ライトラスト ‐§1‐
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寮長の座を争う決闘に、ハーツラビュル寮生ではない私たちは参加することが出来ない。
ハーツラビュルの薔薇の庭園、その広場で寮生と薔薇の木に囲まれながら、エースとデュースの両名はリドル寮長と対峙していた。
「ふたりとも、やっちまうんだゾ!」
「ケガ、しないようにね…!」
隣では緊張した顔つきのユウ。一方でユウの肩に乗ったグリムが調子にも乗っている。
私もふたりに発破をかけるべく息を吸った。
「エース、デュース、当たって砕ける気でいきなよ!」
「砕けるつもりは毛頭ねーって」
「ああ。ガチでいく」
昨日、ユウたちと夜遅くまで作戦会議をしただけあって気合は十分のようだ。とはいえ、無謀には違いない。敗れた後のことも考えなくては――。
「……名前を……」
ぽつり、耳に届いたのは誰の声だったのか。
――――――
「
決闘の合図である手鏡が割れる音がして、瞬間。
鋭い声がエースとデュースの喉元を捉える。もはや聞きなれた錠前の掛かる音が、決闘の行方を示していた。
「ぐ…くっそぉ!魔法を具現化させるヒマもなしかよ!」
「ここまで手も足も出ないなんて…」
「速い…!何が起こったか見えなかった…。ミオさんは?」
「私もほとんどなにも…でも、ここまで圧倒的だなんて」
二年生で寮長を務める主席と、入学間もない一年生。どうしようもない実力差だった。
ギャラリーが慄いて言葉を失う中で、クロウリー学園長が口を開いた。
「魔法の強さはイマジネーションの強さ。魔法の効果を正確に思い描く力が強いほど正確性も強さも増す。ローズハートくんはますます魔法に磨きがかかっていますね」
「…フン。五秒もかからなかったね。その程度の実力で、よくボクに挑もうと思ったものだ。恥ずかしくないの?
……やっぱりルールを破る奴は、なにをやってもダメ。お母様の言う通りだ。そこの特待生も覚えておくといい」
「……ご忠告ありがとうございます、ですが何を遵守するかは、私自身が、私自身の意志で決めます」
「君は、またそうやって僕を……ずっと前からそうだ」
前から?疑問に思ったものの、尋ねる暇はない。デュースがこぶしを掌に打ち付けた。
「ミオの言うとおりだ。たしかにルールは守るべきだ。でも無茶苦茶なルールを押し付けるのはただの横暴だ!」
「ハァ? ルールを破れば罰がある。そして、この寮ではボクがルールだ。
だから、ボクが決めたことに従えない奴は首をはねられたって文句は言えないんだよ!」
どこまでも横暴で、身勝手な言い分。果たして親の教育だけでこうなるのだろうか。これは持って生まれた性分なのではないか。あまりに違い過ぎる価値観に、それまで見守っていたユウが声を上げた。
「そんなの、間違ってる!ルールだからって、なにをしても良いわけじゃない!!」
「罰則もないルールなんか、誰も従わない!そんな簡単なこともわからないなんて、キミは一体どんな教育を受けてきたの?
どうせ大した魔法も使えない親から生まれて、この学園に入るまで教育も受けられなかったんだろう?実に不憫だ」
異世界人であるユウはこの世界で天涯孤独だ。事情を知る人間がほんの一握りであるとはいえ――いや、たとえ事情が無かったとしても。
「許せない、」
「テメッ……!」
「ふざっっっっっけんなよ!!!!」
私が魔法を使うよりも、デュースが拳を構えるよりも早く。
エースの渾身の右ストレートが、リドル寮長の可憐な頬に激突した。
「え……っ?」
「リドルくん!?」
「リドル!?」
「ローズハートくん!?」
「りょ…寮長を殴った!?」
殴られた本人が、ケイト先輩が、トレイ先輩が、ギャラリーが。その場にいた人間全員が唖然とする。渦中のエースは、低く長い溜息を吐いた。
「あー。もういい。寮長とか決闘とか、どーでもいいわ」
「痛……え?ボク、殴られた……?」
「子どもは親のトロフィーじゃねーし、子どものデキが親の価値を決めるわけでもないでしょ。お前がそんなクソ野郎なのは親のせいでもなんでもねーって、たった今よ~っく分かったわ!
