイコチャンなのはいいけどさ。嫌なことは嫌だって言わないと後悔するよ?」
片付けが終わった彼は、私から保健便りをひったくって歩き出す。
『え、まってコピー…』
「俺がしとくし、終わったら保健室置いとく。各クラスに委員はいるんだから、自分達で数えて持ってかせればいいっしょ。放送部に昼休みに放送してもらうよう原稿渡しとくから」
『…ありがとう』
「お礼とかいらないからー」
じゃあね。
と去っていく猫背な薄紫の頭を見送った。
『ふぅ』
いつもより余裕を持って来れたバイト先のカフェ。
料金設定がちょっと高めなのもあって学生の客は少ない。
同じ学校で来てくれたのは一哉君の部活のメンバー。コーヒーが好きな瀬戸君と、苦いものが好きな花宮君。一哉君はコーヒーも苦いものも好きじゃないけど、ケーキが美味しいって言ってくれた。
今日は部活が早く終わったんだろうか、制服姿で3人が来てくれたので、奥のテーブルへ通す。
「ポチ、それ奥のテーブルね」
ポチ、と呼ばれたのは私だ。
ぽっちゃりしてる、というのと柔順なところが犬っぽいとかそんな理由で店長がつけた。
最初こそ抵抗があったものの、他にないんですか、と聞いても直す気のない店長に諦めが勝る。
他のスタッフに浸透してないだけいいや。そんな感じ。
エスプレッソと、マンデリンのレギュラー、キャラメルマキアートを受け取ってホールへ戻る。
『お待たせいたしました、お飲物どうぞ』
「お前らいつも思うけどよくこんな苦いの飲めるよね」
「お前こそよくそんな甘ったるいもの飲めんな」
「花宮と俺の味覚を一緒にしないで」
「おいどういうことだ」
『ふふ。高校生で豆の指定してくる人なんていないですからね』
「ちなみにエスプレッソは何使ってるの?」
『店のオリジナルブレンドです。モカとコロンビア、トラジャをメインにしていたと思います』
「すごーい、よく覚えてんね」
『よくお客様に聞かれますので』
今日は客が少ないというのもあって、少しばかり話していた。
基本的にはメニューや店のことを聞かれているから無駄話をしている訳ではないし、私も店員として言葉遣いを崩してはいない。
ただ、遠目そうは見えないのだろう。
「ポチ!ケーキ運んで」
『はいただいま』
店長がキッチンから呼びつけたので慌ててテーブルを離れる。
『失礼します、ガトーショコラとオレンジミルフィーユです』
「ねえ、ポチって呼ばれてんの?」
『…店長がね、呼びやすいんだって』
「……」
「モラハラで訴えとけ」
『まあ店長しか呼ばないし、今年一杯のバイトだしね』
「にしても」
『また呼ばれちゃうから、ごめんね。ごゆっくりどうぞ』
ケーキ皿を置いてそそくさと立ち去る。
彼らには、ポチと呼ばれてるのを知られたくなかったのに。
「…原、面倒なこと起こすなよ」
「なんで?」
「お前がストローとかフォークを噛んでる時はろくなこと考えてねぇからだ」
「じゃあIQ160オーバーなお前らに聞くけどさ。あれ…どうしたらスマートに解決する?」
「本人次第だろ」
「…それができないからフォーク噛んでんだよね」
彼女はポチなんて呼ばれ方をしたくない。嫌だと思っている筈なのに。
嫌だと思うことすら諦めたらしい。
(そんなの、全然面白くない)
よく見てれば、暇とはいえスタッフで動いてるのは彼女だけだ。テーブルを拭きながらオーダーを取って品物を運んで。店長と話し込んでるもう一人が動けばいいのに。
あいつは、いつもそう。
一人で片付けしてたり、係の代わりに準備してたり、面倒な役員やらされたあげく協力してもらえなかったり。
嫌だ。
手伝って。
代わって。
無理。
否定的な返事ができないでいる。
(ちょー胸糞悪い)
「原、会計」
「んー…」
「…ここのコーヒー飲めなくなるようなことすんなよ」
「彼女のウエイトレスが見れなくなるのもなしね」
「善処しますよー」
レジに行けば、丁度店長がレジ打ちをしていた。
「お会計こちらになりますね」
「あのさ。この店って相応なもの出して相応の金額とるじゃんか」
「は、はあ」
「ある程度格式があって、俺らみたいな学生なんてどんなに気に入ってもしょっちゅうこれないの。そういう特別な場所なのにさ、スタッフをポチ呼ばわりする店長がいるなんて興醒めだよ」
「…すみません、スタッフ間のあだ名でして」
「あだ名ってプライベートで使うものでしょ。客に聞こえるなんてありえないし、聞こえないにしても、そんなあだ名つける程度のモラルしか持ち合わせない店ってこと?」
「…」
「おい」
「あっ、この店のメニューは好きだから店の悪口言ってんじゃないよ?端的にいうとさ」
あのスタッフ嫌がってんだから呼び方変えたら?
