短編①
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《マザーグース》:花宮
※2019花宮生誕祭
机に広がる答案用紙を見て、ため息が出そうになる。
今、久しぶりに真の部屋へ遊びに来て目に入ってしまったそれ。
16歳でこんなに頭がいいのなら、さぞ世の中はつまらないだろうな。
「…なに」
『ん?またテスト満点なんだなーって』
近所に住む、高校生の幼なじみを見てつくづく思う。
テストは満点、学業以外にも博識で、記憶力は抜群。
表向き性格もよく、彼を悪く言う者はいない。
……バスケ関係者の一部を除いて。
ちょっとやり過ぎな彼の楽しみは、決して誉められたものではなかった。
けれど。
彼が子供らしいと思える数少ない瞬間だった。
「とれて当然だろ、テスト範囲決まってんだから」
『真にとって当然でも、凄いと思うよ。私は、努力したってできないもの』
「馬鹿だもんな」
『真に比べればね。でも馬鹿なりにちゃんと大学卒業できるし、就職もできた』
子供らしい、なんて。
6つ年上で、大学卒業を控えた私だから言えるのかもしれない。
同じ舞台で戦う身だったら堪ったもんじゃなかっただろう。バスケにしろ、勉強にしろ。
「ふーん、就職決まったのか」
『うん。大手じゃないけど、福利厚生がちゃんとあるとこ。これを機に、一人暮らしもしてみようかと思って』
「大学は実家から通ってた癖にか?」
『経験する分にはいいかと思って。ちょっと憧れてたんだよね、自分だけのキッチンとかバスルーム。実家じゃ友達呼ぶのも躊躇するし』
6つ離れててもこうやって話せるのは、先に言った通り幼なじみだから。
近所に住んでいた私と専業主婦の母が、シングルマザーで頑張る真のお母さんから、真を預かっていたのがきっかけ。
私には兄がいるけれど、下はいなかったから弟が出来たみたいで嬉しかった。
「…」
『真もおいで。そんなに遠くないよ』
「なんでそうなんだよ」
『真が高校入ってから全然遊ばなくなっちゃったから。ほら、うちのお母さんとか兄さんがいるより、私だけの部屋の方が来やすいでしょ?』
「……」
『ちっちゃい時みたいに、一緒にご飯食べようよ』
「…ちゃんとしたもん作れんだろうな」
なんだかんだ言って、真も懐いてくれてると思う。
こうして、休みの日に会うくらいだし、私には悪態もつけばワガママも言う、″真"の姿を見せてくれたから。
『作れるよー。これでもお弁当は毎日作ってたんだからね!何がいい?練習しとくけど』
「期待してねぇから作れるもんでいいぞ、得意なやつ」
『酷いなー』
ひとしきり笑って、またテストの答案を見やる。
丁寧な字で書かれた「花宮真」の横は、どれもこれも赤ペンで100点の文字。
努力しなくてこれならば、努力したら随分遠いところへ行ってしまうんだろうな、この子は。
『真、100点のご褒美あげる』
「は?いらねぇよ」
『だって、こんなに凄いんだもん。お姉さんとしては、なんかしてあげたいじゃない』
「…お前のおかげじゃないし」
『知ってるよ。そうじゃなくてさ、……うーん、真がね、したいこと、欲しいものを言う口実になればそれでいいの。何かない?』
それこそ。小学生の頃は、『凄いね!』と頭を撫でていたけど。
中学生になった彼は「やめろ」とその手を払ってしまった。
彼を労う方法を、誉める術を失ってしまった私は。結局本人に聞くよりない。
……真みたいに頭もよくないし。何をしたらいいか見当もつかなかったのだ。
「…………何かって」
『何でもいいよ。どっか食べに行きたいとか、欲しい服があるとか、遊びに行きたいとか……誕生日も近いでしょ?我が儘言ってちょうだい』
「……」
『もう授業も残ってないから時間の融通は利くし、バイトもしたからお金も多少は平気だからさ』
考えているのか、視線を伏せて黙ってしまった真を覗きこむ。
