短編①
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《ノスタルジア》∶花宮
※成人花宮×成人ヒロイン(元同級生)
未だに、初恋の人を夢に見る。
(もう10年も前…中学卒業してから会ってないのに)
頭がよくて、かっこよくて、バスケが上手で大人びていた、あの子。
花宮君。
何気ない話をするのが好きだった。
隣の席で本を読んで、感想を言ったり薦めたり。
時には気に入らない先生や先輩の愚痴を私が溢して、彼がそれを可笑しそうに笑ったものだ。言い得て妙、その言い回しが面白くて好きだ…なんて言って。
私だって、花宮君がする話が好きだった。物知りな彼は、私の小さな疑問に答えてくれるし、時折達観したような意見を言うのも好きだった。
(好き…だったなぁ)
休日の朝、ベッドの中で起き上がりもせずに思い出に浸る。
夢の中でも私は彼の隣の席で、好きな本の話をしながら、ずっとこうしていたいと願っていた。
けれど、高校は別だったし、何より勇気のない私は、告白なんてものをしなかった。
連絡先も交換してないし、卒業アルバムにコメントを貰うこともしていない。
そのくせ、未だに夢に出てくるほどの片想いだったのだ。
あのときの花宮君がストライク過ぎて、初恋以降、2回目の恋というものをしていないくらい。
(………外でよう。鬱になる)
いっそ卒業アルバムを開いて、彼の輪郭をなぞろうかとも思ったけれど。
刻み込んでどうするんだ、と。自分を鼓舞して着替えをする。
日光を浴びて、セロトニンを作れば、幸せな気分も沸くだろう。
…彼の夢をみたのはきっと、疲れていたから。
何も考えずに、彼を好きだと思えていた頃が幸せで懐かしかった、それだけのはずだ。
『…さむ』
今日の第一声は独り言。
思いきって外に出たものの、予想より気温が低い。
ああでも、歩けば温かくなるだろうか。荷物になるのは嫌だし、上着を取りに戻るのは面倒だ。
そう思って、取り敢えず歩くこと30分。
普段は来ない通りに出て、やっぱり寒いしカフェで一息着いたら帰ろう…なんて、初めて目にしたブックカフェへ足を進める。
シックでなかなか良い。
本も多いし、コーヒーも美味しい。
通りからは見えない、少し奥のカウンター席で。
久しぶりの読書に耽る。
(懐かしい…この作者好きだった。今も面白いの書いてるんだ)
(こうしてゆっくり本を読むのだって、何年ぶりだろう)
お気に入りだった作者の文庫本を一冊読み切り、コーヒーのお代わりをしようと視線を上げて。
『…っ!?』
息を飲んだ。
「よお。今もその作者が好きなのか?」
朝、夢に出てきた彼。
『はなみや、くん』
彼が、隣に座っていた。
『え、あ、あの…』
突然のことに、言葉にならない私。
彼は、面影を残して、いっそう格好いい男性になった。その顔で、あの頃のように、独特な笑い方。
「ふはっ、まさか羽影に会うとは」
彼は彼で、好きだったミステリー系の本を一冊手にして。
テーブルにはコーヒを携えている。
『ひ、久しぶりだね』
「ああ。それにしても、ふは、その席に座ってるんだもんな」
『え?』
「ここ、俺がよく座ってる席。隣の席で読書なんて、本当に中学ん時みたいだ」
バクバクと高鳴る胸は、それこそ中学の時みたいで。
聞きたいことが沢山あるのに、何を言えばいいか解らない。
ただただ懐かしくて、恋しくて。余りに素敵になった彼に、見惚れてしまう。
『…うん』
「よく来てるのか?」
『初めて、来たの。気晴らしに普段使わない道を散歩してて、偶然』
「そうか、いい偶然だ。俺も普段この時間帯は来ない」
