花と蝶
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《終章》
「何がすごいって実現させるところだよな」
「何はともあれ、おめでとう」
大学に進学して、GWに近況報告会を開けば。
口々に祝いの言葉を述べられた。
結婚祝い、と言ってもお互いに大学生だから大したものは用意しない。
ホームベーカリーと観葉植物を貰った。
「それ、ガジュマルって木で、幸福の樹らしい」
「ホームベーカリーならパンも手作りできていいかなーって」
『ありがとう!わ、パンのレシピ集もついてる!』
「喜んでもらえて何より」
借りた新居に招いて、昼食を振る舞いながらの雑談だ。
「つーか名字花宮になったんだよな?なんて呼べばいい?」
「下の名前で呼んだら殺されそうだもんね」
「よくわかってるじゃねーか。これからも旧姓の名字呼びだ」
「マジか。え、これから出会う奴にはどうすんの」
「………それは諦める。だが呼び捨てもちゃん呼びもさせねぇ。お前ら、雨月さんって呼べるか?」
「…無理かな、今更恥ずかしい」
『私を旧姓で呼べるんだもの、一番古くて長い付き合いって証明ね』
「それ聞くと悪い気しねーわ」
大学生になっても、結局こいつらとの付き合いは続いた。
そして、自分達の関係も大きくは変わらない。
俺の依存は大分ましになって、レトルトやチルドであっても雨月が作れば通常に食べれるし、彼女がいれば外食も美味しい。
付き合いで外食しなければいけない時も、不味くて吐くということはなくなった。
彼女の方も少しずつ和らいで、俺の帰りが遅いときは1人で寝付けるようになった。
ただ、まあ…
(反則ってもんだろ)
俺の枕を抱えていることが大半。
希にタオルだとか服だとか、とりあえず俺のものを抱き締めている。
その上俺が帰って来たのがわかるのだろう、同じ布団に入れば
『お帰りなさい、ふふ、やっと本物帰ってきた』
と、腕を伸ばしてくる。
「…ただいま」
可愛い。と、何度思ったことか。
変わった数少ないことの一つ。
雨月が実習で二泊三日家を空けた時のこと。
冷蔵庫には山のような飯のストック。
彼女のカバンには俺のタオルとプレゼントしたブレスレット。
これで乗り越えられるだろうとお互い思っていた。
(なんか、寝付けねーな)
一日目は慣れないことだし、緊張してただろうと割りきった違和感。
しかし、二日目には明らかにおかしかった。こんなに眠いのに、瞼が落ちない。
しかたなく、彼女を倣って雨月の枕を抱き寄せる。
(……こんな感じだったのか、あいつ)
途端、鼻腔から安らぎに似た何かが流れ込んできて。
浅い眠りではあったが寝付くことができた。
この時は実習から戻ってきた彼女も、
『夕御飯、いつも通りに作っても美味しくなくてびっくりしちゃった。調理実習はちゃんとできたし、味がわからないわけじゃないんだけど…』
と言ってた。
お互いに依存性が移ったらしい。
「慣れは怖いな」
『本当。もう真君は調味料だね。美味しくなる魔法のスパイス』
「お前はじゃあ眠り薬か?」
『私的に真君は子守唄』
どっちも愛がなきゃ効き目がない魔法だけどね。
わりと軽くなってるように見えて悪化してる依存性を、そう言って笑う雨月が可愛すぎて苛立ったから。
「そうかよ。せいぜい死なないよう愛しててくれ」
似合わない台詞を吐いて、強く抱き寄せた。
勿論。と、抱き締め返されたのがまた悔しかったからキスもしておいた。
.
