花と蝶
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《高3夏 再戦》
「インターハイ、近づいてきたな」
「地区予選余裕だったから、手応えないけどね」
「これからのブロック戦だろ、楽しいのは」
「でも意外だなー。花宮からラフプレー禁止が出るなんて」
地区予選試合の帰り、部員達の会話。
「今までが今までだからな。そっちに警戒心がいってる今回なら…普通に攻めた方が意表をつけると思っただけだ。だし、警戒されてる以上やるにはリスクが高い」
「ふぅん?まあ、楽しきゃ何でもいいよ」
真君達はラフプレーをしなくなった。
いや、するまでもない相手と戦ってるというのもあったんだけど。
「こんなもん?バスケでかかってこいって言うからもっと楽しめる相手だと思ったのに」
「拍子抜けだな」
「去年負けたのも先輩の負傷が理由じゃなくて、お前らが弱かっただけだろ」
そこそこ渡り合える相手になってきたらなってきたで、この言いようだ。
寧ろ、ラフプレーをされなくても勝てないという悔しさを、相手チームが感じることを楽しんでいる。
それは、インターハイ出場をかけたブロック戦でも発揮された。
「やあ、久し振り」
「……花宮」
「会うならもっと後だと思ってたけど、組分けが変わったみたいだね」
「…」
「睨むなよ。WC優勝校がそう牙を剥く相手じゃないだろ?」
「……今回、木吉はいねぇぞ」
「知ってるよ。アイツは壊し損ねたが…去年言ったろ」
"絶対潰す"
「楽しみにしてるぜ?誠凛さん」
WC出場をかけて戦った誠凛との再戦。
向こうの主将とのやりとりは殺伐としていて、やはり敵意を向けられているのは明らかだ。
だからこそ
「あいつらWCで優勝して現時点のトップだ。そんな奴等が、実力差だけで負けた時の顔…見物だな」
「あっちは俺らを最低呼ばわりだもんね。チョー楽しみ」
「やる前から興奮するな」
「そう思うなら表情に出せよ古橋!わかんねぇから!」
彼らはこんなにも楽しそうに、Tip Offを待っているんだ。
.
「WCを経て、誠凛は成長している。潰そうと思ったら並の練習じゃねぇぞ」
「でも、潰すんでしょ?いいよ、別に」
「やられっぱなしはねーよ」
「最後くらい全国いってみたいしな」
彼らは半年の間、凄まじい練習をした。霧崎第一は進学校故に、全ての部活は夏で引退だから、実質これが最後の大会。
「背水の陣って、燃えるよね」
「火事場の馬鹿力じゃね?」
「いずれにせよ…」
こんなに興奮する舞台はねぇな。
ベンチを立って並んだ皆の背中は、今までになくかっこよかった。
第1Q
相変わらず瀬戸君は後半からで、真君、古橋君、原君、山崎君、松本君がコートに立つ。
速攻をしかける誠凛に、基本防戦。
第2Q
向こうの得点元は基本10番のダンクと4番のスリー。
誠凛リードの状態だ。
「っしゃ、スリー!」
「…スリーが撃てるのは、お前だけじゃない」
「な…」
ここで、古橋君が動く。
彼はこの期間で…というか、前から練習していて、最近完成したスリーを決めた。
「何回も決めさせるかよっ!…っ!?」
「流石にお前をフリーにはしねぇからな」
10番のスクリーンに山崎君、8番に松本君がついて古橋君のフォロー。
点差は縮んだものの、リードを奪えずに前半を終了した。
「古橋、スリーは後半っつったろ…対策とられるだろうが」
「すまない」
「まあ、あれ以上の点差はモチベーションに関わるからな。……いい判断だ」
「……見てて思ったけどさ、」
今までと決定的に違ったこと。瀬戸君が起きて試合を見ていた。
「変わってないね。新しいコースはないよ。11番の動きも想定通り」
「そうか。後半の得点は原と古橋。第4Qからは古橋はフェイクをかけて好きなとこ回せ」
「りょーかーい。向こうの眼鏡君どーする?」
「実渕の天地虚空を完全に修得してる可能性は捨てられねぇ。当たられるくらいならうたせとけ。もしくはボールを持たせるな」
瀬戸君が本腰をいれて誠凛の観察をしていたことで、真君だけが張っていた蜘蛛の巣が何重にもなっていく。
『みんな、蜂蜜レモンとクエン酸ドリンク』
「サンキュ!」
「料理できるマネージャーって貴重だよね」
『いや…蜂蜜レモンくらいなら多分誰でも…』
「…そうでもないぞ」
真君が見せてくれたのは、タッパーにレモンが3つ丸ごと蜂蜜に浮いている写真。
『え…なに、これ』
「今吉さんとこの蜂蜜レモン。今年もこれらしい」
「俺も見たけど衝撃すぎるよねww誠凛もそれらしいよww」
「…控え室見に行ってきていいか」
「やめろ」
うまー、とかいいながらレモンをかじる皆を見て、私も役に立ててるんだって嬉しくなった。
『真君、なんか、私まで楽しいよ』
「ふはっ!まだこれからだろ?」
よく見とけよ。
と、頭をくしゃりと撫でられた。
(ああ、やっぱり格好いい)
.
