花と蝶
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《高3夏 思案》
会場は騒然とした。
誰も、霧崎第一という高校を応援していなかったし。
誰も、ウィンターカップ優勝校の誠凛が予選敗退なんて想像しなかったから。
(ざまあみろ)
誠凛だって、心のどこかでは勝って当然と思っていただろう。
今の間抜け面が証拠だ。
「残念だったなぁ?最後、チャンスだと思ったろ?火神がいればリバウンド取れねぇことはそうそうねぇからな」
「…てめぇっ!」
「おいおい、バスケで勝負したのに、なにが不満なんだよ。それに、お前らは"楽しんでこーぜ"だっけ?楽しめればいいんだろ。俺らも楽しめたし、いい試合だったんじゃねぇの?」
全部、全部伏線だった。
前半で誠凛に点を取らせたのも。
後半で接戦をしたのも。
チーム練習に慣れきった誠凛は、容易く蜘蛛の巣にかかるから、初めから点を取らせないこともできたのに。
敢えてしなかった。
ずっと同点を保って、わざとシュートを外すことで抱かせる小さな希望。
最初からずっと、こうやって終わるつもりだった。
勝てると思わせれば、あいつらをより悔しがらせられるし、希望が消えた瞬間から絶望だ。
「っ、今度はゼッテーうちが勝つからな!」
「ふはっ、俺は木吉より優しいから教えてやる。俺らとお前らは2度と対戦しない」
「は?だってウィンターカップが…」
「お前らみたいな普通校と一緒にするなよ」
「俺らの部活の引退は夏。どんなに成績がよくてもな」
「ウィンターカップに出る霧崎第一は新編成だ。3年生の俺らは誰もいない」
そう、そうやって悔しがればいい。
「霧崎第一って強豪だったよね?」
「やっぱり去年の誠凛はまぐれかなー」
「新設2年で優勝は出来すぎてるよね」
外野のガヤに抉られればいい。
「…花宮、インターハイ優勝しろよ」
それ以外に、ガヤに対抗する手段ねぇもんな?
「は?言われる筋合いはねぇよ。俺らは俺らのバスケをするだけだ」
これで、去年のリベンジは済んだ。
言った通り、誠凛を潰せた。
『ま、こと、くん』
「…勝った」
『うん、見てた。…インハイ出場、おめでとう』
「何言ってんだ。お前もいくんだろうが」
『わっ…!』
コートの外に立っていた雨月は、感極まるといった感じで。
微かに震えながら、嬉しそうな顔をしていたから。
その頭をくしゃりと撫でた。
「いーなー花宮、俺もナデナデする」
「俺も撫でたい」
『わ、わっ』
「原も古橋も相変わらず命知らずだな」
俺の手に次いで原と古橋の手が伸びてきて、頭や肩を撫でる。
「おい、汗臭い手で雨月に触んな」
「いや花宮も汗だくだし。つかそれは俺らより激しく匂い解るでしょ」
その手から避けさせようと自分の方へ彼女を引けば、無論抱き締めるような形になるわけで。
見下ろせば、真っ赤になりながら首を僅かに横に振っている。
「…まあ、続きは着替えてからにしよーぜ?」
ヤマと瀬戸の促しでとりあえずロッカールーム向かった。
.