『そうなの?』
「ああ。俺も偶々気晴らしに行こうと思い立っただけで、何時もは夜になってから来るんだ」
この偶然を喜んでいるのに、上手く、はしゃげない。
いや、ブックカフェで大声出したら怒られるけど。
『気晴らしって、なんか嫌なことでもってあったの?』
ちゃんと、話せてるだろうか。
あの時私は、どうやって会話してただろう。
「…それはそのまま返すが……嫌なことじゃねぇな。懐かしい夢を見て、アルバムひっくり返してたんだ。それで、ちょっと切り替えようと思って外に。羽影は?」
『…ほんと、偶然って重なるんだね。私も、懐かしい夢を見て…私はアルバム見たら戻れなくなりそうだったから外に出たの』
「ふはっ、ここまで来ると偶然というより必然かもな。何の夢?」
『……中学の時の。こうやって、読書してる夢』
「………」
『隣に、花宮君が座っててさ。ああ、懐かしいって、思って。そしたら、本物に会っちゃうんだもの、もう、びっくりして』
話すつもりなんて無かったのに。
心は相当舞い上がっていて、口をついて彼の名前を出してしまった。
「……このあと、暇か」
『え、うん。休み』
「店、変えるぞ。ここはお喋りに向いてないから」
『あ、うん?えっと?』
すると彼は、顔色を変えて、開いていた本を閉じた。
それから荷物も纏めて、立ち上がる。
「……昼、一緒にどうだ」
『う、うん、是非』
慌てて立ち上がる私を見下ろしながら、彼はポツリと呟く。
「…夢まで同じとか、」
『…っ』
私は、聞こえなかったフリをして、彼を追って店を出た。
**********
一つの事柄は偶然。
二つ重なれば必然。
**********
「久しぶりに聞くが、お前の毒舌は健在だな」
彼に誘われるまま入った洋食屋で、マカロニグラタンをつつきながら会話する。
…別にグラタンが食べたかったんじゃなくて。食事のマナーや綺麗な食べ方に自信のない私は、スパゲティーやハンバーグを注文するのに躊躇いがあっただけ。
『そう?』
彼は、いつも食べるメニューが決まっているのか。新メニューのページを横目に見て、そこには載っていオムレツとチーズトーストを注文していた。
「物静かな顔して、内側に毒を飼ってるし。言葉にするときも穏やかな口調だが相当なこと言ってる」
『…そんな酷いこと言ってる?』
「言ってる。中学の時は学年主任に"本当に先生だよね、先に生まれただけ。師となり教える、教師じゃない"って言ってたの、学年集会で笑い堪えるの必死だったわ」
『あー…あったかも』
「サービス業で客相手に、"頭が悪いんだとは思ったけど、一応耳が悪い可能性に賭けて大きな声でゆっくり説明してみた。頭が悪いで合ってた"とか言うなよ」
『ご本人様には言ってないよ。"申し訳ありませんが、お客様のご要望を理解しかねます。私どもにも解る言葉でご説明願いませんか"って伝えた』
「変わってるわ。悪化したな」
花宮君は、悪化した。なんて貶しながら、楽しそうに笑っている。
『花宮君も相変わらず、頭良すぎて苦労してるね』
「まあな」
『否定しない』
高校では学業もバスケも成績よく、大学も一流。就活も成功でエリート街道まっしぐらだが、そのせいで方々から僻みやっかみの毎日だそう。
それを、好き勝手にいってろ、そんなんだから落ちぶれなんだ、と彼は尚嗤った。
『ふふふ、花宮君も変わってない』
「そうか?」
『うん。頭がよくて、バスケが上手で、大人びてる、格好いい花宮君のまま』
こうやって、彼の話を聞くのは楽しい。
高校生の時は、彼の隣に誰がいたのだろう。
大学生の時は?
………今は?