第3Q
瀬戸君がもうコート入りしている。
でも、蜘蛛の巣はまだ張られていない。古橋君のスリーを警戒して、リズムが少し変わったのを調製しているみたいだ。
「古橋と花宮ばっかマークしてていーのー?」
不意をついて原君が得点する。
彼の得意なダブルクラッチを織り交ぜることで、得点率はかなりいい。
「速攻!行け火神!」
誠凛が攻めに代わる。
「お前ら、切り札無しにそれは無謀だろ?」
「っ、スティール!」
「ふはっ、ラフプレーしないからってスティールまでしないわけないだろ、バアカ」
誠凛の影、11番はまだベンチにいた。まだ、というか、このQでスティールを生かす為に、前半でミスディレクションが切れるようにわざと接戦をしていたのだ。
11番の回復には時間がかかる。かといって、未完成なまま出てきても、WCの時に使った独断のパスは使えない。消えるドライブも、そのまま直接シュートしないと解っていれば脅威ではなかった。
「っし、おいついた!」
同点になったところで、第3Qは終了。
…誠凛side…
「蜘蛛の巣は予想通りだな。裏を掻いたつもりでも読まれているし、精度もスピードも上がってる」
「打開案としては、前回同様黒子君の独断専行。これに何か策を講じられてたら厄介ね。パワーも技術も負けてないけど、ボールを持てないと話にならない」
「仮に黒子を止められるとして、花宮くらいだろ」
「そうね。花宮が黒子君のマークに徹底してしまえば、蜘蛛の巣に綻びが出るはずよ」
……霧崎side……
「って、話になってるよな」
「俺はまだ11番には適応できない」
「あいつは俺が止める。瀬戸は今まで通り。お前ら、霧崎のココ、見せつけてやろうぜ?」
頭を人指し指でコツコツ、と突いた真君も、それに頷いた皆も、とても悪い笑顔だった。
第4Q
予想通り、11番の個人プレーが始まった。
暫く点を取ったり取られたりを繰り返しているうちに、真君が口角をつり上げる。
「…ふはっ、解剖完了。せいぜい悔しがれ」
.
誠凛のPGからのパスは4番に向かって放たれるが、そこには既に古橋君がカットに回っていた。
それを防ぐように、11番のルート変更でボールは10番へ向かう。
「っ!?」
「ヤマっ!」
真君は11番の独断パスをスティールすると、既に敵コート戻る山崎君へ投げた。
邪魔物がいないコートで彼は渾身のスリーを決める。
「あいつもかよ…」
「ってか、黒子のパスが読まれたってことか!?」
その後も、パスが通らなくなった誠凛から焦りが感じられる。
「ふはっ、味方も解らないパスなら読まれないとか、そんなわけねぇだろバアカ。パスを出す本人、黒子自身はどこに出すか把握してんだ。お前のパターンや思考を記憶すれば、いくらでもスティールできるんだよ」
「でも、それじゃあ本来の蜘蛛の巣は…」
「霧崎第一、っていう高校を舐めて欲しくないね」
「お前達のパスコースくらいなら、俺達だって読めるさ」
「!!」
彼らのしてきた"練習"の中には、相手チームの動きの記憶があった。
前回瀬戸君が行っていたパスコースの限定や、11番を通さない、あるいは意図的に通したパス回しの妨害。
それらは、他の全員ができるレベルに。
瀬戸君は前回の真君と同じレベルでコースを読むのが可能に。
真君は、相手チーム全員の癖や思考を記憶し、予測できるように。
進学校は伊達ではないし、真君の言う"類は友を呼ぶ"は頭脳における才にも及んでいた。
「お前らがどんな行動をしようが、前例があれば必ず止められる。…何重にもなった巣の上で、なぶり殺してやるよ」
「っ、スイッチ!」
「おいおい、言ったろ?止めるって」
再び攻撃に戻る誠凛PGから、後ろ手に真君はボールを奪った。
「あれは、伊月のイーグルスピア!?」
