短編①
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※
若干の狂気、ホラー、狂愛、が含まれます。
花宮だから…と思えば通常かもしれませんが苦手な方はご注意ください。
《死にたくなるくらい》
[ヒロイン視点]
「ねーえ、死ぬ前に願いを叶えてくれるって言われたらなんて言う?」
突拍子もない話題を投下させたのは原君だった。
部活が終わって各々荷物を纏めてる中、彼はガムを噛みながら笑う。
「なんだよ急に」
「まあ、俺ら恨まれ役じゃん?夜道に気を付けなきゃいけない人種だし、考えてみてもいいかなって」
「くだらないな」
「で?本当のところは?」
「ただの思いつき」
「だと思った」
皆は呆れたように笑いながら、それでも思考を巡らしているようだ。
「それは、何でも叶えて貰える…という前提でいいのか?」
「んー?そうだね、実現性の有無は加味しないよ」
「なら俺は好きなもの腹一杯食いたいな」
「ザキ幼稚ー」
「いいだろ別に!」
山崎君は、豚カツ、唐揚げ、スパゲッティー、ハンバーグ、焼きそば…と食べたいものを次々と上げていく。
欲が少ないとも多いとも言い難いけど、彼らしい答えだ。
「ならお前はなんなんだよ」
「えー…死にたくないんだけど」
「本末転倒だろうが!」
原君は、そもそも死なない…と。
未練らしいものも特に無いようで、強いて言えば漫画の続きが気になる程度らしい。
「まあ…今訪れる死に対して叶えて貰える我が儘だと考えれば、一番賢い答えだよね。満足だと思うまで生きたい…って答えればさ」
「確かに」
瀬戸君の答えはこれ。
特に現状に可もなく不可もない彼は、やりたいことを見つけたいのだと言った。
「そうか、死に対する願いだとすれば…俺は花に囲まれて死にたい。百合の花で窒息するやつ」
「なんだっけ、世界一美しい自殺?」
「ああ。まあ、百合の呼吸で酸素を減らす方法だから、現実では無理だが…薔薇の花で圧死もいい」
「…古橋のはなんか違くね?どう死にたいかじゃねぇよ」
それもそうか…と首を傾げた古橋君は、ブルーローズを咲かせてみたいと呟いた。
「花宮は?」
「要するに死を対価にして得られるものだろ?欲しいものはねぇし、生きてりゃ大概のものは手に入る」
「えー…」
「ああ、誰か道連れにしたい…かな」
「この悪童」
花宮君は、顔を歪めて笑った。
前半は本心だろうけど、後半はふざけただけな気がする。
「雨月ちゃんは?」
『へ?』
「死ぬ前に叶えたいこと」
荷物をまとめ終わった皆が、施錠の為に待っていた私に視線を向ける。
まさか話題を振られると思わなくて言葉に詰まった。
「あ、言えないようなお願いゴト?」
「嫌いな奴泣かすとか?」
「だからなんでザキは考えがガキなの?バカなの?」
「それこそ女子なんだから甘いもの沢山とかじゃないのか」
「海外行ってみたいとかね」
そんな私を見て、皆が勝手な予想を立てる。
私の、死を対価にしなければいけない程…叶う見込みのない願い。
(花宮君と…)
叶うのなら…死んでもいいと思う。
『…、デートしてみたい』
ぽつりと溢した言葉に、皆は一瞬固まって。
それぞれの反応を見せる。
「やっぱり女子は違うな」
「いいんじゃない?」
「デート…なぁ」
「乙女ー」
私はそれに苦笑するよりなく。
『ほら、鍵閉めるから早く出て?』
話を有耶無耶にして皆を急かした。
(花宮君…無反応だったな)
鍵を職員室に返しに来た私は、一人でさっきの会話を思い出す。
デートしたい…と溢した私に、彼は目もくれなかった。
(興味ないんだよね、きっと)
他人の不幸は蜜の味。
他人の不幸は知らん振り。
悪童と呼ばれる彼は信頼や情といったものを嫌い、必要以上に馴れ合わない。
そんな彼に片思いしている私は、大層な馬鹿だと思う。
…それでも好きになっちゃったんだ。
なんだかんだ一生懸命バスケしてるところも、チームメイトをよく見てるところも。
…私には理解仕切れない程賢いところも、その賢さ故に脆いところも。
「鍵返すだけなのに随分かかったな」
『な…っ、は、花宮、君?なんで…』
