短編①
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《ゲームオーバー》:花宮
『愛してる』
「ああ、俺も」
告白ですか?
いいえ、愛してるゲームです。
いつものメンバーで部活の帰り際、原くん辺りが提案した。
愛してる、と片方が言って。言われた方は返事をする。そのやり取りで照れたら負け。…を時計回りにやるというもの。
クラスで流行ってるとかなんとか。
因みに山崎くんが告白する側とされる側両方でぼろ負け。
原くんは照れるじゃなくて笑いだした。
「古橋の愛してる面白すぎ!無表情とか!」だそうだ。
瀬戸君なんてまだ夢の中で参加すらしてなくて。
今は私と花宮くんと古橋くんの三つ巴。
冒頭の私から花宮くんへで一周したけど勝負がつかなかったので逆回りになる。
私から、古橋くんへ。
『愛してるよ、古橋君』
「……ああ。俺も愛してる、結婚しよう」
「おい待てコラ」
精一杯媚売った感じに告げれば、古橋君は私の手を握りしめて返事をくれた。
それを、原くんが引き剥がす。
「愛してるゲームはお触り許してないから」
「そんなルールあったか?」
「照れちゃいけないゲームでタッチは結構アウトでしょ。反則」
「まさか霧崎に反則があるとは」
つーか結婚しようでも照れないとか
羽影強すぎ。
原くんがケタケタと笑い始めて、試しにザキ言ってみてよ、と山崎くんに無茶振りをする。
はあっ!?無理!!と言う前から赤面する彼に悪戯心が湧いて。
『山崎くん、結婚しよ?愛してる』
「…っ!?」
ふいに声をかけたら泡吹いて卒倒した。
なんてピュアなの。
「羽影ー、今のはオーバーキルだよ」
『いやぁ、あんまり可愛いから』
「なにそれ、ちょっと俺にも言ってみない?」
『原くん、愛してる。結婚して?』
「………うん、完全死体蹴りだわ」
これは後半程泥試合だ。口も耳も愛してるに慣れすぎて麻痺してくる。
まあ、紅一点の私は特異点だ。
残念なことに愛してるなんて実感の湧かない言葉に照れる程乙女じゃない私は、言うことにも聞く事にも無関心で。
告げられた相手が山崎くんみたいな感じなら有利。
古橋くんみたいだとドロー。
問題は花宮くん。
私と同じ質なのだろう。乗ったはいいが全く動じない。ただ負けるのも癪だから続けてるタイプ。
「じゃあ、今度は花宮からね」
彼から愛してるなんて聞いたら、正直笑う。原くん並に笑う。
最早照れなくても動じたら負けになってる状態で対悪童は完全に不利だ。
でも、ちょっとだけ。
彼の渾身の愛してるを聞いてみたいとも思ってる。
「………」
『…?』
「…………」
なんて、少しばかり期待して彼と対面すれば。
花宮くんはじっと私の目を見つめて無言を紡いだ。
不思議がって小首を傾げる私に構わず、尚も見つめられながら流れる沈黙が居たたまれない。
彼の目はこんなに熱かっただろうか。
彼の目はこんなに潤んでいただろうか。
彼の目はこんなに艶やかだっただろうか。
でも、逸らせば負けだ。
ただただ、綺麗な二重の瞳を見つめ返せば。
彼は距離を縮めて。目と鼻の先、鼻同士が当たりそうな距離で止まると
「雨月、愛してる」
見たこともない、優しい笑みでそう告げた。
(……っ!)