そんな大学生活を終えて。
社会人三年目。
「なんかさ、もう本当お前らのお陰で人生観変わったわ」
「…………俺からすればお前らの変わり様が怖い」
「何でだろうね。でも、高校生の時の反動かな」
「他人の不幸は確かにそそられるが、身内の幸福もいいものだって思わされたな」
俺はIT企業での企画開発部へ、雨月は病院の管理栄養士にそれぞれ就職した。
古橋はガーデニングからブーケまで扱う造園業に、山崎は旅行会社の営業に、原は大学を中退して美容師に、瀬戸は貴金属の輸入販売に。
納得できるようなできないような職業へ就いていた。
「これだけ揃うと俺らで企画しようと思うよな」
「っていうかしたいんだけど、依頼してくんないかな」
「結婚式の諸々」
「…大々的にやるつもりはねぇんだが」
「いいんだよ、綺麗な花束と綺麗な指輪と絶好のロケーションを、綺麗な花嫁と一緒に花宮に送りたいだけだから」
「ドレスは俺の店でレンタルも買い取りもできるよん」
「教会は俺のとこが紹介できるな。なんなら新婚旅行もプランたてるし」
「ブーケと教会の飾り付けは俺だな」
「俺のとこからは指輪しか出せないけど、できる限り好みのもの探すよ」
ここまで後押しされたら、もうやらない訳にはいかなかったし、彼女の喜び顔が目に浮かんだ。
「そういうわけだ。次の誕生日プレゼントで、やっと本物の指輪が渡せる」
『今までのアクセサリーだって本物だったじゃない』
「まあな。どれにも意味はあったが…これは特別だろ」
19歳の誕生日に、渡したエンゲージリング。
“結婚してんのにエンゲージってのも変だが…マリッジリングは妥協したくねぇからな。それまでの虫除けだ”
照れ隠しが大半を占める台詞とともに渡したのに、彼女はペアリングであることも含めて大層喜んだ。
「大分前から家族になっていたつもりだったが…これをわたすとなると、夫になるんだと思うな。これからも、妻でいてくれるか?」
『…っ、勿論』
今回はもっと喜んでいたし、実際にドレスを着たら泣き出す有り様だった。
「ちょ、折角メイクしたのに花宮に御披露目して1分ももたなかったんだけど」
『だってぇ…真君格好良かったし、綺麗だって言ってくれたから』
「お前が綺麗な格好するのは、俺の為に1回だけっていってたからな。そりゃ特別だろ。本当に綺麗だ」
『うぅ、真君だって格好いいからぁっ』
「頼むからそれ以上泣かさないで、のろけないで」
式はとてもシンプルだ。
とっくに入籍してる俺達は、仕事の上司だとかを呼ぶ必要もなく。
俺の母さんと、雨月のばあさんだけ。霧崎のやつらは客人じゃなくてスタッフとして出席してる。
牧師もいらないし、ケーキの入刀もいらない。
ただ二人で誓い合って、指輪を交換して、謝辞を述べて、写真を撮って、会食をした。
それだけだ。
それでも、誰もが幸せそうだった。
俺も、幸せだった。
「雨月、一生傍にいる」
『…うん。私も、一生離れない』
俺達はずっと、お互いがなければ生きていけない。
END
あとがき
花と蝶、完結いたします。
長らくありがとうございました。
小さな世界で、お互いを愛し、守ろうとした花と蝶のお話しでした。
終章いらなかったかな、とも思いますが、結婚式させたかったのと、霧崎巻き込みたかったので書かせて頂きました。
今一度、お付き合い頂いた皆さまに愛をこめて。ありがとうございました。
ひとりごと
花と蝶のヒロインモデルとなった彼女へ
君になかった未来と、君になかった過去の幸せを想って書きました。
ただ、形は違えど、君を愛した人がいたこと。君を守ろうとした人がいたこと、覚えていて欲しかった。
きっと、これからも君を想うでしょう。
君に、訪れない幸せを捧げて。
雨月
「何がすごいって実現させるところだよな」
「何はともあれ、おめでとう」
大学に進学して、GWに近況報告会を開けば。
口々に祝いの言葉を述べられた。
結婚祝い、と言ってもお互いに大学生だから大したものは用意しない。
ホームベーカリーと観葉植物を貰った。
「それ、ガジュマルって木で、幸福の樹らしい」
「ホームベーカリーならパンも手作りできていいかなーって」
『ありがとう!わ、パンのレシピ集もついてる!』
「喜んでもらえて何より」
借りた新居に招いて、昼食を振る舞いながらの雑談だ。
「つーか名字花宮になったんだよな?なんて呼べばいい?」
「下の名前で呼んだら殺されそうだもんね」
「よくわかってるじゃねーか。これからも旧姓の名字呼びだ」
「マジか。え、これから出会う奴にはどうすんの」
「………それは諦める。だが呼び捨てもちゃん呼びもさせねぇ。お前ら、雨月さんって呼べるか?」
「…無理かな、今更恥ずかしい」
『私を旧姓で呼べるんだもの、一番古くて長い付き合いって証明ね』
「それ聞くと悪い気しねーわ」
大学生になっても、結局こいつらとの付き合いは続いた。
そして、自分達の関係も大きくは変わらない。
俺の依存は大分ましになって、レトルトやチルドであっても雨月が作れば通常に食べれるし、彼女がいれば外食も美味しい。
付き合いで外食しなければいけない時も、不味くて吐くということはなくなった。
彼女の方も少しずつ和らいで、俺の帰りが遅いときは1人で寝付けるようになった。
ただ、まあ…
(反則ってもんだろ)
俺の枕を抱えていることが大半。
希にタオルだとか服だとか、とりあえず俺のものを抱き締めている。
その上俺が帰って来たのがわかるのだろう、同じ布団に入れば
『お帰りなさい、ふふ、やっと本物帰ってきた』
と、腕を伸ばしてくる。
「…ただいま」
可愛い。と、何度思ったことか。
変わった数少ないことの一つ。
雨月が実習で二泊三日家を空けた時のこと。
冷蔵庫には山のような飯のストック。
彼女のカバンには俺のタオルとプレゼントしたブレスレット。
これで乗り越えられるだろうとお互い思っていた。
(なんか、寝付けねーな)
一日目は慣れないことだし、緊張してただろうと割りきった違和感。
しかし、二日目には明らかにおかしかった。こんなに眠いのに、瞼が落ちない。
しかたなく、彼女を倣って雨月の枕を抱き寄せる。
(……こんな感じだったのか、あいつ)
途端、鼻腔から安らぎに似た何かが流れ込んできて。
浅い眠りではあったが寝付くことができた。
この時は実習から戻ってきた彼女も、
『夕御飯、いつも通りに作っても美味しくなくてびっくりしちゃった。調理実習はちゃんとできたし、味がわからないわけじゃないんだけど…』
と言ってた。
お互いに依存性が移ったらしい。
「慣れは怖いな」
『本当。もう真君は調味料だね。美味しくなる魔法のスパイス』
「お前はじゃあ眠り薬か?」
『私的に真君は子守唄』
どっちも愛がなきゃ効き目がない魔法だけどね。
わりと軽くなってるように見えて悪化してる依存性を、そう言って笑う雨月が可愛すぎて苛立ったから。
「そうかよ。せいぜい死なないよう愛しててくれ」
似合わない台詞を吐いて、強く抱き寄せた。
勿論。と、抱き締め返されたのがまた悔しかったからキスもしておいた。
.
