花と蝶
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《高3秋 移受》
俺達の夏は終わった。
一応決勝も見に行ったりしたが、誰も後悔を述べることはしない。
「また洛山優勝か」
「海常が決勝に来るとは思わなかったな」
「それは陽泉のキセキが怪我してたからでしょ?」
「桐皇も洛山には叶わないしな」
「それでも3位だね」
口々に感想を言って解散。
打上とか、退会式みたいなのは形だけして、さっさと受験体制になるのが霧崎第一だ。
それでも、
「昼休みになると集まっちゃうよねー」
「考えることは一緒か」
「部室使えないなら裏庭、って思ったら勢揃いだな」
「まさか花宮もいるとは思わなかった」
「いちゃ悪いか」
「むしろ羽影さんがいることに驚いてる」
『えへへ、クラスの友達も部活の人とか彼氏とご飯食べ出したから…ついて来ちゃった』
「大歓迎」
昼食を食べながら雑談して、余った時間に少し勉強。
大体俺と瀬戸が教える側だが、分野によってはその他も教え合いをしている。
「花宮が勉強してるとこ見ないよな」
「確かに提出用の課題と…参考書読むくらいしか見ないね」
「それで十分だろ」
「うわぁ…世の中のイイコチャンが泣くわ」
「ふはっ、ざまぁ」
「いい性格してるよね、本当」
雨月はこんなやり取りを楽しそうに笑いながら眺めていた。
時折相槌をうち、会話に混ざり、やっぱり笑っている。
こうやって、同じ学校に通う夏が最後だと思うと、青春してる奴らの気持ちがほんの少し解る気がした。
そんなことをしているうちに夏休みになった。
とは言っても、補習だとか特別講座だとか、なんだかんだ言って半分以上は登校しなければいけない。
普段と変わらず授業を受けて、昼休みを経て、また授業をして帰る。
そのうち、雨月の推薦入試の日がやって来た。
『真君…どうしよ、大丈夫かな…』
「余裕だろ。模試もA判定だし、論文はお前の得意分野だ。雨月が落ちたら誰も受からねぇよ」
『でも…』
「大丈夫だ。俺が試験対策したのに、落ちるとか有り得ねぇ」
『…、そうだね。うん、大丈夫』
不安そうな雨月を会場まで送り届ける。
俺の入試の日は雨月が途中まで着いてきたが、
『なんか、赤門ってだけでプレッシャーが…』
と、後退り。
俺も嫌な予感がして、家で待ってろと伝えて帰した。
その数分後、
「やっぱ居ると思ったわ。久しぶりやな、花宮」
「……」
「え、無視?先輩傷付くわぁ」
「解りますよね、これから受験なんです、気が散ります、消えてください」
「そう邪険にせんでもええやん、余裕なんやろ?参考書もメモも見てないの花宮くらいやで」
「…今更詰め込むようなものもないんで」
「はは、敵わんな。ほな、春に待ってるわ」
受付案内に今吉さん…いや妖怪がいて。
あいつを帰らせて本当によかったと思った。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
それから暫くたって。
『合格だって!』
「よかったな。じゃあ、いくぞ」
『え?どこに』
「新居探し」
雨月の合格とともに、二人で暮らす部屋を探す。
奨学金とバイトだけで暮らすつもりだから、家賃は重要だ。
でも、彼女と暮らすうえで治安や立地も捨てられない。
何件も回るが、これといって決められずにいる。
(家賃の幅広げるか…部屋数変えるか…)
そこで目に留まったのが、小さな一軒家。
(は?借家にしては安いな。…賃貸もできるし買い取りもできんのか。間取…家族用にしちゃ部屋数が少ないが…夫婦用?)