薄暗い昇降口、靴を履き替えようと下駄箱へ手を伸ばせば。
玄関のドアに寄りかかるようにして花宮君が立っていた。
「ハンカチ。体育館の入り口に落ちてたから、届けてやろうと思って」
『あっありがとう…わざわざ待っててくれたんだね』
「ここに居れば来るの解ってたし、下駄箱に入れんのも汚いだろ。明日渡す方が面倒だ」
差し出されたハンカチを受け取って、上ずった声でお礼を言えば。
彼はなんてことない顔で返事をする。
期待なんて、してはいけない。
けど、もしかしたら、校門までくらい、一緒に歩けるかもしれない。
なんて、急いで靴を履き替えた。
『よく私のハンカチだって解ったね』
「前使ってんの見たからな」
『相変わらず素晴らしい記憶力』
これも、期待には値しない。
だって…彼は大概のことを覚えてる。
「…ふはっ、それにしても、死ぬ前の願いがデートねぇ」
『う…それ振り返すの?』
「欲が無いと思っただけだ。命と天秤にかける程のもんかよ」
『……うん。私がデートしたい人は、それくらい遠い人なの』
興味があるのかないのか。
ゆっくり私の歩幅に合わせて歩いてくれてる彼が新鮮で、頭がグルグルする。
いつも一人で帰る道を、いつも私から離れた場所にいる彼と歩いてるなんて。
「両想いになりたいとかじゃねぇんだ」
『両想いになったら死にたくなくなっちゃうから。私を見てくれるだけでいいの』
校門を出て、駅に向かって歩き出せば。
彼も同じように隣を歩く。
どこまで同じ帰り道なんだろう。
少しでも、長いといい。
「手を繋ぎたいとかは?」
『うーん…駄目かな。繋いだら、離したくないよ。でも、その人を連れて死ぬのは嫌。彼には彼の幸せがある』
「……お前はデートで手を繋がないつもりか?」
『あ…そっか…』
駅が見えてきた。
花宮君が私の話を聞いてくれている。
まだ隣を歩いてくれている。
肩が触れそう。動悸が早い。
ねえ、あとどれくらいこうやって歩ける?
『……なら、告白するだけ…かな。返事は、怖いから要らない。でも、伝えないと後悔する』
「ふぅん……」
駅まであともう少し。
道の先には踏切があって、ランプが点滅していた。
裏道を行けば渡らなくても帰れるけど、踏切を待つ間は一緒にいられるから。
カンカンと鳴る踏切を前に立ち止まった。
遮断機が降りてくる。
「……じゃあ、しろよ」
そこに、花宮君は私を押し込む。
遮断機の、内側。
『へ?…や、なっ!花宮君!?』
「死ななきゃ伝えられない程大切な告白なんだろ?一言一句間違えず、そいつに伝えてやる」
『…っ』
足がすくんで動けない。
足元から、電車の振動が伝わってくる。
踏切が鳴いてる。
灯りが点滅してる。
ああ、気づかなくてごめんね。
つまらない話だったんだね。
君の駒にすらなれなかったんだね。
でも、今。
花宮君は私を見てくれている。
酷く、無表情だけれど。
それだけで、私は幸せだったと言えるだろう。
『…ずっと、ずっと好きだった。一緒にここまで歩いてくれたこと、忘れない。…大好き、花宮君』
願わくば、最期に見るのは、君の笑顔がーー
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[花宮視点]
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「クソっ!」
『…っ!?は…なみ、や…くん』
電車のライトが彼女を照らした瞬間。
自分でも驚く程の速さと力で彼女を踏切の外に連れ出した。
後ろ向きに引っ張った勢いで俺は尻餅をつき、その弾みで彼女は俺の胸に倒れ込む。
目の前を通り過ぎる電車の音。
俺は彼女の手を握ったまま、強く強くその背中を抱き寄せた。
「バァカ!やっぱりお前がしたいことは死と天秤にかける程のもんじゃねぇ!」
自分がしたことは、酷く子供じみた嫉妬からきた衝動。
彼女が俺に向けた事のない微笑で語る"彼"
が、憎くて羨ましくて妬ましくて。
踏切の中で、彼女がどれだけそいつに本気なのか知りたかった。
本気であれば本気であるほど、そいつを壊してしまおうと思っていた。