「…本当に勝っちまったな」
「ね。てかほぼ対誠凛用の練習だったから、勝てなかったら報われないって」
そう。
誠凛がブロック戦に残ることを予想して、今までの練習を組んだ。
だから、
「今後については0から考えないといけないな」
「ああ。普通の奴らとあたるなら兎も角、キセキ獲得校と当たるとなると時間も技量も足りない」
インターハイ優勝、なんて端から考えていない。
「俺は別にいいよん。ボロクソ負けんのは嫌だけど、優勝までいかなくても」
「まあ、優勝出来れば嬉しいけど」
「俺達は同じ穴のムジナだからな」
「好きにやって勝てれば儲け物、負ければそれまでだ。そんなの、初めから皆覚悟してるよ」
「……雨月は」
プレーヤーの意見は解っていた。
ひねくれ者の集まりだ、信頼や友情で繋がってるわけじゃない。
自分勝手な意見がたまたま合致しただけ。
けど、こいつは違う。
『…うん、私も。目の前の試合、全力で楽しめればいい』
「ふはっ、本当イイコチャンだな、お前」
「なんかいい感じにまとめてくれたね」
「そう言われると悪童が一番青春してるように聞こえるな」
「確かに」
好き勝手に集まった俺達を柔らかい糸で縫い付けて、温かい殻で包んでいる。
(マネージャーにしてよかったな)
エゴだけで無理矢理入らせた部活だったが、自分にとっても部にとっても、いい存在だった。
(試合が全部終わったら、伝えてやろう)
バスケをするために、バスケと向き合えたのは、雨月がいたからだ。
「…ところで花宮、いつまでそうしてるつもり?」
「着替え難いんだが」
少しの間考え事をすれば、原と古橋から非難の声があがる。
"雨月は"と聞いた時に、後ろから引き寄せて、背中から抱き締めたまま。
ああ、まだ着替えてなかったか、と思い彼女を放せば。
『そ、外で待ってるね』
と、慌ただしく彼女は出ていった。
「…花宮変わったな」
「あ?」
「あんな優しい顔できんだね」
「猫被りとは違う表情だったぞ」
「、引退するときは、マネに皆でお礼言うからな」
「…うっせぇ。バァカ」
.
インターハイは余りにも出来すぎていた。
初戦も2戦目も、ある程度格差をつけて勝ち残っている。
「…え、ベスト8残っちゃったよ」
「羽影さんの幸運だろうか」
『皆の実力、でしょ』
「組分けに関してはラッキーとしかいえないけどね」
そう、準々決勝まで、キセキ獲得校と当たらなかった。
一方、
「キセキ同士も当たってないから、今回は激戦だな」
残った8校はキセキ獲得5校と、霧崎第一、帝光出身者がいる福田総合と、あまりみかけない名前の学校。
キセキ以外とあたるならいざ知らず、トーナメントの相手は…
「やっぱ勝ち抜いて来たか…桐皇」
「青峰相変わらず無双状態だね」
「一番相性悪いとことあたったな」
桐皇学園。
「…妖怪が卒業してんのが救いだな」
「花宮ほんと苦手だね」
『真君、ケータイ…』
「あ?…っ!?」
"可愛い後輩の試合、見に行くで"
「……」
「話を戻そう、どうする?」
青峰を筆頭に、個々の能力を重視したチーム。
チームワークを主にしない奴らの攻撃に、蜘蛛の巣は圧倒的に不利だ。
「青峰のフォームレスシュートのパターンを解剖するのは不可能に近いな。直感とセンスでプレイしてる奴に、思考したプレイではアジリティーで太刀打ちできない」
「青峰にパスがいかないようにすることはできても、あいつは自分で奪いとりにくるだろうしね」
「そうなると逃げ切れるスピードもマッチアップするパワーも霧崎にはねぇ。完全に青峰の独壇場だ」
「…打つ手なしか」
「じゃあここから本題だね?」
『どうやったら楽しいか、かな?』
「ふはっ、わかってるじゃねぇか」
きっと、後数回もないミーティング。##NAME2##も含めて頭を付き合わせて考えた。
「青峰を堕とす必要はないな。火神がこないと解った段階で、つまらないと思っているだろうから」
「寧ろ相手しないのが一番堪えるんじゃない?」
「だね。新しい4番は熱血過ぎて潰したい感あるけど?」
「まあな。それを踏まえて…"本気を出さない"が妥当か」
瀬戸が、何かに気づいたように笑った。
「向こうのマネージャーに気づかれないようにしないとね」
それを合図に、各々納得したらしい。
「…なるほどな」
「ちょっと賭けみたいで、花宮らしくないね」
「それがいいんだろ。リスキーなのが」
『…え?私だけ解ってないの?』
雨月以外は。
「羽影ちゃんはまた蜂蜜レモン作ってくれればそれでいいよん」
「ああ。諜報員より遥かにありがたい」
『…?うん…真君、後で説明してね?』
「帰ったらな」
どう足掻いても、次が最後の試合になるだろう。
だったら
(悪童は悪童らしく終わらねぇとな)
愉しんだもん勝ちだ。
Fin.
