花と蝶
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《高2夏 再来》
今日は朝から怠かった。
本当は、数日前まであったテスト期間や地区大会の時から少しずつ疲弊していたのだけど。
(今日は、流石に無理かも…)
季節は夏、只でさえ気温に体力は奪われていて。
「帰りなさい」
1時間だけ休もうと立ち寄った保健室で計った熱が、38℃を越えていた。
そのため、養護教諭に追い出されて帰路をゆっくり歩いている。
家が見えるところまで来て、庭に車が止まったのが見えた。
(お父さんの車!)
せっかく帰ってきたのに、熱だして早退とか、怒られるかな…
久しぶりに会えることに喜ぶ半面、緊張して。
塀に身を隠すように様子を伺っていた。そしたら、
「いいんですか?お家にあがっちゃって」
「いいさ。娘は学校だし、今は独身だ」
あの、人の目を気にする父が、若い女の人を連れて車から降りてきた。
「でも、一人でこの家と庭を綺麗にしてるなんて。娘さん頑張ってるんじゃないですか?」
「…娘の話はしないでくれ。あいつに顔が似ていて気に食わん」
「前から言ってましたね、ご飯も作って待っててくれるのに」
「いらんお節介だ。質の悪い家庭料理など自己満足にすぎない」
「それ、女の敵ですよ?私は料理しないからいいですけど」
ガレージから出てきて、家の鍵を開けるまでに、そんなやりとりがされていた。
女の人は嬉しそうに、父の腕に腕を絡ませて家に入っていく。
(……)
帰れない。
帰る場所がない。
(……っ!)
体をすり抜ける寒気に、思わず崩れ落ちそうになった。
でも、制服のままここに居るわけにはいかない。かといって学校に戻るわけにもいかない。
いく所なんて、1つしかないのだ。
物音をたてないように真君の家に入る。
合鍵は持っているし、真君のお母さんは長期の出張。2年ほど地方都市に行くらしく、めったに帰ってこれないと言っていたから、そんなに気兼ねしなくてもいい。
(なんで、人の家に入れて …自分の家に入れないんだろ…)
気兼ねしなくていいのが、なんだか切なかった。
キッチンで手持ちの解熱剤を飲んで、2階へ上がる。
リビングでなく、真君の部屋にきた理由は。この部屋の方が休めると思ったから。
ベッドに上って、スカートがシワにならないよう座りこんだ。
(真君の、言う通りだったな)
"お前がどれだけ努力しようと、結果は一緒なんだよ"
あの時、そう言われて苦しかった。でも、その通りだ。
私がしたことは全て空回りで。私なんていらなくて。私なんか…
『…っ、う、うぅ』
制服の袖、染みになっちゃうかな…
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
「質の悪い家庭料理など自己満足にすぎない」
それは、これ以上ない衝撃だった。
(真君も、そう思ってるんだろうか)
地区大会の試合を見て、コートにいる"悪童"という真君を知ってしまった。
別に、それはコートの中だけだし、だから嫌だとかそういうんじゃない。
そうじゃないけど…
もし、真君は普通にご飯が食べれていて。
それを黙っていて、私を突き放すタイミングを伺っているとしたら。
(これだけ依存してる私が、突き放された時の顔はさぞ見ものだろうな…)
彼の好きな悔しがる顔ではないかもしれないけど、言い表せない絶望が顔に出るに違いない。
最近だって、練習来なくていいとか、簡単なご飯でいいとか…いらないと思われてるんじゃないか。
(…要らない?)
