短編①
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《ミント・クリーム》∶原
※2018原生誕祭
「雨月ちゃん、泊めて」
『また家出したの?』
「うん」
『……仕方ないなぁ』
金曜の夜中、玄関に立っていたのは。
ジャージ姿の一哉。
彼は家族と喧嘩する度にうちにやってきた。
『お風呂は?ご飯は?』
「両方まだ」
『……一番風呂譲ってあげるから先入ってきて』
「はぁい」
彼より3つ年上の私は、彼の兄と同級生。
その兄と友達以上恋人未満を中学以来続けて来て、向こうが遠い大学に進学してから少し疎遠。
しかし、長い付き合いだったから、弟の一哉とも、その下の弟とも仲良くなってた結果がこれ。
随分なつかれたものだ。
「雨月ちゃん、夕飯ある?」
『独り暮らしが二人分用意してると思う?』
「それでも作ってくれる[#dn=2#]ちゃんが優しい」
『もー…ツナ缶パスタで我慢してよね』
「もちろん。俺、雨月ちゃんが作ってくれるツナスパ大好きだよ」
お風呂から上がった一哉が、大型犬みたいに後ろから抱きついてじゃれてくる。髪の毛乾かしてくれてあるから冷たくはないけど、ちょっと熱い。
『一哉、今日はどうしたの』
「…ん、進路。俺ね、大学行きたくないんだけど、理由も聞かずに成績から逃げるなって怒られて。喋る気失せちゃったんだ。将来の夢とか、色々相談したかったのに」
『それは、私でも臍曲げるな』
「でしょ?俺悪くない」
『でも、あるんでしょ、将来の夢。ならまた改めて話してみなよ。一哉ならきっと叶えられるんだから、ここで挫けるの勿体無い』
「…将来の夢、何か聞く前に叶えられるって断言する?」
『一哉はさー、確かに適当精神で生きてるけど、好きなものに拘りがあって、拘りには妥協しないから。叶えられると思うの、絶対に』
自分の分のパスタを口に突っ込んで、一哉を見据える。
染められた髪も、拘りの一つ。
彼が綺麗だと思った色に移ろっていくそれは、校則や風紀に縛られない。
「……もー、好き、俺本当に[#dn=2#]ちゃん好き」
『ありがとー』
「ねー、俺本気なんだけどー」
『本気ならご飯食べ終わってからにして。口になんか付いてるよ』
「むー!」
頬を膨らませて、パスタを掻き込むところが、まだ子供っぽいな。
なんて、微笑ましい。
身長だけはあっという間に追い抜かされて、もう二回り以上違うというのに。
「雨月ちゃん」
『なぁに?』
「好き」
『ありがと』
「……ねぇ、俺のこと好き?」
『好きだよ』
「それ、ちゃんと恋愛対象として?」
『どうだろ』
「えー…」
食後、私は風呂に向かって。
一哉は食器洗いをしてくれてて。
双方終わってリビングのカーペットに座り込めば、一哉がそう言って寄りかかってきた。
「俺、諦めないよ」
『彼女にするのを?』
「うん。雨月ちゃん、俺が拘りには妥協しないって言ったでしょ?その通りだよ。雨月ちゃんがいい、それは絶対譲らない」
ぎゅっと、横から抱き締められて。
特に抵抗もせず、その腕に収まる。
心地いい。違和感もない。
『一哉、こっち見て』
「え、な、ヤダ」
『駄目。私の目を見て、もう一回』
抱き付く彼の前髪を掻き上げて、嫌がる彼を真っ直ぐ見つめた。
「……雨月、ちゃん…すき。…だから、…っ」
眉を下げて、唇を戦慄かせて。
時折、歯が噛み合わずにカチカチと音を鳴らしながら。
一哉は私を必死に見ていた。
『……うん。ありがとう。私も一哉、大好きだよ』
私は返事と同時に、切なげに寄った彼の眉間に唇を寄せる。
「…!」
『やっとスッキリした。本当に私が好きなのか、心配だったの。…目を見て話せてよかった』
「………ずるい」
『ごめんごめん、だって、君は友達の弟として出会ったから。お兄ちゃんに対する対抗心だったりするかも、って思っちゃって』
