短編①
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《ミルク・コーヒー》:瀬戸
※2018瀬戸生誕祭
「おいで」
彼にそう言われたら、大抵断れない。
招かれる腕枕に頭を乗せれば、そのまま抱き寄せられてしまう。
『健太郎、これ、私も寝ちゃう…』
「寝ればいいだろ。午後は体育だし、サボろうよ」
『……サボるのは、ダメだよ』
「じゃあ、頑張って起きて」
昼休みの屋上。
お昼を食べ終わった私たちは、僅な日陰に寝転んでいる。
因みに、ここは立ち入り禁止で施錠されているけれど、健太郎が簡単に解錠してしまった。
『…んぅ…』
「俺より先に寝そうだな」
『ん…アラーム、かける。体育、着替えなきゃいけないから、早めに…』
「ダメ」
手元の携帯を、ランチバックに仕舞われて。
恨めしげに見つめれば、なんてことないように笑われた。
「チャイムですら煩わしいんだから、そんなもの使わないで」
『けんたろ、チャイムじゃ起きない癖に…』
私を寝付かせようとしているのか、背中に回された手は、赤子をあやすようにトントンとリズムをとる。
「まあね。目は覚めても起きないかな」
『わざとなの…』
目蓋がもう、落ちてしまいそうで。
起きてなきゃ。という考えより、スカートから出た脚が少し寒い。とか、スカートそのものが捲れそう。とか、そんなことが頭を過る。
健太郎ってば、本当に頭がよくて。
今の考えは口にしてないのに、自分の脱いであったブレザーを、私の腰から下にかけてくれた。
『けんたろー…』
「強情だな」
『だって、まだ、けんたろ、起きてる』
「…」
『お話、したい』
彼はいつも、隙あらば寝てしまう。
寝顔を見るのは密かな楽しみだけれど、恋人らしく談笑したい…というのも密かな望み。
せっかく彼が起きてるのに、私が先に寝ちゃうなんて、勿体ない。
『ねえ…』
「…起きたら、話そう。俺だって、たまには雨月の寝顔見たい」
『そんなこと、考えてたんだ』
「そうだよ。…さ、おやすみ」
『ん…おやすみ…』
絶対チャイムじゃ起きれないなぁ…なんて、一瞬脳裏を過ったけど。
結局、彼の体温に包まれて目蓋を降ろした。
***
(話したいなんて、思ってたのか)
彼女が寝付いてしまってから、俺はその頬をゆるりと撫でる。
彼女がいつもしているように。
雨月は、俺が寝ているとよく触れてくる。
髪を撫でたり、頬をつついたり、手を繋いでみたり。
たまに、額にキスしたり、「好き」と呟いたりした。
俺はどこでも寝れるタイプだけど、寝ていても周りの状況が大体わかる。
彼女が、俺が寝ている間は好きに触れる…というのを喜んでいるのも感じていた。
だから、それを俺も体験しようと。
彼女を眠りに誘ったわけだけど。
(…よく寝てる…柔らかい)
頬も、髪も、掌も、温かで柔らかい。
無抵抗なその様は、確かに心を満たすものがある。
(信頼されてるって思うよな)
額にそっと唇を押し当てれば、身動ぎながらも口角を緩めるのだから、愛しくてたまらない。
「……好きだよ」
ふいに、口から言葉が零れ落ちるのも理解できた。
それから、チャイムに合わせて彼女の耳を塞ぎ、尚も続ける。
「雨月が望むなら、いくらでも話すよ。起きたら、なんの話をしようか」
可愛らしいピンクの唇が動くのを眺めるのも、きっと悪くない。
「君が、ミルクみたいに甘くて可愛い話でもいいけど」
チャイムの鳴り終わり、手を耳からそっと離せば。
彼女は目蓋を持ち上げて、ゆったり笑う。
『健太郎がコーヒーみたいに大人でカッコいい話でもいいな』
けれど、すぐにその目蓋は落ちて。
すやすやと寝息を立て始める。
「……」
寝ぼけて、いたんだろうな。
夢の中だとでも思ったのかもしれない。
それでも会話が繋がったのだから、彼女も、寝ていても周りがなんとなく察せるタイプなんだろう。
「…雨月はね、頭がいい。勉強ができるけど、それをひけらかさない賢さもある。そういう、渡り上手なとこに惹かれた」
「効率よく意思の疎通が出来るのも嬉しかった。俺と会話のスピードが合う人、あんまりいないからね」
「それに甘えて、会話が少なかったのは事実だな。気づかなくて悪かった」
「君は理解力があるから、俺のそういう面も解っててくれたんだろ。俺はもっと、君を知る努力をするべきだったね」
「…そう思うと、知りたいことは多いな。君が好きなもの、まだ全然知らない。予想もつくし憶測はできるけど、あくまで推測の域を出ない」
「………体育サボらせてごめんな。でも雨月、今日の下着透けてるから…体操着、着させたくなかったんだ。今日はブレザーも脱いじゃダメだからね」
ブレザーの襟元、リボンの下のブラウスに、うっすら透けてるピンク色の下着の縁。
それをスルリと指先でなぞってから、彼女の背中を抱き寄せる。
「他の奴に見せたくないんだ。嫉妬だって、笑ってくれて構わないから」
どのくらい覚えているだろう。
全部覚えててもいいし、全部忘れててもいい。
最後に言った、体操着のくだりが阻止できただけで満足してる。
(…好きだなぁ。大好きだ)
腕の中で、規則正しく呼吸する雨月が愛しくて。