「なんで動かなかったんだよ!…反対に走れば良かっただろ、遮断機をくぐるだけだろうが!ふざけんな!」
けど。
彼女は真っ直ぐ俺を見たまま。
けたたましい踏切の警鐘の中で。
俺の名を呼んで微笑んだのだ。
『…だって、花宮君が、私を見てた』
今みたいに。
「本気で…死を代償にしてもいいと思ってたのか」
『うん…私と花宮君が釣り合う日なんて、こないから。伝える日なんて…こない筈だったから…だから…』
しかし、その瞳からは徐々に涙が零れ始めて。
『ごめん…なさいっ…答えないで…忘れて…私が願ったことも、私が、伝えたことも…全部』
俺に怒りを向けることなく、彼女は嗚咽を漏らす。
本当に、バカ。
俺はまだ、彼女の手を握りしめたままだというのに。
「頼む相手を間違えたな。ちゃんと返事してやる。良く聞け」
繋いだ手の指を絡め合わせ、抱き寄せた彼女の頭を固定して口元に耳が来るようにする。
『…やだ…お願い…聞きたくない』
「逆効果だな。しかも、お願いは忘れてだろ?矛盾すんなよ。まあ、聞く気はねぇが」
『…っ…花宮君…』
「雨月、……好きだ」
『!』
身を捩って逃げようとしていた体がピタリと止まる。
「生きてりゃ大概のものは手に入る。俺は…お前が欲しい。お前の体も、声も、心も時間も。だから、死を対価に叶えるなんて論外なんだよ」
通りすぎた電車、鳴き止んだ警鐘、消えた灯、上がった遮断機。
暗くて静かな空間に、俺の心音が響きそうだ。
「…怖い思いさせて、悪かったな。俺じゃない奴を見てると思ったら、壊したくなったんだ」
『…』
「信じられないか?」
『…だって、花宮君が…嘘…私なんか』
「これでも?」
胸に手を導いて、荒く脈打つ動悸に触れさせれば。
彼女は戸惑った顔で俺を見つめる。
『あ…あ…どうしたらいいの?』
「どうしたい?」
『わかんない…嬉しすぎて…死にそう』
「だから死ぬなって」
苦笑すれば、彼女もやっと微笑する。
『デート…したい』
「…本当に死ぬなよ?」
Fin
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死にたくなるくらい、好きが溢れてる
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若干の狂気、ホラー、狂愛、が含まれます。
花宮だから…と思えば通常かもしれませんが苦手な方はご注意ください。
《死にたくなるくらい》
[ヒロイン視点]
「ねーえ、死ぬ前に願いを叶えてくれるって言われたらなんて言う?」
突拍子もない話題を投下させたのは原君だった。
部活が終わって各々荷物を纏めてる中、彼はガムを噛みながら笑う。
「なんだよ急に」
「まあ、俺ら恨まれ役じゃん?夜道に気を付けなきゃいけない人種だし、考えてみてもいいかなって」
「くだらないな」
「で?本当のところは?」
「ただの思いつき」
「だと思った」
皆は呆れたように笑いながら、それでも思考を巡らしているようだ。
「それは、何でも叶えて貰える…という前提でいいのか?」
「んー?そうだね、実現性の有無は加味しないよ」
「なら俺は好きなもの腹一杯食いたいな」
「ザキ幼稚ー」
「いいだろ別に!」
山崎君は、豚カツ、唐揚げ、スパゲッティー、ハンバーグ、焼きそば…と食べたいものを次々と上げていく。
欲が少ないとも多いとも言い難いけど、彼らしい答えだ。
「ならお前はなんなんだよ」
「えー…死にたくないんだけど」
「本末転倒だろうが!」
原君は、そもそも死なない…と。
未練らしいものも特に無いようで、強いて言えば漫画の続きが気になる程度らしい。
「まあ…今訪れる死に対して叶えて貰える我が儘だと考えれば、一番賢い答えだよね。満足だと思うまで生きたい…って答えればさ」
「確かに」
瀬戸君の答えはこれ。
特に現状に可もなく不可もない彼は、やりたいことを見つけたいのだと言った。
「そうか、死に対する願いだとすれば…俺は花に囲まれて死にたい。百合の花で窒息するやつ」
「なんだっけ、世界一美しい自殺?」
「ああ。まあ、百合の呼吸で酸素を減らす方法だから、現実では無理だが…薔薇の花で圧死もいい」