真君が、私をいらない。
お母さんも、お父さんも、私はいらなかった。
(ここにも、いちゃいけないんだ…)
日が傾いて来て、もうお父さんの車もない。
窓を渡って服を着替えて、再び真君の部屋に戻り、窓の鍵をしめてベッドのシワを整えた。
(ご飯の準備…)
しなくてもいいか。
ご飯は炊けてるし、冷凍されたおかずもたくさんある。
早く、早くここを離れたい。
哀しい思い出も思い出したくない。
彼の温もりが偽りだったなんて思いたくない。
何も、考えたくない。
玄関の鍵をしめて、合鍵をポストに放り込み、フラフラとあてもなく歩き出した。
***
「花宮、羽影ちゃん早退したんでしょ?」
「ああ。なんで知ってんだ?」
「午後の講座にいなかったから。あと、保健室の記録に名前があったし。熱めっちゃ出てたよ」
「…」
「花宮?」
「今日の練習は基礎練とミーティング。あとは自主練。最後のやつ鍵閉めろ』
眠れなくても、横になっているだけで大分楽になるはずだ。だが、イイコチャンなあいつだから、放っておけば飯とか普通に作るだろうし、そうはいっても眠れないままはよくない。
そう思って、いつもより随分早く部活を切り上げた。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
18時半、家に灯りがついていない。雨月の家も灯りはない。
玄関には鍵がかかっていてポストにはあいつの鍵。
(熱あんのに出掛けたのか、あの馬鹿)
しかも、いつもならある書き置きやメールの類いが見当たらない。
(どこいった…)
窓を渡って彼女の部屋に入れば、ハンガーに制服がかけてある。
灯りはないがこっちにいるのかと、階段を降りた。
(…んだよ、これ)
降りた先のリビングの机の上に、彼女がつけないだろうピアスが片方。
いつも綺麗に拭いてあるキッチンに、水飛沫のあと。
風呂場までいけば男物のワイシャツにバスタオルが2枚。
(本当、ろくなことしねぇな)
庭に、タイヤの跡がついているのを見て憶測をたてた。
憶測だが、きっと合っていて。あいつはそれを知ったに違いない。
「…チッ、クソが」
連れ戻そうと掛けた電話は、無機質な機械音声しか流れなかった。
あいつ、携帯の電源切ってやがる。
「っ、…たく、本当にどこにいんだ」
繋がらない携帯なんて意味がない。
彼女の行きそうな場所なんて知らないし、固執する場所があった記憶もない。
街を闇雲に走って探すより他なかった。
そうして夜の9時、やっと街の外れまできて、公園のベンチに座り込む女を見つけたのだ。
「雨月…っ!」
『…?ま、こ…くん?』
「んでこんなとこにいんだよ!携帯の電源切ってやがるし!」
『……だって、どこにいていいかわからなかった』
「はあ?」
『いらないなら要らないっていってくれれば、離れるのに…でも要らないって言われたくないから頑張ってたのに…なんでぇ…』
「落ち着け、とりあえず帰るぞ。熱あんだろ」
『っ、や、だ!帰るとこなんて、ない…真君だって、真君だって…いつかは、もしかしたらもう…私なんて要らなくなって……っ、や、だぁ…』
パニックを起こしている、のだろう。熱のせいでさらに拍車がかかっているのか、泣きじゃくる彼女は中学の時よりも幼く感じた。
それよりも、
「…なんで俺が出てくるんだよ」
『っ、だって、自己満足っていうから、ま…とくん、の言ってた通りだ…た』
てっきり、彼女の父親の話だと思っていたから。
どうにも話が見えないのだ。
連れて帰ろうにも埒が明かない。
だから、最初の時みたいに。
隣に座って手を重ねた
「…ゆっくり、順を追って話せ。……ここにいるから」
『う、…ぐす…』
声をひきつらせて、涙をポロポロと溢しながら彼女は話し出した。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