住宅やマンションの並ぶベッドタウンの外れに、こじんまりと立っているらしい。
1階はリビングダイニングキッチンと風呂など水回り。ダイニングキッチンがやたら広い。
2階が2部屋と収納。
2LDKで部屋も狭くない。
アパートよりは若干高いが、やはり一軒家だとしたらかなり安い。
「…」
『この家可愛いね!駅との間にスーパーもある。…あ、でも予算オーバー……可愛いなぁ』
「住みたいか?」
『実物はみたい。でも、住みたいかは…』
「行ってみる価値あんなら行くべきだ」
考えていた俺の横で、彼女の目が輝いたのを見た。
彼女にとって、家も部屋も、家族が集まるべき、帰るべき場所という概念があるのはわかっている。
彼女には告げていないが、卒業後に引っ越さなくてもいい場所があれば、そこにこしたことはない。
思い出は場所にだって由来する。家がなくなるなんて思いは、何度もする必要ない。
「…外見より広く見えるな」
『天井高いからかな?キッチン広いね!』
不動産に連絡して、家を見に行くことにした。
それで、諸々安い理由を把握する。
(元々…喫茶店かなんかだったのか)
高い天井の洒落た照明や、飾り棚、レースのカーテンはその名残だろう。
彼女が言うように広目のキッチンは、キッチンカウンターになっていて調理台を挟んで向かい合える。
風呂場はもともと離れだったのを、洗面所を広目にして繋げたというところ。
2階の2部屋は、住宅兼店だったのだろうか。
『うわ、お風呂もトイレも綺麗。え、階段にドアがある!』
「2階が住宅だからだろうな。客から見えないようにしたんだろ」
『どういうこと?』
喫茶店の下りを彼女に話せば、案内しているスタッフが"よくわかりましたね"と笑った。
「ここは、老夫婦が営んでいた喫茶店を少し改修したものです。もっとも、床の石畳をフローリングにしたくらいですけどね。旦那様が亡くなられて婦人も施設に入ることになったので、自分達と同じように仲のよい夫婦に使って欲しい、と売りに出したそうです」
『そんなお話があるんですね…』
ここで睦まじく暮らしていた夫婦を想像したのだろう。雨月は俺の手を握りしめながら、熱っぽくキッチンを見つめている。
.
「……ここ、賃貸契約から買収ってできますか?」
「はい、可能ですよ」
「雨月、ここで暮らしたいか?」
『……うん』
「ここにします。来年の…3月目安で」
そういうと、スタッフはニッコリと微笑んだ。
「お客様達のような仲の良い若いカップルに選んで頂けてよかったです。この家を、よろしくお願いします」
「…家主と知り合いなんですか?」
「家主は私の叔母です。叔母夫婦は子供に恵まれなかったので…とても可愛がってもらいました」
「そうでしたか」
「ふふ、それなりに曲がった人生を歩くと、人柄は会った時にわかります。貴方方も中々困難な道を歩いてるのでしょうね。どうぞ、お幸せに」
家賃、予算額まで引き下げておきますね。
と、スタッフは柔和に笑った。
『ここに、住むんだね』
雨月も、まだ夢みたいな顔をしているが、幸せそうな顔をしていた。
(ねえ、買収って…)
(本気。でも、就職してからだな)
「え!マジで部屋プレゼントしたの?」
『部屋…というか、家』
「い…え…」
「もーさー、花宮の愛が深すぎて怖い」
「何が怖いって?」
夏休みも明けて、再び集まった裏庭。
「花宮のツンデレっぷりと溺愛っぷりと実行力?」
「どこがツンデレだよ」
「訂正したいとこと疑問点はそこだけなんだね」
思い思いの弁当を食べながらの雑談は、夏休みの思い出に傾いてるらしい。
「結局花宮と羽影さん以外はセンター試験受けるんだな」
「俺らも記念受験するぞ」
「嫌味か」
髪を染め直したくないとか、対策が面倒臭いとかで他のメンバーは推薦を受けないらしい。
「実際内申よくないから実力勝負になるのは仕方ないんだよね」
「学力は平均以上でも、高校自体が偏差値高いもん、不利だよねー」
「……てか、記念受験確定ってことは、花宮受かったのか?」
「当たり前だろ」
「もう驚かない。ハーバードとかケンブリッジとかきても驚かない」
酷い言われようだが、受かったんだからしょうがない。
「というわけで、俺らまだ受験生だから。フォローUPよろしくねん」
「任せとけ…なわけねぇだろバカ。そこまで面倒見れるか」
「えーいいじゃん」
「お前なら赤本5回くらいループすればどうにかなんだろ」
「馬鹿にしてんの?」
『まあまあ、たまには一緒に勉強会しよ?ね?』
雨月がなだめに入って収束したが、こいつらなりに受験はピリピリしてるらしい。
「……そうだな」
(部活なくなってもマネはマネだね)
(まったくだ)
(花宮を止めるのも俺らを動かすのも、彼女の役割だからな)
Fin.