「鷲の目がないとできないんじゃ…」
真君は、誠凛PGのボールのは位置・傾きの癖を記憶を頼りに予想して、手を出しただけだ。
見えていたわけじゃない。
「目なんかなくても頭があればできんだよ…っ!」
そのままターンしてレイアップを決める。
「…本当にボールが回らねぇ…」
「それもですが…火神君がゾーンに入れていないなんて…」
(火神がゾーンに入ったら勝ち目ねぇからな)
(入らせない為の小細工は一応してんだよねー)
対策を講じたのは勿論真君だ。
ゾーンは、集中することで野生・本能を限界まで引き上げるもの。
「だったら集中させない。それに、あいつはもともと野生が強いからな。ラフプレーするフリか悪意を見せるだけで本能は回避か防御を選ぶ。前回があるからラフプレーには敏感になっているし、格下だと思っているなら本気を出すより温存を選ぶ筈だ。…無意識にな」
その策は功を奏していた。
実際、残り1分を切っても彼はゾーンに入れていない。
それにかけるしかない誠凛の焦燥に対して、
「お望み通りバスケでかかってやってんだから、真面目にやってよねー」
「真面目にやってこの樣なんだろ。言ってやるな」
ボルテージが上がり続ける真君達は、今までになく彼ららしく楽しんでいて。
58対58の同点、残り5秒で真君がボールを放る。
「なっ、その体勢から…ティアドロップ!?」
「無茶なっ」
「跳べ水戸部、火神!リバン!!」
そのボールはリングに弾かれたが、弾かれた先には既に瀬戸君の手があった。
「ふはっ、あれは端からシュートじゃねぇ」
瀬戸へのパスだ。
――ガタンッッ!!
ビーーーーーッ!
ボールがリングに押し込まれたのと、ブザービーターは同時だった。
「試合終了!58対60、勝者、霧崎第一高校!」
continue.
「インターハイ、近づいてきたな」
「地区予選余裕だったから、手応えないけどね」
「これからのブロック戦だろ、楽しいのは」
「でも意外だなー。花宮からラフプレー禁止が出るなんて」
地区予選試合の帰り、部員達の会話。
「今までが今までだからな。そっちに警戒心がいってる今回なら…普通に攻めた方が意表をつけると思っただけだ。だし、警戒されてる以上やるにはリスクが高い」
「ふぅん?まあ、楽しきゃ何でもいいよ」
真君達はラフプレーをしなくなった。
いや、するまでもない相手と戦ってるというのもあったんだけど。
「こんなもん?バスケでかかってこいって言うからもっと楽しめる相手だと思ったのに」
「拍子抜けだな」
「去年負けたのも先輩の負傷が理由じゃなくて、お前らが弱かっただけだろ」
そこそこ渡り合える相手になってきたらなってきたで、この言いようだ。
寧ろ、ラフプレーをされなくても勝てないという悔しさを、相手チームが感じることを楽しんでいる。
それは、インターハイ出場をかけたブロック戦でも発揮された。
「やあ、久し振り」
「……花宮」
「会うならもっと後だと思ってたけど、組分けが変わったみたいだね」
「…」
「睨むなよ。WC優勝校がそう牙を剥く相手じゃないだろ?」
「……今回、木吉はいねぇぞ」
「知ってるよ。アイツは壊し損ねたが…去年言ったろ」
"絶対潰す"
「楽しみにしてるぜ?誠凛さん」
WC出場をかけて戦った誠凛との再戦。
向こうの主将とのやりとりは殺伐としていて、やはり敵意を向けられているのは明らかだ。
だからこそ
「あいつらWCで優勝して現時点のトップだ。そんな奴等が、実力差だけで負けた時の顔…見物だな」
「あっちは俺らを最低呼ばわりだもんね。チョー楽しみ」
「やる前から興奮するな」
「そう思うなら表情に出せよ古橋!わかんねぇから!」
彼らはこんなにも楽しそうに、Tip Offを待っているんだ。
.