話を聞いていて、重ねた手に力が入るのが解ったし、いつの間にか繋ぎあって、その指をきつく絡めていた。
父親の発言も、行動も。
彼女にとってはショック以外の何ものでもない。
そしてそれが、何故か俺に繋がっている。
『だから、真君も、そう思ってたらどうしようって…私、わたし…突き放すなら、これ以上傷付かないうちに、早く』
「おい、なんでそうなるんだ。お前の努力があの野郎に届かないのは解ってたろうが。それに、俺が不味いもの我慢して食える質じゃねぇのも知ってるだろ」
『…わ、かんなく、なっちゃったの…私、怖いんだよ…真君に、要らないって言われるの。いつか、離れていくのが…だから、騙して楽しむなら、もう…』
「っ!お前、本当に馬鹿だな」
『…前にも、そんな風に言われた』
「あの時より更に馬鹿になってる」
今まで、気にしてないものだと思っていた。
自分のプレイスタイルで彼女の心にそんなヒビを入れているなんて、思っていなかったのだ。
『あの、真君が嫌いなんじゃない、そうじゃないけど…最近、練習来なくていいとか、ご飯は簡単でいいとか…もう、要らない?私、もう役に立てない?』
「……違う。お前、何も気づかなかったのか」
『…?』
「心配してたんだよ。ここんとこ疲れてたし、テストも試合もあったろ」
『そう、なんだ』
「第一、騙すにしてもこんなとこまで探しにきてやるなんて、お前じゃなきゃしねぇよ。バァカ」
『…、やっぱり、真君優しいね』
「お前はとことん頭悪いな」
彼女の断片的な言葉でも、おおよそ解ったこと。
(父親よりも、俺の比率のが高ぇじゃねぇか)
雨月が泣くほど怖がっていたのは、俺に見放されることだった。
『真君、頭の悪い人、タイプなんでしょ?』
「お前も自分に優しい人って言ってたろうが。ほら、帰るぞ」
『う…ん。……わ』
「!…、おぶってやるから、背中乗れ」
『ごめんなさい…』
「いいから、早くしろ」
立ち上がろうとした彼女はフラリとよろけて。
咄嗟に腕を出して支えたものの、その体温の高さに思わず眉をひそめた。
『真君…』
「んだよ」
『まこ…くん』
「……」
『どこにも、行かないで…』
ぎゅっ、と。
肩に回された腕に力が入った。
(言われなくても)
こいつを置いて、どこにもいけやしないのに。
fin.
今日は朝から怠かった。
本当は、数日前まであったテスト期間や地区大会の時から少しずつ疲弊していたのだけど。
(今日は、流石に無理かも…)
季節は夏、只でさえ気温に体力は奪われていて。
「帰りなさい」
1時間だけ休もうと立ち寄った保健室で計った熱が、38℃を越えていた。
そのため、養護教諭に追い出されて帰路をゆっくり歩いている。
家が見えるところまで来て、庭に車が止まったのが見えた。
(お父さんの車!)
せっかく帰ってきたのに、熱だして早退とか、怒られるかな…
久しぶりに会えることに喜ぶ半面、緊張して。
塀に身を隠すように様子を伺っていた。そしたら、
「いいんですか?お家にあがっちゃって」
「いいさ。娘は学校だし、今は独身だ」
あの、人の目を気にする父が、若い女の人を連れて車から降りてきた。
「でも、一人でこの家と庭を綺麗にしてるなんて。娘さん頑張ってるんじゃないですか?」
「…娘の話はしないでくれ。あいつに顔が似ていて気に食わん」
「前から言ってましたね、ご飯も作って待っててくれるのに」
「いらんお節介だ。質の悪い家庭料理など自己満足にすぎない」
「それ、女の敵ですよ?私は料理しないからいいですけど」
ガレージから出てきて、家の鍵を開けるまでに、そんなやりとりがされていた。
女の人は嬉しそうに、父の腕に腕を絡ませて家に入っていく。
(……)
帰れない。
帰る場所がない。
(……っ!)
