花と蝶
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《高3春 転変》
再び4月はやって来て、高校3年生になった。
今回もクラス替えはないが、講座が組み替えられて、雨月と同じ講座は一つもない。
それはまあ、仕方のないことで済ませられる。
進学校で理系と文系なのだ、一緒になることはまずないし。
むしろ、それに伴った進路についての問題の方がよっぽど厄介だ。
『どうしよう…』
「旧帝大は厳しいがmarchとか地方国立は狙えるだろ」
『そうだけど…真君は決まってる?』
「T大」
『だよね…しかも絶対受かるよね』
「妖怪がいるのは気に入らないがな」
『ああ…』
彼女も勉強ができない訳ではないが、俺と比べれば劣る。旧帝国大学と呼ばれる7校には恐らく届かないだろう。
私立難関ならまだ科目を限定できるから可能性はあるが、伸び代を考えても安全圏は精々march5校か、地方国公立。
そうなると、俺と同じ大学、というのは彼女が奇跡を起こすか浪人する、あるいは俺がランクを落とすとなる。
浪人のリスクは負いたくないが、俺にランクを落とさせるのはもっと嫌だと悩みあぐねているのだ。
「ってか、大学同じでも文系と理系ならキャンパス違うとこも多いだろ」
『あ…そっか…』
「講座もどうせ違うし、高校みたいにはいかねぇんだから、お前も自分の行きたいとことか、したいことで選べよ」
『でも…あんまり離れてると…その…』
「言いたいことは解る」
お互い、離れて暮らさなければならないような進学先は選べない。
選びたくない。
内容がどうのこうのより、立地で探さなければならないのだ。
となれば、
『やっぱり都内重視で』
「出ても京浜線周囲か」
『だね』
地方国立という手段は絶たれる。
「そもそも、行きたい学部とか学科決まってんのか?」
『はっきりは決まってないけど…就職活動しやすいとこかな』
「文系だときつくないか?」
『まあね。でも、2類文系の講座とってるから、2類理系なら理転できるし。栄養学とか、スポーツ養護とか…真君の役にもたてそうだから、そういう方にいこうかなって』
「…お前自身が学びたいことはないのか?」
『え?今言ったよ?あとは…看護とかもいいかなって思ったけど、看護師さんになると真君に温かいご飯出すの難しくなりそうだからさ』
「あっそ…」
彼女は揺るぎない。
確かに、高校を卒業してもお互いに一緒に暮らすつもりでいる。
それが、何も言わなくても未来永劫変わらないと思っている彼女の発言は…
(添い遂げてでもくれるつもりなんだろうな)
下手なプロポーズよりも、身構えていないだけ恥ずかしかった。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
「花宮はT大狙いだよね?」
「あ?そうだけど?」
「マジか。今年からあるっていう推薦受けんの?」
「そのつもりだ」
部員の間にも進路の話は沸き上がる。
瀬戸は私立最高峰、古橋は都立、原とヤマはmarch希望。
最初に古橋が茶大っつった時はボケかガチか解らなくて時が止まった。「冗談だ」と言ったが、真顔で冗談言われても困る。
因みに茶大は女子大だ。
「ふぅん。まあでも花宮なら受かっちゃうんだろうね」
「羽影さんはどうするんだ?」
「…ここ」
「ん?家政メインのとこだっけ?栄養とかに関したらトップだけど、あの子ならもっと上にいけるっしょ?」
「…まあ、立地じゃないかな?」
「ああ」
彼女が選んだ学校は、キャンパスこそ小さいが、俺の目指す場所とそう変わらない立地で。
原のいう通り、家政学に関しては全国屈指だ。
しかも、卒業する頃に取れる資格も多い上に、成績優秀者は基本学費の免除という制度もある。
彼女にとって好都合でしかない。
「じゃあ、卒業したら同棲すんの?」
「…」
「考えてなかった、ってわけじゃなさそうだね。言い出すタイミング?」
「…うっせぇ」
