Welcome to the Villains' world.
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ああ、愛しい我が君。気高く麗しい悪の華。
貴方こそが世界で一番美しい。
鏡よ、鏡、教えておくれ。
この世で一番……。
闇の鏡に導かれし者よ。
汝の心の望むまま
鏡に映る者の手をとるがよい。
明日をも灰にする焔炎。
刹那をも封じ込める凍氷。
蒼空をも飲み込む大樹。
闇の力を恐れるな。
さあ……力を示すがよい。
私に、彼らに、君に
残された時間は少ない。
決してその手を離さぬようーーー。
◆
「やっばー!!遅刻するー!!なんでジェイドもアズールも声掛けてくんなかったのー!?」
式典服を身にまとい、アイメイクもしっかりと施したナマエはドタバタとしながらも、夜の中を駆けていく。紫色の裏地が顔を見せてひらひらと揺れていた。
今日この日はナイトレイブンカレッジの記念すべき入学式である。鏡の間にて式は執り行われるのだが、ナマエとて遅刻するつもりはなかったのだ。入学式の準備は時間通りに終えたし、式典服も少しは手こずったが着用することは出来た。しかし、問題はアイメイクだった。
いつもならばジェイドに頼み込んでしてもらっていたのだが、今回はしなかった。ここ暫くフロイドは体調を崩しているみたいで、ジェイドはその世話でいそがしそうにしていたのだ。
ナマエも一度お見舞いに行ったが、「アズールまじで許さねえ。ジェイドもだからな」とフロイドは何故か恨めしそうに零していた。アズールは最近の取引が上手くいったとかで機嫌は良さそうで、ジェイドはフロイドに付きっきりになっている。
とはいえ、フロイドの世話をしている上に副寮長を務めて忙しそうにしているジェイドにこれ以上迷惑はかけられないと、ナマエは今回自分でアイメイクをしてみたのだ。しかし、思ったより時間がかかってしまい、気づけば式はスタートしていた。さあっと血の気が引いたのは言うまでもない。
「えーっと、鏡の間ってどこだっけ?」
ナマエにとって、ここの学園の入学式は2回目だ。この学園に入ってもう1年経つのだと、しみじみと感じた。その間に、新しい友人もできたり、初めてのアルバイトを経験したり、色んなことがあった。
念願の逆ハーには至っていないが、最初の1年間はゲームで言うならばチュートリアル。勝負はここからなのだ。今年度の目標は、とりあえず彼氏を作ることにしている。
「ん?」
すると、視界の端に何かが走り抜けていくのが見えた。ナマエと大きさは変わらぬ黒い影。それは、図書室へと入っていく。
迷子の新入生だろうか。ナマエは少し気になった。そして、ぴこんと瞬いた。ナマエの遅刻の理由を、迷子になった新入生の保護にしようと考えたのだ。それであれば、仕方ないとアズールも先生たちも許してくれるかもしれない。ナマエも黒い影を追って、図書室へと向かった。
「オレ様の鼻から逃げられると思ったか!ニンゲンめ!さあ、丸焼きにされたくなかったら、その服をーーー」
部屋に入った瞬間、青い炎が目の前に広がった。その中心には1人の生徒と、黒い狸みたいな生き物。生徒の方は腰を抜かしているみたいで、動けなくなっていた。この青い炎を出しているのは、どうやら狸らしい。
ナマエは素早くマジカルペンを取りだした。
「ウォーターショット!」
水の塊は、狸に向かったかと思えば、何故か腰を抜かした生徒にぶつかった。
「あ!!!!」
生徒がびしょ濡れになる。それにより、狸と生徒はナマエの存在に気づいたようだった。
「ごめん!!俺、コントロール能力ないんだった!!」
「何だお前!!」
「え!?狸がしゃべった!!」
「狸じゃないんだゾ!!」