会場は騒然とした。
誰も、霧崎第一という高校を応援していなかったし。
誰も、ウィンターカップ優勝校の誠凛が予選敗退なんて想像しなかったから。
(ざまあみろ)
誠凛だって、心のどこかでは勝って当然と思っていただろう。
今の間抜け面が証拠だ。
「残念だったなぁ?最後、チャンスだと思ったろ?火神がいればリバウンド取れねぇことはそうそうねぇからな」
「…てめぇっ!」
「おいおい、バスケで勝負したのに、なにが不満なんだよ。それに、お前らは"楽しんでこーぜ"だっけ?楽しめればいいんだろ。俺らも楽しめたし、いい試合だったんじゃねぇの?」
全部、全部伏線だった。
前半で誠凛に点を取らせたのも。
後半で接戦をしたのも。
チーム練習に慣れきった誠凛は、容易く蜘蛛の巣にかかるから、初めから点を取らせないこともできたのに。
敢えてしなかった。
ずっと同点を保って、わざとシュートを外すことで抱かせる小さな希望。
最初からずっと、こうやって終わるつもりだった。
勝てると思わせれば、あいつらをより悔しがらせられるし、希望が消えた瞬間から絶望だ。
「っ、今度はゼッテーうちが勝つからな!」
「ふはっ、俺は木吉より優しいから教えてやる。俺らとお前らは2度と対戦しない」
「は?だってウィンターカップが…」
「お前らみたいな普通校と一緒にするなよ」
「俺らの部活の引退は夏。どんなに成績がよくてもな」
「ウィンターカップに出る霧崎第一は新編成だ。3年生の俺らは誰もいない」
そう、そうやって悔しがればいい。
「霧崎第一って強豪だったよね?」
「やっぱり去年の誠凛はまぐれかなー」
「新設2年で優勝は出来すぎてるよね」
外野のガヤに抉られればいい。
「…花宮、インターハイ優勝しろよ」
それ以外に、ガヤに対抗する手段ねぇもんな?
「は?言われる筋合いはねぇよ。俺らは俺らのバスケをするだけだ」
これで、去年のリベンジは済んだ。
言った通り、誠凛を潰せた。
『ま、こと、くん』
「…勝った」
『うん、見てた。…インハイ出場、おめでとう』
「何言ってんだ。お前もいくんだろうが」
『わっ…!』
コートの外に立っていた雨月は、感極まるといった感じで。
微かに震えながら、嬉しそうな顔をしていたから。
その頭をくしゃりと撫でた。
「いーなー花宮、俺もナデナデする」
「俺も撫でたい」
『わ、わっ』
「原も古橋も相変わらず命知らずだな」
俺の手に次いで原と古橋の手が伸びてきて、頭や肩を撫でる。
「おい、汗臭い手で雨月に触んな」
「いや花宮も汗だくだし。つかそれは俺らより激しく匂い解るでしょ」
その手から避けさせようと自分の方へ彼女を引けば、無論抱き締めるような形になるわけで。
見下ろせば、真っ赤になりながら首を僅かに横に振っている。
「…まあ、続きは着替えてからにしよーぜ?」
ヤマと瀬戸の促しでとりあえずロッカールーム向かった。
.