「…そりゃ、対抗心無くはないよ。でも、雨月ちゃんは、ただただ欲しかった。兄貴には感謝してる、兄貴がいなきゃ、会えなかったんだもん」
前髪を下ろして正面から抱き締めれば、一哉も応えるように腕を回す。
『そっかぁ、じゃあ私もアイツに感謝しなきゃ』
「でも今はしなくていいから。俺だけ見て、やっと雨月ちゃん、こっち見てくれたんだから」
『……待たせた?』
「すごく。結構アタックしてたの、わかってた癖に」
『ごめんって。ほら、これからはちゃんと応えるよ』
「…もうさぁ、そういうのも狡い」
前髪にキスをすれば、一哉は拗ねたような声を出して。私の頬をそっと両手で被う。
「俺さぁ、ファーストキスまだなんだけど」
『私もだよ』
「マジ?めっちゃ嬉しい。ねー、ハジメテの場所、ここでいい?」
『……チャペルがいいって言ったら待ってくれるの?』
「いいよん、別に。ただ、唇以外にはメッチャするし、明日無理にでも連れてくから」
『え』
「何、結婚するまで待てって意味?それなら俺18になったし、婚姻届書くよ」
『…』
「しても、いい?」
『…うん』
チャペルで、なんて、照れ隠しだったのに。
彼は真面目な声色で、前髪越しに私を伺うから。
こわごわと頷いて、せめて年上らしく、と。自ら目を閉じる。
「…」
『…』
吸い付くように唇が触れて、暫くそのまま動けなかった。
背中を抱いていた手が、頭を支えるように回されて。
私も、彼の首に縋るように腕を伸ばす。
「…っ、コレ、止まんない」
『同感。ね、もう一回』
唇を離しては、角度を変えて寄せた。
何度合わせても満足できなくて、控えめなリップ音が絶えず響く。
「雨月ちゃん」
『ん…?』
「ファーストキス、俺にくれてありがとう」
ふと唇を離した一哉は、前髪から僅かに瞳を覗かせて、そう微笑んだ。
『……一哉だって、くれたでしょ。ありがと』
私はきっと。
これから先、全部一哉に捧げるんだろうな。
そう、思わせる瞳だった。
(きっと。一哉も全部、くれるだろうから)
fin
happy birthday!
※2018原生誕祭
「雨月ちゃん、泊めて」
『また家出したの?』
「うん」
『……仕方ないなぁ』
金曜の夜中、玄関に立っていたのは。
ジャージ姿の一哉。
彼は家族と喧嘩する度にうちにやってきた。
『お風呂は?ご飯は?』
「両方まだ」
『……一番風呂譲ってあげるから先入ってきて』
「はぁい」
彼より3つ年上の私は、彼の兄と同級生。
その兄と友達以上恋人未満を中学以来続けて来て、向こうが遠い大学に進学してから少し疎遠。
しかし、長い付き合いだったから、弟の一哉とも、その下の弟とも仲良くなってた結果がこれ。
随分なつかれたものだ。
「雨月ちゃん、夕飯ある?」
『独り暮らしが二人分用意してると思う?』
「それでも作ってくれる[#dn=2#]ちゃんが優しい」
『もー…ツナ缶パスタで我慢してよね』
「もちろん。俺、雨月ちゃんが作ってくれるツナスパ大好きだよ」
お風呂から上がった一哉が、大型犬みたいに後ろから抱きついてじゃれてくる。髪の毛乾かしてくれてあるから冷たくはないけど、ちょっと熱い。
『一哉、今日はどうしたの』
「…ん、進路。俺ね、大学行きたくないんだけど、理由も聞かずに成績から逃げるなって怒られて。喋る気失せちゃったんだ。将来の夢とか、色々相談したかったのに」
『それは、私でも臍曲げるな』
「でしょ?俺悪くない」
『でも、あるんでしょ、将来の夢。ならまた改めて話してみなよ。一哉ならきっと叶えられるんだから、ここで挫けるの勿体無い』
「…将来の夢、何か聞く前に叶えられるって断言する?」
『一哉はさー、確かに適当精神で生きてるけど、好きなものに拘りがあって、拘りには妥協しないから。叶えられると思うの、絶対に』
自分の分のパスタを口に突っ込んで、一哉を見据える。
染められた髪も、拘りの一つ。
彼が綺麗だと思った色に移ろっていくそれは、校則や風紀に縛られない。
