短編①
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《カラメル・ドロップ》:古橋
※2018古橋生誕祭
私の恋人は、ドSで仏頂面で死んだ魚みたいな目をしている。
「…何か、失礼なこと考えてたろ」
『ううん。康次郎の好きなとこ、考えてた』
先の物言いには続きがある。
普段、私を無表情で苛めて楽しむ性格をしている彼。
急に呼び出して、少しでも遅れれば拗ねてみせたり。信号待ちで立ち止まれば、街中なのにキスしろとせがんでみたり。
私が困るのを、じっと、熱の籠った目で見ているくせに。
手だけは、壊れ物を扱うように、優しく握ってくれた。
意地悪に耐えきれず、私が泣き出しそうになると、彼はそっと手をとって
「すまないな。可愛くてつい、虐めたくなってしまう」
と、私を絆す。
飴と鞭…じゃないが、苦さと甘さを併せ持ったカラメルのような人。
それで毎回許せてしまうのだから、私は彼に心底惚れているのだと思う。
「……」
『ふふ、くすぐったいよ』
因みにここは康次郎の部屋。
窓辺に置かれた観葉植物以外に変わったものはない。
私達は床に座り、隣あった手を繋いで指を絡めて戯れている。
そんな中、彼は私の爪をスルスルと撫でていた。
「教えてくれよ、俺の好きなところ」
『……そうやって、優しく手を握ってくれるとこ』
そんなことか。
と、がっかりした様子と、
そんなことで。
と、嬉しそうな様子の両方で。
彼は呆れてみせた。
絡まる指に力を込めれば、そのまま凝視される。
それは、好きなとこの催促かな?じゃあ、もう少し。
黒目が大きい彼の瞳は、人によっては淀んで見えるのだろう。だから、死んだ魚…なんて言われるのかもしれないが、私からしたら…
『康次郎の目も好き。吸い込まれそうで…私が映ってると、幸せ』
その、深い深い黒が、大好きだった。
『それからね、声。康次郎は表情にはでないけど声には出てるのよ、感情。康次郎の声で名前呼ばれるの、好き』
別に、表情だって出てるけど。それは驚きとか、不快のが多い。
嬉しい時とか、親しみを込めてる時は顔より声で表れる。すごく穏やかで、優しくて…殆どため息みたいにそっと呼ばれると、耳が、心が擽ったい。
『あとは、』
「雨月」
『ん?』
「……十分だ」
繋がれていない手の人差し指で、私の唇をそっと押さえた。
しー、って、内緒みたいに。
「雨月、」
流れ込んでくる声は、脳味噌が溶けるんじゃないかってくらい、思考を奪っていく。
「なあ。……好きでいてくれて、ありがとう」
『…え…?』
「なんだか、奇跡みたいだろ。…自分が好きになった人が、自分を好きでいてくれるなんて」
だから、なんで急にこんな話を。
と聞き返すことも出来ず、ただ彼の眼を見つめ返した。
「俺は愛想もないし、お世辞にも良い行いはしてないからな……それなのに…好きに、なって、くれたから」
彼の思考が時々飛躍することはあった。
ロマンチストで詩人的なこともあった。
でも、
そんな、
泣きそうな顔で
「…俺も、好きだ。…離れないでくれ、俺は、絶対にこの手を、離さないから」
懇願されたことは無くて。
『康次郎。私も、離れたくないよ、離れないから……離さないで』
私の返事に満足したのか、康次郎は啄むようなキスをして。
また普段のポーカーフェイスへと戻る。
『いつもの意地悪な康次郎は何処にいっちゃったの?私が康次郎を好きなことくらい、自信持っていいのに』
それはそれで、ちょっとつまらないというか。
さっきの、急なドラマチックはなんだったの、という疑問とか。
色々思って首を傾げれば。
彼は私の頭を撫でながら、何でもないように返答する。
「…俺だって不安になるんだ。意地悪は、お前に好かれているかを試してしまうだけで…苛めるのが好きなわけじゃない」
『…』
「だから、雨月から、好きだと聞けて嬉しかったんだ。それでつい、思ってたことが言葉になってしまった」
何だって。
今日はこんなに饒舌なのか。
好き、と伝えられることは…彼にとってそんなに嬉しいことだったのか。
(たしかに…私から、言ったことって、あんまりないな)
思い返せば、与える愛よりも、与えられる愛の方が多かったかもしれない。
もちろん、それを受け止めるのだって愛なのだから、天秤にかけることは至極難しいのだけども。
『…そんなに愛されて、私は幸せ者ね』
ただ、康次郎が、欲するのなら。
際限なく溢れるこの愛しさを、伝えなければならない。
『大好き。康次郎』
自分から、催促もされずにキスをしたのは初めて。
してしまえば、なんで今まで恥ずかしかったんだろうと思うくらい、自然なことだった。
「…っ」
『康次郎、』
ちゅ、ちゅ、と。
子どもみたいな音を鳴らして、彼の唇に短く何度も吸い付く。
彼は驚いたように、一瞬目を見開いて。
その後はどこか嬉しそうに、口を薄く開いて待っていた。
「…雨月」
『なに?』
頭を撫でていた手は、ゆっくりと頬を、瞼を、唇を撫でて。
それから、ぎゅっと背中を抱き締める。
「……お前が好きすぎて、息ができなくなりそうだ」
はぁ、と。詰まった息を耳許で吐かれた私は。
『私は…もう康次郎無しじゃ呼吸(いき)、出来ないよ』
と、強く腕を回してその背中を抱き締めるよりなかった。
カラメル・ドロップ
古橋、お誕生日おめでとう。
大好きだよ。