ライトラスト ‐§2‐
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「肩の力を抜いて。箒を信じて身を預けてごらん」
跨った箒の柄は全身を預けるのには心もとなく、加えて浮かび上がった時の不安定さに危機を感じてしまい、私の飛行術は数センチ浮いてはまた着地を繰り返していた。
箒で空を飛ぶことのイメージには困らない。けれど自分が行うとなれば話は別だ。箒を信じろと言われても、箒は箒。なんの安全性も保障されていない浮遊など、命を危険にさらすだけだ。
一向に高く飛ぼうとしない私に痺れを切らしたのか、指南をしていたリドルは腕を組んだ。
「四年生相当の防衛魔法をこなしておいて、一年生で習う飛行術に手間取るのかい」
「怖いものは、怖いので」
リドルがオーバーブロットした事件以降、オンボロ寮生とハーツラビュル寮生はなんとなく完全な他人とは言い難い連帯感……早い話がほんの少しだけ仲良くなった。
こうして、他寮生でありながらハーツラビュル寮長自ら飛行術の指南をしてくれるくらいに。
「基礎は出来ているね。あとは慣れだけだとは思うけれど……確か一年の頃にボクが作った飛行術マニュアルがあったはずだ。今度それを持ってこよう」
「良いの?……いや、そこまでしてもらうわけには。」
「構わないよ。ボクが教えたにもかかわらず不完全なまま飛行試験を受けて不合格を貰ってごらん。ハーツラビュルの威信にも関わる。ボクが教えるからには、目指すのは“完璧”だ」
リドルの完璧主義はすこしだけ融通が利くようになったけれど、相変わらず彼の生きる指針となっている。人は一朝一夕には変わらないし、変われない。それでもいい方向に変わり始めている。その証拠に、彼の表情は柔らかく笑んでいる。
「ありがとう。リドルの顔に泥を塗らないようにするよ」
「……そう、だね」
「……。あの、やっぱり周りに人が居ない時でも敬称と敬語付けた方がいいんじゃ?すごい難しい顔をしているし、後輩が敬語使わないのってやっぱり不愉快なんじゃない?」
子供の頃にリドルたちと出会った際、会話はおろかろくに名前を覚えようともしなかったかつての償いを込めて、なるべく親しく話しかけるようにしたのはいいものの、眉の縦皺が現れたのを見て慌ててしまう。
「不愉快ではないよ。ただ……こうして話していると、ボクは君を誤解していたのかもしれないと思ってね」
「誤解?」
「……以前、お母様の話に出てきた君は非の打ちどころがなく何をさせても隙のない機械のような少女だったし、実際に会ってみてもたしかに子供らしくなかったから不思議に思うことはなかった。
けれどこうして見れば君は苦手な教科もあるし、表に出さないだけで笑ったり怒ったりする。監督生と一緒にいるときは、特にね」
「ええ、二十歳を過ぎればただの人…と言うけれど、私はありふれた人間だよ。がっかりした?」
「まさか。すこしほっとしているくらいだよ。…ありふれた人間だとは思わないけどね」
リドルはさらに「君はトレイのようなことを言うね」と付け加えて笑った。トレイが自分がありふれた存在だと自称しているなら、なるほどそれはとんだ詐欺だ。あそこまでの食わせ物はなかなか居ない。
「さて、今日はここまでにしよう。明日の二限、魔法史を受けるだろう?その時にマニュアルを渡すよ」
「わかった。ありがとう、よろしくお願いします」
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