「…本当に勝っちまったな」
「ね。てかほぼ対誠凛用の練習だったから、勝てなかったら報われないって」
そう。
誠凛がブロック戦に残ることを予想して、今までの練習を組んだ。
だから、
「今後については0から考えないといけないな」
「ああ。普通の奴らとあたるなら兎も角、キセキ獲得校と当たるとなると時間も技量も足りない」
インターハイ優勝、なんて端から考えていない。
「俺は別にいいよん。ボロクソ負けんのは嫌だけど、優勝までいかなくても」
「まあ、優勝出来れば嬉しいけど」
「俺達は同じ穴のムジナだからな」
「好きにやって勝てれば儲け物、負ければそれまでだ。そんなの、初めから皆覚悟してるよ」
「……雨月は」
プレーヤーの意見は解っていた。
ひねくれ者の集まりだ、信頼や友情で繋がってるわけじゃない。
自分勝手な意見がたまたま合致しただけ。
けど、こいつは違う。
『…うん、私も。目の前の試合、全力で楽しめればいい』
「ふはっ、本当イイコチャンだな、お前」
「なんかいい感じにまとめてくれたね」
「そう言われると悪童が一番青春してるように聞こえるな」
「確かに」
好き勝手に集まった俺達を柔らかい糸で縫い付けて、温かい殻で包んでいる。
(マネージャーにしてよかったな)
エゴだけで無理矢理入らせた部活だったが、自分にとっても部にとっても、いい存在だった。
(試合が全部終わったら、伝えてやろう)
バスケをするために、バスケと向き合えたのは、雨月がいたからだ。
「…ところで花宮、いつまでそうしてるつもり?」
「着替え難いんだが」
少しの間考え事をすれば、原と古橋から非難の声があがる。
"雨月は"と聞いた時に、後ろから引き寄せて、背中から抱き締めたまま。
ああ、まだ着替えてなかったか、と思い彼女を放せば。
『そ、外で待ってるね』
と、慌ただしく彼女は出ていった。
「…花宮変わったな」
「あ?」
「あんな優しい顔できんだね」
「猫被りとは違う表情だったぞ」
「、引退するときは、マネに皆でお礼言うからな」
「…うっせぇ。バァカ」
.
インターハイは余りにも出来すぎていた。
初戦も2戦目も、ある程度格差をつけて勝ち残っている。
「…え、ベスト8残っちゃったよ」
「羽影さんの幸運だろうか」
『皆の実力、でしょ』
「組分けに関してはラッキーとしかいえないけどね」
そう、準々決勝まで、キセキ獲得校と当たらなかった。
一方、
「キセキ同士も当たってないから、今回は激戦だな」
残った8校はキセキ獲得5校と、霧崎第一、帝光出身者がいる福田総合と、あまりみかけない名前の学校。
キセキ以外とあたるならいざ知らず、トーナメントの相手は…
「やっぱ勝ち抜いて来たか…桐皇」
「青峰相変わらず無双状態だね」
「一番相性悪いとことあたったな」
桐皇学園。
「…妖怪が卒業してんのが救いだな」
「花宮ほんと苦手だね」
『真君、ケータイ…』
「あ?…っ!?」
"可愛い後輩の試合、見に行くで"
「……」
「話を戻そう、どうする?」
青峰を筆頭に、個々の能力を重視したチーム。
チームワークを主にしない奴らの攻撃に、蜘蛛の巣は圧倒的に不利だ。
「青峰のフォームレスシュートのパターンを解剖するのは不可能に近いな。直感とセンスでプレイしてる奴に、思考したプレイではアジリティーで太刀打ちできない」
「青峰にパスがいかないようにすることはできても、あいつは自分で奪いとりにくるだろうしね」
「そうなると逃げ切れるスピードもマッチアップするパワーも霧崎にはねぇ。完全に青峰の独壇場だ」
「…打つ手なしか」
「じゃあここから本題だね?」
『どうやったら楽しいか、かな?』
「ふはっ、わかってるじゃねぇか」
きっと、後数回もないミーティング。##NAME2##も含めて頭を付き合わせて考えた。
「青峰を堕とす必要はないな。火神がこないと解った段階で、つまらないと思っているだろうから」
「寧ろ相手しないのが一番堪えるんじゃない?」
「だね。新しい4番は熱血過ぎて潰したい感あるけど?」
「まあな。それを踏まえて…"本気を出さない"が妥当か」
瀬戸が、何かに気づいたように笑った。
「向こうのマネージャーに気づかれないようにしないとね」
それを合図に、各々納得したらしい。
「…なるほどな」
「ちょっと賭けみたいで、花宮らしくないね」
「それがいいんだろ。リスキーなのが」
『…え?私だけ解ってないの?』
雨月以外は。
「羽影ちゃんはまた蜂蜜レモン作ってくれればそれでいいよん」
「ああ。諜報員より遥かにありがたい」
『…?うん…真君、後で説明してね?』
「帰ったらな」
どう足掻いても、次が最後の試合になるだろう。
だったら
(悪童は悪童らしく終わらねぇとな)
愉しんだもん勝ちだ。
Fin.