「出たよ花宮のうっせぇ。図星か」
「いいじゃん、マネ、もうじき誕生日だろ?アパートでも押さえてそれプレゼントしたら?どうせまた悩むんだし」
「また?」
「ホワイトデーにガチ悩み」
「花宮www」
「テメェら…そんなに外周増やされてぇか」
「マジ勘弁。今部活終わったとこじゃん」
しかし、進路の話はそう続かない。
話は彼女に逸れて、結局からかわれて終わる。
でも
(その手もあったな)
彼女の誕生日。
悩んでいたのは事実だ。
「…花宮、本当にやるつもりか?一緒に選びに行くのも楽しみだろ?」
「それなんて新婚」
「流石にまだ借りられなくない?アクセとか小物にしときなよ」
「なんでお前らまで誕プレ考えてんだよ」
「まで、ってことは考えてたんだ」
「…」
うっせぇ、といいかけて飲み込んだ。
それを察したらしい瀬戸が小さく笑う。
「花宮は今まで羽影に何渡してたんだ?」
「特に何も」
「え!?」
「俺の親が何かしら文房具渡してたが、俺からは渡してない。欲しがるもんもわかんねぇし」
「………ないわぁ」
「あ?」
「羽影ちゃん毎年あんなに悩んでたのに、花宮それかよ」
「毎年ってなんだおい」
そこで、俺の誕生日に、あいつが色々苦心していたのを知った。
「……」
「今年はちゃんと考えてあげなよー」
「…ん」
(どうしよう、花宮が素直で怖い)
(言うな、聞かれた後のが怖い)
(なんか言ったか?)
((いえ何も))
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
そうやって色々と悩みを抱えながら過ごしているのに。
唐突に面倒な問題が舞い込んでくるのだから頭が痛い。
俺は今、放心状態の雨月とソファに並んでいる。
『…真君、これ、現実?』
「……ああ」
お互いの家に届いた、役所からの通知。
俺と雨月の家は、元々建て売りの公営住宅だ。
それが、今年度で期限が切れるらしい。
しかも、新しく建て直しをして公営の団地、というかアパートの様なものを建てる計画があると。
要するに、今年度中に引っ越せと言われているのだ。
勿論、引越費用の助成や、新しく建つアパートへの優先的な入居なんかの制度はある。
でも、この家が無くなるという事実は変わらない。
外観で懐かしむことすら出来なくなる。
それだけでもショックだったろうに。
それを受けた彼女の父の反応は、殊更にその傷を抉った。
「好きにしろ。会社の都合で赴任先が海外になった。日本に戻る予定はない」
そう、メールで綴られているだけ。
いつからなのかも解らなければ、行き先も本当に"海外"としか書いてないし、一緒に行くかとも聞いていない。
好きなように、というのも自由にしていいというよりどうでもいいというニュアンスだ。
彼女を体調や進路について心配する言葉もない。
『……』
「……」
俺の母も出張が続いているが、
「実家の近くに落ち着きそうだから、こっちにくる?それか、進学先の近くに部屋を借りるでもいいよ。長期休みはお祖母ちゃん家に集まろっか」
なんて電話を寄越した。
それを知っているが為に、雨月の落ち込み様は酷い。
『…あの人にとって、私は家族じゃないんだね』
「……」
『わかってた…。一緒に来るか、って言われる歳じゃないのかもとも思う。…でもさ…』
やっと言葉を紡ぐ彼女は、液晶画面から目を逸らした。
『まだ…お父さんだと思っていたかったな』
「……」
ぎゅっと、握りこぶしを作る彼女の手を、自分の手で覆う。
彼女はこぶしを解いて、指を絡めた。
『まこと君はさ、急に置いてったりしないでね』
瞬きをした彼女の目から、水滴が溢れる。
それを指で拭い、頭を撫でた。
「どこ行くにしても、置いてく訳ねぇだろ。引き摺ってでも連れてくからな」
彼女の目から再び水が溢れた。
しかし、下がる眉尻とは裏腹に嬉しそうに口角を上げて。
『ありがとう。…どこでも、ついてくよ』
恥ずかしそうに笑ったのだった。
(部屋、本当にプレゼントしてやろう)
Fin.