そんな大学生活を終えて。
社会人三年目。
「なんかさ、もう本当お前らのお陰で人生観変わったわ」
「…………俺からすればお前らの変わり様が怖い」
「何でだろうね。でも、高校生の時の反動かな」
「他人の不幸は確かにそそられるが、身内の幸福もいいものだって思わされたな」
俺はIT企業での企画開発部へ、雨月は病院の管理栄養士にそれぞれ就職した。
古橋はガーデニングからブーケまで扱う造園業に、山崎は旅行会社の営業に、原は大学を中退して美容師に、瀬戸は貴金属の輸入販売に。
納得できるようなできないような職業へ就いていた。
「これだけ揃うと俺らで企画しようと思うよな」
「っていうかしたいんだけど、依頼してくんないかな」
「結婚式の諸々」
「…大々的にやるつもりはねぇんだが」
「いいんだよ、綺麗な花束と綺麗な指輪と絶好のロケーションを、綺麗な花嫁と一緒に花宮に送りたいだけだから」
「ドレスは俺の店でレンタルも買い取りもできるよん」
「教会は俺のとこが紹介できるな。なんなら新婚旅行もプランたてるし」
「ブーケと教会の飾り付けは俺だな」
「俺のとこからは指輪しか出せないけど、できる限り好みのもの探すよ」
ここまで後押しされたら、もうやらない訳にはいかなかったし、彼女の喜び顔が目に浮かんだ。
「そういうわけだ。次の誕生日プレゼントで、やっと本物の指輪が渡せる」
『今までのアクセサリーだって本物だったじゃない』
「まあな。どれにも意味はあったが…これは特別だろ」
19歳の誕生日に、渡したエンゲージリング。
“結婚してんのにエンゲージってのも変だが…マリッジリングは妥協したくねぇからな。それまでの虫除けだ”
照れ隠しが大半を占める台詞とともに渡したのに、彼女はペアリングであることも含めて大層喜んだ。
「大分前から家族になっていたつもりだったが…これをわたすとなると、夫になるんだと思うな。これからも、妻でいてくれるか?」
『…っ、勿論』
今回はもっと喜んでいたし、実際にドレスを着たら泣き出す有り様だった。
「ちょ、折角メイクしたのに花宮に御披露目して1分ももたなかったんだけど」
『だってぇ…真君格好良かったし、綺麗だって言ってくれたから』
「お前が綺麗な格好するのは、俺の為に1回だけっていってたからな。そりゃ特別だろ。本当に綺麗だ」
『うぅ、真君だって格好いいからぁっ』
「頼むからそれ以上泣かさないで、のろけないで」
式はとてもシンプルだ。
とっくに入籍してる俺達は、仕事の上司だとかを呼ぶ必要もなく。
俺の母さんと、雨月のばあさんだけ。霧崎のやつらは客人じゃなくてスタッフとして出席してる。
牧師もいらないし、ケーキの入刀もいらない。
ただ二人で誓い合って、指輪を交換して、謝辞を述べて、写真を撮って、会食をした。
それだけだ。
それでも、誰もが幸せそうだった。
俺も、幸せだった。
「雨月、一生傍にいる」
『…うん。私も、一生離れない』
俺達はずっと、お互いがなければ生きていけない。
END
あとがき
花と蝶、完結いたします。
長らくありがとうございました。
小さな世界で、お互いを愛し、守ろうとした花と蝶のお話しでした。
終章いらなかったかな、とも思いますが、結婚式させたかったのと、霧崎巻き込みたかったので書かせて頂きました。
今一度、お付き合い頂いた皆さまに愛をこめて。ありがとうございました。
ひとりごと
花と蝶のヒロインモデルとなった彼女へ
君になかった未来と、君になかった過去の幸せを想って書きました。
ただ、形は違えど、君を愛した人がいたこと。君を守ろうとした人がいたこと、覚えていて欲しかった。
きっと、これからも君を想うでしょう。
君に、訪れない幸せを捧げて。
雨月
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