今更だけど、カーペットに座り込んでいたって真のが大きい。
赤ちゃんだったのに、ちゃんと少年になって。大人になるまで、もう少しかもしれない。
「………」
『ん?もしかして言いづらいこと頼もうとしてる?』
尚も口を開かない彼に、違和感を覚えて。
『言ってごらん。嗤いもしないし呆れもしないよ』
久しぶりに、彼の頭を撫でた。
まだ16歳、子どもでいて欲しい。
賢いから、大人の嫌なところ、子どもの愚かなところ、沢山見えていると思うけれど。
イイコでいるの、疲れるでしょ。
馬鹿な私でもそれくらいは察せるよ。
「…」
『…?』
手、払わないのか。
なんて。そのまま頭を撫でる。
なら、そういうものが欲しいのかもしれない。
『真、頑張ったね』
ぎゅっと横から抱き締めてみても、腕は振り払われなくて。
小さな声で
「…頑張ってねぇよ」
って返ってきただけ。
『うんうん。頑張ってるよ。凄いね、偉いよ、真』
変わらず抱き締めれば、彼は私の腕をぎゅっと掴んで。僅かに引っ張る。
誘導されるまま彼の正面に来て。
再び真を抱き締めれば、彼も私に腕を回した。
「……なんでもいい?」
『いいよ』
「…………。新居の、合鍵」
それから、ぼそりと告げられた欲しいもの。
『わかった、用意する。……他は?』
「一つじゃないのか?」
『もしかして、ひとつだと思って悩んでた?』
「…」
ひとつ。だったら、真っ先に欲しいのは合鍵だったのか。…可愛いなぁ。
なんてにやければ、抗議するように背中に回された指に力を入れられた。
いたい、痛いよ。
『一つじゃなくていいよ。何がいい?』
背中をポンポン叩きながら、ごめんアピールをすれば。
食い込んだ指が離れて、するりと首の付け根を撫でていく。
「…………もう少し、このまま」
(もしかして、真が言いたかったの)
(甘えたい、だったのかな)
『………、好きなだけどうぞ』
子どもでいさせてあげたいと思ったのに
大人になる君を楽しみにしてる私を許して
fin
※2019花宮生誕祭
机に広がる答案用紙を見て、ため息が出そうになる。
今、久しぶりに真の部屋へ遊びに来て目に入ってしまったそれ。
16歳でこんなに頭がいいのなら、さぞ世の中はつまらないだろうな。
「…なに」
『ん?またテスト満点なんだなーって』
近所に住む、高校生の幼なじみを見てつくづく思う。
テストは満点、学業以外にも博識で、記憶力は抜群。
表向き性格もよく、彼を悪く言う者はいない。
……バスケ関係者の一部を除いて。
ちょっとやり過ぎな彼の楽しみは、決して誉められたものではなかった。
けれど。
彼が子供らしいと思える数少ない瞬間だった。
「とれて当然だろ、テスト範囲決まってんだから」
『真にとって当然でも、凄いと思うよ。私は、努力したってできないもの』
「馬鹿だもんな」
『真に比べればね。でも馬鹿なりにちゃんと大学卒業できるし、就職もできた』
子供らしい、なんて。
6つ年上で、大学卒業を控えた私だから言えるのかもしれない。
同じ舞台で戦う身だったら堪ったもんじゃなかっただろう。バスケにしろ、勉強にしろ。
「ふーん、就職決まったのか」
『うん。大手じゃないけど、福利厚生がちゃんとあるとこ。これを機に、一人暮らしもしてみようかと思って』
「大学は実家から通ってた癖にか?」
『経験する分にはいいかと思って。ちょっと憧れてたんだよね、自分だけのキッチンとかバスルーム。実家じゃ友達呼ぶのも躊躇するし』
6つ離れててもこうやって話せるのは、先に言った通り幼なじみだから。
近所に住んでいた私と専業主婦の母が、シングルマザーで頑張る真のお母さんから、真を預かっていたのがきっかけ。
私には兄がいるけれど、下はいなかったから弟が出来たみたいで嬉しかった。
「…」
『真もおいで。そんなに遠くないよ』
「なんでそうなんだよ」