『花宮君の彼女が、羨ましいなぁ………あ、もう奥さんだったりするのかな?』
そんな話、聞きたくないけど。
今日、今、この初恋を終わらせないと。
私はまた、君を夢に見てしまう。
自分で振っておいて、聞きたくない答。
でも、聞かなきゃ進めないから、一生懸命笑って、彼を見つめれば。
「いねーよ、そういう相手」
彼は何とも無いように片口を上げて笑う。
『へ…嘘』
「嘘じゃねぇよ。こんなに他人と話すのも久しぶりだ」
『そ、う、なんだ?』
思っていた答と違って、ぎくしゃくとぎこちない私に。
彼はトドメの一言。
「羨ましいなら、お前がなれば?…俺の彼女」
**********
偶然も三つ重なれば、運命に匹敵する。
**********
私は首を縦に振るのが精一杯だった。
fin
※成人花宮×成人ヒロイン(元同級生)
未だに、初恋の人を夢に見る。
(もう10年も前…中学卒業してから会ってないのに)
頭がよくて、かっこよくて、バスケが上手で大人びていた、あの子。
花宮君。
何気ない話をするのが好きだった。
隣の席で本を読んで、感想を言ったり薦めたり。
時には気に入らない先生や先輩の愚痴を私が溢して、彼がそれを可笑しそうに笑ったものだ。言い得て妙、その言い回しが面白くて好きだ…なんて言って。
私だって、花宮君がする話が好きだった。物知りな彼は、私の小さな疑問に答えてくれるし、時折達観したような意見を言うのも好きだった。
(好き…だったなぁ)
休日の朝、ベッドの中で起き上がりもせずに思い出に浸る。
夢の中でも私は彼の隣の席で、好きな本の話をしながら、ずっとこうしていたいと願っていた。
けれど、高校は別だったし、何より勇気のない私は、告白なんてものをしなかった。
連絡先も交換してないし、卒業アルバムにコメントを貰うこともしていない。
そのくせ、未だに夢に出てくるほどの片想いだったのだ。
あのときの花宮君がストライク過ぎて、初恋以降、2回目の恋というものをしていないくらい。
(………外でよう。鬱になる)
いっそ卒業アルバムを開いて、彼の輪郭をなぞろうかとも思ったけれど。
刻み込んでどうするんだ、と。自分を鼓舞して着替えをする。
日光を浴びて、セロトニンを作れば、幸せな気分も沸くだろう。
…彼の夢をみたのはきっと、疲れていたから。
何も考えずに、彼を好きだと思えていた頃が幸せで懐かしかった、それだけのはずだ。
『…さむ』
今日の第一声は独り言。
思いきって外に出たものの、予想より気温が低い。
ああでも、歩けば温かくなるだろうか。荷物になるのは嫌だし、上着を取りに戻るのは面倒だ。
そう思って、取り敢えず歩くこと30分。
普段は来ない通りに出て、やっぱり寒いしカフェで一息着いたら帰ろう…なんて、初めて目にしたブックカフェへ足を進める。
シックでなかなか良い。
本も多いし、コーヒーも美味しい。
通りからは見えない、少し奥のカウンター席で。
久しぶりの読書に耽る。
(懐かしい…この作者好きだった。今も面白いの書いてるんだ)
(こうしてゆっくり本を読むのだって、何年ぶりだろう)
お気に入りだった作者の文庫本を一冊読み切り、コーヒーのお代わりをしようと視線を上げて。
『…っ!?』
息を飲んだ。
「よお。今もその作者が好きなのか?」
朝、夢に出てきた彼。
『はなみや、くん』
彼が、隣に座っていた。
『え、あ、あの…』
突然のことに、言葉にならない私。
彼は、面影を残して、いっそう格好いい男性になった。その顔で、あの頃のように、独特な笑い方。
「ふはっ、まさか羽影に会うとは」
彼は彼で、好きだったミステリー系の本を一冊手にして。
テーブルにはコーヒを携えている。
『ひ、久しぶりだね』
「ああ。それにしても、ふは、その席に座ってるんだもんな」
『え?』
「ここ、俺がよく座ってる席。隣の席で読書なんて、本当に中学ん時みたいだ」
バクバクと高鳴る胸は、それこそ中学の時みたいで。
聞きたいことが沢山あるのに、何を言えばいいか解らない。
ただただ懐かしくて、恋しくて。余りに素敵になった彼に、見惚れてしまう。
『…うん』
「よく来てるのか?」
『初めて、来たの。気晴らしに普段使わない道を散歩してて、偶然』
「そうか、いい偶然だ。俺も普段この時間帯は来ない」
『そうなの?』
「ああ。俺も偶々気晴らしに行こうと思い立っただけで、何時もは夜になってから来るんだ」
この偶然を喜んでいるのに、上手く、はしゃげない。