再び4月はやって来て、高校3年生になった。
今回もクラス替えはないが、講座が組み替えられて、雨月と同じ講座は一つもない。
それはまあ、仕方のないことで済ませられる。
進学校で理系と文系なのだ、一緒になることはまずないし。
むしろ、それに伴った進路についての問題の方がよっぽど厄介だ。
『どうしよう…』
「旧帝大は厳しいがmarchとか地方国立は狙えるだろ」
『そうだけど…真君は決まってる?』
「T大」
『だよね…しかも絶対受かるよね』
「妖怪がいるのは気に入らないがな」
『ああ…』
彼女も勉強ができない訳ではないが、俺と比べれば劣る。旧帝国大学と呼ばれる7校には恐らく届かないだろう。
私立難関ならまだ科目を限定できるから可能性はあるが、伸び代を考えても安全圏は精々march5校か、地方国公立。
そうなると、俺と同じ大学、というのは彼女が奇跡を起こすか浪人する、あるいは俺がランクを落とすとなる。
浪人のリスクは負いたくないが、俺にランクを落とさせるのはもっと嫌だと悩みあぐねているのだ。
「ってか、大学同じでも文系と理系ならキャンパス違うとこも多いだろ」
『あ…そっか…』
「講座もどうせ違うし、高校みたいにはいかねぇんだから、お前も自分の行きたいとことか、したいことで選べよ」
『でも…あんまり離れてると…その…』
「言いたいことは解る」
お互い、離れて暮らさなければならないような進学先は選べない。
選びたくない。
内容がどうのこうのより、立地で探さなければならないのだ。
となれば、
『やっぱり都内重視で』
「出ても京浜線周囲か」
『だね』
地方国立という手段は絶たれる。
「そもそも、行きたい学部とか学科決まってんのか?」
『はっきりは決まってないけど…就職活動しやすいとこかな』
「文系だときつくないか?」
『まあね。でも、2類文系の講座とってるから、2類理系なら理転できるし。栄養学とか、スポーツ養護とか…真君の役にもたてそうだから、そういう方にいこうかなって』
「…お前自身が学びたいことはないのか?」
『え?今言ったよ?あとは…看護とかもいいかなって思ったけど、看護師さんになると真君に温かいご飯出すの難しくなりそうだからさ』
「あっそ…」
彼女は揺るぎない。
確かに、高校を卒業してもお互いに一緒に暮らすつもりでいる。
それが、何も言わなくても未来永劫変わらないと思っている彼女の発言は…
(添い遂げてでもくれるつもりなんだろうな)
下手なプロポーズよりも、身構えていないだけ恥ずかしかった。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
「花宮はT大狙いだよね?」
「あ?そうだけど?」
「マジか。今年からあるっていう推薦受けんの?」
「そのつもりだ」
部員の間にも進路の話は沸き上がる。
瀬戸は私立最高峰、古橋は都立、原とヤマはmarch希望。
最初に古橋が茶大っつった時はボケかガチか解らなくて時が止まった。「冗談だ」と言ったが、真顔で冗談言われても困る。
因みに茶大は女子大だ。
「ふぅん。まあでも花宮なら受かっちゃうんだろうね」
「羽影さんはどうするんだ?」
「…ここ」
「ん?家政メインのとこだっけ?栄養とかに関したらトップだけど、あの子ならもっと上にいけるっしょ?」
「…まあ、立地じゃないかな?」
「ああ」
彼女が選んだ学校は、キャンパスこそ小さいが、俺の目指す場所とそう変わらない立地で。
原のいう通り、家政学に関しては全国屈指だ。
しかも、卒業する頃に取れる資格も多い上に、成績優秀者は基本学費の免除という制度もある。
彼女にとって好都合でしかない。
「じゃあ、卒業したら同棲すんの?」
「…」
「考えてなかった、ってわけじゃなさそうだね。言い出すタイミング?」
「…うっせぇ」
「出たよ花宮のうっせぇ。図星か」