「WCを経て、誠凛は成長している。潰そうと思ったら並の練習じゃねぇぞ」
「でも、潰すんでしょ?いいよ、別に」
「やられっぱなしはねーよ」
「最後くらい全国いってみたいしな」
彼らは半年の間、凄まじい練習をした。霧崎第一は進学校故に、全ての部活は夏で引退だから、実質これが最後の大会。
「背水の陣って、燃えるよね」
「火事場の馬鹿力じゃね?」
「いずれにせよ…」
こんなに興奮する舞台はねぇな。
ベンチを立って並んだ皆の背中は、今までになくかっこよかった。
第1Q
相変わらず瀬戸君は後半からで、真君、古橋君、原君、山崎君、松本君がコートに立つ。
速攻をしかける誠凛に、基本防戦。
第2Q
向こうの得点元は基本10番のダンクと4番のスリー。
誠凛リードの状態だ。
「っしゃ、スリー!」
「…スリーが撃てるのは、お前だけじゃない」
「な…」
ここで、古橋君が動く。
彼はこの期間で…というか、前から練習していて、最近完成したスリーを決めた。
「何回も決めさせるかよっ!…っ!?」
「流石にお前をフリーにはしねぇからな」
10番のスクリーンに山崎君、8番に松本君がついて古橋君のフォロー。
点差は縮んだものの、リードを奪えずに前半を終了した。
「古橋、スリーは後半っつったろ…対策とられるだろうが」
「すまない」
「まあ、あれ以上の点差はモチベーションに関わるからな。……いい判断だ」
「……見てて思ったけどさ、」
今までと決定的に違ったこと。瀬戸君が起きて試合を見ていた。
「変わってないね。新しいコースはないよ。11番の動きも想定通り」
「そうか。後半の得点は原と古橋。第4Qからは古橋はフェイクをかけて好きなとこ回せ」
「りょーかーい。向こうの眼鏡君どーする?」
「実渕の天地虚空を完全に修得してる可能性は捨てられねぇ。当たられるくらいならうたせとけ。もしくはボールを持たせるな」
瀬戸君が本腰をいれて誠凛の観察をしていたことで、真君だけが張っていた蜘蛛の巣が何重にもなっていく。
『みんな、蜂蜜レモンとクエン酸ドリンク』
「サンキュ!」
「料理できるマネージャーって貴重だよね」
『いや…蜂蜜レモンくらいなら多分誰でも…』
「…そうでもないぞ」
真君が見せてくれたのは、タッパーにレモンが3つ丸ごと蜂蜜に浮いている写真。
『え…なに、これ』
「今吉さんとこの蜂蜜レモン。今年もこれらしい」
「俺も見たけど衝撃すぎるよねww誠凛もそれらしいよww」
「…控え室見に行ってきていいか」
「やめろ」
うまー、とかいいながらレモンをかじる皆を見て、私も役に立ててるんだって嬉しくなった。
『真君、なんか、私まで楽しいよ』
「ふはっ!まだこれからだろ?」
よく見とけよ。
と、頭をくしゃりと撫でられた。
(ああ、やっぱり格好いい)
.
第3Q
瀬戸君がもうコート入りしている。
でも、蜘蛛の巣はまだ張られていない。古橋君のスリーを警戒して、リズムが少し変わったのを調製しているみたいだ。
「古橋と花宮ばっかマークしてていーのー?」
不意をついて原君が得点する。
彼の得意なダブルクラッチを織り交ぜることで、得点率はかなりいい。
「速攻!行け火神!」
誠凛が攻めに代わる。
「お前ら、切り札無しにそれは無謀だろ?」
「っ、スティール!」
「ふはっ、ラフプレーしないからってスティールまでしないわけないだろ、バアカ」
誠凛の影、11番はまだベンチにいた。まだ、というか、このQでスティールを生かす為に、前半でミスディレクションが切れるようにわざと接戦をしていたのだ。
11番の回復には時間がかかる。かといって、未完成なまま出てきても、WCの時に使った独断のパスは使えない。消えるドライブも、そのまま直接シュートしないと解っていれば脅威ではなかった。
「っし、おいついた!」
同点になったところで、第3Qは終了。
…誠凛side…
「蜘蛛の巣は予想通りだな。裏を掻いたつもりでも読まれているし、精度もスピードも上がってる」
「打開案としては、前回同様黒子君の独断専行。これに何か策を講じられてたら厄介ね。パワーも技術も負けてないけど、ボールを持てないと話にならない」
「仮に黒子を止められるとして、花宮くらいだろ」
「そうね。花宮が黒子君のマークに徹底してしまえば、蜘蛛の巣に綻びが出るはずよ」
……霧崎side……
「って、話になってるよな」
「俺はまだ11番には適応できない」
「あいつは俺が止める。瀬戸は今まで通り。お前ら、霧崎のココ、見せつけてやろうぜ?」
頭を人指し指でコツコツ、と突いた真君も、それに頷いた皆も、とても悪い笑顔だった。
第4Q
予想通り、11番の個人プレーが始まった。
暫く点を取ったり取られたりを繰り返しているうちに、真君が口角をつり上げる。
「…ふはっ、解剖完了。せいぜい悔しがれ」
.