『真が高校入ってから全然遊ばなくなっちゃったから。ほら、うちのお母さんとか兄さんがいるより、私だけの部屋の方が来やすいでしょ?』
「……」
『ちっちゃい時みたいに、一緒にご飯食べようよ』
「…ちゃんとしたもん作れんだろうな」
なんだかんだ言って、真も懐いてくれてると思う。
こうして、休みの日に会うくらいだし、私には悪態もつけばワガママも言う、″真"の姿を見せてくれたから。
『作れるよー。これでもお弁当は毎日作ってたんだからね!何がいい?練習しとくけど』
「期待してねぇから作れるもんでいいぞ、得意なやつ」
『酷いなー』
ひとしきり笑って、またテストの答案を見やる。
丁寧な字で書かれた「花宮真」の横は、どれもこれも赤ペンで100点の文字。
努力しなくてこれならば、努力したら随分遠いところへ行ってしまうんだろうな、この子は。
『真、100点のご褒美あげる』
「は?いらねぇよ」
『だって、こんなに凄いんだもん。お姉さんとしては、なんかしてあげたいじゃない』
「…お前のおかげじゃないし」
『知ってるよ。そうじゃなくてさ、……うーん、真がね、したいこと、欲しいものを言う口実になればそれでいいの。何かない?』
それこそ。小学生の頃は、『凄いね!』と頭を撫でていたけど。
中学生になった彼は「やめろ」とその手を払ってしまった。
彼を労う方法を、誉める術を失ってしまった私は。結局本人に聞くよりない。
……真みたいに頭もよくないし。何をしたらいいか見当もつかなかったのだ。
「…………何かって」
『何でもいいよ。どっか食べに行きたいとか、欲しい服があるとか、遊びに行きたいとか……誕生日も近いでしょ?我が儘言ってちょうだい』
「……」
『もう授業も残ってないから時間の融通は利くし、バイトもしたからお金も多少は平気だからさ』
考えているのか、視線を伏せて黙ってしまった真を覗きこむ。
今更だけど、カーペットに座り込んでいたって真のが大きい。
赤ちゃんだったのに、ちゃんと少年になって。大人になるまで、もう少しかもしれない。
「………」
『ん?もしかして言いづらいこと頼もうとしてる?』
尚も口を開かない彼に、違和感を覚えて。
『言ってごらん。嗤いもしないし呆れもしないよ』
久しぶりに、彼の頭を撫でた。
まだ16歳、子どもでいて欲しい。
賢いから、大人の嫌なところ、子どもの愚かなところ、沢山見えていると思うけれど。
イイコでいるの、疲れるでしょ。
馬鹿な私でもそれくらいは察せるよ。
「…」
『…?』
手、払わないのか。
なんて。そのまま頭を撫でる。
なら、そういうものが欲しいのかもしれない。
『真、頑張ったね』
ぎゅっと横から抱き締めてみても、腕は振り払われなくて。
小さな声で
「…頑張ってねぇよ」
って返ってきただけ。
『うんうん。頑張ってるよ。凄いね、偉いよ、真』
変わらず抱き締めれば、彼は私の腕をぎゅっと掴んで。僅かに引っ張る。
誘導されるまま彼の正面に来て。
再び真を抱き締めれば、彼も私に腕を回した。
「……なんでもいい?」
『いいよ』
「…………。新居の、合鍵」
それから、ぼそりと告げられた欲しいもの。
『わかった、用意する。……他は?』
「一つじゃないのか?」
『もしかして、ひとつだと思って悩んでた?』
「…」
ひとつ。だったら、真っ先に欲しいのは合鍵だったのか。…可愛いなぁ。
なんてにやければ、抗議するように背中に回された指に力を入れられた。
いたい、痛いよ。
『一つじゃなくていいよ。何がいい?』
背中をポンポン叩きながら、ごめんアピールをすれば。
食い込んだ指が離れて、するりと首の付け根を撫でていく。
「…………もう少し、このまま」
(もしかして、真が言いたかったの)
(甘えたい、だったのかな)
『………、好きなだけどうぞ』
子どもでいさせてあげたいと思ったのに
大人になる君を楽しみにしてる私を許して
fin