「いいじゃん、マネ、もうじき誕生日だろ?アパートでも押さえてそれプレゼントしたら?どうせまた悩むんだし」
「また?」
「ホワイトデーにガチ悩み」
「花宮www」
「テメェら…そんなに外周増やされてぇか」
「マジ勘弁。今部活終わったとこじゃん」
しかし、進路の話はそう続かない。
話は彼女に逸れて、結局からかわれて終わる。
でも
(その手もあったな)
彼女の誕生日。
悩んでいたのは事実だ。
「…花宮、本当にやるつもりか?一緒に選びに行くのも楽しみだろ?」
「それなんて新婚」
「流石にまだ借りられなくない?アクセとか小物にしときなよ」
「なんでお前らまで誕プレ考えてんだよ」
「まで、ってことは考えてたんだ」
「…」
うっせぇ、といいかけて飲み込んだ。
それを察したらしい瀬戸が小さく笑う。
「花宮は今まで羽影に何渡してたんだ?」
「特に何も」
「え!?」
「俺の親が何かしら文房具渡してたが、俺からは渡してない。欲しがるもんもわかんねぇし」
「………ないわぁ」
「あ?」
「羽影ちゃん毎年あんなに悩んでたのに、花宮それかよ」
「毎年ってなんだおい」
そこで、俺の誕生日に、あいつが色々苦心していたのを知った。
「……」
「今年はちゃんと考えてあげなよー」
「…ん」
(どうしよう、花宮が素直で怖い)
(言うな、聞かれた後のが怖い)
(なんか言ったか?)
((いえ何も))
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
そうやって色々と悩みを抱えながら過ごしているのに。
唐突に面倒な問題が舞い込んでくるのだから頭が痛い。
俺は今、放心状態の雨月とソファに並んでいる。
『…真君、これ、現実?』
「……ああ」
お互いの家に届いた、役所からの通知。
俺と雨月の家は、元々建て売りの公営住宅だ。
それが、今年度で期限が切れるらしい。
しかも、新しく建て直しをして公営の団地、というかアパートの様なものを建てる計画があると。
要するに、今年度中に引っ越せと言われているのだ。
勿論、引越費用の助成や、新しく建つアパートへの優先的な入居なんかの制度はある。
でも、この家が無くなるという事実は変わらない。
外観で懐かしむことすら出来なくなる。
それだけでもショックだったろうに。
それを受けた彼女の父の反応は、殊更にその傷を抉った。
「好きにしろ。会社の都合で赴任先が海外になった。日本に戻る予定はない」
そう、メールで綴られているだけ。
いつからなのかも解らなければ、行き先も本当に"海外"としか書いてないし、一緒に行くかとも聞いていない。
好きなように、というのも自由にしていいというよりどうでもいいというニュアンスだ。
彼女を体調や進路について心配する言葉もない。
『……』
「……」
俺の母も出張が続いているが、
「実家の近くに落ち着きそうだから、こっちにくる?それか、進学先の近くに部屋を借りるでもいいよ。長期休みはお祖母ちゃん家に集まろっか」
なんて電話を寄越した。
それを知っているが為に、雨月の落ち込み様は酷い。
『…あの人にとって、私は家族じゃないんだね』
「……」
『わかってた…。一緒に来るか、って言われる歳じゃないのかもとも思う。…でもさ…』
やっと言葉を紡ぐ彼女は、液晶画面から目を逸らした。
『まだ…お父さんだと思っていたかったな』
「……」
ぎゅっと、握りこぶしを作る彼女の手を、自分の手で覆う。
彼女はこぶしを解いて、指を絡めた。
『まこと君はさ、急に置いてったりしないでね』
瞬きをした彼女の目から、水滴が溢れる。
それを指で拭い、頭を撫でた。
「どこ行くにしても、置いてく訳ねぇだろ。引き摺ってでも連れてくからな」
彼女の目から再び水が溢れた。
しかし、下がる眉尻とは裏腹に嬉しそうに口角を上げて。
『ありがとう。…どこでも、ついてくよ』
恥ずかしそうに笑ったのだった。
(部屋、本当にプレゼントしてやろう)
Fin.