「…古橋のはなんか違くね?どう死にたいかじゃねぇよ」
それもそうか…と首を傾げた古橋君は、ブルーローズを咲かせてみたいと呟いた。
「花宮は?」
「要するに死を対価にして得られるものだろ?欲しいものはねぇし、生きてりゃ大概のものは手に入る」
「えー…」
「ああ、誰か道連れにしたい…かな」
「この悪童」
花宮君は、顔を歪めて笑った。
前半は本心だろうけど、後半はふざけただけな気がする。
「雨月ちゃんは?」
『へ?』
「死ぬ前に叶えたいこと」
荷物をまとめ終わった皆が、施錠の為に待っていた私に視線を向ける。
まさか話題を振られると思わなくて言葉に詰まった。
「あ、言えないようなお願いゴト?」
「嫌いな奴泣かすとか?」
「だからなんでザキは考えがガキなの?バカなの?」
「それこそ女子なんだから甘いもの沢山とかじゃないのか」
「海外行ってみたいとかね」
そんな私を見て、皆が勝手な予想を立てる。
私の、死を対価にしなければいけない程…叶う見込みのない願い。
(花宮君と…)
叶うのなら…死んでもいいと思う。
『…、デートしてみたい』
ぽつりと溢した言葉に、皆は一瞬固まって。
それぞれの反応を見せる。
「やっぱり女子は違うな」
「いいんじゃない?」
「デート…なぁ」
「乙女ー」
私はそれに苦笑するよりなく。
『ほら、鍵閉めるから早く出て?』
話を有耶無耶にして皆を急かした。
(花宮君…無反応だったな)
鍵を職員室に返しに来た私は、一人でさっきの会話を思い出す。
デートしたい…と溢した私に、彼は目もくれなかった。
(興味ないんだよね、きっと)
他人の不幸は蜜の味。
他人の不幸は知らん振り。
悪童と呼ばれる彼は信頼や情といったものを嫌い、必要以上に馴れ合わない。
そんな彼に片思いしている私は、大層な馬鹿だと思う。
…それでも好きになっちゃったんだ。
なんだかんだ一生懸命バスケしてるところも、チームメイトをよく見てるところも。
…私には理解仕切れない程賢いところも、その賢さ故に脆いところも。
「鍵返すだけなのに随分かかったな」
『な…っ、は、花宮、君?なんで…』
薄暗い昇降口、靴を履き替えようと下駄箱へ手を伸ばせば。
玄関のドアに寄りかかるようにして花宮君が立っていた。
「ハンカチ。体育館の入り口に落ちてたから、届けてやろうと思って」
『あっありがとう…わざわざ待っててくれたんだね』
「ここに居れば来るの解ってたし、下駄箱に入れんのも汚いだろ。明日渡す方が面倒だ」
差し出されたハンカチを受け取って、上ずった声でお礼を言えば。
彼はなんてことない顔で返事をする。
期待なんて、してはいけない。
けど、もしかしたら、校門までくらい、一緒に歩けるかもしれない。
なんて、急いで靴を履き替えた。
『よく私のハンカチだって解ったね』
「前使ってんの見たからな」
『相変わらず素晴らしい記憶力』
これも、期待には値しない。
だって…彼は大概のことを覚えてる。
「…ふはっ、それにしても、死ぬ前の願いがデートねぇ」
『う…それ振り返すの?』
「欲が無いと思っただけだ。命と天秤にかける程のもんかよ」
『……うん。私がデートしたい人は、それくらい遠い人なの』
興味があるのかないのか。
ゆっくり私の歩幅に合わせて歩いてくれてる彼が新鮮で、頭がグルグルする。
いつも一人で帰る道を、いつも私から離れた場所にいる彼と歩いてるなんて。
「両想いになりたいとかじゃねぇんだ」
『両想いになったら死にたくなくなっちゃうから。私を見てくれるだけでいいの』
校門を出て、駅に向かって歩き出せば。
彼も同じように隣を歩く。
どこまで同じ帰り道なんだろう。
少しでも、長いといい。
「手を繋ぎたいとかは?」
『うーん…駄目かな。繋いだら、離したくないよ。でも、その人を連れて死ぬのは嫌。彼には彼の幸せがある』
「……お前はデートで手を繋がないつもりか?」
『あ…そっか…』
駅が見えてきた。
花宮君が私の話を聞いてくれている。
まだ隣を歩いてくれている。
肩が触れそう。動悸が早い。
ねえ、あとどれくらいこうやって歩ける?