ああ、返事をしなきゃ。
でも、口を動かしたら…唇が触れてしまいそう
触れてはいけない。というルールに則ったボーダーライン上の、反則スレスレの攻撃に胸中狼狽える。
なにより、これがゲームじゃないと錯覚しそうになる程。熱の籠った声だった。
『…、ありがとう。私も、真くんのこと、愛してる』
唇が触れないよう、小さな声で。
でも、さっきの告白に見合う熱の籠った返事を。
…そのまま、数秒流れた。
「………はい、引き分けー」
「本当に動じないな」
「なんなの。マジなんなの」
周りが止めに入って、私達の愛してるゲームは終わった。
各々荷物を片付けて部室を出る。
皆が帰って行く中、私と花宮くんは体育館の鍵と来月の体育館利用申請書を持って職員室へ向かった。
「……あれ、全然照れなかったのか?」
『え?ああ、あれ。まあ、ゲームだしね』
「…ふーん。なあ、引き分けじゃつまらねぇよな?」
『へ?』
その、職員室の帰り。
昇降口が締まっているので裏口から校舎を出たら、彼は突然立ち止まった。
…え?別に引き分けでいいじゃない。
「…先攻そっちでいいぜ?今回はルールも禁忌もない。思い付く限りの方法で…媚びてみろ」
背中に校舎の壁、正面に花宮くん。
ちなみに両サイドは外倉庫と自転車置き場。こんな奥まで停めに来る人なんていないし、そもそも生徒は皆帰っている筈だ。
職員室にない鍵は体育館だけだったもの。
つまり、逃げ場がない。
私が彼に弁で勝てる筈もないのだが、一応言ってみる。
『いや、やらないからね?』
「はっ、拒否権はねぇよ。早く帰りたいなら、恥ずかしい台詞でも言って自爆すれば?」
だめだった。
やるからには負けたくないけど、なんていうか、彼が照れる姿なんて想像つかなくて。
言うなれば勝つビジョンが見えなくて。
しかもルール無しとか逆に難しい。
さっき原くんが言った、お触り、という行為が暗に認められたということ。
思い付く限りの方法で媚びるとは、果たしてどうしたものか。
『…わかった。ルール無用でも、勝利条件と敗北条件はあるでしょ』
「ああ。照れる、恥ずかしがる、動揺する、が敗北条件だ。勝利条件は片方が敗北した時」
ジャッジは誰がするの、なんて言えなかった。
花宮くんが楽しそうなのだ。
ラフプレーしてる時の悪い笑みにも見えるけど、楽しいことを期待する子どもみたいな顔。
日も長くなってきたし、悪童の戯れに付き合ってもいいだろう。
『……じゃあ、お言葉に甘えて』
甘えて。は、先攻を譲ってくれたこととルール無用になったところ。
私の右手は彼のブレザーを避けてワイシャツ越しに左胸に置かれる。
「…」
『花宮くんの手はこっちね』
それから、彼の右手を私の頸動脈に触れさせた。
「…なるほど」
『これなら嘘吐けないもの』
脈拍に動揺が現れれば、一発で解る。
流石に彼の手を胸の上に置く勇気は無かった。
『……』
「……」
暫く、彼と同じように無言で両目を見つめてみる。
なんで彼はこのゲームに拘るのだろう。
暇潰しの一つとして流せばいいものを、わざわざ私を呼び止めてまで。
…言われたい、とか?
そんな理由だったら、可愛いな。
『…愛してる。実際、愛してるなんて実感沸かないけど…これは本当。…大好き』
「…」
『いつか、本当に、その感情が理解できたら、また言わせてね。愛してるよ、真くん』
そんな想いを胸に、私の首に触れる彼の手を、導いた手でそっと覆う。
今の文言に何一つ嘘はない。
私は、本当に花宮くんが好きだ。
ただ、ゲームだと割りきられた世界で、目に見えて緊張する程乙女じゃない、それだけ。
「……」
お互い、脈動は変わらず、花宮くんは小さく息を吸った。
「待ってる。俺も実際愛だなんて解らねえが、お前は好きだ。愛したいと思う…だから、俺のことも待っててくれ。愛してる」
ふわりと、優しく笑った彼の脈は変わらない。
けど、
『…!』
胸から、私の手は彼の頬に導かれて。
指先が耳に触れた。…熱い。
「……引き分け、だな」
『…両方負け、ね』
花宮くんは、耳だけ熱くなるみたい。
私は、
「ほんと、指冷てーの」
緊張で指先が冷たくなる。
ほら、"目に見えて"じゃないでしょ?
こればっかりは、どうしようもない。
冷たい指先を彼の耳に這わせて暖を取れば、身じろぎながらも彼は笑う。
『花宮くんは熱いよ、なんか、可愛い』
「可愛いはねぇだろ…」
『そう?』
「お前のが可愛いんじゃないか?爪が白くなるほど握り込んでの告白だろ?」
『あ、バレた』
彼は私の頸動脈に触れていた手を上にずらし、私同様、私の頬から耳を撫でた。
「…愛してる」
『…っ!不意討ちは、狡くない?』
「もうゲームは終わったろ。俺は、言いたくなったから言っただけ」
『………』
「ただのゲームじゃ勿体ないからな、こんな台詞。さあ、返事を」
私の手先からはどんどん血が引いて、代わりにどんどん顔が熱くなって。
ムリだ、ゲームじゃなければ、私にそんな勇気はない。
ときめく乙女じゃない私が出来る返事なんて…。
『…私も』
それが、精一杯だった。
.
(最初から最後まで彼に転がされたゲーム)
(全ては彼の気まぐれで)
(全ては彼に仕組まれてて)
それでも、逆光でも解るほど、頬を染めた彼が。
それを隠すように私を抱き締めたから。
どうでも良くなってしまったの。
(そのまま耳もとで)
(最初からゲームなんかしてなかった)
(なんていうんだもの)
fin
『愛してる』
「ああ、俺も」
告白ですか?