同じ時間を共有しようと、俺も目蓋を降ろした。
fin
お誕生日おめでとう、瀬戸
※2018瀬戸生誕祭
「おいで」
彼にそう言われたら、大抵断れない。
招かれる腕枕に頭を乗せれば、そのまま抱き寄せられてしまう。
『健太郎、これ、私も寝ちゃう…』
「寝ればいいだろ。午後は体育だし、サボろうよ」
『……サボるのは、ダメだよ』
「じゃあ、頑張って起きて」
昼休みの屋上。
お昼を食べ終わった私たちは、僅な日陰に寝転んでいる。
因みに、ここは立ち入り禁止で施錠されているけれど、健太郎が簡単に解錠してしまった。
『…んぅ…』
「俺より先に寝そうだな」
『ん…アラーム、かける。体育、着替えなきゃいけないから、早めに…』
「ダメ」
手元の携帯を、ランチバックに仕舞われて。
恨めしげに見つめれば、なんてことないように笑われた。
「チャイムですら煩わしいんだから、そんなもの使わないで」
『けんたろ、チャイムじゃ起きない癖に…』
私を寝付かせようとしているのか、背中に回された手は、赤子をあやすようにトントンとリズムをとる。
「まあね。目は覚めても起きないかな」
『わざとなの…』
目蓋がもう、落ちてしまいそうで。
起きてなきゃ。という考えより、スカートから出た脚が少し寒い。とか、スカートそのものが捲れそう。とか、そんなことが頭を過る。
健太郎ってば、本当に頭がよくて。
今の考えは口にしてないのに、自分の脱いであったブレザーを、私の腰から下にかけてくれた。
『けんたろー…』
「強情だな」
『だって、まだ、けんたろ、起きてる』
「…」
『お話、したい』
彼はいつも、隙あらば寝てしまう。
寝顔を見るのは密かな楽しみだけれど、恋人らしく談笑したい…というのも密かな望み。
せっかく彼が起きてるのに、私が先に寝ちゃうなんて、勿体ない。
『ねえ…』
「…起きたら、話そう。俺だって、たまには雨月の寝顔見たい」
『そんなこと、考えてたんだ』
「そうだよ。…さ、おやすみ」
『ん…おやすみ…』
絶対チャイムじゃ起きれないなぁ…なんて、一瞬脳裏を過ったけど。
結局、彼の体温に包まれて目蓋を降ろした。
***
(話したいなんて、思ってたのか)
彼女が寝付いてしまってから、俺はその頬をゆるりと撫でる。
彼女がいつもしているように。
雨月は、俺が寝ているとよく触れてくる。
髪を撫でたり、頬をつついたり、手を繋いでみたり。
たまに、額にキスしたり、「好き」と呟いたりした。
俺はどこでも寝れるタイプだけど、寝ていても周りの状況が大体わかる。
彼女が、俺が寝ている間は好きに触れる…というのを喜んでいるのも感じていた。
だから、それを俺も体験しようと。
彼女を眠りに誘ったわけだけど。
(…よく寝てる…柔らかい)
頬も、髪も、掌も、温かで柔らかい。
無抵抗なその様は、確かに心を満たすものがある。
(信頼されてるって思うよな)
額にそっと唇を押し当てれば、身動ぎながらも口角を緩めるのだから、愛しくてたまらない。
「……好きだよ」
ふいに、口から言葉が零れ落ちるのも理解できた。
それから、チャイムに合わせて彼女の耳を塞ぎ、尚も続ける。
「雨月が望むなら、いくらでも話すよ。起きたら、なんの話をしようか」
可愛らしいピンクの唇が動くのを眺めるのも、きっと悪くない。
「君が、ミルクみたいに甘くて可愛い話でもいいけど」
チャイムの鳴り終わり、手を耳からそっと離せば。
彼女は目蓋を持ち上げて、ゆったり笑う。
『健太郎がコーヒーみたいに大人でカッコいい話でもいいな』
けれど、すぐにその目蓋は落ちて。
すやすやと寝息を立て始める。
「……」
寝ぼけて、いたんだろうな。
夢の中だとでも思ったのかもしれない。
それでも会話が繋がったのだから、彼女も、寝ていても周りがなんとなく察せるタイプなんだろう。
「…雨月はね、頭がいい。勉強ができるけど、それをひけらかさない賢さもある。そういう、渡り上手なとこに惹かれた」
「効率よく意思の疎通が出来るのも嬉しかった。俺と会話のスピードが合う人、あんまりいないからね」
「それに甘えて、会話が少なかったのは事実だな。気づかなくて悪かった」
「君は理解力があるから、俺のそういう面も解っててくれたんだろ。俺はもっと、君を知る努力をするべきだったね」
「…そう思うと、知りたいことは多いな。君が好きなもの、まだ全然知らない。予想もつくし憶測はできるけど、あくまで推測の域を出ない」
「………体育サボらせてごめんな。でも雨月、今日の下着透けてるから…体操着、着させたくなかったんだ。今日はブレザーも脱いじゃダメだからね」
ブレザーの襟元、リボンの下のブラウスに、うっすら透けてるピンク色の下着の縁。
それをスルリと指先でなぞってから、彼女の背中を抱き寄せる。
「他の奴に見せたくないんだ。嫉妬だって、笑ってくれて構わないから」
どのくらい覚えているだろう。
全部覚えててもいいし、全部忘れててもいい。
最後に言った、体操着のくだりが阻止できただけで満足してる。
(…好きだなぁ。大好きだ)
腕の中で、規則正しく呼吸する雨月が愛しくて。
同じ時間を共有しようと、俺も目蓋を降ろした。
fin
お誕生日おめでとう、瀬戸