『……なら、告白するだけ…かな。返事は、怖いから要らない。でも、伝えないと後悔する』
「ふぅん……」
駅まであともう少し。
道の先には踏切があって、ランプが点滅していた。
裏道を行けば渡らなくても帰れるけど、踏切を待つ間は一緒にいられるから。
カンカンと鳴る踏切を前に立ち止まった。
遮断機が降りてくる。
「……じゃあ、しろよ」
そこに、花宮君は私を押し込む。
遮断機の、内側。
『へ?…や、なっ!花宮君!?』
「死ななきゃ伝えられない程大切な告白なんだろ?一言一句間違えず、そいつに伝えてやる」
『…っ』
足がすくんで動けない。
足元から、電車の振動が伝わってくる。
踏切が鳴いてる。
灯りが点滅してる。
ああ、気づかなくてごめんね。
つまらない話だったんだね。
君の駒にすらなれなかったんだね。
でも、今。
花宮君は私を見てくれている。
酷く、無表情だけれど。
それだけで、私は幸せだったと言えるだろう。
『…ずっと、ずっと好きだった。一緒にここまで歩いてくれたこと、忘れない。…大好き、花宮君』
願わくば、最期に見るのは、君の笑顔がーー
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『…っ!?は…なみ、や…くん』
電車のライトが彼女を照らした瞬間。
自分でも驚く程の速さと力で彼女を踏切の外に連れ出した。
後ろ向きに引っ張った勢いで俺は尻餅をつき、その弾みで彼女は俺の胸に倒れ込む。
目の前を通り過ぎる電車の音。
俺は彼女の手を握ったまま、強く強くその背中を抱き寄せた。
「バァカ!やっぱりお前がしたいことは死と天秤にかける程のもんじゃねぇ!」
自分がしたことは、酷く子供じみた嫉妬からきた衝動。
彼女が俺に向けた事のない微笑で語る"彼"
が、憎くて羨ましくて妬ましくて。
踏切の中で、彼女がどれだけそいつに本気なのか知りたかった。
本気であれば本気であるほど、そいつを壊してしまおうと思っていた。
「なんで動かなかったんだよ!…反対に走れば良かっただろ、遮断機をくぐるだけだろうが!ふざけんな!」
けど。
彼女は真っ直ぐ俺を見たまま。
けたたましい踏切の警鐘の中で。
俺の名を呼んで微笑んだのだ。
『…だって、花宮君が、私を見てた』
今みたいに。
「本気で…死を代償にしてもいいと思ってたのか」
『うん…私と花宮君が釣り合う日なんて、こないから。伝える日なんて…こない筈だったから…だから…』
しかし、その瞳からは徐々に涙が零れ始めて。
『ごめん…なさいっ…答えないで…忘れて…私が願ったことも、私が、伝えたことも…全部』
俺に怒りを向けることなく、彼女は嗚咽を漏らす。
本当に、バカ。
俺はまだ、彼女の手を握りしめたままだというのに。
「頼む相手を間違えたな。ちゃんと返事してやる。良く聞け」
繋いだ手の指を絡め合わせ、抱き寄せた彼女の頭を固定して口元に耳が来るようにする。
『…やだ…お願い…聞きたくない』
「逆効果だな。しかも、お願いは忘れてだろ?矛盾すんなよ。まあ、聞く気はねぇが」
『…っ…花宮君…』
「雨月、……好きだ」
『!』
身を捩って逃げようとしていた体がピタリと止まる。
「生きてりゃ大概のものは手に入る。俺は…お前が欲しい。お前の体も、声も、心も時間も。だから、死を対価に叶えるなんて論外なんだよ」
通りすぎた電車、鳴き止んだ警鐘、消えた灯、上がった遮断機。
暗くて静かな空間に、俺の心音が響きそうだ。
「…怖い思いさせて、悪かったな。俺じゃない奴を見てると思ったら、壊したくなったんだ」
『…』
「信じられないか?」
『…だって、花宮君が…嘘…私なんか』
「これでも?」
胸に手を導いて、荒く脈打つ動悸に触れさせれば。
彼女は戸惑った顔で俺を見つめる。
『あ…あ…どうしたらいいの?』
「どうしたい?」
『わかんない…嬉しすぎて…死にそう』
「だから死ぬなって」
苦笑すれば、彼女もやっと微笑する。
『デート…したい』
「…本当に死ぬなよ?」
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