「……もー、好き、俺本当に[#dn=2#]ちゃん好き」
『ありがとー』
「ねー、俺本気なんだけどー」
『本気ならご飯食べ終わってからにして。口になんか付いてるよ』
「むー!」
頬を膨らませて、パスタを掻き込むところが、まだ子供っぽいな。
なんて、微笑ましい。
身長だけはあっという間に追い抜かされて、もう二回り以上違うというのに。
「雨月ちゃん」
『なぁに?』
「好き」
『ありがと』
「……ねぇ、俺のこと好き?」
『好きだよ』
「それ、ちゃんと恋愛対象として?」
『どうだろ』
「えー…」
食後、私は風呂に向かって。
一哉は食器洗いをしてくれてて。
双方終わってリビングのカーペットに座り込めば、一哉がそう言って寄りかかってきた。
「俺、諦めないよ」
『彼女にするのを?』
「うん。雨月ちゃん、俺が拘りには妥協しないって言ったでしょ?その通りだよ。雨月ちゃんがいい、それは絶対譲らない」
ぎゅっと、横から抱き締められて。
特に抵抗もせず、その腕に収まる。
心地いい。違和感もない。
『一哉、こっち見て』
「え、な、ヤダ」
『駄目。私の目を見て、もう一回』
抱き付く彼の前髪を掻き上げて、嫌がる彼を真っ直ぐ見つめた。
「……雨月、ちゃん…すき。…だから、…っ」
眉を下げて、唇を戦慄かせて。
時折、歯が噛み合わずにカチカチと音を鳴らしながら。
一哉は私を必死に見ていた。
『……うん。ありがとう。私も一哉、大好きだよ』
私は返事と同時に、切なげに寄った彼の眉間に唇を寄せる。
「…!」
『やっとスッキリした。本当に私が好きなのか、心配だったの。…目を見て話せてよかった』
「………ずるい」
『ごめんごめん、だって、君は友達の弟として出会ったから。お兄ちゃんに対する対抗心だったりするかも、って思っちゃって』
「…そりゃ、対抗心無くはないよ。でも、雨月ちゃんは、ただただ欲しかった。兄貴には感謝してる、兄貴がいなきゃ、会えなかったんだもん」
前髪を下ろして正面から抱き締めれば、一哉も応えるように腕を回す。
『そっかぁ、じゃあ私もアイツに感謝しなきゃ』
「でも今はしなくていいから。俺だけ見て、やっと雨月ちゃん、こっち見てくれたんだから」
『……待たせた?』
「すごく。結構アタックしてたの、わかってた癖に」
『ごめんって。ほら、これからはちゃんと応えるよ』
「…もうさぁ、そういうのも狡い」
前髪にキスをすれば、一哉は拗ねたような声を出して。私の頬をそっと両手で被う。
「俺さぁ、ファーストキスまだなんだけど」
『私もだよ』
「マジ?めっちゃ嬉しい。ねー、ハジメテの場所、ここでいい?」
『……チャペルがいいって言ったら待ってくれるの?』
「いいよん、別に。ただ、唇以外にはメッチャするし、明日無理にでも連れてくから」
『え』
「何、結婚するまで待てって意味?それなら俺18になったし、婚姻届書くよ」
『…』
「しても、いい?」
『…うん』
チャペルで、なんて、照れ隠しだったのに。
彼は真面目な声色で、前髪越しに私を伺うから。
こわごわと頷いて、せめて年上らしく、と。自ら目を閉じる。
「…」
『…』
吸い付くように唇が触れて、暫くそのまま動けなかった。
背中を抱いていた手が、頭を支えるように回されて。
私も、彼の首に縋るように腕を伸ばす。
「…っ、コレ、止まんない」
『同感。ね、もう一回』
唇を離しては、角度を変えて寄せた。
何度合わせても満足できなくて、控えめなリップ音が絶えず響く。
「雨月ちゃん」
『ん…?』
「ファーストキス、俺にくれてありがとう」
ふと唇を離した一哉は、前髪から僅かに瞳を覗かせて、そう微笑んだ。
『……一哉だって、くれたでしょ。ありがと』
私はきっと。
これから先、全部一哉に捧げるんだろうな。
そう、思わせる瞳だった。
(きっと。一哉も全部、くれるだろうから)
fin
happy birthday!