ライトラスト ‐§1‐
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やり直しのなんでもない日はパーティーは、寮生ではないユウ、グリム、私も呼ばれて盛大に執り行われた。
リドル寮長のつくったイチゴタルトは、トレイ先輩の“ちょっとした”嘘を真に受けたことで少々風変わりな味になってしまった。トレイ先輩もなかなか食えない男だ。
昨日の会話を反芻する。
どうやらミオ・ネイラントには、リドル寮長、トレイ先輩、チェーニャと面識があったらしい。リドル寮長は子供らしからぬ優秀さを求めて厳しく育てられてきたために、子供らしからぬ私に理解と親睦を求めたのかもしれない。だとしたら過去の私はひどい仕打ちをしてしまった。
もし私が彼らと交友を深めて、子供にはない視点で悩みに乗ってあげていたなら、リドル寮長がここまで思い詰めてオーバーブロットすることはなかったのかもしれない…と思うのは、自惚れだろう。虚栄ばかりの私にそこまでの力はなく、どこまでも無力なのだ。
リドル寮長の隣でクロッケーの試合を見ながら、口を開く。
「私とリドル寮長たち、会ったことあったんですね」
「そうだよ。キミは覚えていないようだけど、交流遠足で一緒に行動したんだ」
「……私、昔のこと全然覚えていなくて」
「だろうね。そんな横顔だったよ」
「横顔……?」
この世界に生まれてからの二度目の幼少期はつまらなくて、でも知っているものとは少しずつずれた違和感があって、それがたまらなく嫌で。
新しく知る知識はあっても自分の知るものとはかけ離れていて、でもどうしようもできなくて。周りを見る余裕も、合わせる気もなかった。きっと失礼な態度を取っていそうだ。
「ミオ。キミはイチゴのタルトを食べたことはあったかい?」
「イチゴのタルト?…どうだろう、あったとしても記憶にはないくらい昔…かな」
「なら、今日が初めてということだね。今度トレイにも作ってもらうといい。ボクのは少し…しょっぱかったから」
「あれはトレイ先輩のせいですから気にしない方が…でも、そうですね。今度甘さ控えめのフルーツタルトを作ってくれると言っていたから……イチゴのタルトにしてもらおうかな」
噂をすればと言うべきか、トレイ先輩がクロッケーから抜けてこちらへ歩いてくる。運動のために寮服の腕をまくっていて、ホイップ作りで鍛えた腕が見えていた。
「なんだ、悪口か?」
「あらとんでもない。今度イチゴのタルトを作ってもらおうと話していただけですよ。ね?リドル寮長」
「そうだね。今度またなんでもない日のパーティーを開くときには頼むよ、トレイ」
「分かった。寮長と特待生の言う事には逆らえないな」
「……そういえば、気になることがあったのだけど」
「気になること?」
「ミオ。キミの髪色、そんな色だったかい?」
「そういえば…もっと明るい色だった気がするな」
ふたりが私の髪を不思議そうに眺める。
「…ユニーク魔法を初めて使った時に、髪の色が変わったんです」
「ミオのユニーク魔法は確か……」
「防衛魔法です。既に発動した魔法を消すこともできます」
「なるほど。ドゥードゥル・スートが掛からなかったのは無意識に発動していたからかもしれないな」
「ボクの
魔法とはイマジネーションの強さ。自分の中で魔法を受け入れられない思考があるから、魔法にもかかりにくいのかもしれない。
検証はともかく、腑に落ちる説だ。
「チェーニャが現れたり消えたりするあの魔法もユニーク魔法なのかな」
「ああ、それは……」
答えようとしたリドル寮長が、ややあって小骨が喉に刺さったような顔をする。
「というか、その…チェーニャ、という呼び方は…」
歯切れも悪くなる。チェーニャと呼ぶのは不味いのだろうか?続く言葉を待っていると、トレイが笑った。
「リドルはミオに名前で呼んで欲しいんだよな」
「トレイ!余計なことを!」
「子供の頃に会った話はしただろ?そのときのミオはぜんぜん俺たちが眼中になくてな」
「う…もうしわけない…」
「結局、一度も名前を呼ばれなかったなって話をみんなでしたんだ。だから呼んでやってくれないか」
たった一度会っただけの自分をそこまで覚えているのものだろうか。きっと、そこまで印象に残るほど相当不愛想だったに違いない。
向かい直って、謝罪の意味を込めてまっすぐ見つめる。
「リドル、トレイ。前に会った時はごめんなさい。これからは先輩と後輩として、ご指導よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
「うん。よろしく。風紀もあるし、他の生徒がいる前では示しがつかないから今まで通りに呼んで欲しいけれど……そうでないときは、好きに呼んでくれて構わない」
「……分かった」
学園で彼らに会った時にはここまで親交を深められるとは思っていなかった。こうして話してみれば、クセはあるけれど決して悪い人たちではない。エースに会った時もそう。
いくつになっても親しい人が増えるのは嬉しいもので、思わず微笑んでしまう。「…そういえば」リドルが思い出したように呟いた。
「キミは闇の鏡による寮分けを受けていないそうだね」
「そうなのか?」
「ええ。特例的な身分なので辞退してしまって。不自由もしていないし」
「学園長から指名され理事長の許可を得た特待生とはいえ、伝統に乗っ取り闇の鏡による選定を受けるべきだ」
寮長らしく断定的な口調と顔つきでそこまで言い切ると、ふっと口端を緩めた。そして今までで一番優しい声で。
「それに……キミのような品行方正な生徒は、きっと我がハーツラビュル寮にふさわしいだろうからね」
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