「とりあえず火を消さなきゃ!ウォーターショット!!」
「ぎゃー!!」
室内を轟々と燃やす炎に水をかけようとしたが、それはどうやら狸に向かっていったらしい。あれ、おかしいなあ。ナマエは首を傾げてマジカルペンを見つめる。
しかし、狸が攻撃されたことにより、炎は鎮火していった。結果オーライである。
すると、ナマエの背後から鞭のようなものが狸に伸びていった。
「ふぎゃっ!?痛ぇゾ!なんだぁこの紐!」
「紐ではありません。愛の鞭です!」
鞭は狸を引っぱたいて、その動きを封じた。狸はぎゃーぎゃーと騒いでいる。
ナマエは慌てて後ろを振り返った。すると、そこには、ここナイトレイブンカレッジの学園長である、ディア・クロウリーがいた。
「ああ、やっと見つけました。君、今年の新入生ですね。……何故びしょ濡れに?」
「あ、俺が、炎を消そうとして……」
「シャンドラーくん!今入学式でしょう。なぜ君がここに?」
「あー、えっと、迷子になってる新入生を追いかけたんですよ!そしたら、そこの狸ちゃんが彼に襲おうとしてたので、止めようとして……」
「なるほど、そうでしたか。それは、ありがとうございます。ですが、遅刻はいけませんね。次回からは気をつけるように」
「はい!すいませんでした!」
ぺこっと頭を下げる。何とか誤魔化せたとほっと胸を撫で下ろした。すると、クロウリーはナマエからびしょ濡れのままキョトンとした顔をした生徒に視線を移す。
「ダメじゃありませんか。勝手に扉から出るなんて。それにまだ手懐けられていない使い魔の同伴は校則違反ですよ」
「離せ〜!オレ様はこんな奴の使い魔なんかじゃねぇんだゾ!」
「はいはい。反抗的な使い魔はみんなそう言うんです。少し静かにしていましょうね」
「ふがふが!」
どうやら狸は今目の前にいる生徒の使い魔らしい。入学して早々大変だと少し同情する。
そして、地面にへたり込んでいるその生徒に、ナマエは手を差し伸べた。
「濡らしちゃってごめんねー!大丈夫?」
「は、はい…」
差し伸ばした手を掴むその生徒は、迷子の子供のような不安げな瞳をしていた。その姿が、ずっと昔の小さな妹たちの姿と重なって、思わずその頭を撫でてあげた。
「さあさあ、とっくに入学式は始まっていますよ。鏡の間へ行きましょう」
「あの、新入生って?」
「あなたが目覚めたたくさんの扉が並んでいた部屋ですよ。この学園へ入学する生徒は、全てあの扉をくぐってこの学園へやってくるのです。通常特殊な鍵で扉を開くまで生徒は目覚めないはずなんですが…」
クロウリーはこてりと不思議そうに頭を斜めに傾けた。ナマエも去年の入学式を思い返して、確かにと納得する。目が覚めた時は既に鏡の間にいたような覚えがあった。
「炎が蓋を吹き飛ばして行ったような…」
「じゃあ、この狸ちゃんのせいじゃん!」
「連れてきたのならちゃんと責任をもって面倒を見なさい」
「ええっ」
すると、生徒は納得のいっていないような顔を見せた。そんなことを言われてもと言わんばかりに、完全に困惑している。
「……おっと!長話をしている場合ではありませんでした。早くしないと入学式が終わってしまう。さあさあ、行きますよ」
「そうだった!入学式に参加してないってアズールにバレると怒られちゃう!」
「あの……その前にここは一体どこですか?」
生徒の問いにクロウリーは訝しげな様子を見せる。
「おや?君、まだ意識がはっきりしていないんですか?空間転移魔法の影響で記憶が混濁しているんですかねえ……。まあいいでしょう。よくあることです」
そして、クロウリーの視線がちらりとこちらに向けられた。いい所に丁度いい人材がいたと言わんばかりに、彼の口元が愉快そうに歪む。