体をすり抜ける寒気に、思わず崩れ落ちそうになった。
でも、制服のままここに居るわけにはいかない。かといって学校に戻るわけにもいかない。
いく所なんて、1つしかないのだ。
物音をたてないように真君の家に入る。
合鍵は持っているし、真君のお母さんは長期の出張。2年ほど地方都市に行くらしく、めったに帰ってこれないと言っていたから、そんなに気兼ねしなくてもいい。
(なんで、人の家に入れて …自分の家に入れないんだろ…)
気兼ねしなくていいのが、なんだか切なかった。
キッチンで手持ちの解熱剤を飲んで、2階へ上がる。
リビングでなく、真君の部屋にきた理由は。この部屋の方が休めると思ったから。
ベッドに上って、スカートがシワにならないよう座りこんだ。
(真君の、言う通りだったな)
"お前がどれだけ努力しようと、結果は一緒なんだよ"
あの時、そう言われて苦しかった。でも、その通りだ。
私がしたことは全て空回りで。私なんていらなくて。私なんか…
『…っ、う、うぅ』
制服の袖、染みになっちゃうかな…
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
「質の悪い家庭料理など自己満足にすぎない」
それは、これ以上ない衝撃だった。
(真君も、そう思ってるんだろうか)
地区大会の試合を見て、コートにいる"悪童"という真君を知ってしまった。
別に、それはコートの中だけだし、だから嫌だとかそういうんじゃない。
そうじゃないけど…
もし、真君は普通にご飯が食べれていて。
それを黙っていて、私を突き放すタイミングを伺っているとしたら。
(これだけ依存してる私が、突き放された時の顔はさぞ見ものだろうな…)
彼の好きな悔しがる顔ではないかもしれないけど、言い表せない絶望が顔に出るに違いない。
最近だって、練習来なくていいとか、簡単なご飯でいいとか…いらないと思われてるんじゃないか。
(…要らない?)
真君が、私をいらない。
お母さんも、お父さんも、私はいらなかった。
(ここにも、いちゃいけないんだ…)
日が傾いて来て、もうお父さんの車もない。
窓を渡って服を着替えて、再び真君の部屋に戻り、窓の鍵をしめてベッドのシワを整えた。
(ご飯の準備…)
しなくてもいいか。
ご飯は炊けてるし、冷凍されたおかずもたくさんある。
早く、早くここを離れたい。
哀しい思い出も思い出したくない。
彼の温もりが偽りだったなんて思いたくない。
何も、考えたくない。
玄関の鍵をしめて、合鍵をポストに放り込み、フラフラとあてもなく歩き出した。
***
「花宮、羽影ちゃん早退したんでしょ?」
「ああ。なんで知ってんだ?」
「午後の講座にいなかったから。あと、保健室の記録に名前があったし。熱めっちゃ出てたよ」
「…」
「花宮?」
「今日の練習は基礎練とミーティング。あとは自主練。最後のやつ鍵閉めろ』
眠れなくても、横になっているだけで大分楽になるはずだ。だが、イイコチャンなあいつだから、放っておけば飯とか普通に作るだろうし、そうはいっても眠れないままはよくない。
そう思って、いつもより随分早く部活を切り上げた。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
18時半、家に灯りがついていない。雨月の家も灯りはない。
玄関には鍵がかかっていてポストにはあいつの鍵。
(熱あんのに出掛けたのか、あの馬鹿)
しかも、いつもならある書き置きやメールの類いが見当たらない。
(どこいった…)
窓を渡って彼女の部屋に入れば、ハンガーに制服がかけてある。
灯りはないがこっちにいるのかと、階段を降りた。
(…んだよ、これ)
降りた先のリビングの机の上に、彼女がつけないだろうピアスが片方。
いつも綺麗に拭いてあるキッチンに、水飛沫のあと。
風呂場までいけば男物のワイシャツにバスタオルが2枚。
(本当、ろくなことしねぇな)
庭に、タイヤの跡がついているのを見て憶測をたてた。
憶測だが、きっと合っていて。あいつはそれを知ったに違いない。