いいえ、愛してるゲームです。
いつものメンバーで部活の帰り際、原くん辺りが提案した。
愛してる、と片方が言って。言われた方は返事をする。そのやり取りで照れたら負け。…を時計回りにやるというもの。
クラスで流行ってるとかなんとか。
因みに山崎くんが告白する側とされる側両方でぼろ負け。
原くんは照れるじゃなくて笑いだした。
「古橋の愛してる面白すぎ!無表情とか!」だそうだ。
瀬戸君なんてまだ夢の中で参加すらしてなくて。
今は私と花宮くんと古橋くんの三つ巴。
冒頭の私から花宮くんへで一周したけど勝負がつかなかったので逆回りになる。
私から、古橋くんへ。
『愛してるよ、古橋君』
「……ああ。俺も愛してる、結婚しよう」
「おい待てコラ」
精一杯媚売った感じに告げれば、古橋君は私の手を握りしめて返事をくれた。
それを、原くんが引き剥がす。
「愛してるゲームはお触り許してないから」
「そんなルールあったか?」
「照れちゃいけないゲームでタッチは結構アウトでしょ。反則」
「まさか霧崎に反則があるとは」
つーか結婚しようでも照れないとか
羽影強すぎ。
原くんがケタケタと笑い始めて、試しにザキ言ってみてよ、と山崎くんに無茶振りをする。
はあっ!?無理!!と言う前から赤面する彼に悪戯心が湧いて。
『山崎くん、結婚しよ?愛してる』
「…っ!?」
ふいに声をかけたら泡吹いて卒倒した。
なんてピュアなの。
「羽影ー、今のはオーバーキルだよ」
『いやぁ、あんまり可愛いから』
「なにそれ、ちょっと俺にも言ってみない?」
『原くん、愛してる。結婚して?』
「………うん、完全死体蹴りだわ」
これは後半程泥試合だ。口も耳も愛してるに慣れすぎて麻痺してくる。
まあ、紅一点の私は特異点だ。
残念なことに愛してるなんて実感の湧かない言葉に照れる程乙女じゃない私は、言うことにも聞く事にも無関心で。
告げられた相手が山崎くんみたいな感じなら有利。
古橋くんみたいだとドロー。
問題は花宮くん。
私と同じ質なのだろう。乗ったはいいが全く動じない。ただ負けるのも癪だから続けてるタイプ。
「じゃあ、今度は花宮からね」
彼から愛してるなんて聞いたら、正直笑う。原くん並に笑う。
最早照れなくても動じたら負けになってる状態で対悪童は完全に不利だ。
でも、ちょっとだけ。
彼の渾身の愛してるを聞いてみたいとも思ってる。
「………」
『…?』
「…………」
なんて、少しばかり期待して彼と対面すれば。
花宮くんはじっと私の目を見つめて無言を紡いだ。
不思議がって小首を傾げる私に構わず、尚も見つめられながら流れる沈黙が居たたまれない。
彼の目はこんなに熱かっただろうか。
彼の目はこんなに潤んでいただろうか。
彼の目はこんなに艶やかだっただろうか。
でも、逸らせば負けだ。
ただただ、綺麗な二重の瞳を見つめ返せば。
彼は距離を縮めて。目と鼻の先、鼻同士が当たりそうな距離で止まると
「雨月、愛してる」
見たこともない、優しい笑みでそう告げた。
(……っ!)
