ライトラスト ‐§1‐
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図書室で待ち伏せしていれば、トレイはいずれマロンタルトのレシピ本を返しにやってくる。ユウの発案した待ち伏せ作戦の通りに、彼は図書室に一人でやってきた。
トレイはエースたちが揃っていることにやや驚いた様子だったが、すぐに談判しにきたことを理解したらしい。
「お前たちか」
「オレたち、やっぱ寮長のやりかたに納得いかねーんだけど」
「……だろうな」
「アンタ、実際アイツのことどう思ってんの?小さい頃からずっとそうやってアイツにぺこぺこしてきたわけ?」
「!…誰から聞いた?」
「チェーニャという奴からです。ミオのことも知っているようでした」
「つーかよぉ、リドルよりオマエの方が年上なんだろ?ビシッと怒ってやればいいんだゾ」
「もちろん、必要があればそうするさ。でも…俺にはあいつを叱る事なんかできない」
彼もリドル寮長のやり方が行き過ぎていることは分かっているようだった。
幼いころからの付き合いでも、副寮長としての立場から寮長の横暴を諫めることが出来ないのはなぜなのか。トレイは重たい口を開いた。
高名な魔法医術師の両親の間に産まれたリドルは、徹底的な管理下で育てられ、衣食から友人関係に至るまで親に決められ、十歳でユニーク魔法を開花。エレメンタリースクール時代から現在に至るまで学年首位を保持。
幼少期から分刻みのスケジュールをこなし続け、両親の求める高すぎるハードルに応え続けた結果、“厳しいルールと恐怖で支配することこそが相手のためになる”という信条を持つようになってしまったのだという。
「どうして、寮長の両親はそこまで厳しく育てる必要があったんだろう」
「リドルの…特に母親はもともと完璧主義だったからな。…これは憶測なんだが」
トレイが眼鏡を掛け直す。一瞬の反射のあと、彼の視線は私に向いていた。
「隣町にミオが居たのも理由の一つなんじゃないかと俺は思ってる」
「…私?そういえば、寮長たちは隣町に住んでいたんですね」
「ああ。前にミオが幼くしてユニーク魔法を発現して話題になった話はしただろう?
だが、ミオはそれ以前からもともと噂にはなっていたんだ。大人より落ち着いていて、学内外の模試でもトップ。なにもかも教える前から知っている完璧少女ってな」
「……」
模試がトップレベルなのも性格が落ち着いていたのも、前世の記憶がある故だ。決して完璧なわけじゃない。私は産まれた時から本当の意味での子供ではなかった。
無垢な子供を演じることも、無知な子供を装うこともできずに、淡々と過ごした幼少時代はどう過ごしたのか記憶があいまいだ。周りの反応もどうでもよかった。
そんな空虚な日々がいらない注目を集めていたとは知らなかった。
「ミオが完璧と呼ばれることに対抗したのかまでは分からないが……少なくともミオみたいな子供がいるなら、リドルもそうなれると思っただろう。
リドルの母親は周囲から何と言われようと教育方針を変えることなくリドルに十歳でユニーク魔法を発現させたし、成績上位をキープさせ続けた」
「うへえ。ミオって昔っから優等生だったわけ?」
「……」
「嫌な思いをさせたなら悪い。リドルの母親は元々“ああ”だし、ミオのせいでこうなったって言いたいわけじゃない。ただ、あいつが…リドルがお前を覚えているなら、知っておいた方が良いと思ってな」
「いえ、知ることが出来てよかったです。……ありがとうございます」