「…チッ、クソが」
連れ戻そうと掛けた電話は、無機質な機械音声しか流れなかった。
あいつ、携帯の電源切ってやがる。
「っ、…たく、本当にどこにいんだ」
繋がらない携帯なんて意味がない。
彼女の行きそうな場所なんて知らないし、固執する場所があった記憶もない。
街を闇雲に走って探すより他なかった。
そうして夜の9時、やっと街の外れまできて、公園のベンチに座り込む女を見つけたのだ。
「雨月…っ!」
『…?ま、こ…くん?』
「んでこんなとこにいんだよ!携帯の電源切ってやがるし!」
『……だって、どこにいていいかわからなかった』
「はあ?」
『いらないなら要らないっていってくれれば、離れるのに…でも要らないって言われたくないから頑張ってたのに…なんでぇ…』
「落ち着け、とりあえず帰るぞ。熱あんだろ」
『っ、や、だ!帰るとこなんて、ない…真君だって、真君だって…いつかは、もしかしたらもう…私なんて要らなくなって……っ、や、だぁ…』
パニックを起こしている、のだろう。熱のせいでさらに拍車がかかっているのか、泣きじゃくる彼女は中学の時よりも幼く感じた。
それよりも、
「…なんで俺が出てくるんだよ」
『っ、だって、自己満足っていうから、ま…とくん、の言ってた通りだ…た』
てっきり、彼女の父親の話だと思っていたから。
どうにも話が見えないのだ。
連れて帰ろうにも埒が明かない。
だから、最初の時みたいに。
隣に座って手を重ねた
「…ゆっくり、順を追って話せ。……ここにいるから」
『う、…ぐす…』
声をひきつらせて、涙をポロポロと溢しながら彼女は話し出した。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
話を聞いていて、重ねた手に力が入るのが解ったし、いつの間にか繋ぎあって、その指をきつく絡めていた。
父親の発言も、行動も。
彼女にとってはショック以外の何ものでもない。
そしてそれが、何故か俺に繋がっている。
『だから、真君も、そう思ってたらどうしようって…私、わたし…突き放すなら、これ以上傷付かないうちに、早く』
「おい、なんでそうなるんだ。お前の努力があの野郎に届かないのは解ってたろうが。それに、俺が不味いもの我慢して食える質じゃねぇのも知ってるだろ」
『…わ、かんなく、なっちゃったの…私、怖いんだよ…真君に、要らないって言われるの。いつか、離れていくのが…だから、騙して楽しむなら、もう…』
「っ!お前、本当に馬鹿だな」
『…前にも、そんな風に言われた』
「あの時より更に馬鹿になってる」
今まで、気にしてないものだと思っていた。
自分のプレイスタイルで彼女の心にそんなヒビを入れているなんて、思っていなかったのだ。
『あの、真君が嫌いなんじゃない、そうじゃないけど…最近、練習来なくていいとか、ご飯は簡単でいいとか…もう、要らない?私、もう役に立てない?』
「……違う。お前、何も気づかなかったのか」
『…?』
「心配してたんだよ。ここんとこ疲れてたし、テストも試合もあったろ」
『そう、なんだ』
「第一、騙すにしてもこんなとこまで探しにきてやるなんて、お前じゃなきゃしねぇよ。バァカ」
『…、やっぱり、真君優しいね』
「お前はとことん頭悪いな」
彼女の断片的な言葉でも、おおよそ解ったこと。
(父親よりも、俺の比率のが高ぇじゃねぇか)
雨月が泣くほど怖がっていたのは、俺に見放されることだった。
『真君、頭の悪い人、タイプなんでしょ?』
「お前も自分に優しい人って言ってたろうが。ほら、帰るぞ」
『う…ん。……わ』
「!…、おぶってやるから、背中乗れ」
『ごめんなさい…』
「いいから、早くしろ」
立ち上がろうとした彼女はフラリとよろけて。
咄嗟に腕を出して支えたものの、その体温の高さに思わず眉をひそめた。
『真君…』
「んだよ」
『まこ…くん』
「……」
『どこにも、行かないで…』
ぎゅっ、と。
肩に回された腕に力が入った。
(言われなくても)
こいつを置いて、どこにもいけやしないのに。
fin.