「では、シャンドラーくん、歩きながら説明してあげてください。君が最初に保護した生徒なんですから、最後まで責任もってお世話をして差し上げなさい」
「分かりましたー!まかせてください!」
ナマエだって、ようやく出来た後輩に胸が踊っている。年下の弟妹ばかりに囲まれていたからか、ナマエは案外下の子の面倒を見るのが好きなのだ。
ナマエはおどおどとした様子の新入生に、にこっと笑顔を向ける。すると、新入生も少しその顔を緩ませてくれた。
「俺、ここのナイトレイブンカレッジの2年生、ナマエ・シャンドラーって言うんだ!君の名前は?」
「あ、私はユウと言います」
「へえー!ユウかあ!よろしくね!」
鈴のような可憐な声。男にしてはどうも高い。体つきも女であるナマエと同じくらい小さくて華奢である。まるで女の子みたいで、可愛らしい。
妹たちにするみたいに、ナマエはぎゅっとユウの手を握った。すると、ユウも恐る恐るとナマエの手を握り返してくれた。
それが嬉しくて、ナマエはその手を引いて、クロウリーの後を追うように歩いていく。前を歩くクロウリーの足は少し早かった。
「ここはナイトレイブンカレッジ!ツイステッドワンダーランド内でも結構有名な魔法士養成学校だよ!ユウもここに入学したってことは、闇の鏡に選ばれし優秀な魔法士の卵ってとこかな!」
「魔法士……?」
「で、前を歩いている方がここのナイトレイブンカレッジの学園長だよ」
「あの怪しげな……」
「あはは!言うねえ!」
ケラケラと笑っていると、前にいたクロウリーから「何を笑っているんですか。早く行きますよ」と、注意された。慌てて笑っていた顔を固くしたが、耐えきれなくて、やっぱり噴き出した。隣にいたユウが不審そうにこちらを見つめてくる。その視線を受けて、ナマエはコホンとわざとらしく咳払いをした。
「闇の鏡に選ばれた生徒は扉を使ってこの学園に集められるんだよ。ほら、ユウのところにも、黒い馬車来なかった?」
「あ、顔が怖い馬がいたような…」
「そうそれ!もうちょっと可愛い顔してたらトキメキ感があるのにねえ」
いや、馬車にときめきを求められても。ユウは内心ツッコミを入れた。それに、あのおどろおどろしい雰囲気を持つ馬車を引く馬が可愛い顔をしていたら、それはそれでシュールである。
「あの、何か?」
ユウは先程から不自然なくらいにこちらをじーっと見つめてくるナマエの視線に気づいていた。無垢な色した瞳は悪意を感じられないが、やはり居心地は悪い。なので、勇気を出して尋ねてみたのだ。
ナマエはユウの問いに、相変わらずニコニコとした笑顔で答えてくれた。
「ううん!なんでも!ユウって可愛いなって!男に言う言葉じゃないけどさ!」
「……え、一応女なんですが?」
「へえ!女の子か〜!そりゃ納得だねえ……え!?!?」
ナマエの表情が驚愕の色に染る。なにかおかしなことを言っただろうか。ナマエのオーバーなリアクションにユウも少し戸惑ってしまった。
ナマエが驚くのも無理はない。なんせナイトレイブンカレッジは男子校だ。闇の鏡に選ばれるのも、男子生徒なはず。戸籍やら個人の情報やらを色々といじくり、男として生きているナマエは例外として、まさかこの学園に女子生徒が入学してくるなんて!
「遅いですよ、2人とも!さっ、入学式に行きますよ」
クロウリーに呼ばれ、2人は話を中断し、足を早める。
聞きたいことはたくさんあるが、今はそんな暇はない。それを名残惜しく思いながらも、ナマエとユウは鏡の間を目指した。
これが、不可思議な世界に迷い込んだ謎の少女ユウとナマエの出会いであった。
こうして、物語はゆっくりと、だが着実に動き始める。
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