誠凛のPGからのパスは4番に向かって放たれるが、そこには既に古橋君がカットに回っていた。
それを防ぐように、11番のルート変更でボールは10番へ向かう。
「っ!?」
「ヤマっ!」
真君は11番の独断パスをスティールすると、既に敵コート戻る山崎君へ投げた。
邪魔物がいないコートで彼は渾身のスリーを決める。
「あいつもかよ…」
「ってか、黒子のパスが読まれたってことか!?」
その後も、パスが通らなくなった誠凛から焦りが感じられる。
「ふはっ、味方も解らないパスなら読まれないとか、そんなわけねぇだろバアカ。パスを出す本人、黒子自身はどこに出すか把握してんだ。お前のパターンや思考を記憶すれば、いくらでもスティールできるんだよ」
「でも、それじゃあ本来の蜘蛛の巣は…」
「霧崎第一、っていう高校を舐めて欲しくないね」
「お前達のパスコースくらいなら、俺達だって読めるさ」
「!!」
彼らのしてきた"練習"の中には、相手チームの動きの記憶があった。
前回瀬戸君が行っていたパスコースの限定や、11番を通さない、あるいは意図的に通したパス回しの妨害。
それらは、他の全員ができるレベルに。
瀬戸君は前回の真君と同じレベルでコースを読むのが可能に。
真君は、相手チーム全員の癖や思考を記憶し、予測できるように。
進学校は伊達ではないし、真君の言う"類は友を呼ぶ"は頭脳における才にも及んでいた。
「お前らがどんな行動をしようが、前例があれば必ず止められる。…何重にもなった巣の上で、なぶり殺してやるよ」
「っ、スイッチ!」
「おいおい、言ったろ?止めるって」
再び攻撃に戻る誠凛PGから、後ろ手に真君はボールを奪った。
「あれは、伊月のイーグルスピア!?」
「鷲の目がないとできないんじゃ…」
真君は、誠凛PGのボールのは位置・傾きの癖を記憶を頼りに予想して、手を出しただけだ。
見えていたわけじゃない。
「目なんかなくても頭があればできんだよ…っ!」
そのままターンしてレイアップを決める。
「…本当にボールが回らねぇ…」
「それもですが…火神君がゾーンに入れていないなんて…」
(火神がゾーンに入ったら勝ち目ねぇからな)
(入らせない為の小細工は一応してんだよねー)
対策を講じたのは勿論真君だ。
ゾーンは、集中することで野生・本能を限界まで引き上げるもの。
「だったら集中させない。それに、あいつはもともと野生が強いからな。ラフプレーするフリか悪意を見せるだけで本能は回避か防御を選ぶ。前回があるからラフプレーには敏感になっているし、格下だと思っているなら本気を出すより温存を選ぶ筈だ。…無意識にな」
その策は功を奏していた。
実際、残り1分を切っても彼はゾーンに入れていない。
それにかけるしかない誠凛の焦燥に対して、
「お望み通りバスケでかかってやってんだから、真面目にやってよねー」
「真面目にやってこの樣なんだろ。言ってやるな」
ボルテージが上がり続ける真君達は、今までになく彼ららしく楽しんでいて。
58対58の同点、残り5秒で真君がボールを放る。
「なっ、その体勢から…ティアドロップ!?」
「無茶なっ」
「跳べ水戸部、火神!リバン!!」
そのボールはリングに弾かれたが、弾かれた先には既に瀬戸君の手があった。
「ふはっ、あれは端からシュートじゃねぇ」
瀬戸へのパスだ。
――ガタンッッ!!
ビーーーーーッ!
ボールがリングに押し込まれたのと、ブザービーターは同時だった。
「試合終了!58対60、勝者、霧崎第一高校!」
continue.