ライトラスト ‐§1‐
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ボクが隣町に住むミオと初めて会ったのは、エレメンタリースクールに通っていた頃だ。
他学校と合同で行われる交流遠足。行先は歴史記念館で、そこではグレート・セブンのひとりであり、この国の誇る薔薇の女王の偉業について扱われていた。
「ボクの名前はリドル。リドル・ローズハート。
キミの名前は知っているよ。ミオ・ネイラントだろう?ボクたちと観て回らないかい」
気だるげに見える伏せがちな瞳。陽の光を浴びて、きらきらと輝く明るい髪。それがボクの記憶の中のミオだ。
女子は男子よりも成長が早い。例に漏れず、彼女の身長は一つ年上のボクより高かったのを覚えている。
「……そう、よろしく」
グループ行動であることを良いことに、仲のいい者同士で固まって遊び気分でおしゃべりに興じる他の女子たちと違って、ミオはひとりで行動しようとしていた。
隣町で少し話題になっていた、魔法士一族の優秀な一人娘。どんな人間か観察するために一緒に行動するようお母様から言いつけられていたから、彼女がひとりでいたのは都合が良かった。
一緒にいたトレイとチェーニャもそれぞれ名乗る。ミオは同じように「よろしく」とだけ口にした。
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「見てトレイ。女王が使っていた杖のレプリカだよ」
「ああ、立派だな。一流の魔法士は、自分用にカスタマイズした魔法具をもつんだよな」
「ボクもいつか、あんな杖を持ちたい。ミオ、キミもそう思う?」
「……」
「ミオ~。呼ばれてるにゃあ」
「え?ああ……私?」
「おいおい、名前を呼ばれたのに気が付かないなんて…具合でも悪いのか?」
聞きたいことがあった。朝は何時に起こされるのか、一日何時間勉強するよう言われているのか、勉強の合間の自由時間は何をして過ごしているのか、いちごのタルトを食べたことはあるのか。
優秀と言われる彼女は、きっとボクと同じかそれ以上に規則正しい生活を送っているのだと思っていたから。
けれど、一緒に展示品を見て回っていてもミオはつねにどこか遠くを見ていた。心ここにあらずと言うのか、ボクが見るのは彼女の横顔ばかりで、ついに視線が合うことはなかった。
そしてトレイも、チェーニャも、ボクも。一度も彼女に名前を呼ばれることはなかった。
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思い出の中の彼女は常にぼんやりとして、誰とも接点を持たずにいる少女。
だから、監督生の隣にいる特待生がミオだと気づくのに時間がかかった。
なんでもない日のパーティーにマロンタルトを持ち込んだうちのひとり。
あの日一度も合わさらなかった瞳が、ボクを真っすぐに見据えていたから。