いや、ブックカフェで大声出したら怒られるけど。
『気晴らしって、なんか嫌なことでもってあったの?』
ちゃんと、話せてるだろうか。
あの時私は、どうやって会話してただろう。
「…それはそのまま返すが……嫌なことじゃねぇな。懐かしい夢を見て、アルバムひっくり返してたんだ。それで、ちょっと切り替えようと思って外に。羽影は?」
『…ほんと、偶然って重なるんだね。私も、懐かしい夢を見て…私はアルバム見たら戻れなくなりそうだったから外に出たの』
「ふはっ、ここまで来ると偶然というより必然かもな。何の夢?」
『……中学の時の。こうやって、読書してる夢』
「………」
『隣に、花宮君が座っててさ。ああ、懐かしいって、思って。そしたら、本物に会っちゃうんだもの、もう、びっくりして』
話すつもりなんて無かったのに。
心は相当舞い上がっていて、口をついて彼の名前を出してしまった。
「……このあと、暇か」
『え、うん。休み』
「店、変えるぞ。ここはお喋りに向いてないから」
『あ、うん?えっと?』
すると彼は、顔色を変えて、開いていた本を閉じた。
それから荷物も纏めて、立ち上がる。
「……昼、一緒にどうだ」
『う、うん、是非』
慌てて立ち上がる私を見下ろしながら、彼はポツリと呟く。
「…夢まで同じとか、」
『…っ』
私は、聞こえなかったフリをして、彼を追って店を出た。
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一つの事柄は偶然。
二つ重なれば必然。
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「久しぶりに聞くが、お前の毒舌は健在だな」
彼に誘われるまま入った洋食屋で、マカロニグラタンをつつきながら会話する。
…別にグラタンが食べたかったんじゃなくて。食事のマナーや綺麗な食べ方に自信のない私は、スパゲティーやハンバーグを注文するのに躊躇いがあっただけ。
『そう?』
彼は、いつも食べるメニューが決まっているのか。新メニューのページを横目に見て、そこには載っていオムレツとチーズトーストを注文していた。
「物静かな顔して、内側に毒を飼ってるし。言葉にするときも穏やかな口調だが相当なこと言ってる」
『…そんな酷いこと言ってる?』
「言ってる。中学の時は学年主任に"本当に先生だよね、先に生まれただけ。師となり教える、教師じゃない"って言ってたの、学年集会で笑い堪えるの必死だったわ」
『あー…あったかも』
「サービス業で客相手に、"頭が悪いんだとは思ったけど、一応耳が悪い可能性に賭けて大きな声でゆっくり説明してみた。頭が悪いで合ってた"とか言うなよ」
『ご本人様には言ってないよ。"申し訳ありませんが、お客様のご要望を理解しかねます。私どもにも解る言葉でご説明願いませんか"って伝えた』
「変わってるわ。悪化したな」
花宮君は、悪化した。なんて貶しながら、楽しそうに笑っている。
『花宮君も相変わらず、頭良すぎて苦労してるね』
「まあな」
『否定しない』
高校では学業もバスケも成績よく、大学も一流。就活も成功でエリート街道まっしぐらだが、そのせいで方々から僻みやっかみの毎日だそう。
それを、好き勝手にいってろ、そんなんだから落ちぶれなんだ、と彼は尚嗤った。
『ふふふ、花宮君も変わってない』
「そうか?」
『うん。頭がよくて、バスケが上手で、大人びてる、格好いい花宮君のまま』
こうやって、彼の話を聞くのは楽しい。
高校生の時は、彼の隣に誰がいたのだろう。
大学生の時は?
………今は?
『花宮君の彼女が、羨ましいなぁ………あ、もう奥さんだったりするのかな?』
そんな話、聞きたくないけど。
今日、今、この初恋を終わらせないと。
私はまた、君を夢に見てしまう。
自分で振っておいて、聞きたくない答。
でも、聞かなきゃ進めないから、一生懸命笑って、彼を見つめれば。
「いねーよ、そういう相手」
彼は何とも無いように片口を上げて笑う。
『へ…嘘』
「嘘じゃねぇよ。こんなに他人と話すのも久しぶりだ」
『そ、う、なんだ?』
思っていた答と違って、ぎくしゃくとぎこちない私に。
彼はトドメの一言。
「羨ましいなら、お前がなれば?…俺の彼女」
**********
偶然も三つ重なれば、運命に匹敵する。
**********
私は首を縦に振るのが精一杯だった。
fin