ライトラスト ‐§1‐
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いよいよもって、この世界の人間らしくなってきた。奇跡を達成できた喜びと、達成してしまった寂寞に耽る暇なく塗るべき白薔薇は残っている。
「つーか、薔薇は白いままでもよくね?綺麗じゃん」
「こればっかりは伝統だからね。何でもない日おめでとうパーティの薔薇は赤!これはグレート・セブンの一人、ハートの女王が決めたルールなんだって。
リドルくんは歴代寮長のなかでもかなりガチガチに伝統を守ってる真面目な子だからね~」
ま、ちょっとやりすぎなところも否めないけど…というケイトの呟きを受けてエースの首輪を見る。魔法を封じる首輪はかっちり嵌まったままだ。
「じゃあ、その寮長さんのところにそろそろ向かわないとね」
「そだ、オレたちこんなことやってる場合じゃなかった。寮長に話があるんですけどまだ寮内にいます?」
「ん?まだいる時間だと思うけど……ところで寮長のタルトを盗んだエースちゃん、お詫びのタルトは持ってきた?」
「え?いや、朝イチで来たから手ぶらすけど……」
「あちゃ~、そっかぁ。それじゃあハートの情報の法律第五十三条『盗んだものは返さなければならない』に反してるから、寮には入れられないな~」
「はあ!?なんだそりゃ!?」
「というか、そんな常識を法律にする…?」
「とにかく、この寮に居るからにはルールに従ってもらわないと。見逃したらオレも首をはねられちゃう」
どうやらハーツラビュル寮では女王の法律とやらが絶対遵守の決まりらしい。あんなに親しみやすかったケイトが、表情は笑顔だけれど有無を言わさない目で手を振っている。
「次はお詫びのタルト持って出直してきてね♪ばいばーい!」
――――
エース、デュースとオンボロ寮組のクラスは1-A。クラスが一緒だと、必修科目は行動を共にすることになる。
魔法薬学は見るからにサディスティックなクルーウェル先生、魔法史はどことなくふてぶてしい顔つきの猫を従えた見るからに厳格なトレイン先生、体力育成は生徒をモヤシ呼ばわりする見るからに筋肉バカ、バルガス先生。
「も~しばらく薬草は見たくねえ…」
「魔法史といい、覚える事がいっぱいだな…」
「あの筋肉先生、女でも男子と同じ筋トレメニューとかふざけてる…」
「疲れたね……」
「でもなーんか、魔法学校っつても普通の学校とあんまり変わらないっていうか、想像よりも地味っつーか…魔法使えなくても別に困んねーな。
グリムもそう思わね?……ん?」
エースが話を振った先、真っ先に賛同しそうなグリムからの返事はない。それどころか、グレーの毛玉の姿がどこにもいない。監督生がきょろきょろと視線を巡らせる。
「あれ?グリム」
「あっ、窓の外を見てみろ!あの中庭を横切る毛玉は…!」
デュースの指さす先。中庭の向こうへ遠ざかっていく灰色に、監督生が頭を抱えた。
「登校一日目にしてサボり!?学園長に怒られる…!」
「プッ、監督生一日目にして監督不行き届きかよ。…ね。グリムを捕まえるの手伝って欲しい?」
「お願いします……」
「オレ、購買のチョコレートクロワッサンね」
「なら、僕は学食のアイスカフェラテで手を打とう」
「二人とも、人助けする人の顔じゃないんだけど」
「うう……」
「ほらほら、グリムが逃げちゃうよ~?いいの?」
「わかった、それで手を打とう…!よろしくお願いします!」
「交渉成立!んじゃ、ダメダメ監督生どのの尻ぬぐいといきますか、デュースくん?」
「ああ、エースくん。昼食が楽しみだな」
……これは早々に脱走者を捕縛する魔法を覚えた方がよさそうだ。