俺達の夏は終わった。
一応決勝も見に行ったりしたが、誰も後悔を述べることはしない。
「また洛山優勝か」
「海常が決勝に来るとは思わなかったな」
「それは陽泉のキセキが怪我してたからでしょ?」
「桐皇も洛山には叶わないしな」
「それでも3位だね」
口々に感想を言って解散。
打上とか、退会式みたいなのは形だけして、さっさと受験体制になるのが霧崎第一だ。
それでも、
「昼休みになると集まっちゃうよねー」
「考えることは一緒か」
「部室使えないなら裏庭、って思ったら勢揃いだな」
「まさか花宮もいるとは思わなかった」
「いちゃ悪いか」
「むしろ羽影さんがいることに驚いてる」
『えへへ、クラスの友達も部活の人とか彼氏とご飯食べ出したから…ついて来ちゃった』
「大歓迎」
昼食を食べながら雑談して、余った時間に少し勉強。
大体俺と瀬戸が教える側だが、分野によってはその他も教え合いをしている。
「花宮が勉強してるとこ見ないよな」
「確かに提出用の課題と…参考書読むくらいしか見ないね」
「それで十分だろ」
「うわぁ…世の中のイイコチャンが泣くわ」
「ふはっ、ざまぁ」
「いい性格してるよね、本当」
雨月はこんなやり取りを楽しそうに笑いながら眺めていた。
時折相槌をうち、会話に混ざり、やっぱり笑っている。
こうやって、同じ学校に通う夏が最後だと思うと、青春してる奴らの気持ちがほんの少し解る気がした。
そんなことをしているうちに夏休みになった。
とは言っても、補習だとか特別講座だとか、なんだかんだ言って半分以上は登校しなければいけない。
普段と変わらず授業を受けて、昼休みを経て、また授業をして帰る。
そのうち、雨月の推薦入試の日がやって来た。
『真君…どうしよ、大丈夫かな…』
「余裕だろ。模試もA判定だし、論文はお前の得意分野だ。雨月が落ちたら誰も受からねぇよ」
『でも…』
「大丈夫だ。俺が試験対策したのに、落ちるとか有り得ねぇ」
『…、そうだね。うん、大丈夫』
不安そうな雨月を会場まで送り届ける。
俺の入試の日は雨月が途中まで着いてきたが、
『なんか、赤門ってだけでプレッシャーが…』
と、後退り。
俺も嫌な予感がして、家で待ってろと伝えて帰した。
その数分後、
「やっぱ居ると思ったわ。久しぶりやな、花宮」
「……」
「え、無視?先輩傷付くわぁ」
「解りますよね、これから受験なんです、気が散ります、消えてください」
「そう邪険にせんでもええやん、余裕なんやろ?参考書もメモも見てないの花宮くらいやで」
「…今更詰め込むようなものもないんで」
「はは、敵わんな。ほな、春に待ってるわ」
受付案内に今吉さん…いや妖怪がいて。
あいつを帰らせて本当によかったと思った。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
それから暫くたって。
『合格だって!』
「よかったな。じゃあ、いくぞ」
『え?どこに』
「新居探し」
雨月の合格とともに、二人で暮らす部屋を探す。
奨学金とバイトだけで暮らすつもりだから、家賃は重要だ。
でも、彼女と暮らすうえで治安や立地も捨てられない。
何件も回るが、これといって決められずにいる。
(家賃の幅広げるか…部屋数変えるか…)
そこで目に留まったのが、小さな一軒家。
(は?借家にしては安いな。…賃貸もできるし買い取りもできんのか。間取…家族用にしちゃ部屋数が少ないが…夫婦用?)