この学園に来てから一年、お前の横暴さを注意してくれるダチの一人もつくれなかった、てめーのせいだ!!」
「なに……を、言ってるんだ?」
「そりゃお前はガッチガチの教育ママにエグい育て方されたかもしんないけどさ。“ママ”、“ママ”ってそればっかかよ!自分ではなにも考えてねーじゃん!お前は魔法が強いだけの、ただの赤ちゃんだ!」
唐突にまくしたてられるエースの言葉は衝撃的で、一拍遅れた理解がボディブローのようにじわじわとリドル寮長の逆鱗を刺激する。
「赤ちゃん…だって?このボクが?なにも知らないくせに……ボクのことなにも知らないくせに!」
「あ~知らないね。知るわけねぇだろ!あんな態度でわかると思うか?甘えてんじゃねーよ!」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい!黙れ!!」
ぞわ、と肌を撫でる悪寒。空気が変わる。何かが違う。
「お母様は正しいんだ!だからボクも、絶対に正しいんだ!!」
「リドル、落ち着け。決闘はもう終わってる!」
「クローバーくんの言う通りです。挑戦者は暴力行為で失格!これ以上争いを続けるのであれば校則違反になりますよ!」
決闘の結果は明らかだ。けれど、エースの弁舌が及ぼした動揺はリドル寮長だけにとどまらなかった。ぽつり、ぽつりと、ハーツラビュルの寮生たちから恨み節が聞こえてくる。
「…し、新入生の言う通りだ」
「そうだ、うんざりなんだよ!」
「もうたくさんだ、やってられるか!」
数人から始まった不満は瞬く間に広がり、堰を切ったようにその場の全員がブーイングを始める。エースと同じように、あるいはそれ以上に抑圧され続けてきた積年の恨みがリドル寮長に牙をむいた。
「フ……ハハハ、アハハ!!うんざりだって?うんざりなのはボクの方だ!!なんど首をはねても、どれだけ厳しくしてもお前たちはルール違反を犯す!どいつもこいつも自分勝手な馬鹿ばっかり……いいだろう、連帯責任だ!!全員の首をはねてやる!」
リドル寮長が杖を差し向ける。何をしようとしているかは明白だった。ならば、対策も分かっている。ユウをかばうように立てば、おのずとギャラリーたちも背にかばうことになる。息を吐いて、前を見て。出来る限りの声を張り上げる。
「
「
魔力がぶつかりあい、辺りを白く染め上げる。
リドル寮長が憤怒の形相で私を睨んだ。
「どうしてキミはいつもボクを…!邪魔を!するな!!」
「っ、う……!」
膨れ上がった怒気と魔力に気圧されて、数歩よろめく。相殺しきれなかったリドル寮長の魔法が、次々に寮生の首をはねていく。悔しいけれど、今の自分では敵わない力量の差だった。
「うわあ!逃げ……!」
「ぐええっ!首輪がっ……!」
「ッアハハハ!どうだ!手も足も出ないだろう!やっぱりルールを厳守するボクが一番正しいんだ!!」
リドル寮長の行動はエスカレートしていく。明らかに冷静ではなく、暴走と言って差し支えなかった。
「おやめなさいローズハートくん!ルールを守る君らしくもない!」
「トレイ、これヤバいよ。あんなに魔法を連発したら……!」
「くっ…!リドル!もうやめろ!」
「なんでも自分の思い通りにいくはずないだろ!そうやってすぐ癇癪起こすとこが赤ん坊だっつってんの!」
この状況でなおもエースの口は止まらない。すでに首をはねられて怖いものがないのか、よほど鬱憤が溜まっていたのか。どちらにせよこのままでは取り返しのつかないことになってしまいそうだ。
「エース、もう充分でしょう!」
「その言葉、今すぐ撤回しろ!串刺しにされたいのか!」
「やだね。絶っ対にしねえ」
こいつ――!!