ライトラスト ‐§1‐
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「で、あの『ハートの女王の法律』とかいう変なルールは一体なんなの?」
まさに法律を侵してユニーク魔法の餌食真っ最中のエースが口をとがらせて尋ねる。
「伝説のハートの女王についてはお前たちもよく知ってるだろう?」
いえよく知りません、とも言えずに監督生に視線をやる。当然ながら首をかしげて頭にハテナを浮かべていた。
記憶はあいまいだが、暴君とも呼ぶべき独裁政治を敷いていた気がする。
「規律を重んじ、厳格なルールを作ることによって変な奴らばかりの不思議な国を治めていた」
「そんなハートの女王をリスペクトして、我がハーツラビュル寮生はハートの女王のドレスの色である赤と黒の腕章をつけては、ハートの女王の作った法律に従うのが伝統ってワケ」
「その結果がエースのこのありさまである、と」
「肩が凝りそうな寮なんだゾ~!」
「どれくらい厳しく伝統を守るかは寮長の気分次第で、前の寮長はかなりゆるゆるだったんだけどね~」
「リドル…寮長は歴代寮長の中でも飛び抜けて真面目でね。最大限その伝統を守ろうとしてる、というわけだ」
「げえ~、めんどくさ……」
トレイは続ける。
「さっきケイトも言ってたけど、この学園にはグレート・セブンに倣った七つの寮がある」
――うすうす分かってはいたものの、認識とあまりに食い違う解釈に眩暈がする。本来なら悪と斬って捨てられるべき人物が、この世界……とりわけナイトレイブンカレッジでは是とされる。
「どの寮に入るかは、入学式のとき魂の資質で闇の鏡が決めるとされてるけど…なんとなく、寮ごとにキャラが固まってる感じはあるな」
「それはあるねー。めっちゃわかる」
先輩による寮解説は続く。
灰と薄紫の腕章はオクタヴィネル寮、
黄と黒の腕章は肉体派揃いのサバナクロ―寮、
黄と臙脂の腕章は頭脳は揃いのスカラビア寮、
紫と赤の腕章は魔法薬学や呪術に秀でたポムフィオーレ寮、
青と黒の腕章は魔法エネルギー工学や科学に秀でたイグニハイド寮、
黄緑と黒の腕章はディアソムニア寮。ケイトが食堂の奥を指し示す。
「あそこはなんつーか、超セレブっていうの?オレたち庶民が話しかけづらいオーラ放ちまくりなんだよね、寮長からして近寄りがたさMAXっていうか……」
離れた場所で聞こえないだろうから良いものの、ケイトがずけずけとモノを言う。
「あれ?でも子供が混じってる」
「うちの学校は飛び級入学がアリだからな。でも彼は子どもじゃないぞ。俺たちと同じ三年生の…」
「リリアじゃ。リリア・ヴァンルージュ」
不意の声はすぐ真上から。皆が驚いて見上げると、逆さ吊りのような体勢で宙に浮いているディアソムニア寮の生徒。
「コ、コイツ、瞬間移動したんだゾ!」
「それだけじゃなくて、宙に浮いてる…!」
「お主ら、わしの年齢が気になると?くふふ、こんなにピチピチで愛らしい美少年のわしだが、たしかにそこの眼鏡が言うように子どもとは呼べない歳かもしれんな」
幼い容姿に反して、昔者めいた言葉遣い。ギャップに目を白黒させている間に、リリアは逆さ状態から降りてユウの隣に座り、子供としか思えない小枝のような腕を広げた。
「遠くから見るだけではなく気軽に話しかけに来ればよかろう。同じ学園に通う学友ではないか。我がディアソムニア寮はいつでもお前たちを歓迎するぞ?」
友好的な言葉だが、離れた場所に居たはずの私たちの会話を把握している。得体の知れなさを感じて身を引く。
「くふふ、食事中上から失礼したな。」
ふと、リリアがこちらを見る。真っ赤な瞳に白い肌、人間味の感じられない取り合わせ。にい、と口端が歪んだ。
「――ではまた、いずれ」