ああ、返事をしなきゃ。
でも、口を動かしたら…唇が触れてしまいそう
触れてはいけない。というルールに則ったボーダーライン上の、反則スレスレの攻撃に胸中狼狽える。
なにより、これがゲームじゃないと錯覚しそうになる程。熱の籠った声だった。
『…、ありがとう。私も、真くんのこと、愛してる』
唇が触れないよう、小さな声で。
でも、さっきの告白に見合う熱の籠った返事を。
…そのまま、数秒流れた。
「………はい、引き分けー」
「本当に動じないな」
「なんなの。マジなんなの」
周りが止めに入って、私達の愛してるゲームは終わった。
各々荷物を片付けて部室を出る。
皆が帰って行く中、私と花宮くんは体育館の鍵と来月の体育館利用申請書を持って職員室へ向かった。
「……あれ、全然照れなかったのか?」
『え?ああ、あれ。まあ、ゲームだしね』
「…ふーん。なあ、引き分けじゃつまらねぇよな?」
『へ?』
その、職員室の帰り。
昇降口が締まっているので裏口から校舎を出たら、彼は突然立ち止まった。
…え?別に引き分けでいいじゃない。
「…先攻そっちでいいぜ?今回はルールも禁忌もない。思い付く限りの方法で…媚びてみろ」
背中に校舎の壁、正面に花宮くん。
ちなみに両サイドは外倉庫と自転車置き場。こんな奥まで停めに来る人なんていないし、そもそも生徒は皆帰っている筈だ。
職員室にない鍵は体育館だけだったもの。
つまり、逃げ場がない。
私が彼に弁で勝てる筈もないのだが、一応言ってみる。
『いや、やらないからね?』
「はっ、拒否権はねぇよ。早く帰りたいなら、恥ずかしい台詞でも言って自爆すれば?」
だめだった。
やるからには負けたくないけど、なんていうか、彼が照れる姿なんて想像つかなくて。
言うなれば勝つビジョンが見えなくて。
しかもルール無しとか逆に難しい。
さっき原くんが言った、お触り、という行為が暗に認められたということ。
思い付く限りの方法で媚びるとは、果たしてどうしたものか。
『…わかった。ルール無用でも、勝利条件と敗北条件はあるでしょ』
「ああ。照れる、恥ずかしがる、動揺する、が敗北条件だ。勝利条件は片方が敗北した時」
ジャッジは誰がするの、なんて言えなかった。
花宮くんが楽しそうなのだ。
ラフプレーしてる時の悪い笑みにも見えるけど、楽しいことを期待する子どもみたいな顔。
日も長くなってきたし、悪童の戯れに付き合ってもいいだろう。
『……じゃあ、お言葉に甘えて』
甘えて。は、先攻を譲ってくれたこととルール無用になったところ。
私の右手は彼のブレザーを避けてワイシャツ越しに左胸に置かれる。
「…」
『花宮くんの手はこっちね』
それから、彼の右手を私の頸動脈に触れさせた。
「…なるほど」
『これなら嘘吐けないもの』
脈拍に動揺が現れれば、一発で解る。
流石に彼の手を胸の上に置く勇気は無かった。
『……』
「……」
暫く、彼と同じように無言で両目を見つめてみる。
なんで彼はこのゲームに拘るのだろう。
暇潰しの一つとして流せばいいものを、わざわざ私を呼び止めてまで。
…言われたい、とか?
そんな理由だったら、可愛いな。
『…愛してる。実際、愛してるなんて実感沸かないけど…これは本当。…大好き』
「…」
『いつか、本当に、その感情が理解できたら、また言わせてね。愛してるよ、真くん』
そんな想いを胸に、私の首に触れる彼の手を、導いた手でそっと覆う。
今の文言に何一つ嘘はない。
私は、本当に花宮くんが好きだ。
ただ、ゲームだと割りきられた世界で、目に見えて緊張する程乙女じゃない、それだけ。
「……」
お互い、脈動は変わらず、花宮くんは小さく息を吸った。
「待ってる。俺も実際愛だなんて解らねえが、お前は好きだ。愛したいと思う…だから、俺のことも待っててくれ。愛してる」
ふわりと、優しく笑った彼の脈は変わらない。
けど、
『…!』
胸から、私の手は彼の頬に導かれて。
指先が耳に触れた。…熱い。
「……引き分け、だな」
『…両方負け、ね』
花宮くんは、耳だけ熱くなるみたい。
私は、
「ほんと、指冷てーの」
緊張で指先が冷たくなる。
ほら、"目に見えて"じゃないでしょ?
こればっかりは、どうしようもない。
冷たい指先を彼の耳に這わせて暖を取れば、身じろぎながらも彼は笑う。
『花宮くんは熱いよ、なんか、可愛い』
「可愛いはねぇだろ…」
『そう?』
「お前のが可愛いんじゃないか?爪が白くなるほど握り込んでの告白だろ?」
『あ、バレた』
彼は私の頸動脈に触れていた手を上にずらし、私同様、私の頬から耳を撫でた。
「…愛してる」
『…っ!不意討ちは、狡くない?』
「もうゲームは終わったろ。俺は、言いたくなったから言っただけ」
『………』
「ただのゲームじゃ勿体ないからな、こんな台詞。さあ、返事を」
私の手先からはどんどん血が引いて、代わりにどんどん顔が熱くなって。
ムリだ、ゲームじゃなければ、私にそんな勇気はない。
ときめく乙女じゃない私が出来る返事なんて…。
『…私も』
それが、精一杯だった。
.
(最初から最後まで彼に転がされたゲーム)
(全ては彼の気まぐれで)
(全ては彼に仕組まれてて)
それでも、逆光でも解るほど、頬を染めた彼が。
それを隠すように私を抱き締めたから。
どうでも良くなってしまったの。
(そのまま耳もとで)
(最初からゲームなんかしてなかった)
(なんていうんだもの)
fin