住宅やマンションの並ぶベッドタウンの外れに、こじんまりと立っているらしい。
1階はリビングダイニングキッチンと風呂など水回り。ダイニングキッチンがやたら広い。
2階が2部屋と収納。
2LDKで部屋も狭くない。
アパートよりは若干高いが、やはり一軒家だとしたらかなり安い。
「…」
『この家可愛いね!駅との間にスーパーもある。…あ、でも予算オーバー……可愛いなぁ』
「住みたいか?」
『実物はみたい。でも、住みたいかは…』
「行ってみる価値あんなら行くべきだ」
考えていた俺の横で、彼女の目が輝いたのを見た。
彼女にとって、家も部屋も、家族が集まるべき、帰るべき場所という概念があるのはわかっている。
彼女には告げていないが、卒業後に引っ越さなくてもいい場所があれば、そこにこしたことはない。
思い出は場所にだって由来する。家がなくなるなんて思いは、何度もする必要ない。
「…外見より広く見えるな」
『天井高いからかな?キッチン広いね!』
不動産に連絡して、家を見に行くことにした。
それで、諸々安い理由を把握する。
(元々…喫茶店かなんかだったのか)
高い天井の洒落た照明や、飾り棚、レースのカーテンはその名残だろう。
彼女が言うように広目のキッチンは、キッチンカウンターになっていて調理台を挟んで向かい合える。
風呂場はもともと離れだったのを、洗面所を広目にして繋げたというところ。
2階の2部屋は、住宅兼店だったのだろうか。
『うわ、お風呂もトイレも綺麗。え、階段にドアがある!』
「2階が住宅だからだろうな。客から見えないようにしたんだろ」
『どういうこと?』
喫茶店の下りを彼女に話せば、案内しているスタッフが"よくわかりましたね"と笑った。
「ここは、老夫婦が営んでいた喫茶店を少し改修したものです。もっとも、床の石畳をフローリングにしたくらいですけどね。旦那様が亡くなられて婦人も施設に入ることになったので、自分達と同じように仲のよい夫婦に使って欲しい、と売りに出したそうです」
『そんなお話があるんですね…』
ここで睦まじく暮らしていた夫婦を想像したのだろう。雨月は俺の手を握りしめながら、熱っぽくキッチンを見つめている。
.
「……ここ、賃貸契約から買収ってできますか?」
「はい、可能ですよ」
「雨月、ここで暮らしたいか?」
『……うん』
「ここにします。来年の…3月目安で」
そういうと、スタッフはニッコリと微笑んだ。
「お客様達のような仲の良い若いカップルに選んで頂けてよかったです。この家を、よろしくお願いします」
「…家主と知り合いなんですか?」
「家主は私の叔母です。叔母夫婦は子供に恵まれなかったので…とても可愛がってもらいました」
「そうでしたか」
「ふふ、それなりに曲がった人生を歩くと、人柄は会った時にわかります。貴方方も中々困難な道を歩いてるのでしょうね。どうぞ、お幸せに」
家賃、予算額まで引き下げておきますね。
と、スタッフは柔和に笑った。
『ここに、住むんだね』
雨月も、まだ夢みたいな顔をしているが、幸せそうな顔をしていた。
(ねえ、買収って…)
(本気。でも、就職してからだな)
「え!マジで部屋プレゼントしたの?」
『部屋…というか、家』
「い…え…」
「もーさー、花宮の愛が深すぎて怖い」
「何が怖いって?」
夏休みも明けて、再び集まった裏庭。
「花宮のツンデレっぷりと溺愛っぷりと実行力?」
「どこがツンデレだよ」
「訂正したいとこと疑問点はそこだけなんだね」
思い思いの弁当を食べながらの雑談は、夏休みの思い出に傾いてるらしい。
「結局花宮と羽影さん以外はセンター試験受けるんだな」
「俺らも記念受験するぞ」
「嫌味か」
髪を染め直したくないとか、対策が面倒臭いとかで他のメンバーは推薦を受けないらしい。
「実際内申よくないから実力勝負になるのは仕方ないんだよね」
「学力は平均以上でも、高校自体が偏差値高いもん、不利だよねー」
「……てか、記念受験確定ってことは、花宮受かったのか?」
「当たり前だろ」
「もう驚かない。ハーバードとかケンブリッジとかきても驚かない」
酷い言われようだが、受かったんだからしょうがない。
「というわけで、俺らまだ受験生だから。フォローUPよろしくねん」
「任せとけ…なわけねぇだろバカ。そこまで面倒見れるか」
「えーいいじゃん」
「お前なら赤本5回くらいループすればどうにかなんだろ」
「馬鹿にしてんの?」
『まあまあ、たまには一緒に勉強会しよ?ね?』
雨月がなだめに入って収束したが、こいつらなりに受験はピリピリしてるらしい。
「……そうだな」
(部活なくなってもマネはマネだね)
(まったくだ)
(花宮を止めるのも俺らを動かすのも、彼女の役割だからな)
Fin.