「また来るね。お代はこれ。ケーキ美味しかったよん」
『…』
店長が、お客に言われたから気を付ける。と、呼び方を考えてくれるらしい。
十中八九、一哉君が言ってくれたんだ。
彼は、小さい時から私のヒーロー。私が諦めたり、言えないでいる、"嫌" "止めて"にいつも気づいてくれた。
だから今回も、彼が言ってくれて初めて
(私、嫌だったんだ)
そう思えた。
『…一哉君、昨日ありがとう』
「店の中で気不味くなってない?」
『うん。大丈夫』
「ならいいけど。…ってか、嫌なら嫌っていいなよ。俺じゃなきゃ気づかないし、言われるまで待っててもいいことないから」
『…ごめん。でも、嫌なのか、言われるまで解んないんだよ…』
嫌だ、なんて。感じることも諦めたし。そもそも忘れてしまった。
言っても変わらないなら、感じないことのがずっと楽だから。
「…ふーん?嫌なことはないってこと?なんかあるでしょ」
『ある、かもだけど…すぐ浮かばない』
「俺なんか山ほどあるのに。テストも授業も嫌。走り込みも嫌い。あとウザイ奴もイヤ」
『……私も好きじゃないけど、やらなきゃいけないから仕方ないよ』
一哉君は、噛んでいたガムを膨らませて割った。
表情が伺えなくて見えない目を見つめてみる。
「マジなんなの?次は気づいても言わないかんね」
『……怒ったの?』
「どっちかといえばめんどくなった。俺だけイライラしてんのおかしいし」
部活戻るわ。
と、保健室の椅子から立ち上がった彼の腕をとっさに掴んだ。
「…何?」
『…や、だ』
「…」
『一哉君に嫌われるの、嫌だ』
絞り出した久し振りの"嫌だ"に、頭の中がぐちゃぐちゃしてくる。
だって、嫌とか駄目とかいうと皆いい顔をしない。
でも、ここで彼を引き留めないと、彼は離れて行ってしまう気がした。
そんなの…
『嫌だ…見捨てないでよ、一哉君』
「…なんだ。言えるんじゃん」
再び椅子に座った彼は、椅子ごとグッと近寄って。
私の頭をぐりぐりと撫でる。
「他には?まだあるっしょ?俺のことでもいいからさ」
その声色が優しくて、涙が出てきてしまう。
彼は適当に拭いながら"俺しか聞いてないし、誰も嫌わないよ"なんて、余計私を泣かせた。
『…一哉君が、私を羽影って呼ぶのも嫌…前みたいに、雨月がいい。前髪長いのも嫌、カッコいいけど、一哉君の目が見えない』
嗚咽の混ざる私の言葉を、ニヤニヤしながら聞いていたのに。
「ねえ、俺のこと好きなの?」
なんて口を開いた。
『え…』
「これで嫌いって言われても意味不だけどさ」
『…嫌いじゃない』
「あー…"好き"もどっかに落としてきたの?じゃあ聞き方変えるね」
俺とキスするのは、嫌?
「雨月」
『…っ、嫌じゃ、ない』
顔が真っ赤になる。
脈が早くなる。
呼吸が浅くなる。
唇に触れた温もりも、ミントの匂いも。なんだかとても幸せなものに感じた。
「今なら答えられる?」
俺のこと、好き?
『っ、好き。…一哉君は?』
「え、今更?」
俺が好きでもない奴の為に仕事したり、他人につっかかるわけないじゃん。
(マイヒーロー)
(イズ)
(マイダーリン)
Fin